お厚いのがお好き?


猿来たりなば・エリザベス=フェラーズ著 中村有希訳(創元推理文庫)

 「このミステリがすごい!99年度版」の海外編第3位である。それだけのことはあった。かなり昔(50年くらい前だっけか?)の作品だそうだが、古くない。もう、まごうかたなき本格である。翻訳ものが苦手な大矢にとっては、登場人物の人数がキャパシティぎりぎりで、人によって同じ人物でも呼び名が変わったりして、ちょっとイッパイイッパイだった部分もあるんだけど(笑)、そういうのを差し引いてもお勧めマークをつけてしまう。
 誘拐事件勃発の報を受けて、田舎町までやってきた探偵二人組が主人公。よくよく話を聞いてみると、誘拐されたのは人ではなくて猿だという。しかし、そこからが本格である。怪しい人物、示される手がかり、ミスディレクション、道具建てはカンペキだ。
 そして最後まで読んだ時……気付いた人は何人くらいいたんだろう。あたしは全然気付かなかった。完全に忘れていた。それに気付いた時には、うわああっっ!と叫んで天を仰いだね。気付かなかった自分を考えつく限りの言葉で罵倒したくなった。そんな、「本格の醍醐味」「騙される快感」を与えてくれる話。 (99.2.1)     

謎のギャラリー・北村薫(マガジンハウス)

 商売があくどいぞマガジンハウスっ!と叫びたくなること請け合いである。
 北村薫と編集者の対談形式という体裁で繰り広げられる、北村薫の「お勧め短編」である。「謎をテーマに北村薫がアンソロジーを組むなら」というテーマで、謎の種類に応じてお勧め短編を紹介してくれる。
 北村薫と言えば、とにかくその「謎」に関する造詣は日本海溝よりも深いくらいだから、紹介される短編の全てがやたらと魅力的である。文章の上手な人は説明も巧いねやっぱり。興を削ぐことなく、余計な事は言わず、ただ、その短編の魅力を分析してくれる。触れた物語の数はどれくらいになるんだろう。知らないものが大部分だ。さすが、北村薫。
 しかし。しかし、である。あくどいのはここからだ。この本では、「勧めるだけ」なのである。もちろん、ネタバレ警報付きでストーリーをすべて紹介してくれてるものもある。手に入りやすい本については出版社を教えてくれる。親切だ。しかし、手には入りにくい、話は美味しいところで止められる……そんなのもたくさんあるのだ。で、それが読みたければ……「同時発売のもう一冊【謎のギャラリー・特別室】に収録しています」と来たもんだっっ!きいいいいっっ!読みたいに決まってるじゃねーか、ばけーろー。天下の北村薫にここまで紹介させておいて、それでこんな仕打ちっ。ひどいわひどいわ。しょうがないじゃない読むしかないじゃない。どうして一冊にしてくれないのよおおおお。よよよよよよ。 (99.2.3)     

私が彼を殺した・東野圭吾(講談社ノベルズ)

**ネタバレ注意!全編ネタバレです。未読の人は読まないように!**

 「どちらかが彼女を殺した」に次ぐ、犯人を明らかにしないリドルストーリーである。しかしこの手法って、東野圭吾だからこそ許されるよね。他の作家がやったら袋叩きに遭うと思うが(笑)。というわけで、あたしの推理である。1度しか読んでないので、見落としも多いと思うが。他の人の意見も聞いてみたいな。

 犯人は、駿河。

 見知らぬ指紋がついてたってえのは、ピルケースだと思うのよね。誰の指紋かと言えば……穂高の前妻の指紋。
 あのピルケースはさぁ、別れた奥さんとペアで買ったもの(P39)だよね。つまり、同じピルケースがもう一つ存在するわけだ。前妻の手元に。しかし前妻は再婚の際に昔の結婚を思い出させるようなものは一切合切穂高に送り返してる。その箱が、駿河の部屋にあるよね(P122)。つまり、駿河は前妻のピルケースの中に毒入りカプセルをしのばせ、それを本来のピルケースとすり替えたのではないかと。どこですり替えたかというと、結婚式の前に西口&雪笹からケースを預かり、ボーイに渡す前に、一回ポケットに入れてる(P101)んだよね。ここだと思うんだけど。どかな?

てなわけで、駿河に一票だ。 (99.2.6)     

月曜日の水玉模様・加納朋子(集英社)

 加納朋子お得意の連作短編集である。各篇のタイトルが折り句になっていたりして楽しめるが、本編はと言うと、謎解きよりも主人公陶子の気持ち描写の方に惹かれる。前作の「ガラスの麒麟」の時にも感じたのだが、扱われている《謎》とその《謎とき》は(魅力的じゃないとは言わないが)かなりの部分が《想像と勘と偶然》に支えられてるような気がするのだ。確かに、中で展開されたような推理も成り立つ。が、総じて決め手に欠ける。ぽん、と膝を打つとか、腑に落ちるとか、そういう感覚が薄いのである。御都合主義ってのとはちょっと違う、なんというか……「そういう推理も成り立つけど決め手に欠けるよね。第一、普通はそういう事件だったら、こっちの別の事件とは結びつけないでしょう。でも話してみたら偶然その通りだったの。」という印象なのだ。
 ただ(これも「ガラスの麒麟」の感想とだぶるが)、推理の過程に多少の瑕疵があったにしても、それで物語の価値が損なわれるようなタイプの小説ではない。この人は比喩が巧い。比喩が巧いということは、描写力・表現力があるということだ。その力を以て、陶子という女性の内面と彼女を巡る暖かい環境を心地よく描いている。脇役も個性的で、顔が見えてくる程に書き込まれてるし。あたしはこれを、ミステリ仕立ての「OL奮闘記」として読んだ。10年に渡ってOLをしてきた身としては、実に陶子ちゃんには共感するのである(笑)。 (99.2.10)     

猟死の果て・西澤保彦(立風書房)

 全裸で見つかった女子高校生の絞殺死体。その事件を追う警察内部にもまた問題があり……。これまでのスットンキョーSFミステリや、タック&ボアン先輩の青春モノとは一線を画した、新しい西澤保彦である。そして、これまでのものよりも数段レベルアップされた物語だと言える。
 もしもこれを本格推理として分類するなら、後書きで筆者本人が述べているように、「ミッシングリンク」ものということになるだろう。その面でも、細かい伏線も張られているし、人間関係もよく練られているとは思う。しかし、この物語はそういう謎解き物としてよりも、社会派犯罪小説として読みたい。
 昨今、高校生(や中学生)による犯罪が多いと報道されるが、この物語の中では高校生が被害者である。そして、その被害者たる高校生というのはどういう「生き物」なのかが、調査の上で次第に明らかにされる。と、同時に、教師や関係者らの「幼児性」が明らかにされるわけだ。そちらの方が小説の本流となる。犯罪は少年という世代に原因があるのではなく、大人にしろ誰にしろ、その年齢にそぐわない「幼児性」に問題があるのだと、この小説は教えてくれる。
 西澤保彦のエポックメイキング的作品として、推奨したい。 (99.2.12)     

念力密室!・西澤保彦(講談社ノベルズ)

 つい上で猟奇の果てでの作風の変化を褒めちぎったとこなのになぁ(笑)。いや、決してこれが悪いってんじゃなくて、かなり面白かったんだけどさ。この神麻嗣子シリーズは絶対短編の方がいい。短編集で、設定はどれも「念力によって鍵が閉められ密室が構成された」というもの。つまりハウダニッドの分は「超能力」でクリアされてるわけだ。俄然、興味は「なぜ、誰が、どういう状況で」に絞られる。これは巧い手だ。普通密室と言えばハウダニッドだもんねえ。そこを前提条件でクリアしちゃうってのは、密室がマンネリになってしまう要因をクリアしちゃったってことだもんなあ。
【念力密室】もう一方の犯人の動機がかなり好き。よく考えられてる。
【死体はベランダに遭遇する】好きな作品。ちょっと人物配置が恣意的な気もするけど(笑)
【鍵の抜ける道】そもそもどうしてこんな頼りない女の子をチョーモンインは雇用したんだ?
【乳児の告発】好きな作品。ただ、余りに都合良く関係者が絡むのがちょっと……。
【鍵の戻る道】これに限らず、西澤氏って幼児性の抜けない大人を描くのが巧い。
【念力密室F】ボーナストラックかな。FはF×××××のことかしら? (99.2.19)     

地球儀のスライス・森博嗣(講談社ノベルズ)

 まどろみ消去に次ぐ二冊目の短編集。
【小鳥の恩返し】ミステリかそうじゃないかの判断がつきにくいが、ラストはキレイ
【片方のピアス】透明感のある作風だけど、カオルとサトル、読んでて苛立つっ!
【素敵な日記】最後に来て「うわあ、やられたっ!」という感じ。なるほど。
【僕に似た人】僕ってのは多分精神薄弱者だよね。でも話が見えないぞ、これ。
【石塔の屋根飾り】犀川シリーズ。ミステリというよりクイズだけど面白い。
【マン島の蒸気鉄道】図面が入るとダメなのよあたし(笑)。オチは楽しめたけど。
【有限要素魔法】うーん、雰囲気は伝わるんだけどなあ……。
【河童】芥川というよりも志賀直哉の描写手法に近いのでは。描写だけだけどさ。
【気さくなお人形、19歳】キャラは好き(笑)。これが新キャラなら萌絵より期待。
【僕は秋子に借りがある】物語より森氏が秋子っていう普通の名前を使ったことに感動(笑)
(99.2.19)     


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