お厚いのがお好き?


演じられた白い夜・近藤史恵(実業之日本社)

 東野圭吾の「ある閉ざされた雪の山荘で」を彷彿とさせる物語。設定だけだけどね。ある芝居に出る役者達が合宿のために山荘に集まる。芝居の内容は知らされず、その日の練習分だけシナリオが配られ、そして山荘は雪に閉ざされる。そして、被害者役の俳優が死んだ……。
 あまりに王道だからこそ、ありとあらゆる手が使われてきた「雪の山荘」ものである。おまけに、実際の犯人捜しと同調して、シナリオの方も孤島が舞台のミステリだから、一粒で2度オイシイ構成になっているのだ。
 役と実際の人物名がちょっとゴッチャになるのと、シナリオの方のクライマックス場面が(映像効果としてはかなり素晴らしいのに)文章で書くと盛り上がりに欠けるのが難点か。しかし、近藤氏らしく、細部までよく練られている。
 こういう、インターネット掲示板のオフ会(あ、シナリオの方ね)ってのは、顔も素性も判らないメンバーが一同に会するわけで、そういう意味では、色々な設定がこれからも考えられる分野だよな。しかし、そんな設定で最も見事などんでん返しが、このシナリオのエンディングだと思う。こんな方法じゃなくて、これで長編が一編書けそうなのになあ。もったいないと思ってしまうのはあたしだけか? (99.1.10)     

マニアックス・山口雅也(講談社)

 蒐集狂と映画狂という2種類の「マニア」を俎上に上げた短編集。
【孤島の島の島】海から流れてくる漂着物を集める蒐集家の女性。しかし彼女には目的があった……。なかなかにホラーで、ちょっとゾゾ気が走る。
【モルグ氏の素晴らしきクリスマス・イヴ】ここまで来ると笑っちゃうしかない、まさに不幸のドミノ倒し!なんかドリフの喜劇を見てる気になった(笑)。
【《次号につづく》】どこからどこまでが本当なのか、読んでるうちに判らなくなるのが快感。個人的には、ここまで持ってこないでもう少し理に落ちて終わって欲しかったところ。
【女優志願】これもホラーだけど、怖いというより皮肉な話に思える。アメージングストーリーとか「世にも奇妙な物語」なんかに出てきそうな話。
【エド・ウッドの主題による変奏曲】完全にスラップスティックだな。かなり面白く読めたんだけど、ラストがなぁ。中で遊んで最後はしめるってのが好みなので、最後にああいうオチが来たのは個人的にはちょっと残念。
【割れた卵のような】これイチオシ!怖い、怖すぎる!ホラーとしてもミステリーとしても秀逸だ。マンションから子供が落ちて死ぬという事故が頻発する。そして同じ時期に町に起こった異変。間のVTRの描写がまどろこしいけど、真相に気付いた瞬間、襟足の毛が逆立った。
【人形の館の館】内容がどうというより、作者の密室への考え方が覗いてるようで、興味深い一編。 (99.1.10)     

QED〜百人一首の呪・高田嵩史(講談社ノベルズ)

 織田正吉氏の「絢爛たる暗号」はじめ、百人一首の謎を扱った本は多い。市井のマニアも多いと聞く。あたしもけっこうそういうのは好きなほうなので、ワクワクしながら読んだ。確かに、百人一首自体の謎については見事だ。素人目だけど、プロセスにおいても結果においても(多少の恣意的部分は感じられるにしろ)これまでの他のアプローチよりも、ずっと斬新で、そして納得できるものだった。なるほどなぁ。
 が、しかし。そもそも、これをどうしてミステリにする必要があったんだろう。百人一首の謎解き本として出してもよかったんじゃないだろうか。ミステリという形態の中で百人一首の新解釈が有機的に意味を持てば、それはすごいことだと思うけど、今回はかなり無理がある。たとえ百人一首の解釈が素晴らしくても、ミステリとしては残念ながら何の意味もないのだ。だいたい、あんな根底から前提をひっくり返しておいて、伏線あった?あたしが気付いてないだけなの?「突然、んなこと言われても」と愕然としてる間に解決しちゃった(笑)。
 それにしても。この作者って、司馬遼太郎と京極夏彦にかなり影響されてると思ったのはあたしだけ?(笑) (99.1.18)     

闇色のソプラノ・北森鴻(立風書房)

 新刊としては99年になって初めてのお勧めマークである。と言ってもこの本自体は昨年の発行なんだけどね。狐罠ほどではないにしろ、北森氏ってばぐんぐん力を付けてきたなぁという感じ。
 いきなり登場する青年。どっか様子がおかしい。それが気になりながらも、小説の舞台は(というより語り手が)二転三転する。それが結びついた時のカタルシス!QED〜百人一首の呪を読んだ直後だったために、一部「おっと」と思う部分もあったけど、こっちはちゃんと伏線もあって上手に処理されてた。夭折した天才詩人を卒論テーマとして選んだ女子大生も巧く書けてるし。伝奇やホラーの雰囲気を残しながらも、本筋はキッチリと本格である。好きだなぁ、こういうの。
 惜しむらくは、人物配置がちょっと御都合主義だったことか。そううまく填まりはしないだろうと思うんだけどね。あと、物語の主眼になってる童謡詩だけど……あの詩って、そこまで涙するほどいい詩かな?(笑) (99.1.19)     

天国までの百マイル・浅田次郎(朝日新聞社)

 いいっ。何も言うことはない。
 なんだか日々の生活に苛立って、うまく行かないのを周囲のせいにして、親や女房や亭主に当たり散らして、自分はこんなに頑張ってるのにどうしてお前は何もしてくれないんだと不満を漏らし、心がカサカサに乾いて、自分にゆとりがなくなっているのに気付いたら。
 そういう時に、読んで欲しい本。
 読み終わると、うまくいかなかった何もかもが許せるような気持ちになる。自分からまず一歩、動いてみようという気持ちになる。
 ああもう、とにかく、理屈はどうでもいいから、まずは読め。 (99.1.21)     

真幸くあらば・小嵐九八郎(講談社)

 人を二人殺して死刑判決を受けた受刑者と、その受刑者を次第に愛するようになるクリスチャンの女性の物語。死刑が執行された後、教誨師が彼の遺稿集を作ろうと思い立つ。そして出てくる、受刑者・淳と、クリスチャンで人妻の茜の往復書簡。看守や検閲の目を盗み、聖書を利用して交わされる長い手紙。添い遂げるどころか、アクリル板ごしにしか会えない、手を触れることさえできない恋人同士。
 淳は、決して賢くはない。何をやっても目が出ない、くすぶり野郎。茜はひどく固い考え方しかできないクリスチャン。その、天と地ほども違う二人が、始めは憎み、そして次第に惹かれ合う。肌を合わせることなど望むべくもない二人が、精神だけでもと結合を試みるシーンは胸に迫る。
 刑務所の中のシーンは非常にリアルで(このあたり、さすがだ(笑))、主人公の二人以外の登場人物も非常に細かく書き込まれている。もと過激派の弁護士、淳に優しい看守、他の死刑囚たち、受刑者の家族、そして殺された被害者の家族。受刑者に焦点を当てているにも関わらず、被害者側の「犯人は絶対に許せない」という、主人公から見ればマイナスの要因もちゃんと書き込まれている。
 文章に独特の癖のある作家さんなので、初めての人はちょっと読みにくいかもしれないけど、これはお勧めだ。死刑制度について多くの示唆を含んでいるが、そんな難しいことは横において、ラブストーリーとして優れた作品である。 (99.1.22)     

失踪者・折原一(文藝春秋)

 もうあんまり驚かなくなってきたなぁ(笑)。いや、決して悪口じゃなくて。辛いところだと思うのよね、望まれる形が確固としてあるってのも。驚かなくなったというのは、決してネタが割れたということではなく(真犯人は最後まで判らなかったよサスガに)、どのあたりで騙そうとしてるかがパターンとして認識できてしまう、という点にある。真犯人やトリックは判らなくても、展開が判ってしまうとでも言うか。これだけの叙述モノを書いてこられたんだから、それも仕方ないとすら思える。勿論、折原一ビギナーは充分楽しめるレベルだと思うよ。ただ、こんな状況を与えられて、その上でいいモノを求められるんだから、看板を背負った作家さんていうのはホントにたいへんだ。頑張って下さい。
 今回の物語では、実際に起こった少年犯罪を彷彿とさせるような記述が多々出てくる。もちろん、ハッキリとは書いてないけど、「ああ、あれね」と簡単に見当がつくような書き方をされている。そこがかなり気になった。被害者の家族も、加害者の家族、そして本人も、読者となる可能性があるのに。関係者が読む可能性があるのに。リアリティという面では効果があるけど、それでもやっぱり、関係者が辛い思いをしかねない表現というのは、かなり抵抗を覚えたのであった。感傷だけどね。 (99.1.24)     


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