放浪探偵と七つの殺人・歌野晶午(講談社ノベルズ)
これまで雑誌に発表された作品群を、問題編と解答編に分割し、解答編の方を袋とじにするという趣向の本。ここまでパズルに徹してくれれば、それはそれで気持ちいい(笑)。
そして二人だけになった・森博嗣(新潮社)
新潮ミステリ倶楽部に森博嗣ねぇ……と、そこでまず考え込んでしまった。あたしの想定する《新潮ミステリ倶楽部》と《森博嗣》ってのは、どうも合わない気がして。新潮ミステリ大賞設立以来、このシリーズもちょっと毛色が変わって来た気がする。
いいっ!99年上半期ベストかも。読後感はただ一言、《ずっしり》である。内容も、2385枚二段組ハードカバー上下巻ってのも、《ずっしり》だ。
昨年のこのミス!トップテンに入った作品なのだが、出版から1年近くたってやっと読んだ。岡坂神策(字、あってるか?)ものや百舌シリーズは大好きなんだけども、スペインというだけで、海外物と諜報物という苦手なもののイメージが先行し、どうも読む気になれなかったのだ。
燻り・黒川博行(講談社)
くすぶり、と読む。
ツチヤの軽はずみ・土屋賢二(文藝春秋)
もうすっかりエッセイストとして有名になってしまったツチヤ先生である。この一言、この一文がなければキレイなのになぁと思わせる言わずもがなのギャグには食傷気味だったのだが、それでも他のエッセイ本よりは読みやすい。雑誌連載ってことで枚数も短めでキチンと収めてたのがよかったのかな。
文学なんかこわくない・高橋源一郎(朝日新聞社)
タカハシ流の文学論である。江川卓氏の隣で競馬の予想をしてるだけじゃないのだ。オウムの本や「教科書が教えない歴史」「失楽園」から、武者小路実篤、ひいては「酒鬼薔薇聖斗の犯行声明文」に至るまでを、文学の側面から分析している。おお、なるほどなぁ、そういう見方もあるかと膝を打つ。俎上に乗せられた作品の作者が読むと怒るんじゃないかって気もするが(笑)、文学に限らず、作家ってのは作品を作って金を貰っているわけだから、その対価に見合う作品を消費者に提供できたのか否かについて批評を受けるのは当然だ。(ま、酒鬼薔薇聖斗はちょと違うが。)
閑古鳥の鳴くユニバーサル広告社に舞い込んできたCI(コーポレート・アイデンティティ)の仕事。喜び勇んで出かけると、クライアントはヤクザだった──。
水曜日の子供・ピーター=ロビンスン著 幸田敦子訳(創元推理文庫)
なんとなくタイトルと裏表紙のあらすじに惹かれて手にとった翻訳モノなんだが……。うーん、謎解きでもなければ推理小説でもないよな、これは。ソーシャルワーカーをかたった男女2人組が子供を誘拐。時を同じくして管内で殺人事件が起きる。とりたてて読者に手がかりが示されるわけではなく、警察の調査を後追いで読むタイプのクライムノベル。調査によって犯人が明らかにされ、捕り物があるわけで、読者参加型のミステリではない。
名探偵の肖像・二階堂黎人(講談社ノベルズ)
《名探偵》のパスティーシュとでも言うべき作品集。しかし、元ネタをよく知らないからなぁ。パスティーシュとしてどうなのか評価のしようがない。海外作品(特にカー)を読んでないあたしが読む本じゃなかったのかも。
【ドア←→ドア】「新世紀『謎』倶楽部」や「1998ザ・ベストミステリーズ」にも収録。犯人の側から見た、古畑任三郎でやったら面白いような(笑)倒叙モノ。
【幽霊病棟】文章から映像を巧く想像できないと、ちょっと苦しい。あたしはそれができなかったから、解答を読んでもピンと来なかった。
【烏勧請】動機だの何だのは非常に巧く練れてるし、なるほどねぇ、と感心したんだけども。死因がどうも偶然すぎるというか、そんなことで死ぬかというか、納得いかん。
【有罪としての不在】「メフィスト」誌上に問題編が掲載された作品なんだけど──んなもん、判るかいっ!(笑)とにかくガキが理屈こねまわさず、早く警察を呼べよ、って感じだ。
【水難の夜】「ミステリー傑作選33 犯行現場にもう一度」にも収録。地味な作品だけど、伏線が効いて手て巧く騙してくれる。なるほど!と膝を打てるんだよね。好きな作品。
【W=mgh】ぶわっはっはっはっはっ──大爆笑\(^o^)/。絵を想像すると、かなり笑える。その状況って、コントじゃん(笑)。キライじゃない、決してキライじゃないぞ。
【阿闍梨天空死譚】ってゆーかぁ、実際にこういう状況になると結び目が解けたりどっかが破れたりして落ちそうな気も……。
(99.7.2)
さて、内容は。海上に立てられた大橋。その端の橋脚の部分がシェルターになっており、そこに6人が閉じこめられる。密閉された空間で一人ずつ殺されていくという、黄金パターンだ。
何度も使われたシチュエーションであるにも関わらず、これまでにない方法が用いられてて、けっこう感心してしまった。アンフェアな感はあるし、どこにそんな伏線があったんだよおい!という気もするが(笑)、なるほどこう来たか、って感じ。
だがしかし。そのあとがどうもなぁ。そんな方向に持ってく必要があったんだろうか。その前段階で充分じゃん。せっかく《嵐の山荘》パターンの新境地だったのに、一挙にダイナシ。ある意味、非常に《ありがち》な方向に流れちゃった。凝ればいいってもんでもないだろうに。あーあ。
(99.7.3)
永遠の仔(上下巻)・天童荒太(幻冬舎)
十七年前、児童精神科病棟で出会った三人の、昔と今の物語。ミステリーの要素も充分にある。現在の彼らのまわりで起こる殺人事件や放火、十七年前に起こった事件の謎。思いきり《意外な真相》もあったりして、メチャクチャすごいミステリーだ。
だが、この小説の真骨頂は《意外な真相》だの《ミステリー的要素》だのではない。児童虐待・老人介護・痴呆・トラウマ・アダルトチルドレン・自己犠牲の皮をかぶった自己愛といった問題が、びっしり描かれている。正直、こっちの胸が悪くなるぐらいの描写だ。こういうことが、あるのは知っている。こういう人がいるのも、知っている。でも、あたしには関係のない振りをしておきたかったのに──。やっぱり、「関係ないじゃん」で済ませるわけにはいかないのね。ふぅ。
しかし、そういう《直面したくなかった》事柄と同時に、真理を見通す目・子供同士の友情と思いやり・償い・二律背反を抱える親子愛なども浮き彫りになる。梁平の義父母が「千円二千円の土産を買うために、車を一時間走らせる」というくだりでは、目頭が熱くなった。救いは、確かに、そこにあるのだ。
ちょっと句点が多くて返って読みにくいのが気になったが、それくらいしか欠点が見つからない。ともあれ、今月《恐怖の大王》が降ってくるとしても(笑)、その前にこれを読めてよかった。
(99.7.5)
燃える地の果てに・逢坂剛(文藝春秋)
ところが。おおおお、面白えじゃねぇかっ!
30年前と現在が交互に描かれる。30年前、幻のギター職人を捜してスペイン海辺の田舎町までやってきた日本人。ところが、そこにアメリカ空軍機が衝突事故を起こし、誤って核爆弾を落としてしまう。もちろん、落としただけでは核爆発は起こらないが、傷がつけば放射能が漏れるのは必至。アメリカ軍とスペインの警備隊は総力をあげて核爆弾を捜索するが、どうしても一つ見つからない──。
そこにスパイだの何だのが絡んでくるわけだけど、海外物と諜報物は苦手な大矢なのにも関わらず、ものすごく読みやすく、ものすごく面白い。これは軍事や諜報そのものよりも、それに関わる人物たちの心の機微がメインに描かれているせいだと思う。ホセリート、トマス、ディエゴ、ジョゼフィン──みんなメチャクチャ個性的で人間的だ。
そしてストーリーは文句無しの逢坂マジック!百舌シリーズを彷彿とさせるような大どんでん返しに快哉を叫ぶ。諜報物と思って読んでたら本格推理だったってくらいの、ドラマチックな展開である。ああ、まさしく百舌の作者!ってとこか。最後の方での決定的シーンには「おおっ」と声を上げてしまった。一読の価値あり。
何より怖いのは。1966年の1月17日には、ホントにスペイン南東部アルメリア港近くでアメリカ空軍機の事故があり、2機が墜落したという事件があったことだ。勿論ここからヒントを得た物語なんだろうけど……まさか、ねぇ?(笑)
(99.7.5)
大がかりな犯罪小説が多い中で、これは《小悪党》を描いた短編小説集だ。それも単なる小悪党ではない。とことんツイてない奴等──いわゆる《クスブリ》である。《クスブリ》なだけに、どの話も「ツイてないヤツは、何やったってダメなのよ」という結果に落ちつく。犯罪を描いてはいるのだが、犯人達がマヌケで「そりゃ捕まるっちゅーねん」というものから、せっかくうまく計画したのに相手が一枚上手だったり、ただ運がなかったりで失敗するものまで。なんだか、その運のなさがオカシクなってしまうくらいなのだ。
【燻り】はヤクザのサンシタ、【腐れ縁】は釘師とフリーター、【地を払う】は便利屋、【二兎を追う】はこそ泥、【夜飛ぶ】は骨董屋、【迷い骨】は住職、【タイト・フォーカス】は夫婦、そして【忘れた鍵】は妻と愛人。どれも大きな利益を夢みて、そして計画している間は何の懸念もない。失敗するなんて思わないわけだ。ところが──。
どれも短く、サクサク読める。その上、関西が舞台なので言葉にもテンポがある。犯人たちも非情は非情なのだが、そのおマヌケぶりが憎めない。帯には《黒川ハードボイルド》と銘打たれているが、あたしには《犯罪喜劇》というふうに映った作品集なのだった。
(99.7.5)
若者に苦言を呈する内容のものもあったりして、そのあたりは真っ向から斬るのではなくツチヤ流にしてるのが返って気持ちいい。あれを真っ向勝負にしちゃうと、単なる「最近の若者」論だもんね。
個人的に好きなのは、【女の論証テクニック2】【特別な存在】【誰もわかってくれない】【どこまで勝手なのか】の4本。わはは、と笑いながら読んでるうちに、我が身を振り返ってちょっとドキっとする。この4本は一読の価値有り。
(99.7.10)
「失楽園」を扱った章と、武者小路実篤を扱った章が最高\(^o^)/(勧めてくれたW林さん、あなたの言った通りだよ(笑))特に「失楽園」の章は、最近の若手新本格の作家に是非読んで欲しいぞ(地雷踏んだか?)。タカハシさんは決して渡辺御大の文章が下手だと言っているのではなく、では何が言いたかったのかというと最後の一頁がそれだ。この部分だけでも読んでみて欲しい。
また「教科書が教えない歴史」は、本がベストセラーになった時に本屋の店先で「はじめに」だけ立ち読みして買うのをやめたんだが(笑)、あたしがその時「なんかやだな」と思ったものの正体を、タカハシさんはここで解きあかしてくれた。腑に落ちた。そういうことだ。
尚、これはその本を読んでいなくても、ちゃんと判る批評文ばかりだ。そういうのも大事だよね、批評って。
(99.7.10)
なかよし小鳩組・荻原浩(集英社)
設定としてはこれだけの、非情にシンプルな物語。だが、そこへ別れた妻が引き取った小学校2年の娘・早苗がやってきたり、ヤクザの監視がついたりして、もうメチャクチャ。この娘もヤクザもすごく個性的で、顔かたちが浮かんで来るくらい。特に娘がいいねぇ。この人、ジュブナイル書いても成功するんじゃなかろか。御都合主義的なところは多分にあるけど、それは《コメディ》という分野には許容される程度であって、決して瑕疵ではない。
なんだか浅田次郎を思い出す。いや、「鉄道員」じゃなくて「プリホ」の方ね(笑)。あざとさを抜いてシンプルに判りやすくした浅田次郎って感じなのよね。マラソンのシーンで終わるんだけど、その前後の描写が実にいいんだなぁ。スタート前、この作戦には絶対欠かせない勝也が抗争に巻き込まれ、行方不明になる。仕方なく、一人で戦う決意を固める主人公。早苗が応援する横で、妻の再婚相手から「もう娘とは会わないで欲しい」と言われる。それも、相手は自分の言ってることのひどさを自覚して、ホントに申し訳なさそうに。早苗は応援する。会社の皆も応援する。そして走り出す主人公。走り出したのは主人公だけではなく──。
実に、清々しく、そして面白い。読みながら、そして読んだあとに心が晴れやかになる。平易な文章で欠かれたシンプルな物語だが、そこにこそ、強みがあるのかもしれない。
(99.7.5)
児童虐待、っていうのは先進国の殆ど全部で問題になってるわけで、こういう物語が書かれる素地は充分なんだろうと思う。娘を誘拐された母は、決して虐待しているわけではなかったが『無関心』だった。その母が、娘が誘拐されて初めて、娘のことを色々考える。もしかしたら、この本の真骨頂はそこにあったのではないか。誘拐犯だの殺人犯だのは味付けにすぎず、娘に無関心だった母親の心理を描くことが主眼だったのではないか。そんな気がした。
(99.7.16)
【ルパンの慈善】これがミステリとしては一番キレイかな。中で言及されてる他の作品は、乱歩編集の世界短編傑作集で読んだ気がするし。
【風邪の証言】デジカメの仕様には疎いので、そういう事もできるんですか、としか言えない。
【ネクロポリスの男】何がやりたかったんだろうと首を捻った作品
【素人カースケ世紀の対決】同人誌ならまだしも商業出版でコレはオタクすぎないか?読んでて段々腹立ってきちゃった。カースケも豪徳も同類じゃん。情報や知識よりも、読んで楽しかったりワクワクしたり膝を打ったり──ミステリって、小説って、それが大事なんじゃないの?
【赤死荘の殺人】なんか昔の翻訳ミステリを読んでるような気分。あ、それでいいのか(笑)。
【地上最大のカー問答】芦辺拓氏との対談。カーは一作しか読んでないのでサッパリわからん。
【ジョン・ディクスン・カーの全作品を論じる】あたしが唯一読んでるカー作品「皇帝のかぎ煙草入れ」の評価が思いきり低かったのに笑えたぜ(笑)。
(99.7.20)
書評リストに戻る