お厚いのがお好き?


黒猫の三角・森博嗣(講談社ノベルズ)

 まったく内容に関係ない部分だけど、これだけは言いたくて仕方ない。
 なんなんだよこのマンガみたいな名前は!
 保呂草潤平?小鳥遊練無?香具山紫子?瀬在丸紅子?根来機千英?だーーーーーーっ。確かにそういう名前の人が居ないとは言わない。小鳥遊なんて、珍名さんコーナーに必ず出てくる名前だしね。でもさあ……なんかもう、こんな名前が並ぶ登場人物表を見ただけで読む気が失せるんだよなぁ。例え内容がどんなに面白くても、登場人物にこんな名前がついてるってだけで、なんだかもう……。一人二人ならいいけど、主要人物全員だぞ?判る人には判って貰えると思うんだけど(そして判らない人には絶対に判って貰えないと思うが)、30万人くらいを敵に回すのを覚悟で書くけど、ナルシシズムの塊みたいで気持ち悪いのよっ!(あー、言っちゃった)まぁ、自分のペンネームにお耽美な名前をつけないだけマシだけどさ(地雷踏んだか?)。
 さて、気を取り直して内容に関する感想(笑)。
 練無や紅子、紫子、根来と言ったあたりは、(多分にマンガちっくではあるけれど)よく書き込まれてて、多少オーバーなくらいの人物設定が魅力的だ。練無のキャラが今一つ活かされてない気がするけれど、シリーズものらしいから今後活かされてくるんでしょう。このあたり、けっこう期待。
 密室のトリックも、考えてみれば簡単なんだけどうまく騙されたなぁ。古典的手法にしっかり乗せられてしまった感あり。メインとなるトリックはさておき、密室や殺人の部分に於いては、古い葡萄酒を新しい革袋に入れる、という感じの作品。
 ただ、あたしどうしても納得いかないんだけど。ネタバレ気味なので未読の人はここから読まないで欲しいんだけど、お手伝いさんの証言「幽霊を見た」ってどういう事?どうしてバレないで済んだの? (99.5.27)     

闇の楽園・戸梶圭太(新潮社)

 第3回新潮ミステリー倶楽部賞受賞作。いやぁ、パワーがある!面白い!
 これまでの新潮ミステリー倶楽部賞と言えば、永井するみの
枯れ蔵、雨宮町子の骸の誘惑の2作品で、《社会派と本格の融合》という点が特徴だった。つまり、2作品とも《魅力的な謎とその謎解き》と《取材に基づく社会派ネタ》が両立した作品だってこと。
 翻って、この作品。カルト教団を扱うところなんかは骸の誘惑と非常によく似通ってて、こんな同じネタが2度続けて受賞するなんて……と思ったのだけど、読み進むウチに全然違うのが判った。
 まず、この作品は《本格》ではない。魅力的な謎が提示され、その謎を追うという形のミステリではない。ネタは辛うじて社会派と言えないこともないが、社会派的題材を扱ってるに過ぎない。そう考えると、ここでガラリと新潮ミステリー倶楽部賞の路線に変化が生じたということになる。まだ第3回だけどね。まぁ江戸川乱歩賞なんか第3回でものすごい路線変更をしてるから(笑)、こんな変化はまだカワイイものなのかも。
 つまり、ミステリではなく、エンターテイメントなのだ。過疎化に悩む町の町興し事業、会社についていけず退職した若者、ゴミの捨て場を捜す産廃業者、そしてカルト教団。このバラバラの四者が長野県坂巻町で出会う。最初は別々に語られるんだけど、細かいことを疎かにせずキッチリ書き込んでくれてるので、場面転回が多くても戸惑わずについていけるし。何より、登場人物が非常に魅力的だ。いい奴もいやな奴も善か悪かの一方ではなく、それぞれの背景や考えをキチンと見せてくれる。そのくせ押しつけがましさは全くなく、どのキャラも立ちまくってて、バラバラに見えた4者が一つところに収束していく過程なんかもう、ドキドキハラハラなのだ。これでゴケゾウが喋ってくれれば「ビンゴ」に匹敵するぞ(笑)。
 これはお勧めである。読み出したら一気読み間違いなし。間違いなく、熱中できる作品だ。 (99.5.27)     

黄金色の祈り・西澤保彦(文藝春秋)

 うーん、これはどう位置づければいいのか判らないなぁ。これはフィクションだという但し書きもあるし、そんな事言わなくっても《小説》なんだからフィクションなのは当たり前だというのも判るんだけど、やっぱどしても著者自身の自叙伝に見えるのは仕方ないのではないだろうか。
 まぁ自伝かどうかはさておき、小説として(だから小説なんだってば)考えてみれば、かなり自意識過剰な一人称モノローグで構成されているにも関わらず、読者を引き込む力が充分ある。読み出すと一気だもんね。事件は非常に地味ながら謎解きもちゃんとあるし、冷静にその部分だけとりだしてみると結構本格してたりするんだけども(そしてこういう仕掛けは結構好きなんだけど)、ミステリを読んだ時の《騙される快感》はあまり味わえない。
 それはトリックやプロットがお粗末という意味では決してない。謎解きされる段階になると、読み手の方が謎なんかどうでもいいって気持ちになってるのだ。楽器盗難の真相や遺体の死因よりも、主人公の子供じみた自意識がどう変化していくのか、そちらの方に興味の焦点が移ってしまっているのである。どうやら主人公はかなりムカツク奴らしい上に《自分ではそうと気付いていない》一番タチの悪いタイプらしいのだが(多分に同族嫌悪的部分もあるので笑うしかないんだが(笑))、後になってそれに気づき内省してるもんだから、読みながらムカツクのと溜飲が下がるのとが入り交じる。不思議な読後感なんだよなぁ。
 うーん、本人がイヤな奴でそれに気付いていく一人称(それも四半世紀に渡って描く)ってのは、ありそうで無かったかも。かなり引き込まれ、感情移入して読んだんだけど、ミステリと心情の部分がなんか今一つ融合しそこねてる気がする。主人公の心情描写という点では文句無しになんだけど、総論として手放しに褒めるのは二の足を踏むという感じか。好きなんだけどなぁ。うーむ。 (99.5.29)     

イントゥルーダー・高嶋哲夫(文藝春秋)

 サントリーミステリー大賞の大賞・読者賞ダブル受賞作。
 若き日の恋愛ってのは誰にでもあることだろうけど、いきなり「あなたの子です」ってのは男性にとって最大の怪談だろうなぁ(笑)。それも20年たってからだし。おまけに、20年目にして初めて会った息子は、交通事故で意識不明の重態だった。父としての実感を伴わぬまま、息子の事故の裏にあるものに巻き込まれていく主人公。
 総じて地味なんだけど、最後に示される真相はいいなぁ。いや、事故の真相とかそういうあたりじゃなくてね。親子関係のあたりが。なんか、息子の気持ちを思うと目頭が熱くなるぜ。何度テストしても排除できなかったバグの正体。うーん、胸に迫る。この部分だけでも読む価値あり。いっそ、社会派方面に手を出さず、親子関係を中心に据えて、このネタ1本に絞った話にした方がよかったんじゃないかってくらい。
 ただ、主人公が「おいおい、メチャクチャ怪しいやんけ。なんで気付けへんねん。」とツッコミたくなるような行動を取ったりするのがかなり気になる。ネタバレなので未読の人はここから読まないで欲しいんだけど、だってさぁ、中盤で雅恵っていう存在を素直に受け入れてるのに、どうして×××をそのままにしておくの?相いれないじゃん。その時点で、お前誰やねん、ってことになると思うんだけどなぁ。よく考えてあるとは思うんだけど、どうもその部分が大きな瑕疵に思えて仕方ない。だって、メチャクチャ怪しい人物を全く疑わないってのは、不自然じゃん?騙されたフリして何か考えてるのかと思ったら、しっかり罠にはまってるし。どうにかならなかったんだろうか。 (99.5.29)     

ミステリーのおきて102条・阿刀田高(読売新聞社)

 阿刀田高が読売新聞に連載したエッセイを集めたもの。タイトルからして、ミステリを読む(或いは書く)上で知っているとためになるルールや秘訣のようなものが紹介されてるのかと思ったのだけど……単なるエッセイだった(笑)。まぁ新聞ってことで、あまりマニアックにはなれなかったんだろうけどね。ミステリーについて、筆者が普段思ってること感じていることを書き連ねたってところか。愚痴もあるし、完全に遊んでる章もあるし(^^;)。
 ただ、これからミステリーを書いてみようという人が読むと勉強になる章も幾つかある。そういう意味で面白かったのは21章《推理小説のあらすじ》と22章《さりげなさの研究》、54章《殺人の描写》あたりか。まぁあくまでも超初心者向きの話なので、すでに習作を多く書いてるような人には今更の内容だけどね。
 別の意味で面白かったのは91章の《推理小説的思考》である。いや、内容じゃなくて。初歩的な加減乗除で使われる筆算、あるでしょ?縦に数字を並べて計算するヤツ。それを文章で表現してる部分が笑える。文章のプロでも、こういうのを文で説明するのは大変なんだなあ(笑)。 (99.5.31)     

御手洗潔のメロディ・島田荘司(講談社)

 久しぶりの御手洗潔短編集である。実は彼のシリーズに関して言えば長編より短編の方が好きな大矢だ。御手洗の場合は演出の妙なのかプレゼンテーションの手法なのか、《名探偵もの》にありがちな青臭さ胡散臭さが少なくて、物語世界に巧くはまっているように思える。その結果、彼の短編はなんだかホームズばりの雰囲気が出てると思うのよね。そういう雰囲気作りってのは得てしてハナについてしまって目もあてられなくなるのがオチなんだけど(^^;)、御手洗はそれの成功した数少ない例じゃないかな。
 さて、今回はいわゆる《本格モノ》は4編中【IgE】【ボストン幽霊絵画事件】の2編だけ。残りの2編は、普通の小説に近い。謎解きではない御手洗シリーズが成立するということ自体、ミステリとしての評価ではなくキャラや設定自体が好まれてるってことなんだろうなあ。
【IgE】御手洗の真骨頂とでも言うか。ちょっと動機の弱い部分はあるけれど、実に見事な論理のアクロバティックだ。リアリティはさておき(笑)、本格って、こういうのだよなあ。
【SIVAD SELIM】タイトル見た時に「あ、これって……」と思ったのよね(笑)。非常にいい物語で結構好きなんだけど、石岡のバカさ加減に腹が立って、せっかくの物語の魅力が半減した気分。
【ボストン幽霊絵画事件】これも御手洗らしい本格パズル。ワンアイディアだけで成り立ってる短編が多い中、この人は短編といえども複合的な結末を見せるのが多くて、そこが読みごたえがある。
【さらば遠い輝き】これは《お好きな方》へのボーナストラックなんだろな(笑)。
(99.6.1)     

桜闇〜建築探偵桜井京介の事件簿・篠田真由美(講談社ノベルズ)

 桜井京介シリーズ初の短編集。クールな美男子、素直で可愛い少年、素朴で誠実な肉体派という主人公グループは少女マンガみたいなキャラ設定で、ファンも思い入れがしやすいシリーズなんだろうなぁ。トリック云々よりもキャラで読ませてるとも言えるか。いや、それが悪いってんじゃなくて。それくらいでなくちゃ《シリーズ》にする意味がないよね。なんかあたしも、これから蒼がどうなるかワクワクしてるし(笑)。では個別に。
【ウシュクダラのエンジェル】これ、キレイ。派手な作品じゃないけど、澄んだ雰囲気の佳作。
【井戸の中の悪魔】二重螺旋シリーズ1。建造物を図解なしで説明するのって難しいよなあ。
【塔の中の姫君】二重螺旋シリーズ2。トリック云々より登場人物の心理合戦みたいなのが面白い。
【捻れた塔の冒険】二重螺旋シリーズ4。このトリックはイマイチ状況が理解しにくかったあ。
【迷宮に死者は棲む】映画のシーンみたいで雰囲気があるけど、ちょっと必然性に欠けるか?
【永遠を巡る螺旋】二重螺旋シリーズ4。螺旋階段よりもメインの仕掛けがいい。
【オフィーリア、翔んだ】ちょっと珍しいタイプの、会話体ミステリ。
【神代宗の決断と憂鬱】この手が気に入るってことは、あたしもシリーズにハマったか(笑)。
【君の名は空の色】完璧なサイドストーリー。ミステリじゃなかった(^^;)
【桜闇】きゃぁぁぁぁ、京介ファンには堪らないだろうなこれわ(笑)。
(99.6.5)     

レッド・今野敏(文藝春秋)

 政府の外郭団体に出向させられたマル暴の刑事。まったくのお役所仕事に飽き飽きしてるところへ、東北の小さな町にある沼の環境調査の仕事が入った。おざなりな調査でいい、という。ペアを組まされた相手はなんと自衛官。でかけた二人は、その沼の秘密に巻き込まれた。背後には政府の大物や米ソ(当時)冷戦、グリーンベレーまで絡んでいるらしい……。
 複雑な話なのにテンポよく読めるってことは、作者のストーリーテリングの技術が優れてるってことなんだろなぁ。この手の話はものすごく入り組んでしまって、たいていは分厚い上に上下二段組になったりするもんだけど(笑)、そう考えるとメチャクチャ短くまとめあげてるとも言える。もっと膨らませて書き込んだら幾らでも長い話になるネタなのに、むしろこの短さに押さえるあたりが作者の矜持なのかな?
 さて、今野氏描く警察官ってのは、どの作品をとってみてもナカナカに魅力的なんだけど、
「触発」からこっち、自衛官もナカナカなものである(笑)。今回は刑事も自衛官もちょっと類型的になったキライはあるけれど、それでも充分魅力的だ。新聞記者の青臭さが鼻につくけど、バカも必要だし。アメリカ側や政府筋の脇役までしっかり書き込まれてるのがいいよね。 (99.6.5)     

漂流街・馳星周(徳間書店)

 うーん、読ませるねぇ。簡単に言ってしまえば「恵まれない日系人がだんだん悪に手を染めて、最後には破滅する」ってだけの話なのに(笑)、もう読み出したら止まらずに一気読みである。
 
「夜光虫」の感想ともダブってしまうんだけど、「不夜城」「鎮魂歌」でハナについた、無意味なカッコ付けのモノローグや、主人公が於かれた環境に甘んじる必然性のなさなどが、「夜光虫」に続いて今回も払拭されている。ハードボイルドや暗黒小説(どんなんだ?)を楽しむには、まず「そんな生活やめればいいじゃん」というツッコミをさせないのが大前提にあると思うんだけど、これは主人公マーリオが「こうしなければならなかった」というのがしっかり書き込まれてる。充分すぎるほどに感情移入できるんだよね。
 最初はデートクラブの女の子にもモテて、血縁からは手紙が来て、おなじ日系ブラジル人のアミーゴもいて、立ちんぼの女性やその娘とも親しくなって……と、どこかに救いがあるんだけど、徐々に、その一つ一つが潰されていく。徐々に高まる孤独。誰も信用できず、信用できる相手には拒まれる。お金や覚醒剤を奪うというアクションがストーリーのメインではあるけれど、描かれているのは《孤独》だ。巧い。 (99.6.5)     


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