七日間の身代金・岡嶋二人(講談社文庫)
大人が二人誘拐され、誘拐された人物の姉であり、義理の母でもある女性のところに、その身代金要求がビデオで送られてきた。彼女と知り合いだったために、この誘拐事件に首をつっこむ事になった千秋と要之介。身代金を持った彼女を追いかけるが……という、岡嶋二人お得意の誘拐モノだ。
散りしかたみに・近藤史絵(角川書店)
梨園を舞台に描かれるミステリ。出し物の最中に、ストーリーに関係のない桜の花びらが一弁、舞台に舞い落ちる。それも、毎回。誰が何のためにこんな悪戯をしてるのか……それを探るために若き女形と、その友人の探偵が調査を始める。
閉ざされた夏・若竹七海(講談社文庫)
地元の文豪を記念した博物館に勤務する青年。彼を中心に、その同僚達を描きながら物語は進む。その記念館で起こった放火騒ぎ。そしてついに殺人。
札幌はススキノに居を構える【俺】。本業は違う筈なのだが、結局いつもやっかい事に巻き込まれ、探偵もどきの仕事をする結果となる。そして今回。【俺】の行き付けのオカマバーのメンバーが殺された。皆に好かれた、いいヤツだった筈なのに、【俺】が調査するうちに周囲が非協力的になっていく……。
僕を殺した女・北川歩実(新潮文庫)
ある朝、目を覚ますと、男だった筈の僕は女になっていて、おまけに5年の月日が流れていた……このとっぴょーしもないSF設定を、なんとか理に落とそうともがく物語だ。結論からいうと、けっこうキレイに着地したんじゃなかろか。些細な御都合主義には目をつぶるとして(笑)。特に謎が始まる部分や、謎を解こうと奔走する主人公の心理や行動は、非常に細かく描かれてて、かなりワクワクしながら読めたし。かなり書ける人なんだなぁという印象。
黒衣の女・折原一(講談社文庫)
愛人のために金を使い込んだ銀行員が、最後に大金を持って駆け落ちしようとした。しかし、待ち合わせ場所に彼女は来ず、思い直した銀行員は金を銀行に持ち帰るが、そこで凶行に逢う……。
名探偵に薔薇を・城平京(創元推理文庫)
【メルヘン小人地獄】と【毒杯パズル】よりなる二部構成。異色を狙った結果がはからずも思いきり正統派となってしまったような、そんな作風かな。決して嫌いじゃない。むしろけっこう好きかもだ。人物設定が大甘というか、なんか子供じみた作りモノめいてて今イチ入り込めなかったけれど、構成やネタには素直に膝を打ったぜ。これで人物に深みとリアリティが出たら、けっこう化けそうな人ではある。
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でも、岡嶋が書いた誘拐モノってだけで、多大な期待をよせてしまうせいか、充分水準に達した出来であっても「岡嶋ならこの程度をクリアして当然」と見られるのは可哀想だよな。可哀想なんだけど、売りにしてしまってる以上は仕方ない。そういう意味では、これは充分水準には達してるにも関わらず、「岡嶋にしては……」という感が否めない。
なぜなら、誘拐事件を扱っていながらも、メイントリックは密室なんだよね。他の作品〜どんなに上手に隠れても」とか「99%の誘拐」とか〜に見られるような、誘拐そのもののサスペンスじゃないから。島という巨大な密室の扱い方はさすがに秀逸だし、思わず唸ってしまうトリックなんだけども、誘拐自体が結構簡単にネタバレしちゃうのが残念。「犯人は分かりました。動機もよく判ります。では、犯人はどうやって密室から抜け出たのでしょう。」ってのが物語のメインストリームになってしまってる。それならそれで、そういうタイトル、そういう前宣伝になってれば充分期待に添える一品だったのになぁ。
(98.8.2)
こういう動機の物語は決してキライじゃない。梨園が舞台っていうのも生きてるし、その梨園の様子も非常に判りやすく描写できてると思うし。何より梨園の人間関係が、切ないまでに描かれてて、なんか映像的でいいやね。藤娘、鏡獅子、廿四孝など、門外漢でもすんなり入れるように描かれている。単なる趣味に走った蘊蓄小説にならないように気を使ってるのが判るってもんだ。
ミステリとして読むと、どうしても弱いんだけどね。滝夜叉姫を一目見た探偵が、いきなり全てを見抜くってのはあまりにスーパーマンぽくてリアリティないし、肝心要の動機も、ちょっとアンフェアだし。叙述をうまくトリックに利用してるのは判るけど、それだけじゃちょっと「真相を読んで膝を打つ」まではいかない。何より探偵が「××を見て●●に気付いた」ってのが、あまりに突然出てきちゃって、おいおいってなもんだ。わはは。
ことほど左様に、謎解きミステリとしてはあまりいい出来じゃないんだけど、これはミステリとして読む必要はないかもね。伊織をめぐる人々の悲しい愛憎劇が主役なんだから。
(98.8.3)
青十という架空の文学者をよく練り上げたなぁというのが第一印象。なんか実在してそうだもんね。この青十という作家の作り込みが甘いと、設定すべてが嘘くさくなったり御都合主義に見えたりするもんだけど、細かいディーテイルが実に巧く作り上げられてる。
放火騒ぎのあたりまでは、実に魅力的な物語の進み方だ。最初は悪戯に見えたものが、だんだん悪意という形をなしてくる。こういうのって、わくわくするよね。おまけに登場してくる記念館の職員の皆様が個性的で、個人個人が非常に判りやすく役割分担されてる。ちょっと劇画的で単純にすぎるところはあるけど、これくらいの方が純文学じゃなく謎解きミステリとして読むには読みやすい。デビュー当時に比べると、文章も上手になったよねえ>作者。プロローグはちょっと視点がウロウロしてて分かりにくかったけど、本文はそこここに優れた描写が見られる。物語のテーマも、題材も、登場人物も、総じて結構あたしの好きなタイプの話。
ただ、ネタ自身は、殺人のあたりからちょっと失速しちゃったかな。あまり言うとネタバレになるので難しいんだけど、誰かひとりくらい、主人公と一緒に考えて動く人が必要なんじゃないかな。ま、妹がその役なんだけど、読み進むにつれて「おまえもかいっ!」ってことになると、読者としても誰を信じていいのやら判らなくなる。引いては、結局、主人公の青年が仲間外れだっただけなのね、って感じで。
(98.8.4)
探偵はひとりぼっち・東直己(早川書房)
このシリーズは、短編集1冊を含む4冊が上梓されてるけれど、回を増すゴトにレベルが上がる。殺されたオカマのことが最初から非常に丁寧に書き込まれているので、【俺】が動き出す心情も自然と理解できるし、だから一層周りの反応が不可解な謎として成立する。調査を進めるうちに、こっそりとだけど【俺】に協力しようとしてくれる人たちもいて、ハードボイルドちっくな設定の割には人情物語のような風味も味わえる。とにかく、どういう状況でもストーリーテリングの巧さで読ませてくれるってわけだ。
巧いのはストーリーテリングだけではない。ストーリーそのものも、かなり巧い。あの真相は、かなりの××××××だと思うけれど、下手な人がこれをやると目もあてられない結果になるのがオチだ。伏線が伏線として機能し、ミスディレクションがミスディレクションとして機能している。かなり上質のミステリであり、娯楽小説であると言えよう。シリーズ続編が楽しみだぜい。
(98.8.10)
ただ、ちょっと後半は文章が判りにくいよなぁ。謎解き(と言えるのか?主人公自身の問題の解明ね)の部分なんか、一度読んだだけでは判らなかったぞ。で、どうして判らなかったかと言えば、まぁあたしの読解力の欠如が一番なんだけどもさ、主人公の受け答えがうざったいんだよね。せっかく理に叶った説明をしてもらってるってのに、主人公が思いこみだけでヒステリー起こしてわめくんだもん。説明の邪魔だよなぁ。おまえちょっと黙ってろ、と言いたくなった。認められない現実に対する対処の仕方ってのは様々だけども、物語のリズムを乱すような演出で描写されるとチョット困るのであるよ。
(98.8.11)
物語は、この銀行員を殺したのは誰かというところが謎の中心となって進むわけだが、もちろん折原氏のこと、しかけが他にあるのである。そのあたりは流石だ。かなり巧く騙してるよね。まぁ、文章で騙す人なので、おそらく読者の想像を大きく超えるような作文上の御苦労がおありだとは思うのだが、それにしても、ところどころ無理のある表現が目に付くのには笑った(笑)。折原氏の叙述モノじゃない話を読むと、決してそれほど描写が下手な人ではないのだけれども、やっぱ叙述ってのは難しいもんなんだなぁ。
時間と人物が錯綜するので、エンディング間近になるとかなりゴチャゴチャしてくる。じっくり腰を据えて読める時に読むのがいいみたい。
(98.8.13)
物語の柱となる毒薬の存在が、フィクションとは言えあまりに御都合主義的なのが気になるけれど、そこに目をつぶれば、後は非常に巧く処理されてるように思える。特に【メルヘン小人地獄】は、その見立ての異様さとマンガみたいな人物描写に埋もれてはいるものの、かなり高度なミスディレクションが用意されてるし。【毒杯パズル】も、動機を追う途中での二転三転の構成は見事だ。真相も、なんだか切なくも安心する着地にしてくれてるし。ストーリーを作る能力には、かなり長けてる人だという印象。これからの作品が楽しみだね。このまま、同人誌的作品で終わるのか、商業小説に(いい意味で)変化していくか。要注目である。
(98.8.14)