お厚いのがお好き?


怪しい人びと・東野圭吾(光文社文庫)

 同名短編集の文庫化ってことで、久しぶりに再読だ。総じて、犯人捜しの色合いは薄い。何故、という部分に焦点が置かれている。何故そんなことをしたのか、何故判ったのか、などなど。
【寝ていた女】朝帰りをすると、部屋に見知らぬ女が寝ており、居座って帰ろうとしない。まぁ普通は強硬手段に訴えてでも追い出そうとするんじゃないかと思うんだけどさ。しかし、真相に気付くきっかけがあまりに卑近で弱いぞ(笑)。
【もう一度コールしてくれ】動機が切ない。もう、それだけで充分だよなあ。ひとつのコールで人生を狂わせた男と、そのコールの真相。真相が分かった時には、主人公と同じくらいズンと来た。
【死んだら働けない】実は動機が一番共感できる作品。実際に衝動的な殺意が起こるのって、こーゆー時じゃないのかなあ。同じような理由で、あたしゃ何度ダンナに殺意を覚えたことか。わはは。
【甘いはずなのに】これは評価が高くて、いろんなアンソロジーにも収録されてるもの。「切ない真相」を書かせると巧いねえ、やっぱ。
【灯台にて】ちょっとブラック。でも、イヤなヤツが鼻っ柱を折られるような目に遭う話ってのは、実に読後感がよくて、あたしのような心の狭いヤツにはぴったりだ。
【結婚報告】友人から来た結婚報告の手紙に同封されていた写真は、見たこともない女のものだった。非常に魅力的な謎で、伏線もキッチリしてる。しかし最後の一文は何なんだ?三流ドラマのシナリオじゃあるまいし、こりゃないんじゃないの東野さん(笑)
【コスタリカの雨は冷たい】ちょっと雰囲気の変わった作品。コスタリカ旅行中に強盗に襲われる主人公の話なんだけど、しかし、あまりに偶然が強い気がする。偶然じゃないっていう説明はなされてるんだけどね。
(98.7.1)  

太陽黒点・山田風太郎(廣済堂文庫)

 これを薦めてくれた多くの人に感謝だ。何を感謝って、皆が皆、口を揃えて「帯の紹介文や裏表紙のあらすじを絶対に読んではいけない」って教えてくれてた事なのよね。そのアドバイスに従って、普段は断るカバーをかけてもらった。で、本分を読み終わってから帯や裏表紙を見たんだけど……こりゃイカンわ。面白さをダイナシにしてる。確かに、この帯や裏表紙は、一番大事な部分をバラシまくってるもんなあ。廣済堂もちょっと考えなくちゃイカンよ。特に、裏表紙なんて、こりゃ惹句じゃなくて梗概だ。裏表紙読んだら、もう中味読まなくて済むってくらい。責任者出てこいモノだな、これは。
 というわけで、あたしは幸いにも先入観なしに読んだので非常に楽しめた。最後の最後までミステリーだとは思わなかったもんね。かなりの大仕掛けと言っていいんじゃなかろうか。昭和40年代初期が舞台なんだけども、ぜんぜん古くない。もちろん風俗は違うんだけど、それでも、古さを感じないんだなあ。社会や風俗を描きながらも、それに頼らず、人物中心のプロットがしっかりしてるってことなんでしょう。さすがだ。こういう、絶版になってしまって入手できない昔の名作を、どんどん文庫化して欲しいなあ。ただし、帯や惹句は、ミステリーの楽しみ方を判ってる人に担当して頂くのが大前提だが。 (98.7.2)  

ROMMY〜越境者の夢・歌野晶午(講談社文庫)

 以前に「ROMMY〜そして歌声は残った」というタイトルで講談社ノベルズから発行された作品を改題したものだ。内容も加筆訂正してるのかな?気付かなかったけど。たいてい改題なんかすると、「前の方がよかったのに」となりがちなんだが、これはいいね。特に内容を考えると、【越境者の夢】ってのはナカナカに含蓄があります。越境者ね。なるほど。深い。ま、好みの問題ですが。
 奇抜なメイクとファッションでロック界の女王の座に君臨する謎の天才シンガーROMMY。彼女のレコーディングに世界的に有名な歌手がコーラスを入れてくれるということで、スタジオは厳戒態勢におかれる。そんな中でおこった殺人事件。
 登場人物は限られてるし、一部は倒叙の形で描かれるので、犯人に於いてはさしたる驚きはないのだけれど。いやぁ、この【動機】にはぶっとびました。そう判ってみると、ああこれも伏線あれも伏線たぶん伏線きっと伏線てな感じなのよね。きぃ、悔しい(;_;)。つゆほども疑わなかったもんなあ。殺人事件自体の方が、あまりにアッサリで少々つまらなかった分、反動が来たと言うか。合間合間に挟まれたいろんなものも、すべて計算の上だったのねえ。ふう。判ってしまえば簡単な事なのにぃ、きいいっ、という騙される快感を味わえる力作だ。
 ただ……天才シンガーと言われるROMMYにしては、各章ごとに挿入されてるROMMYの詩が……。意味のあることだってのはよく判るんだけど、ロックの女王が、七五調の歌詞を書くかね?(笑) (98.7.6)  

オロロ畑でつかまえて・萩原浩(集英社)

 第10回小説すばる新人賞受賞作。くくくくっ、と忍び笑いを漏らしてしまうような、ユーモア娯楽小説且つ風刺小説だ。東北の過疎の村。青年団も8人になってしまって、野球チームすら作れない。青年団が寄り集まって無い知恵絞って相談して、よし、村おこしだ!おら東京さいぐだ。東京さ行っで広告代理店さ雇って、村おこしするだ!という物語。
 流れが陳腐と言えば陳腐なんだけども、妙におかしい。村の人たちも広告代理店の人たちも、みょうにお調子者で。マンガ読んでるみたいなんだよね。村の描写なんて、どう見てもファンタジー。でも過疎の村の村興しとかマスコミの無責任報道とか、そういう社会派風刺もあらかさまに入ってるから侮れない。青年団のメンバーの書き分けが出来てなくて、ちょっと煩わしかったけれど、それ以外は人物も魅力的でナカナカ面白く読めたっす。ただ、全体に荒っぽくて、も少し村の人たちを丁寧に書き込んでくれるともっと面白いのになあ、とちょっと残念。フィリピーナの嫁さんとか、イタコの婆さんとか、ホワイトハウスのようなトイレとか、すごくディーテイルは魅力的なのにあと一歩薄いんだよねえ。これだけなの?もったいないなあ、という感じ。
 だから何かが残る……ってタイプの重さはないけれど、でも、爽やかな読後感なら太鼓判。「踊らされる時期が終わって、結局自然でいるのが一番ってことに気付いて終わり」というハッピーエンドかなと思ってたら、意外な大団円が準備されてて、非常に気持ちよく読み終えることが出来るのね。小嵐九八郎の小説を思い出しちゃった。これがデビュー作なわけで、今後に期待大。 (98.7.8)  

数奇にして模型・森博嗣(講談社ノベルズ)

 厚い〜〜〜(笑)。謎解きだけを考えると、ここまで厚くしなくてもよさそうなモンだという気もするけど、じゃあどこを削るかとなると難しいから、やっぱこの厚さは必然なのかしら。それにしても厚いぞ。京極じゃないんだから。厚けりゃいいってもんでもなかろうに。
 同じ夜に二カ所で起きた密室殺人事件。後にも先にも、メインとなる事件はこれだけだから、一つ(二つか)の事件でこれだけの厚さをもたせるってのはたいしたもんだ。トリック自体も、先入観を逆手にとったキレイなものだし。単純すぎるって評価もあるみたいだけど、あたしはこれくらいアッサリしてるの好きだな。妙に凝ってるよりも、こういう隙を突かれた、みたいな方が騙された快感が大きいのよね。
 売りのひとつである犀川と萌絵の会話もナカナカ面白くて、メインの謎解きよりそっちに魅力がある部分も。何より今回は金子クンがよかったねえ。いやあ、いい男だわ>金子クン。こういう正統派のいい男が出てきたのって、シリーズ始まって以来じゃないか?おねーさんは犀川とか萌絵よりも金子クンが気に入りましたぞ。ふふふ。一連のシリーズの中では、けっこうあたしの中では上位に入る作品でした。理由の7割は金子クンだが(笑)。 (98.7.11)  

Z・梁石日(廣済社文庫)

 ヤン・ソギルさんとお読みするそうだ>梁石日。梁山泊に似てる気がして仕方ないが(笑)、まあそれはさておき。朝鮮国籍の在日作家が巻き込まれる国際的陰謀。それは終戦前後の朝鮮分断に端を発していた……という、非常にスケールの大きな物語です。主人公の朴が出版した本が韓国でも売れているということで、生まれて初めて韓国へ旅する主人公。そこで、生まれ故郷の済州島により、自分の戸籍を見てみる。すると、自分は8歳の時に日本で死んだことになっていた。
 俺は生きてるやないか、と思って調べだしたらイキナリ国家レベルの機密に触れちゃったワケだ。話のテンポが非常にいいので、ついついのせられてしまう。途中、終戦前後の話が挿入されるんだけど、なんかもうリアルで(と言ってもあたしはその現実は知らないワケだけど)背筋が寒くなるくらい。
 その分、エンディングはちょっと荒っぽかったかなという気がしないでもない。在日外国人の差別問題や、日韓国交の問題など、大きな且つ興味深い話を振っておいて、最後はドンパチで終わるっていうのがちょっと……。そのあたり、どうしても消化不良なのよね。歴史も、歴史に起因した現代の問題も、そのまま放り出された感じで。Y秘密組織とか殺戮者Zの方に話が流れちゃったけども、最初は日韓問題を表す小道具だったのに、最後にはメインに来ちゃった感あり。逆かな。最初からY秘密組織やZを追うのがメインで、社会問題は薬味の筈が存外強力な薬味だったってことか。とはいうものの、さすがの筆力で、最後までグイグイ引っ張られて、けっこう満足してるんですけどね(笑)。 (98.7.13)  

1998ザ・ベストミステリーズ・日本推理作家協会編(講談社)

 昨年までの「19××推理小説代表作選集」が名前も装丁も新たに出版。個人的には去年までの方が重厚で好みなんだけどなあ。しかし内容はと言えば、さすがに佳作ぞろいだ。いろんなアンソロジーがあるけれど、やっぱこのシリーズは群を抜いてる。単行本未収録のが大部分というのも嬉しい。
【去年の福袋】       渡辺容子  謎が魅力的。それに輪をかけて人物が生きてる。
【雷雨の夜】        逢坂剛   おなじみ「まりえ」の客シリーズ。
【骨まで愛した】      小杉健治  死体と度をする妻。動機の妙に唸る作品。
【ドア←→ドア】      歌野晶午  このタイトルはhtml化できないっちゅーの。
【過去が届く午後】     唯川恵   この巻にはめずらしいサイコホラー。
【仮説の行方】       夏樹静子  これ西郷輝彦の二時間ドラマで見た(笑)。
【バッドテイストトレイン】 北森鴻   伏線の張り方が巧い。
【命日の恋】        藤田宜永  余韻のあるエンディングが映像的でいい。
【殺されたい女】      野沢尚   臨場感溢れる作品。サスペンスとして一級。
【爆ぜる】         東野圭吾  理系音痴には痛い(笑)。
探偵ガリレオ参照。
【裏窓のアリス】      加納朋子  作者らしいシンプルな柔らかい謎。
【朝霧】          北村薫   表現の巧さは天下一品。朝霧参照。
【切りとられた笑顔】    柴田よしき 旬のネタ。ホントにありそうで怖い。
【殺意が見える女】     新津きよみ サイコホラーだと思って読むと……。
【道連れ】         南島砂江子 ミステリとしてより文芸作品として読みたい作品。
(98.7.17)  

名古屋の逆襲・高井信(双葉文庫)

 タイムマシンの手違いで、1997年の名古屋へ送り込まれてしまった22世紀の若者。名古屋は【排他都市宣言】をしており、一種の鎖国状態にあった。名古屋弁が喋れない主人公は、一目でよそ者と見破られてしまう……。
 もう、ばかばかしくて爆笑することしきり。つまり、名古屋を全然知らない東京の人間が名古屋文化に触れてカルチャーショックを受け、右往左往する様を描いているわけだ。考えてみたら、未来人である必要は全然ないんだよね。未来人とすれば、も少し現代の常識とかけ離れてる部分もあってしかるべきだし。馴染みすぎだっつーの(笑)。ま、そういう部分よりもドタバタが中心だからいいんだけど。
 名古屋を舞台にした小説も幾つか読んだけど、これが面白かったのは、「名古屋って変わってる」というだけで終わらず、主人公がなんとか名古屋にとけ込もうとして頑張る部分だ。つまり、(仕方なくとは言え)主人公が名古屋で暮らすことを否定してないのがいい。個々の文化に驚いたり戸惑ったりするのも、バカにしてるんじゃないってのが判るから、爽やかに読めるよね。ただ、名古屋文化って、そんなにネタになりやすいのかってのが、名古屋に住んでる身としては、こう……(笑) (98.7.17)  

本格推理12〜盤上の散歩者たち・鮎川哲也編(光文社文庫)

 ついに12巻目だ。総じて奇想という点では唸らせるものが多いけれど、やっぱり文章の荒さが目につく。トリックやネタももちろん大事だけど、今後は文章の巧い人が出てきてくれるのを期待だ。それと、気になるのはどうもシリーズ探偵のような登場人物が多いこと。作者の中ではシリーズなのかもしれないけど、こういう単発の公募短編で、いかにもっ!というキャラを出す必要性がどこにあるんだろう。なんか、自己満足っぽさを感じるんだけどなあ。
【閉じこめられた男】    雨月行   シンプルな謎を巧く演出してる。
【塩の道の証人】      黒戸太郎  塩の道っていう設定が生かせず勿体ない。
【南の島の殺人】      東篤哉   メインの謎よりお遊びが面白い。
【湯めぐり推理休暇】    飛児おくら ちょっと判りやすすぎるかな?
【僕の友人】        堀内胡悠  キャラは今一だが謎解きは面白い。
【消えた指輪】       光原百合  さすがに破綻もなく、キレイ。お勧め。
【店内消失】        風見詩織  判りにくい(;_;)。でもストーリーテリングは上手。
【壁の見たもの】      獏野行進  ちょっと使い古された手かも。
【ホームにて】       寺崎知之  文章は読みにくいけどアイディアは買い。
【DEATH OF A DRESS CLOSSER〜女装老人の死】荻生亘   タイトルが長いぞ(-_-;)。
【地雷原突破】       石持浅海  志のあるミステリ。拍手。一押しかな。
【翼ある靴】        赤井一吾  女性の描写が今後の課題かな。
【霧湖荘の殺人】      愛理修   ラストシーンがいい。映像が浮かぶ。
(98.7.21)  

不条理な殺人・法月綸太郎他(詳伝社文庫)

 ここ2年ほどのあいだに、小説NONに掲載された短編を集めたアンソロジー。加納朋子氏の【ダックスフントの憂鬱】は氏の単行本ガラスの麒麟で、また柴田よしき氏の【切りとられた笑顔】は、ついこないだ(笑)1998ザ・ベストミステリーズで拝読したが、それ以外のは全部初めての作品ばかりだったので嬉しい。アンソロジーってのはすべからくこうでなくちゃね。
 いわゆる新本格の作家さんたちが大半なんだけども、それにしては謎解きはイマイチの感がした。ところが反面、物語性の強いのが多くて嬉しい誤算。中には謎と謎解きが主人公ってのももちろんあるんだけど、大部分は、その謎の提示の仕方や謎解きの見せ方も、ストーリーテリングとしてこなれている。これはある意味、謎や謎解きそのものよりも小説として大事なことだ。勿論、もとから文章の上手な人も多いんだけどさ。特にあたしが気に入ったのは、恩田陸氏のかな。
【モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ】 山口雅也  ミステリというよりコメディ。
【暗号を撒く男】      有栖川有栖  暗号は確かに面白いんだけど、だから?って気も。
【ダックスフントの憂鬱】  加納朋子   きれいにまとめてる上に文章が上手で魅力的。
【見知らぬ督促状の問題】  西澤保彦   なぜそう推理するかの理由が薄いのが残念。
【給水塔】         恩田陸    余韻の持たせ方が秀逸。物語通しての色がいい。
【眠り猫、眠れ】      倉知淳    少し行動に無理があるような……(^^;)
【泥棒稼業】        若竹七海   これ、捕まらないのが不思議なくらい(笑)
【切りとられた笑顔】    柴田よしき  1998ザ・ベストミステリーズ参照。
【トゥ・オブ・アス】    法月綸太郎  のりりん(笑)のは、新作が読みたいよお。
(98.7.25)  


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