お厚いのがお好き?


ぶたぶた・矢崎存美(廣済堂出版)

 ……かわいいじゃねーかちくしょおっ!ぬいぐるみだのキャラクターだのには、ミジンコほども興味のない大矢をして、「あうう、か、かわいいっ」と言わしめた《山崎ぶたぶた》である。ううう、かわいいよーー、見たいよーー>ぶたぶた。
 一つ一つは、物語あるいは童話としては普通のものなのだ。テーマも、主人公の心理も、設定も、非常に理解しやすい、簡単な話なのだ。主人公に絡んでくる重要なやくどころが、人間ではないという一点を除いては。
 《ぶたぶた》の扱いがもう、最高に巧い。普通なら、なんとか理に落ちた結末をつけようとするのではないか。それを、敢えてしない。もう、《ぶたぶた》は当たり前に存在するのだ。そして、《ぶたぶた》と接してあたふたするのは主人公だけ。他の人は何も反応しない。だからこそ、読者は主人公に一気に同化する。そして読み終わった時、理に落ちない・秘密が明かされない話でも、主人公が納得したと同時に読者も納得するのである。いや、明かされるべき秘密なんて、そもそもないんだ。実に小憎いではないか。
【初恋】いきなりヤラれた(笑)。「その銀行員は人間かっ」に爆笑。ショートショート。
【最高の贈り物】展開にびっくり。そうか、《ぶたぶた》は既成事実として存在するわけね。
【しらふの客】ウィッグがだんだん……ああもう、想像すると笑えて笑えて……。
【ストレンジガーデン】いくら《ぶたぶた》が既成事実だと言っても、こ、ここまで(笑)
【銀色のプール】ああ、なんかいいなぁ、これ。主人公はあくまで子供。
【追う者、追われる者】イチオシ!もう最高!報告書の部分では、しばらく笑いが止まらなかった。
【殺られ屋】一転、哀しい話。なぜ、ぶたにここまでシンミリさせられるんだ?
【ただいま】これも感動する。なんか哀しいくらい。これがぶたぶたの正体であって欲しいなあ。
【桜色を探しに】きれいに収束。ただし、ぶたぶただけは収束されない。うまい〆め方だなぁ。
(99.4.12)     

チグリスとユーフラテス・新井素子(集英社)

 いきなりコールドスリープから目覚めさせられたマリア。まだ予定の日ではないのに。彼女を起こしたのは、……。
 筆者久しぶりの長編である。筆者自身は「久々のSF長編」と言っている。が。この人のSFって、SFに見えないんだよね(笑)。いや、未来の話で、地球から人類が移民した惑星の話で、宙港だのコールドスリープだのが出てくるのは明らかにSFなんだけども、そこで扱われてる問題は、もうハッキリと《今の問題》なんだもん。いや、決して《少子化》の事を言ってるんじゃないのよ。それは確かにこの設定の中でも非常にリアルな問題だもの。そうじゃなくて、例えばマリアの「妊娠・出産に拘る女性心理」だとか、ダイアナの「仕事を生き甲斐にする心理」だとか、朋美の「好きな事をするのが幸せ」だとか、そういう各章のテーマが、もろ《現代の女性心理》なのよ。
 だもんだから、これって全然未来の話って気がしない。勿論そこを狙ってるのかもしれないけどね。おまけに、出てくるメンバー全員が似たようなボキャブラリーで(意識して文体を変えてるのは判るんだけど)、もうマリアやダイアナやルナではなく、新井素子が喋ってるって感じが最後まで抜けない。異なる人物の筈なのに、思考回路も言葉使いも語彙も反応も会話の運び方も驚くほど皆そっくりなんだもん(笑)。この話に限ったことじゃなく、他の作品を通してそうなんだけどさ。
 とまぁ、文章作法上では文句もたくさんあるんだけど、でも読まされちゃうんだよなぁ。設定や物語がやっぱ爆発的に面白いからなんだろうなぁ。上に述べたような文句(舞台は未来でも人物は現代人だとか、登場人物がワンパターンだとか)は、短所じゃなくて新井氏の個性や特徴にすらなってる感があるし。逆に、登場人物に個性や深みが出てきたら、新井素子の魅力はなくなってしまうのかもという気すら、する。うーん、このあたり、術中ってヤツか。  (99.4.13)     

ブラックスワン・山田正紀(幻冬舎文庫)

 まごうかたなき本格推理、である。最近の本格推理の作品である螺旋(スパイラル)妖鳥(ハルピツィア)阿弥陀(パズル)仮面(ペルソナ)とかは本格推理よりパズラーなんだけど、これははるかにしっかり本格推理だ。
 偶然知り合った7人の男女。瓢湖へ白鳥を見に行こうという話になる。そこで見つけたブラックスワン。7人の男女の中には幾通りもの恋心が生まれる。そして、その中の一人が謎の失踪を遂げる。失踪から17年。当時の関係者の手記をまとめる内に、主人公・桑野は様々な疑問点に気付くという物語。
 もう見るからに怪しい記述がいっぱいあって、本格好きのココロをくすぐるのよね(笑)。もう本能で「あ、ここ怪しい」とチェックが入ったりして。オチも膝を打った。うーん、×××××ってのは伏線もあったし想像してたんだけど、こういう事だったとは。
 唯一気になるのは、こういう手記という形を使ったミステリにはありがちなんだけど、普通、文集にこんな文章は書かないだろ、ってこと。だって、出版されて他人の目に触れるんだよ?いや、犯人が不用意な事を書いてるって意味じゃなくて、「失踪した友人を偲んだ文章」と言えば、普通はその人を中心に据えて思い出を書くじゃん?それが、他の人の怪しい行動だとか、当人とは関係ない人物との会話だとか……そういうのって、手記にしないと思うんだけど。そういう部分が引っかかるのよね。 (99.4.19)     

大蛇伝説殺人事件・今邑彩(カッパノベルズ)

 だいじゃ、ではなく、おろちでんせつ、と読ませるのだそうだ。【ヤマタノオロチ】のオロチね。というわけで、中枢となるネタは【ヤマタノオロチ】である。
 こういう神話や昔話を扱ったミステリってのは、けっこう好きな方なんだけども(見立て殺人ってやつだな)、これは全くノレなかった。まず、ヤマタノオロチ関連の話が「調べた事をとりあえず全部書きました」という感じにしか見えない。実際の事件と神話の関わりを考えると、ここまで蘊蓄を並べる必要はないような気がする。それに、話の運び方がずいぶんと筆者らしくない。まぁ、カッパノベルズだからかな、とも思うんだけど、なんか斎藤栄とか内田康夫とかのキオスクミステリみたいじゃん、これ。「出雲殺人伝説」とかってタイトルで駅のホームで売ってそうな話だぞ。
 そういうのが売りの作家さんならそれでいいんだけどさ。今邑氏ってのは、もっと「書ける」人だと思うのよね。いや、斎藤さんや内田さんが「書けない」人って言ってるんじゃないので念のため。タイプが違うでしょ、ってことで。東京創元社から「鮎川哲也と十三の椅子」でデビューした人が書く話じゃないんじゃない?もちろん、書き手の可能性を読者が限定しちゃいかんけどさ、なんか、我が敬愛する東野圭吾が「11文字の殺人」を出した時のような脱力感があるのよね(笑)。
 これまで、ずいぶんと練れた作品を多く出してるし、「新本格」の中でも論理だけではなく作品の色や雰囲気を上手に作れる作家さんだと期待してるんだから、一読者の立場からワガママを言わせて貰えるなら、ちょっと軌道修正して欲しい。大道時綸子だって、もっと活かせる方法がある筈。これじゃ、二階堂蘭子もどきだ。ま、名前も似てるけどさ。 (99.4.21)     

青猫の街・涼元悠一(新潮社)

 ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。左開きで横書きってのは、10年近く前に小峰元氏のハードカバーで経験があるので戸惑わなかった。小峰氏のよりもこっちの方が横書きの必然性があるしね。だいたい、横書きじゃなきゃ無理だわ>これ。
 失踪した友人の部屋に残されていた、古い機種のパソコン。彼の行方を捜す内に、主人公は謎の「青猫」という言葉を知る。更に調査を続けていくうちに……といった物語。純粋なミステリのような流れで話は進むけども、最後はきっちりファンタジーだ。なまじ前半(というか最終章直前まで)が理にかなったミステリみたいだったもんで、すっかりあたしも「真相が知りたい!」という気になってて、ファンタジーで落ちたついた時にはちょっと肩すかしだったんだけど(笑)、これはこれで、かなり切ない、いいエンディングだ。
 読者を限定してるのも、いい。パソコンやWEBが判らないヤツは読むな!と言わんばかりの用語の羅列。不親切なようにも、単なるオタクの知識自慢のようにも、見えなくもない。だけど、実際にパソコンを扱ってる人間が読むと(オタクレベルじゃなく、普通のユーザーでも)、非常にリアリティのある行動であり、会話なのだ。つまり、普通の世界。判らない人のために、リアリティを削ぐような説明的なセリフなんかは出さない。そこがクールなんだよね。
 何よりもこのエンディングの切なさは、パソコンユーザーが一番理解できるのではないだろうか。今後も読者に媚びを売らない作品を書いてって欲しいな。 (99.4.22)     

宴の夏 鏡の冬・香納諒一(新潮社)

 デビュー作から最近の作品までを集めた短編集。
【共犯】手紙だけで綴られるミステリ。まぁミステリというには、読者へはあまりヒントは出されないんだけどね。ちょっとずつ明かされるネタにわくわくしてくる。
【城ヶ崎へ】やさぐれてしまった男の、現在と思い出が交互に描かれる。特に思い出の方がいいなぁ。細かい描写が胸に来る。個人的にはおばあさんとのくだりが好きだから、そこから先を伸ばすよりは、あれをラストシーンに持ってきて欲しかったなぁ。。
【宴の夏】これ、イチオシ!自分が同じ世界で働いてたせいかもしれないけど、この辛さや思いってのは、なんか想像できるのよね。「終わり」を宣告された男達の、最後の宴。タイトルが秀逸。
【鏡の冬】これも【宴の夏】と対になっているかのような「芽の出ない」男たちを描いた作品。何があるってわけじゃなく、単に一晩の出来事を描いてるだけなんだけど、なんかしみじみ来る。
【交錯の轍】盗聴器が仕掛けられたと疑ってる夫、盗聴器を捜すのを仕事にしている主人公。こういうのを読むと、結婚生活は気をつけようという気になる(笑)。
【ハミングで二番まで】デビュー作。皮肉な人生が綴られてて、ちょっと出来すぎっていうかドラマチックすぎる感もあるけれど、この人間模様はドラマにでもしたいような感じ。
(99.4.23)     

七十五羽の烏・都筑道夫(光文社文庫)

 先に倉知淳氏の「星降り山荘の殺人」を読んじゃってるもんだから、どうも余計なところに気を使ってしまってイカン(笑)。これって「星降り……」みたいなトリックはないんだよな?そこばっかりに気を取られてるけど。
 さて、伝説の名作ってことで光文社文庫からリバイバル出版されたわけですが。確かに当時はかなり評判になっただろうな、てのは判る。だけど、ここまでパズラーが台頭してきた時代に読むとねえ……当時は目新しくても、今は普通になっちゃってるのが辛いね。もちろん、四半世紀前にこれが出版されていた、ってことの価値は判るし、その時に読んでれば(判る年齢かどうかは別にして)かなり衝撃的だったかもしれないけど。
 登場人物は多いし、田舎の旧家が舞台の割に雰囲気出てないしで、今イチのめりこめなかった。もちろんトリックはよく練られてるし、膝を打つようなものあったし、楽しめたのもあったんだけど……いかんせん、小ネタばかりって感が拭い去れない。全体に一本筋を通すメイントリックが不在ってのが、物語としての盛り上がりを削いでる気がするのよね。小ネタは面白いんだけどなぁ。細かい伏線とミスディレクションに気を取られて、物語自体を楽しめなかったってことか。 (99.4.24)     


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