ガスファンヒーターの調子がどうもおかしい。ダンナに訴えると「ちゃんと掃除してる?」と問い返された。フィルタは時々はずして洗ってるよ、と言うと「そんなんじゃなくて、たまには中を掃除しないと」などと恐ろしい事を言う。「何言ってんの、去年も俺がバラして掃除したじゃん」──そ、そう言われてみればそんな気も。
ダンナが工具キットを持って来て、ヒーターをばらしにかかる。まずドライバーで何カ所かのネジを回すと、あら不思議、ボディのカバーが本体からパカッとはずれたではないか。
「不思議でも何でもないだろ。ネジで止めてるんだから、ネジをとればはずれるんだよ」
ああそうですか。お、良く見るとカバーは完全にはずれたワケじゃなくて、何本もの配線で繋がったままである。げっ、中に茶色い埃がビッシリだあ。そうか、これを掃除するのね。でもワケの分からない赤や緑や黄色のコードで本体とカバーが繋がってるから、掃除もしにくそう……。
「コードもはずせばいいんじゃん」
ど、どうして電気系統とかに強い人はそういう怖いことを平気で言うのだ。電気だぞ。おまけにガスだぞ。赤か緑か黄色か、はずすコードを間違えたら爆発したりするんじゃないのか。
あたしどうも、いまだに電化製品ってのが信用できないのだ。これもガスファンヒーターと言いながらも実は、中にトンガリ帽子を被った小人さんたちがたくさん入っていて、中で頑張って火をおこしたり、足踏みでファンを回したりしてるんじゃないかという気がするのである。その小人さんたちの世界は、努々人間が手出ししていいものではない。彼らには彼らの掟があって、人間がちゃんと分を弁えなければ、罪のない働き者の小人さんたちまで一緒に爆発させてしまうような、その、なんというか……
「ごちゃごちゃ言ってないで、ほら、そっち持って」
ああああ、ホントにコードも全部はずしちゃったよこの人は。カバーはすでにバラバラである。そんな部品を持って洗面所に向かうダンナ。あたしは化学雑巾で本体の汚れを拭う。げえ、真っ黒。突如侵入してきた化学雑巾に、小人さんたちは中で逃げまどっていることだろう。ごめんねごめんね。うっ、中に小人さんならぬコンピュータの基盤のようなものが見える。ふるふる、間違えてこんなもんに触ってしまったら、その時点で爆発しそうだ。くわばらくわばら。
そうこうしてるうちに、ピカピカになった部品をかかえてダンナが戻ってきた。さあ、あとは元通りに組み立てるだけだ。どうやら小人さんたちの機嫌も損ねずに済みそうだ。呑気に「♪迷子の迷子の子猫ちゃん〜」などと鼻歌を歌いながら、バラバラのパーツを組み上げていくダンナ。
「この髪の毛みたいに細い線は何?」
「それは空気清浄機用の電流が通るとこ。♪あなたのオウチはどこですか〜」
「で、電流なんか通るとこを触って大丈夫なの?!」
「本体と離れてるんだから、今はカンケーないでしょうが。♪おうち〜を聞いてもワカラナイ〜」
「はあ……ここまでバラして、よく元の形が作れるねえ……」
「そんなの当たり前だろ。♪名前〜を聞いてもワカラナイ〜」
「すごいなあ、あたしだったらバラした時点で終わりだよきっと」
「…………♪犬の〜…………♪おまわ……り……さん……」
「……どしたの?」
「い、いや、あれ? ここ、どうやってハマってたんだ? あれ?」
「ちょちょちょちょちょっと、もしやこのまま暖房無しで過ごせと?」
「あ、あれ? こんなところ分解した覚えは……あれ?」
「ちょちょちょちょちょ」
「あ、ああ! 分かった! こうか! うんうん、大丈夫大丈夫、これでオッケー」
「オッケーなの? オッケーなのね?」
「うん、ほら、これで……あっ!」
「あっ!」
コードが切れた……
「どどどどどーすんのよおおおおおお!」
「あ〜あ。やっぱテンションかけすぎたんだなあ」
「どどどどどどど」
「大丈夫だって、パーツだけ買ってくればいいんだから」
「だだだだだだだ」
「空気清浄機の部分が使えないだけで、ファンヒーター自体には問題ないから」
「だってそれ、電流が通る線だってさっき言ったじゃない!」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、電流が流れなくなって、どこぞに電流が溜まって、そのうち火を吹いたりとか」
「しないって。空気清浄機が動かなくなるだけだよ」
「でも、その電流が、小人さんが、どっか〜んって、どっか〜んて……えぐっえぐっ」
錯乱し泣きわめくあたしを後目に、ダンナはサクサクとヒーターを組み立ててしまい、何の迷いもなくスイッチを入れた。いやああああ、爆発するうううううう!
……とりあえず、無事のようです。ちゃんと暖かいです。ダンナの言う通り、空気清浄機ランプだけは灯らないけど、それ以外は全て前の通り動いてます。う〜ん、電気だの機械だの配線だのなんて、あたしにはまったくワカラナイのだが、ダンナがホームセンターで代替用のコードを買って来るまで、頑張ってね小人さん。