私家版・この推理小説がすごい!98年度版

思い起こせば1年前、この企画を始めた時にあたしは書きました。

「冒険小説・クライムノベル・ハードボイルド……そういったものを一切排除
純粋且つ狭義の推理小説が好きなあなたに贈る、もうひとつの「このミス」です」

ところが今年はどうした本格?!
「推理小説以外」の傑作が多く、「このスイ」と名付けられない事態に!

あたしの嗜好が変わったのか、それとも埋もれた傑作を発見できないだけだったのか。
推理小説のみでベスト10を構成するには、惜しい作品が多すぎる。
しかし、ジャンルへの拘りを捨てて選べば、悲しいまでに推理小説が少なすぎる……。

そこで選んだ苦肉の策。
「ノンジャンル」と「推理小説」一挙並べてご紹介だぁ!
対象作品は宝島社の「このミステリーがすごい!」に準じます。

 ノン・ジャンル    推理小説  
1位脱出 GETAWAY西村健講談社 麻耶雄嵩幻冬舎
2位逃亡帚木蓬生新潮社狐罠北森鴻講談社
3位グリーンマイル1〜6S・キング新潮文庫未明の悪夢谺健二東京創元社
4位女たちのジハード篠田節子集英社ガラスの麒麟加納朋子東京創元社
5位鉄道員(ぽっぽや)浅田次郎集英社枯れ蔵永井するみ新潮社
6位ひまわりの祝祭藤原伊織講談社風が吹いたら桶屋がもうかる井上夢人集英社
7位麻耶雄嵩幻冬舎 絡新婦の理京極夏彦講談社
8位狐罠北森鴻講談社 原罪の庭篠田真由美講談社
9位会津斬鉄風森雅裕集英社 少女達がいた街柴田よしき角川書店
10位OUT桐野夏生講談社 螺旋(スパイラル)山田正紀幻冬舎
次点プリズンホテル春
神無き月十番目の夜
浅田次郎
飯嶋和一
徳間書店 仔羊たちの聖夜西澤保彦角川書店

作品名をクリックすれば、その作品の書評に飛べます。

簡単な講評

 ノンジャンルと推理小説にだぶってトップ10入りしているのは、2作しかないという寂しさです。ううう(;_;)。本格ファンとしては非常に忸怩たるものがある。ノンジャンルには入らなかった未明の悪夢ガラスの麒麟は、それ単体として非常に質の高いミステリだと思います。思いますがしかし、ノンジャンルにランクインした作品たちを凌げるかというと、うーむ。神無き月十番目の夜ひまわりの祝祭なんかは、少なくとも「本格物」ではない。むしろ時代物・冒険物だよね。そうなると、「狭義のミステリー、本格」という定義に叶う作品は、非常に少ない、ということになる。
 これは悲しいことです。あたしの嗜好が変わったんだったら、まだいい。でも、もしもそうじゃなかったら。「このミス」でも、最近は本格物よりも圧倒的に冒険小説やハードボイルドの方が点を稼いでる。どうした本格!なにをやってる新本格!おばちゃんは悲しいぞ!

なぜ本格が冴えなかったのか

 本格ファンとしては、ゆゆしき事態と言わせて頂く。そりゃ、流行廃りはあるさ。「綾辻以後」と言われた「新本格ブーム」は、そう続きはしない。館だって密室だって、続けば飽きる。でも、ブームは去っても、その内何人かの実力者たちは、コンスタントに佳作を出し続けてくれるものと期待していた。その期待は、無理な注文だったのだろうか?
 振り返ってみる。

 第一に、シリーズ物の低値安定がある。本格のシリーズ物は今年もたくさん出た。森博嗣の犀川シリーズ、太田忠司の霞田志郎シリーズ&俊介クンシリーズ、西澤保彦のすっとんきょーSFミステリシリーズ。それら全てが、ミステリとしては一定レベルをクリアしている出来だ。いわゆる「駄作」はない。だが、寂しいかな「突出するもの」も無かった。いつもの顔ぶれ、相変わらずの推理の冴え、そういったものに支えられて、安心して読めるという位置に据えられてしまうのだ。なんか水戸黄門的とでも言おうか。それ単体は決して悪くはないのに、インパクトに欠けてしまったのではないか。前年以前に出ている「シリーズの代表作」を超えられるものが出ないかぎり、ランクインするのは難しいのかもしれない。

 第二に、本格旗手の寡作または本格離れも無視できない。本格を書く作家は続々と出てきてはいるけれど、やはりファンが出版を待ち望んでいる旗手と言えば、(私見ではあるが)まず東京創元社デビューのいわゆる「88年組」の面々。それからやはり講談社ノベルズ組と言ったところか。やや乱暴なくくりではあるけど、ま、私見ということでひとつ。つまりは、(敬称略)綾辻・有栖川・法月・宮部・北村・二階堂・貫井・倉知・麻耶・山口・若竹……といったあたりの事。漏れてるひとがいたらごめんね。で、彼らの出版数が、今年は少ない!出してても、ホラー・ファンタジー・時代物などに流れ、本格が実に少ないのよ(;_;)。アリスは短編集がひとつと朱色の研究、貫井も謎解きっぽいのは天使の屍くらいだし。御大島田に至っては、過去の本の改稿版なんか出してるし。ううう、これでは「本格が冴えな」くなるのは仕方ない……(;_;)。

 第三に、新世代ミステリの方向性もあるかも(笑)。ま、一部ですけど。言わなくても判るとは思うが。最近のメタ・ミステリの台頭はちょっと淋しい。好きなひとは好きなんだろうけどね。6トンにしろ、清涼院にしろ、「あれ読んだ?」という話題にはなっても、今年の代表作として残す類のものではないってとこか。個人的には清涼院流水はミステリ界の篠原ともえだと思ってるんですけどね。最初はくだらなくて煩わしくてバカにしてたけど、だんだん妙な快感になってくるあたりが……(笑)。話題になりファンもいて市民権を得てきたんだけど、さすがに紅白歌合戦には出せまい、ってところなのだ。

 超個人的には、今年は東野圭吾が1冊も出してないってのが最大の問題だったりする大矢だ。

てなわけで、本格の来年は

 本格、それも新本格というと、揶揄混じりの「マニア」という単語をイメージしてしまうのは、あたしだけだろうか。エヴァンゲリオンの登場人物のフィギュアを作るのにも似た気持ちで、シリーズものの探偵にハマる読者もいるらしい。ま、好き好きだからいいんだけどね(笑)。そこまで行かなくても、本来の物語の楽しみより、ややもすると方法論の方に重きを於く傾向があることは否めない。部屋があればとりあえず密室にしてみる、顔が無ければとりあえず替え玉を疑ってみる……トリックのためのトリック。そういう批判は、本格ファンであるあたし自身も、強く是首するものだったりする。(だからこそ、今年のようなノンジャンル・ベストなんぞが出来たりするのだよ(;_;)。)

 あたしは冒険物・社会派・純文学も好きだし、クライムノベルや歴史物も読む。一応、「本格だけの視野狭窄」ではないつもりなんだけどもね。(こら、そこ、笑わないよーに(-_-;))それでも「本格が好きなんだあ!」と言ってしまう開き直りはどこから来るのか。これはもう、「快感を追求」という一言に尽きる。不可能興味の謎、伏線、ミスディレクション、それらが最後におさまるべき所にピタっとおさまった時の快感!これが醍醐味なのよ、うん。前提だと思っていたものが底から覆されて、当初の前提よりも遥かに秩序だった絵が現れる、そんな快感。もちろん、それだけなら小説ではなくクイズにすればいい。その快感が、物語という手法をとられてこそ輝くもの。それがあたしの、本格推理の定義なのだ。冒険物やクライムノベル、純文学は、感動やドキドキを与えてくれる。その感動やドキドキに代わるものが、本格では快感なのだ。だからこそ、至上の快感を与えてくれる作品を、あたしは求めてしまうのである。残念ながら、今年はそれが少なかった。ステキな物語のミステリーは多々あったけれど、「快感」が薄かった。「快感」を与えてくれるのは、ドンパチでの終末やサイコなエンディングやメタな収拾ではなく、やはり論理的な謎解きと理に落ちた大団円で〆る本格なのである。

 しかし、憂えるばかりが能じゃない。北森鴻と麻耶雄嵩は今年ブレイクしたと言ってもいいくらいだ。ミステリー界の姫君・宮部みゆきは来年度繰り越しになる心とろかすようなを上梓。若竹七海も小説すばるで初心に戻ったような連載をしていたが、それもそろそろ発売になる。小説すばると言えば、加納朋子の曜日シリーズだって来年の内には本になるんじゃないか?北村薫の円紫シリーズも春に出るそうだ。東京創元社からってところが「ホントに出るのか?」と少々不安になるが(笑)、そこは信じたい。「88年組」は頑張ってる。京極の「塗仏の宴」だってあるし。うふふ。期待期待。

 言わずもがなの事ですが、ここに書いてるのは勿論私見。100%個人的な考えです。100人の読者がいれば100通りの考えがあるわけだし、当然、賛成反対意見もあるでせう。ぜひ、あなたの意見をメールでお聞かせ下さいな。


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