ペルシャ猫の謎・有栖川有栖(講談社ノベルズ)
うー。ワンアイディアをスッキリした短編に纏める手腕にかけては人後に落ちない有栖川有栖なんだけども、これはいったいどうしたことだ。うーむ。
旅果ての地・坂東眞砂子(角川書店)
14世紀、東方の旅を終えてヴェネツィアに戻ってきたマルコポーロ一行の中に、宋(中国)と倭(日本)の血を引く夏桂という奴隷がいた。彼は偶然手にしたイコンによって、その運命を大きく変えられていく。
法月綸太郎の新冒険・法月綸太郎(講談社ノベルズ)
おお、パズルは崩壊してないぞ\(^o^)/。作者本人が後書きで述べてるように「コアな本格」である。脳味噌の一部だけを過剰にこねくりまわした形而上の理屈よりも、こういうコードに則った、それでちょっと軽めのキャラを動かすような、そんな物語の方がノリリンは安心して読める。
本格推理14〜密室の数学者たち・鮎川哲也(編)(光文社文庫)
一般公募作が収録されたシリーズ14弾。13編の本格ミステリが収録されている。
犯人のいない犯罪・小杉健治(光文社文庫)
親本であるハードカバー版には、「質草人情物語」という副題がついている。法廷物を中心に多彩な作品を生み出している小杉氏ではあるが、珍しいパターンと言えよう。親本が出た頃は丁度、北村薫や加納朋子らがブレイクした時期と重なるので、ついに法廷物の御大も「日常の謎」に乗り出したか?と思ったのだが(笑)。さすが、そのあたりはキッチリした「犯罪」が扱われている。
シリーズ7作目である。翻訳者の技量が試されるタイトル(笑)は、「SILENCE OF THE HAMS」──勿論、RAMSのもじりである。羊が豚になるのは、まぁ仕方ないか。他にもじりようがないもんね。3作目の「死の拙文」を上回る抱腹絶倒タイトルを期待しているのだが。
おなかすいた。なんか食べゆ。──読後感はこれにつきる。
六の宮の姫君・北村薫(創元推理文庫)
円紫と私シリーズ第4弾……なのだけど。ちょっと異質だな、これは。
バトルロワイアル・高見広春(太田出版)
まず、素晴らしい筆力だと思う。42人の中学生を描き分ける!これ、ちょっとやそっとじゃできないぞ。まぁ女子は一部十把一絡げにされてた部分もあるけど、実際そんなもんだし(笑)。その42人(実際には39人)がキッチリ違うシチュエーションで殺される。殺されるに至るシーンも充分書き込まれてて、一人一人がちゃんと生きて動いている。だからこそ、殺戮シーンもはえてくるのだ。
【切り裂きジャックを待ちながら】うー(今回は唸ってばかりだな)、動機から行動に結びつく過程が判らん。
【わらう月】この男、月のシステム間違ってるぞ(笑)。ま、ストーリーには関係ないんだけど。
【暗号を撒く男】着眼は面白いけど、もっと簡単な方法がいくらでもあるのでは。
【赤い帽子】延々と歩き回った割には、決め手となったエピソードが単純すぎる気が。
【悲劇的】火村が書き加えた18文字……そんなにセンスがあるとは思えない。
【ペルシャ猫の謎】こーゆーのが悪いとは言わないけど、それならそれで説得力が欲しい。
【猫と雨と助教授と】ボーナストラック。
(99.6.10)
物語は壮大で、設定も面白かったんだけども……どうもなにか薄皮一枚挟まったような感じがして、のめり込めなかった。前半は、まだいい。夏桂をとりまくポーロ家の人々や奴隷たち。その中で流され、結局は罪人としてポーロ家を追われることになる夏桂。そんな彼を、一枚のイコンが救う。ここまでは非常にサスペンスフルで、夏桂をとりまく人々も一癖も二癖もあって、これがどう後半に絡んでくるのか非常にワクワクしていたのである。
が。絡まないんだもの(笑)。おいおい、前半のエピソードはそれで終わりかい、ってなもんだ。いや、確かに物語は続いてはいるんだけども、主題が移ってしまってるのよね。おまけに結末を先に出すという構成のせいで、夏桂が最終的にどうなるかが判ってるもんだから、その点でも興を削ぐ。
どうしても山妣だの狗神だのの、地方土着民族歴史伝奇浪漫というイメージが強い作者のせいか、この物語は随分淡々としているように思えるのだ。夏桂自身の性格が淡々としているせいかもしれない。文学としての主題も、エンターテイメント性も、なんだかとても中途半端に感じられたのだった。
(99.6.11)
【イントロダクション】ボーナストラック。
【背信の交点】地味な話だけど、けっこう好きなんだよね。《しなの》と《あずさ》の使われ方は抜群だけど、そこに至る流れが少し無理矢理か?
【世界の神秘を解く男】いくら功を焦ったとは言え、いい年齢の大人が××××××に××××ってる絵って……(笑)
【身投げ女のブルース】イチオシ。ちょっとアンフェアな気はしたけど、実はちゃんと伏線がある。騙される快感も充分だし、ノリリンが出てこないのも思いの外スッキリしてていいぞ(笑)。
【現場から生中継】冒頭のモデルになった例の事件の時に、同様のシーンが放送されてかなりむかついたのよね。実際の事件をそれと判るように扱う話は好きじゃないんだけど、こういう使い方は許せる。倫理をもてよ>あの場にいた若者たち。
【リターン・ザ・ギフト】交換殺人がテーマ。ノリリンの蘊蓄が長すぎて、ちょっと飽きてきたところに真相が出たんで、イマイチ乗れなかったんだけど、よく練れてる。
(99.6.10)
今回、目を引いたのは林泰広作の【問う男】と、霧承豊氏の【あるピアニストの憂鬱】。13編の中でこの二つが最も印象が深く残っている。いや、正直言って、印象に残ったのはこれだけだったというべきか。他が駄作というのではない。【ドルリー・レーンからのメール】は多少アンフェアながらもなかなか楽しめたし、【我が友アンリ】も、その仕掛けに思わず笑みがこぼれる。しかしやはり、今回を代表する作品は【問う男】と、【あるピアニストの憂鬱】だろう。
【問う男】はそのロジックもさることながら、「物事をどう見るか」というミステリの基本に爽やかなヒューマニティを持ち込んだ。飄々とした語り口が、悪意をもって物を見ないことの大切さを、押しつけがましくなく説いている。ネタよりも、そのスタンスが非常にいい。
【あるピアニストの憂鬱】は類稀な描写力で、雰囲気と趣のある作品に仕上がっている。リアリティという面から見ると、警察機構などにおかしな描写はあるものの、一人の刑事とピアニストの関わり、そのピアニストの因って立つところなどが、巧緻な表現で読者の胸に滲み入る。これも、ロジックよりも物語を読ませる作品と言えるが、仕掛けも良くできている。
(99.6.17)
舞台は下町浅草に三代続く質屋。三代目の暖簾を守る藤吉と、その息子で見習いをしている跡継ぎの藤一郎、質屋史を調べている大学講師の岩崎映子、そしてその町の人々を中心に物語は進む。質屋に持ち込まれる、ちょっと謎めいた質草を元に事件が起こり、それをさりげなく映子先生が解きあかすという趣向が続く。
質屋の描写は面白いし(実際には法律で認められてない業務も出てきたが、これはご愛敬か)、謎解きも破綻がなくて、下町の風情がきっちりと描かれていて、気持ちよく読める。
非常に面白く読んでたんだけど、文庫本版272ページの「私、てっきり藤一郎さんは美登利さんのことが……」という映子のセリフのくだりを読んで一気に興ざめした。大人のクセにこういうセリフを衆目の場で口にする女って……(笑)。それも後半口を濁すあたり、現実世界でこういうシーンがあったら、それはいわゆる「計算」された行為である事は間違いない。映子先生はそういう種類の女性ではない筈なので、作者が暖かいシーンを演出しようとして書いたのだとは思うが、男性の目から見たら、この手のセリフは「計算」ではなく「純情」って風に映ってしまうんだろうか。だとしたら、あまりにチョロイぞ(笑)。
(99.6.18)
豚たちの沈黙・ジル=チャーチル著・浅羽莢子訳(創元推理文庫)
勝手に「町内会奥様探偵シリーズ」と命名してるこのシリーズ、今回は町内に新しいデリカテッセンが開店する。開店当日のオープニングフェアの最中、町内の嫌われ者である弁護士が、ハムのラックの下敷きになった状態で死んでいるのが見つかった。
この手のミステリにありがちなのは、頼まれもしないのに家事を放り出して事件に首を突っ込む探偵気取りの勘違い主人公だ。そういうの、大嫌いなのよねあたし。しかしジェーンは違う。他人が殺された事よりも、今日の夕食のおかずを、子供達がおやつに食べてしまった方が大事件。息子の高校卒業パーティのPTAの手伝いの方が大事。姑との鞘当ての方が熱心。如何に子供の目を盗んで恋人(これが刑事)と逢うかに一生懸命──つまり、「普通」なのだ。
実に生き生きしている。大仕掛けのトリックや驚天動地のロジックなどはないが、その代わりにワクワクするような「普通の生活」がある。会話も楽しく、何度かは爆笑する。涙するシーンもある。特に今回はもう、長男マイクに痺れるのである。いい息子に育ったねぇ、うんうん。もうマイクも高校卒業なのねぇ、でも州内の大学に行くらしいから、あまり離れないで済むね良かったね、と、すっかり「北の国から」のジュンと蛍と見てる気分なのだ(笑)。親友シェリイは相変わらずパワフルだ。そこに今回からは、パッツィという更に楽しい仲間が加わりそうな気配。このシリーズが主婦に人気があるのにも頷ける。つまりこれを読むと、こんな気持ちになるのだ──主婦やってるのって、楽しい!
(99.6.18)
メインディッシュ・北森鴻(集英社)
いやもう、とにかく出てくる料理出てくる料理がとことん美味しそうなのだ。実に美味しそうなのだ。それだけで作者の描写力が判ろうってもんだ。料理の美味しさを描写するのに「とても美味しい」「ほっぺたが落ちそう」なんて言葉しか出てこない小説も、確かに実在するのである。そんなもなぁ「描写」とは言わない。この本を読め。如何に多用な「美味の描写」があることか。ああもう……食いたいっ!食いたいぞ食いたいぞ。料理は手抜きを旨とする大矢が、「そんなものが食べられるなら、手間をかけるのもいいかも……」なんて気になってるんだから。すごいぞ。とりあえず、ゴールデンチャーハンを作ってみよう。うん。
思いきり話がずれてるが、劇団を主宰する舞台女優「ねこさん」が主人公。彼女と同居している正体不明の男性「ミケさん」には特技がある。一つは、料理。もう一つは──謎を解くこと。脚本家本人も気付かなかった、舞台台本に隠されたとある設定。マンションの下で死んでいた高校生とひったくり事件との関係。人気舞台を借り切って一人で見たいと劇団丸ごとを自宅に招待する老人の謎──。その一方で、直接「ねこさん・ミケさん」には関係なさそうな、別の物語が挿入されている。そして、それらが最後には……。北森鴻には珍しく、文章が煩雑で判りにくい部分もあり、うーん、どうしたのかなぁと思っていたりしたのだが──なるほど、そう来たか!
「花の下にて春死なむ」からこっち、北森鴻の「連作短編」の虜になってしまった大矢である。この人は、やはり文章が巧い。男のクセに(笑)、どうしてこうも女性の心理描写が巧いのか。ホントに男かこいつは。おなけに、下手に書くと単なるイヤなヤツになりそうな人物も、決して憎めないように描かれているのだ。それが読後感の良さにも繋がる。文章の巧い人の小説ってのは……やはり、いい、のである。
(99.6.18)
《私》は大学4年になり、卒論の準備を始めたり出版社でバイトしたりする。そのバイト先で、自分の卒論テーマでもある芥川龍之介に関するエピソードを聞いた。芥川龍之介の発した不可解なセリフの謎をとくために、《私》の活躍が始まる。
今回、円紫さんは刺身のツマ程度である。テーマがテーマだけに、《私》だけで事が足りる話だもんなあ。文学史上の謎、という、ある意味非常に魅力的な、そしてある意味非常に読者を選ぶテーマである。芥川だの菊池寛だの久米正雄だのってあたりに興味と素養がなければ……ちょっと辛い、のではないか。
そして仮に芥川文学が好きで興味があったとしても。ここで展開される論理や提示された結論はいずれも「なるほど、よく調べたね」で終わってしまうのだ。いや、実際はそれどころではなく、北村氏本人の卒論テーマであったというだけあって、立派な学説であり論文である。しかし、それを小説で出す必要があるのか。円紫と私シリーズでやる必要があるのか。そこが解せない。
ま、かく言うあたしは、とりあえずこの親本を読んだ時には、芥川と菊池の全集を引っぱり出して確認をとった口なんだけどね(笑)←しっかりはまってんじゃねーかよ>あたし。
(99.6.26)
正直言って、面白い。面白いのだけど。どうしても
マークはつけられないのである。いや、実際はお勧めなのよ。だけど──いくら面白くても、こういうのを書いちゃイケナイんじゃないか。いや、書くのはいいが、こういうのを面白がっちゃイケナイんじゃないか。そんな気がするのだ。これ、面白い!と、すっかりハマって読んでる自分が、なんだかちょっと怖かったりするのである。うーん、手放しでは褒められないよお。褒めたいのに。しくしく。
あ、最後はちょっと予想はずれ。もっと大きなエンディングが待ち受けてるかと思ったんだけど。でも、これくらいの方が余韻があっていいかも。いっそ、大々的に花火打ち上げて終わってくれたなら、何のてらいもなく面白いと言えたんだろうけど、なまじ余韻があるばっかりに……これは面白い。でも、そう大声で言うのははばかられる、そういう気持ちになるんだな。とりあえず、小さい声で言っておこう。これ、面白いぞ!
(99.6.28)
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