抜粋なまもの日記

1998年8月「粉瘤な日々 覚醒編」の巻


 あなたが落としたのは、金の斧ですか銀の斧ですか?と問われたら、間違いなく両方!とあたしは答えるだろう。あたしはそういう人間だ。と、今日まで思っていた。しかし、今日、あたしってば正直者じゃん、と自覚するに至ったのである。

 郵便局で保険に入る手続きをしたのだ。先日から色々と郵便局の兄ちゃんと相談して、やっと詳細が決定した。毎月毎月保険料を払うよりも、一気に規定年齢までの26年分全納した方が、なんと総額で70万円安くなることが判り、迷ったあげくに貯金を崩して全納することにしたのである。ン百万円だぞ。清水の舞台どころか、ランドマークタワーから飛び降りたような決心だ。

 保険に入ってる人は判ると思うが、手続きの際には健康診断が必要である。ここが簡易保険の簡易なところで、健康に関するアンケートに答えればそれでオッケーというお手軽さだ。大きな病気などしたことのない大矢、軽快に答えてゆく。と、途中でペンが止まった。

 【過去3年間、上記以外のケガや病気で7日以上の通院をしたことがありますか?】

 上記ってのは、心臓病だの何だのの個別の病気が明記されてて、それ以外にってことだ。そこでふと考えた。「粉瘤な日々 膝の裏編」に書いた、粉瘤を思い出したのである。

 切開して膿を出し、2週間以上通院した。これは、【上記以外の病気やケガ】ではないだろうか。しかし、わざわざ申告するほどのたいした病気ではない。オデキの膿を出しただけなのだ。かといって、【7日以上の通院】に該当するのは間違いないし……逡巡したあげく、あたしは信頼してる郵便局の兄ちゃんに正直に話し、相談したのである。通院って言ってもガーゼ交換だけだしオデキを切っただけだし、こんなの書かなくてもいいよね?
 ところが兄ちゃんの言うことにゃ。

   「正直、そのくらいは無視して書かない人も多いけれど、もし万が一また同じような
    オデキが出来て、そのオデキが悪化したり切開の際に細菌が入ったりして、大きな
    手術をするようなハメになった場合。保険の支払いの際の調査で、同じオデキを
    前にも治療してるのがバレたら、契約違反ということで保険が無効になる上に、
    前納したン百万円の掛け金は一銭も戻ってこないんですよ

 これは、怖い。メチャクチャ怖い。
 なぁに、粉瘤なんて簡単なオデキだし、そうそう出来るもんでもないし、という意見もあるだろう。だがしかし。今のあたしには、この脅しは効果てきめんなのである。なんとなれば。

出来てるのだ。粉瘤が。今、まさに。

 昔からの読者の方は覚えてらっしゃるかもしれないが、昨年の5月26日あたりからしばらく、【股ぐらにできたオデキ】の話をした(「粉瘤な日々 出会い編」参照)。これが、また出来たのだ。股ぐらに。もちろん、出来た時点では、それがあの膝の裏のオデキと同じものだとは、まったく気付いてなかったのだが。

 仕方ないので今日の午前中に昨年診て貰ったM宮クリニックの女医さん・T中先生(場所が場所なので、先日フンリュウを切ってもらった男性医師の所には行きにくい)に診て貰った。そこでの会話。

 「先生、実は先々月、膝の裏にオデキが出来て、粉瘤だって言われたんですけど」
 「あら、これも粉瘤よ(あっさり)」
 「えええ、そ、そうだったんですか!」
 「身体の中に粉瘤の卵が埋まってるのね。まあ、膿の卵なんだけど」
 「膿の卵! 体内に、膿の卵が!」
 「その卵に何かの刺戟で雑菌が入ると、炎症を起こして化膿して腫れちゃうのね」
 「いやだ、そんな膿の卵を持ってる体質なんて……」
 「そうねえ、でも、こう何度も再発するようだとねえ……」
 「え?」
 「デリケートな場所だけども、炎症が治まったら切りましょうか」
 「うう……。膝の裏を切ったとき、麻酔注射がすごく痛かったんですよう」
 「ああ、あれは痛いわね。今度は鼠径部だからもっと痛いわよ

 と言われたばかりなのだ。そんな時に、「もしも同じオデキが出来て、それが悪化したら、ン百万円は帰って来ない」なんつー話を聞いて、それでもあなたは嘘がつけるか?

 あたしは、つけなかったのだ>嘘。その郵便局の上司によれば、経験から言ってこの類の申告は保険審査でハネられることが多いという。ダメかもしれない。でも、その場合はン百万は返って来る。保険には入れないが、損はしない。が、もしも嘘をついてそれがバレたら、保険も出ないしン百万円もパーである。ここで正直になるのって、正しいよね? ね? なんか周囲の人はみんな、そんなの正直に書くことないだの、みんな小さな通院歴なんか隠してるんだだのと言うけど、あたし間違ってないよね? ね?
 もしダメでも、これから3年間何もなければ、また保険には入れるんだし。3年間は死んだり病気したりしないように気を付けよう。<もうダメなつもりだし(;_;)。

 後日、予想通り一旦はハネられたものの、簡易保険の制度の関係で半年ほど間をおいて再申請したら、無事、保険には入れましたあ。でも怖いので、ン百万の一括納入はやめて、毎月こつこつ保険金を払ってます。

 あ、それと。「炎症が治まったら切りましょうか」と言われた股ぐらの粉瘤ですが、炎症が治まれば敢えて病院に行く気にもならず、ほったらかしのまま。いまだに股ぐらに膿の卵があるのさ。

 そして、こと、ここに至って。
 粉瘤というのは、決してマイナーな皮膚病ではないということが、偶然判明する。
 これから更に半年後の、1999年2月のある日のことだ。

 新井素子「もとちゃんの痛い話」というエッセイ集を読んだ。
 この本、新井氏がアテロームという皮膚病を患い、通院、入院、手術などを体験した様子を面白オカシク(いや、ご本人はタイヘンだったろうけど)描いたもの。他人事なので、けけけと笑いながら読んでいたのである。著者が左の乳房に違和感を覚え、痛みを覚え、気付くと腫れていて、ある日突然破裂して膿みが出てくる。通院、治療、再発、通院、治療、再発、そして入院、手術、予後。たいへんだあ。アテロームってけっこう面倒で、放っとくとたいへんな病気なんだなぁ。たいへんだけど、けけけ、でも面白え。わっはっは。
 だが。その本の中、正確には挿し絵の部分に、あたしはトンデモナイ一文を見たのである。

《アテロームって、邦名『粉瘤』というので……(後略)》

ふ・ふ・ふ・ふ・粉瘤、だあ?

 そ、それってあーた、まさにあたしが患ったオデキの名前じゃねーかよおっっ! 股ぐらに二度、右膝の裏側に一度できた、あの粉瘤である。そういや右膝裏のを切開した時には、たしかに新井氏と同じような治療をしたぞ。局部麻酔したし、切開した穴の中にガーゼ詰め込んだし。
 この「もとちゃんの痛い話」(←本の感想にリンク)の挿し絵を描いてる、さべあのま氏も粉瘤持ちだそうで、彼女の友達も粉瘤持ちで、その友達なんかあたしと同じ股ぐらにできて、痛みでパンツも履けずに最後にゃ破裂したそうで……ひええ。こうしてみると潜在的粉瘤持ちは結構多いのかもしれない。が、大丈夫なのかあたし。今はなりを潜めてるけど、この股ぐら……(;_;)。しくしく。

 そしてその懸念が見事的中するのは、更に2年半後の2001年のことになる。(「粉瘤な日々 股ぐら編」に続く)


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