書きたいことがあったのだが、ふっとんだ。布団がふっとんだ、というダジャレがあるが、布団がふっとぶくらいタイシタことはない。真夜中にコーラがふっとぶのに比べれば。
深夜0時半。お風呂上がりに《塗るだけで痩せる、ひきしめジェル》を塗ったあと(こら、そこ、笑わないように)、冷蔵庫から冷たいコーラを取り出した。500mlのペットボトルである。痩せたいならジェルなんかよりコーラをやめろ、というご意見はさておき。鼻歌でイルカの「雨の物語」などを歌いながら(なぜ「雨の物語」かという話をしたくてたまらないのだけれど、きっとものすごく長くなっちゃうんだ<薫クン口調)、コーラを持ってリビングに戻ってきた。
椅子に座りながら、ぷしゅ、と栓を開ける。
掌に、ジェルのぬめりが残っていた。
コーラが手からすり抜け、空中で一回転して、カーペットの上に落ちた。
泡をまき散らしながら、カーペットの上を転がった。
あたしは真っ白になって、それを眺めていた。
ボトルが止まって、どくどくと流れ出るコーラ。
われに返った。
思わず悲鳴も複数形。
ボトルを取り上げたが、底にわずかに残っているだけ。480mlはすでにカーペットに吸われているぞ。ああ、ベージュのカーペットの上に、1メートル四方に渡って太い「へ」の字が描かれたと思いねえ。おまけに炭酸の威力なのか、妙に遠くまで飛び散っている。
過去の経験からいって、こういう場合、こすってはいけない。タオルやティッシュで叩くようにするのだ。乾いてからではシミは抜けないので、水たまり状態になっている重傷部分より、周囲の飛びチリを先に対処することに。でも、重傷部分にも何か水を吸うものを被せておかなくては。1メートル四方の範囲を覆える、水を吸うモノ──。
おりしも、あたしは風呂上がり。
ここまで考えるのに要した時間、コンマ5秒。
あとになって思えば、風呂場から洗濯前のバスタオルを持ってくればよかったのだ。でも、この時はそんな考え、浮かばなかった。最も手近にある、最も大きい、最も水分を吸うモノ。それはバスローブ。あたしの白いタオル地のバスローブ。みるみるうちに茶色くなるバスローブ。小学校の時に国語のテストで「みるみるうちに」という言葉を使って文を作れ、という問題が出て、「ヤクルトおばさんが、ミルミルうちに持ってくる」と書いて怒られたことを思い出す。
重傷部分はバスローブに任せ、飛沫をティッシュで叩きとる。おお、幸い、すぐに吸ってくれて跡も残ってないぞ。よかったよかった。あ、こっちにも。トントントン。あ、こっちにも。トントントン。四つん這いになって、部屋中を這い回り、トントントン。真夜中なので、あくまでもソフトに優しくトントントン。ただし、バスローブを脱ぎ捨てているので、素っ裸。かなり異様な風景である。
あまりといえばあまりな格好なので、とりあえずパジャマを着て、重傷部分の対処にとりかかる。茶色いまだら模様になったバスローブ(泣)を風呂場に放り込み、あらためてカーペットを見ると──ひええええ、茶色いよおお。地のベージュと相俟って、ほとんど黒。1メートル四方の「へ」は、ティッシュ片手にトントントンではどうにもならない段階である。
過去、同じように色つき液体をこぼしたときに試してみて有効だったのが、同じ場所に改めて水をこぼすという作戦だ。逆効果のように思えるが、色染みを防ぐにはこれが一番である。それにしても量が多いし、範囲も広いが──まあ、いいか。他に手もない。ってことで、水を汲んできて、およそ300mlの水をカーペットの上にこぼす。ああ、濡れた箇所はベージュの色が濃くなるのだけれど、コーラを吸った部分だけが不気味にどす黒く浮かびあがるよ(泣)。いっそ、何か暗号が浮かび上がるとか、死体の形に浮かび上がるとかしてくれれば、マニア心を満たしてくれるというのに。
びしょびしょのカーペットの上に、改めてティッシュを敷き詰める。上から押さえるように叩く。あっという間にティッシュに水分が移るので、更にティッシュを重ねる。押さえる。染みる。重ねる。押さえる。染みる。どうせティッシュを山のように使うのなら、他のモノを押さえたいよう。しくしく。
20分で、ティッシュを1箱半使う。
ゴミ箱には薄茶色したティッシュがてんこもり。
どんなに我慢の効かない男子中学生でも、これほどは使えまい。
最後にもう一度ティッシュを敷き詰め、上に乗ってみる。足の形にほんのり水気が浮く。その状態で、今は放ってます。あとは自然乾燥させるしかないのよね……。これほど大量のコーラをこぼしたのって初めてだからなあ。やっぱり染みになるかなあ。今はまだ、少々水気が残ってる分、こぼした跡が(薄くなったとはいえ)しっかり分かるんだけど……。
こういう時って、伊東家に訊いたりすると何かアイディアが出そうだよね。確か、タオルと掃除機を使って云々っていう裏技を前に聞いた気がするが、マンション住まいで真夜中に掃除機を使う度胸はあたしにはありません。
明日になって、カーペットは乾いたのにシミが残っていたらどうしよう。誰か、《カーペットの乾いた染み》の取り方、知りませんか。それもデカいやつ。絨毯ならクリーニングに出しちゃうとこだけど、取り外しできないカーペットなのよおお。ああ、裏技ムネーモシュネーたちの知恵を求む。お願いしますう。その前に、明日はバスローブの漂白しなくちゃ(泣)。
さて、一夜明けて。
おお、心強いムネーモシュネー達からのメールが続々と! ありがとうございますありがとうございます。おかげさまで、今日現在、《そう思って見るとシミがあるような気がする》というレベルまで回復しましたあ。まだちょっとシンナリしてるんだけど、完全に乾けばもうちょっと目立たなくなるでしょう。ああ、よかった。
戴いたメールで一番多かったのは、「アンモニア水で叩く」という方法。でも、リビングでアンモニア。ご飯食べるところでアンモニア。ごろごろ寝転がってくつろぐところでアンモニア。しくしく。試すにはちょっと勇気がいるぜ。
それから「硼酸水で拭く」という方法も。でも、「硼酸水」ってのが何なのかわからず、断念。硼酸水それ自体を知らないのみならず、字の読み方すらわからない。学校の理科室にありそうな雰囲気ではあるけれど。
「薄めた中性洗剤や漂白剤を布に染み込ませ、叩く」という案が一番現実的かもしれないなあ。とりあえず、目立たないところまでは復帰したので、様子を見てみます。もう1日経ってるから無理かもしれないし。こういうのってどれも「すぐにやること」だものね。
とまれ、ホントにホントにありがとうございました。
それにしても、何が面白いって、メールをくれたムネーモシュネーたちの大部分が《自分の経験》を書いて下さっていることだ。これを読むと、コーラをこぼしたなんてオコチャマのレベルである。他の皆さんの経験に比べれば、拭かなくったっていいくらいだ。<いや、それは。コーヒーだとかビールだとか牛乳(うわあ)だとか墨汁だとか、皆さんいろいろなものをこぼされているようだが、例えばこんなの。
私もこの前、マニキュアをホットカーペットにぶちまけました。(中略)ひたすらリムバーで親の
仇のようにたたきまくりました。一本使い切るほどたたいたのですが、やっぱり残ってしまいました。
しばらく部屋はシンナー臭いままでした(1歳児がいるのに!)。指にぬったマニキュアも全部
取れるし、ひたすら「10分前の自分、ばかっ!」と反省したシミとりでした。
(I村A子さん)
うわははは。何に笑ったって、「10分前の自分、ばかっ!」である。わかるわかる。あたしも昨夜、トントンしながらずっと同じことを思ってました。
しかし、これ以上にスゴいのは、この方↓。
できたてのキムチ鍋を土鍋ごとカーペットにぶちまけたことがあります。煮え立った状態で、
すぐには手を出せず、上から氷水をぶちまけて、まず具材を拾いました。タオルとティッシュで汁を
吸い取ったあとは、中性洗剤と漂白剤で、一家総出で泣きながら叩きました。色も匂いも残りました。
後日、意外な場所からひからびた白菜の切れ端が出てきたのには笑いましたが。
(A山M穂さん)
いや、笑ってる場合ではなかろう! キムチ鍋って。それも出来たて。熱いやつ。ぐつぐついってる状態。そんなもんがカーペットに……ぞわわわわ。夕食をカーペットに食われ、家族全員でカーペットを叩く夜。ああ、コーラで良かった。ホントにコーラでよかった。ビバ、コーラ!
しかし最もすごいものをこぼしたのは、文句無しにM島M梨子さんである。
ちょ、ちょっと待てっ! 大量にって!
オキシドールをまきました。で、しゅわしゅわーっとなってるところを、やはりティッシュで
トントントンと素早く力強く叩くをくり返して、殆ど目立たなくなりました。シュワシュワっと
言ってるうちに叩くのがポイントでした。(このシュワシュワで汚れが浮いてくるので)
な、何を落ち着いて、そんな解説をしてるんだにM島さん! なんかすごく冷静だし。おまけに、シュワシュワとかトントントンとか、擬音満載で妙に可愛いぞ。いったい何があったのだ。カーペットに残された大量の血液。おまけに血液を《殆ど目立たなく》なるまで丹念に叩きとるという、冷徹な証拠隠滅。いや、偽装工作か。どきどき。
なお、このM島さんは、今回の大矢家の《「へ」の字型のコーラの染み》について、メールの最後にこんなアドバイスをしてくれた。
似たような感覚で他にもコーラを「へ」の字にまいて模様にするとか。
嘘です。本当に大変なときに下らない事かいてすみません。
ああ、つくづくなまもの読者って……。
でも、あたしはそんなムネーモシュネーたちが大好きです。ビバ、ムネーモシュネー! ビバ、マニキュア! ビバ、キムチ鍋! そしてブラボー、大量の血液!