バースデイ・鈴木光司(角川ホラー文庫)
うわぁ、もう文庫になったのか。早くないか? まぁいいんだけど。
転生・貫井徳郎(幻冬舎)
心臓移植を受けた主人公は、手術前の自分との違いに気付く。絵が巧くなっていたり、まったく知らなかった筈のクラシック音楽に詳しくなっていたり。これは心臓の移植と何か関係があるのか?
プリズム・貫井徳郎(実業之日本社)
何を言ってもネタバレになるから何も言えないんだけど、こういう仕掛けモノは好き。4章から成り立ってて、ドミノ倒し的に一つの事件が別の視点から語られる。「ものの見方は一つじゃないのよ」ってことだ。
星降り山荘の殺人・倉知淳(講談社文庫)
これは限定でお勧めマークをつけよう。初読1回に限り
もう、何を書いてもどこを切っても栗本薫である。シリウスを書こうか薫クンを書こうが伊集院大介を書こうがグインサーガを書こうが、いや、グインサーガは読んでないんだった、とにもかくにも、この人が書けば何だって栗本薫なのである。他の人がそれをすると、ワンパターンだの何だのと言われるところなのに、栗本薫だからこそ通用するのだ。
MISSING・本多孝好(双葉社)
2000年版このミスの10位に入った作品である。大仕掛けの本格ミステリではなく、どれも静かな物語。でもその静かな雰囲気がいいんだなぁ。こういう地味な作品集が「このミス」に入ってくるってのは、けっこう嬉しいかもしんない。では個別に。
気の長い密室・司城志朗(ハルキ文庫)
文庫書き下ろしの短編集。掌編集と言ってもいい。「世にも奇妙な物語」の原作として使えそうなものばかり、書きも書いたり15編。内容は個別に感想を書くとして、あたしゃ何よりこの著者のタイトルのセンスが好きだなぁ。実に巧いと思わん?
盤上の敵・北村薫(講談社)
何位だったかは忘れたが、これもこのミストップテンに入った作品なんだよな。でも、読み終わっての第一印象は──これ、そんなに面白いかぁ? だった。北村薫に求めてるのはこういうのじゃないのよ、ってのも勿論あるんだけど、それを差し引いて、物語だけに焦点を絞っても、評判ほどには感じられなかったのだ。
当たり前のことではあるけど、「リング」「らせん」「ループ」のどれか一つでも未読の人は、これを読まない方がいいです。ネタバレ以前に、何の話だか分からないと思うから。これは3部作を読んでる人限定の本。
3部作の番外編なわけだけど──正直なところ、、「リング」はメチャクチャ面白くてメチャクチャ怖くて、それが「らせん」で「おや?失速?」と感じて、「ループ」に至っては「なんでやねん!」となってしまった経緯が個人的にあるもので(笑)──「リング」だけで充分すぎるほどだと思うんだけどなぁ──あまり期待しないで読んだ。ら、それが良かったのかもしれない。3部作を繋ぐ妙な仕掛けなんかを抜きにして、これまでになかった視点で一つのエピソードを描いてくれてるからかな。無論予備知識は必要なんだけど、夾雑物なしに裏話的に楽しめてしまった。
収録作は【空に浮かぶ棺】【レモンハート】【ハッピーバースデイ】の3作。【空に浮かぶ棺】が一番裏話的で面白かったな。けどまぁそれだけで──ハードカバーの帯に描いてあった「本編よりも怖かったり、サスペンス溢れるエピソード」だとは思わなかった。恐怖やサスペンスよりも、「誕生」というキーワードで括った方がいいような短編集なんだもん。一番怖くて一番サスペンスフルなのは、やっぱ「リング」だよ。うん。
(99.12.18)
東野圭吾の「変身」や五十嵐均の「2010年の殺人」を思い起こさせる題材である。この2編はいずれも脳移植だったから《人格の転移》というストーリーもすんなり受け入れられたんだけど、今回は心臓。ちょっと辛いかなぁという気がした。人体の神秘はまだまだ解明されてないとはいえ、脳と比べると一段階、即物的になるのは仕方ないもんね。だから、最後に説明されるとは言え、それまでは主人公が置かれてる状態にも懐疑的な(現実的な)目で読んでしまった。
そういう読み方をしてると、この主人公、ちょっとムカツクのである(笑)。だってさー、「夢に見た、会ったこともない女性」に本気で恋をして、自分の勘を無条件に信じて、客観的な反対意見は「そんな筈ない」とばかりに聞き入れようとしない──あんまり友だちになりたくないタイプだと思わん? ストーリーは魅力的なんだけど、主人公に反感を持ってしまったために面白味が半減しちゃったかもしれない。無条件に自分の感覚を盲信しちゃうよりは、現実的な見地と自分の体感とのズレに対する戸惑い、恐れ、不安みたいなものがもっとメインに欲しかった。個人的な好みだけど。
ストーリーは前半ワクワクさせられた割に真相があっけないけど、物語の体裁を考えるとワザとなんだろうな。寧ろ、主人公が現状とどう折り合いをつけていくのかって点が中心。ミステリとしてではなくヒューマンドラマとしては、なかなかに良質なのではないだろうか。
(99.12.18)
1章は小学生が語り手。「ミツコ先生は子供の視線に立ってくれるから好き」って、おいおい、それは当の子供がする発想じゃないだろう。そういう「大人の視点から見た子供」的な箇所が目について、児童文学好きな大矢としてはちょっとひっかかったかな。2章以降はさすがの筆力で、同じことの繰り返しをやってるんだけども飽きさせない。これは結構大変なことかもしれないぞ。
第1章で、たぶん手だれたミステリ読みなら「証拠があるわけじゃないけど、こういう書き方をしてる時は怪しいぞ」という部分があって、第3&4章でその通りに話が進んでいった時には苦笑。まさかそのまんまじゃねぇだろうな、と思ってたら、そのまんまじゃなかったので安心したけど。そう来るか。なるほど。ただ、最後に(或いは全体に)もう一押し仕掛けが欲しかった気もする。
ところでこれって、分かる人には分かるようになってるのかな? 東野圭吾の某作品群みたいに、ちゃんと分かるように伏線が張られてるのかな? 《一人称主人公の言うことをを信じる》という大前提に立ってみると、最後まで読んだ時点で袋小路に入っちゃうんだけど。まぁそこは、個々で考えて下さいってことなのかな。
(99.12.18)
だ。
何故かは読んで貰えると分かる。ストーリーやキャラクターやテーマや文学性などを持たせない本格推理の場合、再読がきかないということが往々にしてある。これは、その最たるものだ。大ワザが通用するのは一回きり。でも、その一回の驚きは大きい。
都筑道夫の「七十五羽の烏」に触発されたというこの作品、読んでみると頷ける。ただ、かなり倉知流だ。出てくるのはどれも一癖ありそうな人物ばかりなんだけど、まぁ《駒》なので、さほど書き込まれているわけではない。ただ《役割》を演じているだけである。設定もかなり本格テイストなんだけど、細かいトリックは正直「よく判らんぞ」だったりする(笑)。穴もある。でも、そういう些細なこと(些細か?)はさておき、この仕掛けには脱帽である。ええ、たとえ《それだけ》であっても、脱帽ですともッ!
フェアプレイ、かくあれかし。読者が《騙される快感》を求めている限り、この物語はある種のミステリの嚆矢として、例に挙げられ続けるだろう。
(99.12.19)
六道ヶ辻〜墨染の桜・栗本薫(角川書店)
老女・笑子の回想である。昭和初期、18才だったころの笑子は、親戚の乙音や蘭子と親しかった。乙音はキレイで華奢な19才の男の子。19才の男をつかまえて、なぁにが《男の子》だ、という気もするのだが、そういう話なのである。そして乙音は恋をしている。勿論、相手は──男だ。
ああ、またこれかよぉ! というのが第一印象。殺人事件も謎解きもあって、それはそれでしっかりしてるんだけども、キャラの方に飲まれてしまって、そんなものはどうでもいいとすら思える。結局栗本氏ってのはストーリーテラーなのだ。それも一流の。
この物語の白眉は、謎解きでもホモでもない。思い上がった若者が、世界は自分のためにあるのではないということを思い知らされ、打ちのめされる過程にある。こんなところに感動するのは、栗本節を楽しむ上では邪道かもしれないが、あたしには、そこが一番強烈だったのだ。笑子を通して物語を読む読者は、いつの間にか笑子の目線になっている。そこにあるどんでん返し。謎解きのどんでん返しではない。青春の、人生のどんでん返しだ。
若い時にこのどんでん返しを体験できた者は幸せである。自分が笑子であることに気付かず大人になった人間の、なんと多いことよ。
(99.12.20)
【眠りの海】結末はすぐに割れるし、雰囲気は地味だし、少年の扱いも一押し足りないし──欠点はやたら目につくんだけど、主人公と女子高生がたまらなくいいんだよなぁ。
【祈灯】死んでしまった妹のふりをしている姉。その秘密はありきたりだったけど、出てくる人物が皆、この上なくいい。人間を描くのが実に巧い人だ。
【蝉の証】老人の切なさが胸に迫る。ラストシーンでタイトルの意味が分かるわけだ。
【瑠璃】異例ではあるが、こんなところにお勧めマークをつけてしまう。これ、実にいい。奔放で変わり者のルコと、彼女を気に懸けている従弟の物語。小学生の頃に始まってエピソードを一つずつ紹介しながら大人になっていく。ミステリではない。むしろ恋愛小説的である。この手のヒロインは、どちらかというとあたしの嫌いなタイプだったのに、このルコは魅力的だ。それ以上に魅力的なのは《僕》である。結婚式当日に姉が言う「あんたが3時間も風呂場にいた……」のくだりは、胸を揺さぶられた。寝たいのに、寝ないというのも、ただキレイなだけじゃない何かを、でもとてつもなくキレイな何かを思わせる。そしてラストシーンの見事なこと! あたしの、今年のベスト短編賞である。これを読むだけでも、この本を手に取る価値がある。
【彼の棲む場所】「狂気」を「誰も覚えていないクラスメート」にダブらせる手法が巧い。この著者は小説推理出身ということだが、ミステリなんかやめて純文学に行った方が大成しそうだぞ。
(99.12.21)
【自分に向いた職業】最後の1行でゾクリとさせる。設定も秀逸。
【その場限りの天使】ファンタジー。こういう落とし方は他にもあるけど、好きなのかな?
【逃げだした顔】やや教訓的。周囲の人が受け入れちゃうのがスゴイ。
【悪夢が覚めない】一番ドキドキさせられたかも。ただ落とし方はちょい不満。
【見えない誰がそこにいて】これ大好き!題は「誰か」の方が語呂がいいのでは。
【海の味がした理由】よくある話を延ばしただけって感じもする。
【歩きたがらない靴】かなりスラップスティック(笑)。やだなこんな靴。
【この世の果てから来た女】ホラーっぽい割にはありきたりの気がする。
【戻ってきたシャガール】個人的にはイチオシかな。オチもキレイでファンタジック。
【真夏に雪が舞い落ちて】これ、映像にするとSFミステリドラマとして面白そう。
【クロワッサンをひとかけら】このオチには唸らされた。なるほどねぇ。
【痩せていく女】グロいけど、これもイヤに教訓的である。
【トラックを待ちながら】うーーー、なんか切ない。終わり方としてはベストだな。
【ひとは暗い森林だから】裏切りが心地いい。タイトルは全編の中でベスト!
【気の長い密室】単なる横紙破りの密室トリックだが、気が長いってとこがミソ。
(99.12.23)
帯には「極上の北村魔術」と書かれているけど、これが本格だとするなら、真相が分かった時のカタルシスがない。主人公の行動に関しての伏線は多々あったけど、真相(真の狙い)の伏線って、何かあった? メインとなる仕掛けは、それはそれで驚くんだけども、「なんか随分いきなりじゃない?」という気がするのだ。それともあたしが伏線を読み落としてるだけなんだろうか。主人公の「いやに冷静だなぁ」という感じが心理的な伏線だったということなんだろうか。
何より納得いかないのは、三季の存在である。こういう人は、確かにいる。確かにいるんだけども、それにしても物語の中で使うには、「何だったんだ?」という観が否めない。主人公、そして主人公の妻という二人の目線でしか語られないので、三季の気持ちが分からないのだ。徹底した悪役として描かれてるが、ショッカーじゃあるまいに、「この人は悪役です」と名札をつけられても困るのである。そういう人物にこそ《裏付け》を持たせるのが、北村薫ではないのか。
どうも消化不良だ。あたしが読んだのは何だったんだろう。単に読解力がないだけなのか?
(99.12.23)
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