隕石誘拐・鯨統一郎(カッパノベルズ)
宮沢賢治の作品群に隠された暗号を解きあかす──というのは、非常にあたし好みの設定で、おまけに推薦文が《愛しのひがぴょん》こと(笑)東野圭吾氏だったものだから、わくわくしながら手にとった。が。
やっぱり火村シリーズよりも学生アリスの方がいいっっ!と、握りコブシを固めて叫んでしまう。
デズデモーナの不貞・逢坂剛(文藝春秋)
「まりえの客」シリーズ。短編集「まりえの客」は正直言ってあまり面白くなかったんだけど、今回はいいぞー。シリーズとして重心が決まったとでも言うか。氏には、「水中眼鏡の女」、「クリヴィッキー症候群」、「空白の研究」などの精神感応シリーズとでも呼ぶべき作品群があるけれど、その路線を踏襲しながらもケレン味のある論理的なミステリとして仕上がってる。レギュラー陣も丹念に書き込まれてて、《まりえ》のカウンターに座って物語を見てるような雰囲気が味わえるのよね。
謎のギャラリー特別室III・北村薫(編)(マガジンハウス)
アンソロジーの三冊目。宇野千代から乙一までってんだから広いやね。
ハードカバーで上梓された時にも読んだんだけど、文庫化を機に再読。ところが、最初に読んだ時に持った印象が払拭され、思いきりハマってしまった自分にビックリした。初読の時はまだこのサイトをオープンしてなかったので、書評は残ってないのだけども、当時の読書メモから転載すると──
プラチナ・ビーズ・五條瑛(集英社)
エスピオナージュなのである。スパイ小説なのである。諜報活動なのである。──その手は、苦手なのである。
ぶわっはっはっは\(^o^)/。タイトルは最悪だが、内容は最高!
烏鷺寺異聞〜式部少納言碁盤勝負・篠田達明(徳間書店)
サブタイトルの通り、清少納言と紫式部が囲碁の勝負をする話である。まず、その発想がすごい。藤原時代の幕開けにその名を馳せた才女二人。それも、通説ではメチャクチャ仲悪い皇后定子と中宮彰子のそれぞれの花形女房が、囲碁の対決をするのだ。勝負は五回戦まで。もちろんバックには政治が絡んでるわけで、立ち会いを勤める主人公・彦士のもとには賄賂だの脅しだのが引きも切らない。周囲の策謀は対戦が進むにつれて荒っぽくなり、試合自体も実力伯仲にして盛り上がる。
主人公は童話作家を夢見る既婚男性。夢を実現するために会社を辞めたため、妻子にお金の苦労を強いている。それが原因で起こる夫婦喧嘩。おいおい、随分卑近な場所から始まったのね、という印象だ。そこで妻子が正体不明の男に誘拐されてしまう。どうやら誘拐事件を解く鍵は宮沢賢治の作品にあるらしい……。
なんだかなぁ、妙な秘密結社は出てくるし、レイプシーンは多々あるし、スパイ映画さながらの薬まで出てきて、どうも《宮沢賢治の作品に暗号が》という設定と相いれない雰囲気が強いのよね。それが小説としてキチンと融合してれば問題ないんだけど、読者が《宮沢賢治》に対して抱いている印象と、この小説の雰囲気があまりにかけ離れてて、せっかくの《宮沢賢治》が活かされてない気がする。なんかドタバタものマンガか、慌てて作った素人映画の原本を読まされた気分。もう少し、足が地についた設定にしてもよかったんじゃないかな。
前作「邪馬台国はどこですか」では、視点の揺らぎなど文章作法上の粗が多くて辟易したけれど、それを凌駕するアイディアとパワーがあった。今回、文章のミスは減ってはいるが、逆にパワーダウン(というより、パワーの方向性が散漫というべきか)したように思う。残念。
(99.7.28)
双頭の悪魔・有栖川有栖(創元推理文庫)
新本格と称される面々は、その大部分が「ストーリーよりトリック」「物語性よりパズル」という方向性が強いのだが、有栖川有栖は、その中でも「トリックであっと言わせる」ことに全力を注いでいるように見受けられる。それは、文字どおり密室だの殺人だのアリバイだののトリックだけでなく、いわゆる本格モノの《仕掛け》全般──叙述とか暗号とかダイイングメッセージとか──に、非常に力を入れているように思えるのだな。
それは、決してあたしの好みでは、ない。ないのだけれど。
探偵役の江神氏も、記述者アリスも、推理小説研究会のメンバーでありながら(!)、殺人事件に興味本位で首を突っ込んで頼まれもしないのに自己満足な推理を自慢げにまくしたてるようなキャラではない。普通の良識を持った、ココロ優しい人々。それが、《マニアが高じた》探偵との違いである。だからこそ、素人推理も読んでて全然不快じゃない。
トリックも、思わず「あっ」と言った。××殺人ってのはよくあるパターンだけど、これは気付かなかった。うーむ。学生アリス三部作の最高傑作と言われるだけある。非常に緻密で、高度な本格パズラーだ。
(99.7.29)
【闇の奧】どこか噛み合わない不自然さを感じながら、それが最後にキッチリした秩序を持つ瞬間のカタルシスがいい。ラストが思わせぶり。
【奈落の底】逆転の妙。読者の思いこみを逆手にとった作品。
【雷雨の夜】銃を撃つタイミングの問題にはすぐ気付いたけど、二転三転する人間模様とまりえママのキャラに引き込まれる。最後は、なるほど。
【デズデモーナの不貞】村園が、佐登子の症状に気付いた箇所で膝を打った。しかし、こういう症例がホントにあるのか。怖いなぁ。
【まりえの影】まりえママがぐっと人間らしくなった一編。個人的には、あまり人間くささを出して欲しくないキャラではあるんだけど。それにしても喜多村って、情けない男だよなあ。
(99.7.31)
【大人の絵本】宇野千代:ファンタスティックな中にも、そこはかとなく流れる不気味さがいい。挿し絵が、当時宇野千代と一緒に暮らしていた東郷青児だってのも、なんか想いがあるようで、いい。カラーで見たいなぁ。
【夏と花火と私の死体】乙一:イチオシ!面白い!これを書いた時、作者は高校生だったって?末恐ろしいなぁ。アンファン・テリブルの粋って感じで、非常に雰囲気もある。何よりいいのは視点だ。この視点は訊いてるよなあ。これが読めただけでも、この本を手にした価値あり、だ。底本は平成8年の出版だっていうから、最近の人だね。捜してみよう。
【定期巡視】ジェイムス・B・ヘンドリクス:ごめんなさい、翻訳文調に耐えられずに途中で断念しました(;_;)
【猫じゃ猫じゃ】古銭信二:前半が冗漫。後半、俄然面白くなって、最後には《おおっ》と声を出してしまっただけに、前半の冗漫さが惜しまれる。いっそ、ショートショートにした方が冴えるアイディアのように思えるんだけど。
【これが人生だ】シャーリー・ジャクスン:こじゃれた(笑)物語。海外モノのジュブナイルには多そうな、大人の世界を垣間みるちょっとした冒険談。こういう作品が日本には似合わないってのは、どうしてかなあ。
(99.7.31)
パワーオフ・井上夢人(集英社文庫)
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なんか困ってしまうのだな>感想。この作品、なんだかテーマがぼけてるような気がするのはあたしだけなんだろうか?ものすごく卑近な犯罪と、コンピュータの世界を舞台にしたサスペンスと、哲学めいたSFと、ううむ、チト読み終わったばかりのあたしにはどう捉えていいかわからんのである。いや困った。誰かが「後半失速してる」という評価をしてたけれどもそれに賛成なのだな。今のところ。んでも、失速じゃなくて、なんか方向が変わったというふうなそんな気がするのである。どだ?
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この時は確かにそう思ったのである。えーっと、3年前か。ところが今回読むとどうだ。失速なんかしちゃいない。自分の言葉を借りるなら「卑近な犯罪」と「コンピュータの世界を舞台にしたサスペンス」と「哲学めいたSF」が、ちゃんと融合して着地してるじゃないか。
かなり緻密に構成されてるのが判る。そして、あたし自身が、ネットの世界への理解と自分なりの考えを3年分深めたために、以前よりも楽しめるようになったのかもしれない。
コンピュータを扱った読み物は、その性質上、時間がたてばどうしてもアウトオブデイトにならざるを得ない運命にある。その時には大問題だったものが、あっさり解決されちゃったりも、する。しかし、この本のテーマは、そんなコンピュータの世界にあって珍しい《普遍性》を持っているのではないだろうか。
(99.7.31)
ところが。ぐいぐい引っ張られてしまったのだな。アナリストの葉山、その上司のエディ、同僚の野口、仕事仲間のJD、USネイビーの坂下、そういった登場人物たちが生き生きと動き回る。個人的には葉山の養父の田所さんが好きさっ。まぁ、登場人物全員にケレンが在りすぎの感は否めないけれど、エンターティメントだし、馴染みのない世界だし、これくらい劇画ちっくな方が素人としては、入りやすい。それにさすが、北朝鮮関連の記述は素晴らしい。フィクションだとは言え、思わず北朝鮮に関する認識を改めた部分もあるほどだ(笑)。
プロローグでほのめかされたことが、第3部の最後になってベールを脱ぐ。ああ、やっぱり!そうよね、やっぱりそうこなくちゃ。期待通りの展開に、わくわくしながら第4部へ。
──おいおい、何なのよこれは。せっかくここまで、かなり引き込まれて読んでたのにぃ(;_;)。ここからはネタバレだから未読の人は読まないで欲しいんだけど、どうして下っ端アナリストの葉山が、ヘラクレス号に正規乗船するわけ?《会社》が、プラチナビーズの一件を見逃すなら、どうして2人にああいう行動をとらせたわけ?ヘラクレス号の乗務員は全員グルで、どうせ舟は沈めて乗員全員死んだことにするのに、どうしてとっとと2人を始末しないわけ?何かあたし、読み落としてる?
なんだかなぁ、ここまでノメリ込んで読んでた分、第4部のドンパチでいきなり醒めちゃったい。前半はすごくよかったのに。やっぱ、相性の問題なのかな>スパイ小説。
(99.8.7)
最悪・奥田英朗(講談社)
どんどん転げ落ちていくジェットコースターノベル。もう、これでもかこれでもかと言わんばかりに不幸が連続して襲って来るわけだ。鉄工所の親父は不良品を納品しちゃって賠償被って、おまけに向かいのマンションからは騒音の苦情が出て、その上無謀な設備投資を迫られる。パチンコ専門のチンピラはトルエンを盗んだはいいが、使った車がヤクザのもので、そこからヤクザに追われるハメになる。女子銀行員は家庭がギクシャクしてるところに上司から強姦まがいのセクハラを受ける。この三者三様の不幸が、どんどんどんどん加速し、雪だるま状態になっていくのだ。そして、何も接点はないように思われた三人の邂逅──。
実際は、邂逅シーンまではかなり冗漫になっても仕方ない構成である。ところが、そうはならない。三人の状況を細かに説明し、どんどん袋小路に入っていく様子が微に入り細を穿って語られる。まったく飽きさせないのだ。「もう終わりだ、こうなっちゃったら泣き寝入りするかキレるかしかない」というところまで来て、出会う3人。それも思いがけない状況で出会うことになる。
読み出したらとまらない。この底なしの不幸を、ここまでカラッと明るく読ませるパワーは何だ。不幸なのに、切実なのに、どこかおかしみがある。しょーがねーなー、と笑ってしまうような何かがある。これを思いきりシリアスに暗く描けば、桐野夏生の「OUT」みたいな感じになるんだろうけど、作者はそうしなかった。それは多分この物語が、不幸と真っ向勝負するよりも「なんだかなぁ、もぉ最悪ぅ」と苦笑いしながら逃げを打つ、そういう卑近で弱い多くの人々へ贈るオマージュに他ならないからではないだろうか。
(99.8.9)
いやぁ、下手な感想書くよりも、このまま粗筋だけ紹介してる方がいいような気がしてきた。二人の囲碁の場面なんか、まさに圧巻。あたしは囲碁は全然解さないんだけど、それでもワクワクできるのだ。囲碁を知らないのに試合の行方に興奮できるなんて、これはもう筆者の技である。そして五番勝負に決着がついた後に浮かび上がった驚きの真相──この仕掛けには「ああっ」と声を出してしまった。なるほど。すごい。
立ち回りシーンてのは、もっと効率よく彦士を倒す方法がいくらでもありそうだし、碁の勝負の邪魔をするのももっと賢い方法がありそうなもので、そのあたりはチト御都合主義かな、という気がしないでもない。それと、この時代のバックグラウンド──定子は皇后という名ばかりの地位に押しやられ、藤原道長が自分の娘・彰子を主上の中宮に据え、なんとか皇子を産ませて次期天皇の外祖父になろうとしていた時代──をある程度知っていて、当時の文化──命婦や女房の立場、祈祷の持つ威力が信じられていたことなど──の知識もゼロじゃない、って言うのが、この物語を楽しむ前提条件になると思う。あたしはたまたまこないだ「桃尻語訳 枕草子」を読んでたから、ものすごくよく判って楽しめたけど、その前だったらどこまで理解できたか不安だもんね。
というわけで、平安時代モノが好きな人には文句無しに
だ!
(99.8.14)
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