先週末あたりから、右膝の裏側に腫れ物ができてる。
1年前に「ホクロができかけてるのかしら」と思った場所だ。それが痛みを増すと同時に腫れもひどくなってきたので、意を決して病院に。今度はビキニラインじゃないので男医者でもいいや、と近所の皮膚科を訪ねた。何か虫に刺されたんだろうとばかり思っていたら……なんと、皮膚の腫瘍の一種だと! ガ〜ン。
腫瘍、なんて言われたら、すわ癌か?! と思ってしまうじゃないか。驚愕に目を見開いたあたしに、先生は慌てて、そんなたいしたモンじゃないことを力説。腫瘍は腫瘍だけども、そんな怖いもんじゃないそうで。ほっ。
で、この腫れ物の名前を教えて下さったんだけど、
「これはフンリュウという腫瘍でね。」
「は? 糞尿?」
「フンリュウです、フンリュウ!!」
粉瘤という字を書くという。そのフンリュウの卵が前から右膝の裏にあったらしい。卵のままなら痛みも害もないので放っておいていいんだけど、ひとたび雑菌が入ると一気に化膿して腫れるのだとか。今がその状態なワケやね。で、とりあえず化膿止めを貰い、
「金曜まで様子を見て、腫れが引かないようなら切開しましょう。」
!!!
うっうっ。未だ、メスを入れたことのない体だと言うのに。今週末は大阪で友人の結婚式、来週始めはゴルフで初のコースデビューなのにい。なんてタイミングが悪いの。
あ。なんか、デジャヴ。 それも1年前の同じ日だよ!
病院で薬を塗って貰い(『皮膚の下だから、塗薬は気休めですけど』と宣った医者、その言い方は身も蓋もないと思うぞ)、ガーゼがずれないようにネット包帯を被せられた。ネット包帯をまかれた自分の脚を見るにつけ、どこかで同じようなモノを見たと思っていたら、夕方になって思い出したよ。先日買ったボンレスハムだ。……ふん、いいんだいいいんだい。
フンリュウなるものを人に説明する手前、広辞苑で調べたところ、
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ふんりゅう【粉瘤】毛嚢または皮脂腺の貯留嚢胞。 皮下に生じ、嚢胞の内容は脂肪、角化表皮より成る粥状物質で、 時に炎症を伴い自潰することがある。粥腫。 |
解説文の方が難しいじゃないかっ>広辞苑>こんな説明で素人が分かるかボケ。
そして運命の金曜日。
痛みも腫れも全然引かないので覚悟はしていたが、医者はあたしの足のフンリュウを一目見るなり
「あ、ダメだね。すぐ切りましょう。」
ぞぞぞ。んでも仕方ない。麻酔にアレルギーがないかどうかを腕で試したあと、いよいよ診療ベッドの上にうつ伏せに横たわる。
「麻酔するから、痛みはないですよね?」
「確かに切開の痛みはぜんぜん無いけどねー」
「けど?」
「麻酔なしで切る方がマシなくらい、この麻酔注射が痛いよ」
なんじゃそりゃっ!と、あらがう暇もなく、右膝の裏側に注射された。いいいいいいい、痛いっっっっ! あまりの痛みに、右足の指が開き、すべて違う方向に伸びきるほどだ。
「はい、もう一回」
あうううう、2回打つなんて聞いてないっつーのっ! うわああああっ、痛いっっっ!……ぜぇぜぇ。
しかし、その後はホントに痛みを感じない。痛覚だけ麻痺させるそうで、触覚は残ってるもんだから触ってるのは分かるんだけどね。「もう切りましたからね。今から膿を出しますよ。」という先生の声はするんだが、まったく痛くない。だいいち、うつ伏せに寝ころんでるワケだから、右膝の裏なんか何やってても全然見えないワケだ。
と、その時、突然先生の声が。
「……うわあっ!」
(ど、どーしたんだ先生!)←心の声
「うわあ、これは……すごいなあ……(看護婦さんに)もう1枚持ってきて。……うわあ」
……これは、怖い。ナンにも言わないんだもの>先生。ただ何かに驚いてるだけで。何なんだよお、教えてくれよお。
心配になったので上半身を捻って、なんとか傷口を見ようとしたのだがハッキリ見えない。先生は細長く切ったガーゼをピンセットで傷口に入れているようだ。
「これで膿と血を吸わせますからね。明日交換に来てね」
それはいいんだけど、細長いガーゼがどんどん傷口の中に入っていってるんですけど……。どんだけ入れるんじゃい。上から別のガーゼを被せられ、ネット包帯を巻かれ、今日の治療は終わり。先生の「うわあ」という声と、際限なく自分の体に埋め込まれていったガーゼを不安に思いながらも、右足を引きずりながら帰路についたのでありました。マンションの階段登るのに10分くらいかかっちまったよ。
翌日。切開したフンリュウのガーゼ交換で病院へ。うつぶせに寝そべり、頭だけ捻って傷口を見る。げえ。パックリと開いた傷口がグロだわ。だいぶ膿も出ましたねぇ、と言いつつガーゼを取る先生。細長いガーゼが延々と足から出てくる様子は、なんつーか、まるでマジシャンが口から万国旗を出してる状態よ。どんだけ仕込んでたんだ>ガーゼ。ガーゼの先っぽには花とか鳩がついて出てきても不思議じゃないぞ。頭の中では、マジックのテーマ曲「チャララリララ〜」というのが回る回る。また同じだけガーゼを詰められて、「はい、また明日。」
そして一週間後。
せっかく順調に治りかけてたフンリュウを引っ掻いて傷口を広げてしまった大矢、びくびくしながら病院に行って診療ベッドに横たわる。先生はちらりと見るなり、
「あっ! 引っ掻いたねっ?! せっかくふさがりかけてたのに、どーして触るのっ!」
触ろうと思って触ったんじゃないやい、しくしく。
「ホントにもう……。大きめのガーゼで保護しとくからねっ。これ絶対触っちゃダメだよっ。
今度触ったら知らないよっ! バイ菌が入ったら、また同じようになるんだからねっ!」
この歳になって、他人様から叱られるなんぞ久しくなかったので、なんか新鮮だ。それも【先生】という立場の人から叱られるってのは、なんともこう……。普通なら「申し訳ありません」「すみません」とかって言い方をするんだけど、なんだかつい「ごめんなさぁい」と言ってしまうよ。あたしゃ何歳だ。
久しぶりに叱られたという事実に、なんだか甘酸っぱいような懐かしさを感じつつ、待合い室で精算を待つ。すると、あたしの後に呼ばれて診察室に入った親子連れ。子供は男の子で幼稚園児のようだ。どうやら母親が付き添いらしい。しばらくして、診察室から聞こえてきた先生の声……
「また触ったね? 触っちゃダメだって言ったでしょ? 言うこときかないと先生知らないよっ!」
……この時のあたしの気持ちって、なんて言うかその……。多分、あたしを叱ってた先生の声も待合い室に聞こえてたんだろうなあ。でもって、あたしと今の幼稚園児が同じ事で同じように叱られてるってのを、この待合い室にいる人はみんな知ってるんだなあ。ああああ、恥ずかしい(;_;)。恥ずかしいぞおおお。
間もなく、その親子連れが診察室から出てきた時。幼稚園児とあたしの目が合った。こらクソガキっ、その友だちを見るような目であたしを見るのは止めろおっ!! てめぇみたいなガキと一緒にするな、あたしは幼稚園なんか四半世紀以上前に卒園したオトナなんだよ! 大阪万博もアポロ月面着陸もリアルタイムで知ってるオトナなんだよっ! あんたはまだ知らない色んな事を、好むと好まざるとに関わらず体で知ってるオトナなんだよっ! あんたの仲間なんかじゃないっ! 平成生まれのあんたなんかと、一緒にするなあああああ!
……虚しい。二度と傷口には触るもんか。ええ、ええ、触りませんともッ! 少なくともあのガキには、絶対に勝ってみせるわ!
しかし、この膝裏の切開が、3ヶ月後に別の悲劇を招くのだった。(「覚醒編」へ続く)