9月28日。朝9時半に、名古屋駅の新幹線コンコースに集まる怪しいグループ。をかべまさゆきさん、かおかお、ケダちゃん、黒田、そしてあたし。今日は「大矢にかしずく従順にして愉快な仲間達・名古屋満員御礼ツアー」なのだ。
ごめんなさい嘘をつきました。ちょっと主役になってみたかったの。罪のない嘘じゃないか。
ホントは「ケダちゃん、名古屋によう来やーたね・名古屋おのぼりさんツアー・フルスロットル」なのである。長すぎるから、以下ケダなごツアーと略す。
ケダちゃんが名古屋に来るというので、上記メンバーでお出迎えして一緒に遊ぼうという計画を立てていたのである。3週間前から待ち合わせ時刻と待ち合わせ場所を決め、それを5日前にいきなり変更したかと思うと、当日の0時を回ってからコースの相談を始めるという万全の体勢での迎撃だ。これほどまでに念入りに準備された迎撃があろうか。いやない。パトリオットミサイルも真っ青な迎撃である。爽やかなくらい真っ青。パトリオットだけに、スカッド爽やか。<不謹慎ギャグ。<おまけに古い。
まず目指したのは、伏見の御園座である。この御園座の南西角に、白波五人男のからくり時計があるので、それを見に行くのだ。白波五人男、知ってます? 「知らざあ言って聞かせやしょう 浜の真砂と五右衛門が歌に残せし盗人の……弁天小僧菊之助たぁ俺がことだぁ!」っていうカッコイイ口上は聞いたことあるでしょ。(ただ、五人男の弁天小僧の口上は「さてその次は江の島の岩本院の児あがり……」の方だったと思う)
「問われて名乗るもおこがましいが……」の日本駄右衛門。
「後を隠せし判官の御名前騙りの」忠信利平。
「今日ぞ命の明け方に消ゆる間近き星月夜、その名も」赤星十三郎。
そして「どんじりに控えしは……」の南郷力丸に、弁天小僧を加えた5人の名乗り口上。
これを、七代目松本幸四郎とか、六代目尾上梅幸とかの名だたる名優が声をあてたからくり時計なのだ。
これを見たい、というニッポン古典芸能好きのケダちゃん。さすがである。それに引き替え、案内する側の名古屋メンバー4人、誰1人そんなからくり時計の存在さえ知らず。うわはは。いいのか、こんなんで。でもそんなからくりならあたしも見てみたい。
からくりは10時。集まったのは9時半。荷物をコインロッカーに入れると、さあ、バスに乗りましょう。ケダちゃんに名古屋市内を見せてあげるツアーなのに、真っ先に窓側に腰を下ろす黒田。まるで主旨を理解していない。
バスはナナちゃんの前を通り過ぎ、納屋橋を渡り(中日優勝の99年には、この納屋橋から堀川に飛び降りたバカがいた)、広小路伏見で降りるのさ。御園座はちょうと演し物が入れ替わる時期で、幟の類が何もないのが淋しい。角を曲がって、「あ、あれがからくり時計だ!」「わあ、意外と大きい!」「良かった、間にあったね」「楽しみぃ(わくわく)」「……あれ? 何か張られてるよ?」
思わずその場にくずおれる5人。
「初手から躓いた……」「縁起悪!」と呟くメンバーに、救いの神をかべさんが閃く。
「伏見駅に、歌舞伎のからくり人形がありましたよ! もし10時にやるなら、まだ間に合います!」
迷う暇もあらばこそ、小走りで伏見駅への階段を下りるメンバー。また伏見駅構内ってのが中途半端に広くて。あ、あれだ! 歌舞伎のからくり口上人形。毎正時に歌舞伎の口上を聞かせてくれると書いてある。毎正時。よかった、10時にもやるんだ。今何時?
10時02分
終わってるし。 思わずその場にくずおれる5人。タイミング、悪! 時間がないことはわかっているのに、歩きながら
「白波五人男って、弁天小僧菊之助しか覚えられないと思わない?」
「そうそう、『問われて名乗るもおこがましいが』も『さてどんじりに控えしは』も、全部、弁天小僧菊之助になっちゃう」
「えっと、日本ナントカっていなかったっけ……日本太郎?」
「日本太郎? あ、いたいた……いや、なんか微妙に違う」
というクダラナイ会話をしていたせいなのか。そうなのか。ちなみに日本太郎じゃなくて日本駄右衛門である。
なんか初手から裏目裏目に出るケダなごツアー。ホントなら、御園座でからくりを見たあとは、名古屋能楽堂までタクシーを使うはずだった。道は一本なのだがバス路線からはずれており、地下鉄の路線もカーブしているために、地下鉄を使うと駅から遠いのだ。なので、タクシーを奮発しよういう予定だったのである。
が、からくり口上人形を見るために伏見駅に入ってしまったのだから(見られなかったけどさ)、一駅だけどこのまま地下鉄で行きましょうということに。げ。駅から結構歩くのでは。まあいいか。どうせ、すでに「予定」なんて目も当てられぬほど崩れてしまっているわけだし。
鶴舞線に乗る。「これは名鉄と相互乗り入れしてるから、地下鉄のくせにパンタグラフがついてるんだよ」などと、ここのVOL.90で読んだプチ鉄ネタを、まるで自分の知識のように披露。
ということで、次に向かったのは名古屋能楽堂である。ここも古典芸能好きなケダちゃんのリクエストだ。さすがである。それに引き替え、案内する側の名古屋メンバー4人、誰1人能楽堂に入った経験無し。うわはは。いいのか、こんなんで。まあいいか。あたしも最近、ちょっとお能には興味があるのだ。
門を入ったところに、武将の大きな銅像があった。背中側から近づいていく位置にあったため、誰の銅像かわからない。
「名古屋城構内だし……家康かな?」
「いや、加藤清正じゃない?」
「あ、そうだよ、あの尖った兜の形は加藤清正だ!」
果たして正面に回ってみると、やはり加藤清正であったことよ。なるほどな、こんなところに銅像があったとは。名古屋城だしな。じゃあケダちゃん、銅像前で写真を撮りましょう。などと皆で納得しているところに、黒田が爆弾発言。
「加藤清正って誰?」
思わずその場にくずおれる4人。
「し、知らないのか?」
「名前くらい聞いたことあるでしょうが」
「ほら、虎退治の話とか、有名でしょう」
「秀吉の朝鮮出兵とかさあ」
「賎ヶ岳七本槍の1人で」
「秀吉の懐刀だったんだけどさ、関ヶ原では家康について」
「そもそも、家康に命じられて名古屋城を作ったのが加藤清正だし」
皆の決死の説明に対し、黒田の返答は明瞭にして簡潔。
「だって、加藤清正って普通の名前じゃん?」
……ご、ごめん。あたしにはキミの思考基準がわからない。
能楽堂はなかなかにシャレた建物でした。展示室では女面や鬼女面をつけて写真をとったり。能舞台では、和泉流の練習発表会みたいなものが行われていて、自由に出入りできるようだったので、皆で萩大名という狂言を鑑賞。そうか、能舞台だからお能だとばかり思っていたけど、狂言もやるのね。おまけに舞台に立っている3人のうち2人は女性だよ。へえ。
狂言は言葉も分かりやすく、つまりは「コント」だ。落語みたいな様式美がある。素直に面白かった。能楽堂を出てから、ケダちゃんが皆に、「萩大名」のストーリーを解説してくれたり、女性が舞台にいた理由について「和泉流はナントカカントカで(忘れた)女が舞台にあがるやつもあるんです」などと説明してくれたり。勉強になるなあ。って、ホストがゲストに教えられてどうする。このケダなごツアー、いったい誰が誰を案内しているのだろう。
因みに、能楽堂のロビーにも橋弁慶のからくり時計があったのだけれど、これの上演時刻は10時・13時・16時。能楽堂到着は10時20分、狂言を見終わったのは11時過ぎで、タイミングまったく合わず。どうも裏目に入るケダなごツアー、いったいこれからどうなるのか!
名古屋能楽堂から、そのまま名古屋城へ入る。地元の人間はこういう機会でもないとなかなか来ないもので、あたしも数年ぶりだ。
まずは、観光地にありがちの、お殿さまのお姫さまの顔をくりぬいた立て看板(穴から顔を出して写真を撮るやつね)で記念撮影。これぞおのぼりさん。お土産屋兼休憩所正門横売店で一息入れる。ここの休憩所にはなんと八丁味噌ラーメンというメニューがあったぞ。何にでも味噌を入れておけばとりあえず何とかなると安易に考えてないか名古屋。
お土産のラインナップも名古屋コーチンカレーだの、三英傑キティだの、名古屋限定カール名古屋コーチン手羽先唐揚げ味だの……。担当者を呼び出し、両肩を掴んでゆさぶりながら「気をしっかり持て!」と叱りつけたい衝動に駆られる。
一息ついたら、いよいよ天守閣へ登りましょう。しかし今日は、NHK-BSの「おーい日本! 今日はとことん愛知県」(←番組のサイトにリンクしようと思ったら、うちの環境じゃみられなかったからリンクしてやんない。ぷんぷん。丁寧な言葉で「ここは最新のFLASHプラグインがねぇと見られねぇんだよ、テメエの古ぼけたブラウザで見ようなんざチャンチャラおかしいやい、新しいのをダウンロードしてからオトトイ来やがれ」っていう意味のことを言われたの)の生放送日なので、テレビ関係者と出演者とギャラリーと一般観光客が相俟って、えらいヒトデだ。って海岸かよ。えらい人出だ。
「じゃあ、こっちの庭の中を通って、裏から行きましょう」とをかべさんが提案。露草の咲く(なぜ今頃?)小道を皆で歩くよ。木陰は涼しく、目の前には天守閣。順路からはハズれるが、こういうのっていいねえ。お、この木は百日紅だね? 百日紅といえば横溝さ。などとミステリ者っぽいことを考えていたとき、ふと、目の端に何かがとまる。
「あ、武者行列だ!」
おお、武者行列だよ武者行列だよ。まさに我々が敢えて避けたルートを通っているよ! うわあ、順路通りに行っていれば、あの武者行列ともろに遭遇していたのである。きゃあ。からくりだけではなく、こんなところでも行動が裏目に出るのか。やることなすこと、片っ端から裏目なのか今日は。
気を取り直して、天守閣下に到着。あ、NHKのロケをやっている。なんか、ご馳走が並んでて、お殿さまとかお姫さまとかお侍とかのコスプレをした人がたくさんいるよ。何かな何かな。楽しそうだ。行こう行こう。行って見物するのだ。
「はい、終了! お疲れさまでした〜、撤収しまぁす!」
終わっちゃったよ! 思わずその場にくずおれる5人。
ぞろそろと解散するコスプレ軍団。片付けられるご馳走。ううう、何、何をやってたのいったい。このコスプレ者たちはいったい何だったの。こんなところでもタイミングを逸しているケダなごツアーだ。あ、お殿さまっぽい人が、ギャラリーに乞われて子供たちと記念撮影をしているよ。そのギャラリーと、お殿さまの会話。
「家康ですか?」
「あ、はい。家康です」(頭をかきながら)
そ、そんな家康、いるかよッ! おめぇもプロの家康(?)なら、「いかにも」くらい答えろよぉ。
気を取り直して天守閣に登ります。まずは一気にエレベータで最上階(つまり天守ね)へ。名古屋が一望できるので、「あれが名古屋ドームだよ」とケダちゃんに教えていると、「大矢さん大矢さん」と呼ばれる。何?
……いや、天守閣の売店で加トちゃん売ってるからって、わざわざ教えなくていいから。おまけにそれ、もう持ってるし。<持ってるのか!<をかべさん御恵贈です。ってゆ〜か、天守閣で売るなよそんなもん。
そこから一階ずつ降りていく。名古屋城の歴史を見たり、ジオラマを見たり。なんと金のシャチホコにまたがって写真を撮れるコーナーがあるのだ!(つっこみメールがときどき来るので先に書いておくが、「撮れる」は五段活用動詞を下一段化した可能動詞なので「ら抜き言葉」ではないからね!) 当然、ケダちゃんをまたがらせて写真撮影。え? あたし? 誰がするか、そんな恥ずかしい真似。<それをケダちゃんにやらせた人は誰?
天守閣を出て、せっかくだから天守閣をバックに写真を撮りましょう。はい、並んで並んで。と、そのとき大矢は大発見をしたのである。
「ををををををかべさん!」
「はい?」
「をかべさんてば、メガネをとったら、えらいオトコマエじゃないですか!」
うわあ。二、三十年前の少女マンガではないか>メガネはずしたら美人。気付かなかったよ。そこからはかびすましい女たちの餌食である。
「いやマジで。3分の1くらい、外国の血が入ってませんか?」
「……3分の1って、どうやれば入るの?」
「あ、そう言われれば、確かになんか西海岸ぽいかも」
「西海岸って、まさか日本のじゃないですよね?」
「アメリカですよアメリカ! 熊本の天草とか長崎とかの血が入ってどうすんですか」
「ハワイとかの南国系っぽさもありますね!」
「うんうん、サモアとか」
「サモア……?」
会話をそのまま記録すると、なんかオトコマエからどんどん離れていく描写になるのは何故だ。いや、ホントにメガネとったらオトコマエでビックリした。ってゆ〜か、何を今さら、である。何度逢ってると思ってるのだ。今まで気付かずにいたって方が、考えてみたらえらく失礼である。
「そーゆーことはオーッピラに発表してくざさいね(笑)」とご本人に言われたので、ここで発表しておこう。その場にいた女が全員既婚者だったことが、をかべさんの不幸でしたね。……え? それは幸運だったって? どゆこと? ねえ、どゆこと?!
時刻は正午(まだ集合時刻から2時間半しか経ってないのか!)をまわったところ。お昼にしたいが、その前に、名古屋場内にある二の丸茶亭で抹茶を戴こうという話になる。茶店のくせに禁煙だったことが計算外だが、まぁ良しとしましょう。金の茶釜が飾られた茶亭のお座敷にあがり、緋毛氈の上でお茶を戴くのだ。もちろん、その場で点てるのよ。
まず、お茶菓子として栗かのこが出る。おお、甘露甘露。上品なお味で、お腹が空いてることもあってバクバク食べる。そしてお抹茶がしずしずと出てきたので、右手に栗かのこを持ったまま、左で茶碗をガバと持ち上げ、ぐびぐびと抹茶をラッパ飲みする大矢。うん、旨い。甘露かん……あれ?
……はっ。みんな両手で茶碗を捧げ持って、回したりなんかしているよ!
し、しまった、普通のお茶じゃなかったんだ。こういうところには、なんか色々マナーがあるのであったよ。「けっこうなオトシマエで」とか何とかっていうんだよな? 「けっこうなオトコマエ」だったっけか? まぁいいや。<いいのか。
ちなみに、大矢が片手でガバと掴んだ茶碗は、8000円もする何とかという銘のものだったそうだ。抹茶(お菓子付き)は500円なのに、茶碗は8000円。割らなくて良かった。もひとつちなみに、10月からは、金の茶釜のレプリカでお茶を点ててくれるサービスが始まるらしい。こんなところでもタイミングを逸していたケダなごツアー。(後編へ続く)