抜粋なまもの日記

2003年1月「食器洗い機がやって来た!」の巻


 突然ですが、うちのMacが絶不調です。凍る落ちるは当たり前という、下手なスキージャンパーみたいな有り様だ。まあ、3年前にハードディスクをクラッシュさせたあと、有り合わせの古い外付HDをつけて騙し騙し動かしてきたわけだが。腕のいい結婚詐欺師だって、3年も騙し続ければ、いい加減ばれるよなあ。
 特に困ってるのはメーラやネスケの不調、それと家計簿ソフトがぶっこわれたことだ。過去3ヶ月の家計簿データがキレイさっぱり消えたときには、思わずモニタの前で「燃えた……燃え尽きたぜ……真っ白にな」とジョーになってしまった。立つんだじょ〜。それはハタ坊。おまけに銀行口座の支払い計算なんかもオカシクなってしまって、なぜか11月の水道代として、いきなり2億7千万円が計上されたりしてるのだ。滝でも造ったのか。木曽川でも買ったのかうちは。どう考えてもこのソフト、終わっている。

 で、「新しいMacが欲しいよお、家計簿ソフトも買い換えたいよお」と、アイフルのCMの子犬のような目でダンナを見上げた。すると「ボーナスまで待ちな……」とは言わず、二つ返事で「買う」という。やたっ!と躍り上がったものの、よく聞けば、ダンナが新しいのを買って、あたしにダンナのお古をくれるという算段らしい。う〜〜〜〜〜〜ん。ダンナのお古だって、もう充分古い型のような……。ま、いっか。液晶モニタも買ったばっかりだから、ここで新しいノートや一体型買ってもモニタが勿体ないしな。あたしは家計簿ソフト買うだけで良いっていうし。

 ということで、今日はMacを買いに行ったのです。
 昨年オープンしたばかりのY電機が、この手の大型店にしては珍しくMacを扱っており、おまけに広告によるとお値段もお手頃ということだったので、Y電機のあるHヶ丘へ。ところが、ダンナが欲しいタイプは在庫が無いという。いや、本部の配送センターにはあるんだけど、「お届けには2週間以上かかる」などと言いやがる。取次が面倒な本屋じゃないんだから、配送センターにあるのならそれを今すぐ出しやがれ。──というふうにはイカナイらしい。
 仕方ないので今日はあきらめて、明日、大須に出かけることに。

 さて、翌日だ。Y電機では在庫がなかったMacも、大須ではズラリと並んでいた。ダンナが店員さんとワケのわからない専門的な会話を交わしている間に、あたしはソフト売場へ。おお、ちゃんとMac用ソフトのコーナーがあるではないか。Y電機にはMacのコーナーなんてなかったのに。偉いぞ大須アメ横ビル! 偉いぞTクモ電機! これがMacだよパトラッシュ!
 4〜5種類の家計簿ソフトが売られており、動作環境を確認する。既に時代はMac OS Xだ。ソフトもどれも、「Mac OS X/Mac OS 8.6以上」と書かれている。えっと……あれ? 今回ダンナが新しいMacを買って、それであたしに譲ってくれるお古って、確かマシンはG3だった筈だけどOSは……?

 「え? 今、G3に乗ってるOS? 8.1だよ」
 「えええっ、は、はってんいちぃ? ダメよそれじゃあ」
 「なんで」
 「だって家計簿ソフトって、最低でも8.6対応以上のしか売ってないもん」
 「じゃあ、8.6か9のOSを買ってってインストールする?」

 ……と、夫婦の会話にいきなり割って入るTクモ電機の店員さん。

 「MacのOSはねえ、最新のものしか扱えないんですよお。古いのは売れないことになってるんです」

 えっ、そうなの? そんな決まりが? じゃあOS Xを買うしかないってこと? あ、こっちに中古のiMACがあるけど、これOS8.6って書いてるから、このインストールCDだけパクるとかは?
 ひとりで犯罪スレスレの提案をするあたしを放り出して、ダンナと店員さんは何やら専門用語を駆使した会話を初めてしまった。マシンチェックがどうとか、いや実際は何だとか……。あたしには良くわからないから、Macのことはダンナに任せておけばいいのだけれど……。
 そこでふと、気が付いた。

 「あのぉ……あなた、これ買うのよね?」(指さす)
 「うん」
 「で、これって、Mac OS Xよね?」
 「まあね、でもソフトの都合があるから、俺は9で使うけどね」
 「で、あたしが今、使ってるのって、OSは8.1よね」
 「そう」
 「で、あなたから貰うG3も、8.1なのよね?」
 「そう」
 「それはあたしに何かメリットがあるのか?」

 何言ってんの、今のオマエのマシンと比べたら俺のG3の方が処理速度だってアレだってコレだってずっと上で、そうすればオマエの仕事だってネットだって今よりずっと……というダンナの声を右から左へ受け流し、あたしの脳内には

 「自分だけ最新のカッコいいMac買うなんて、ズルいっ!」

 という言葉がエコー付きで大爆発。アンタはOS Xも使える最新機種で、なんであたしが8.1のまんまなわけ?! アンタは最新機種で、なんであたしは家計簿ソフトも対応してないくらい古いOSのまんまなわけ?!

 「だってOS Xにしたら、オマエが使ってるソフト、殆ど使えなくなるぞ?」

 ぐ……。でも、でも、でも、ズルいっ。コンピュータに関しては圧倒的にダンナの言い分に従う方が正しいと分かっていながら、それでも感情は「そんなのズルい、あたしも新しいのが欲しいっ」という方向に突っ走る。突っ走るが、コンピュータに関してはダンナに勝てないのも分かっている。分かっているが、悔しい。あたしも新しいの、欲しい。あたしも新しいのが欲しいっ。あたしも新しいのが欲しいいいいい!
 そして、その感情が、突然ベクトルを変えて迸った。

 「あたし、食器洗い機、買う!」

 「……は?」
 「この店にある食器洗い機を全部あたしの前に並べて頂戴! 世界中の食器洗い機をここに揃えて頂戴!」
 「お客様、ここはパソコン売場です」
 「わかった、わかったから家電を扱ってるフロアに行こう、な、な?」
 「一番高い食器洗い機をここに、さあ、ここに、ここにぃ〜〜〜」(半泣き)

 結局、帰り道に近所のGガスに寄って、10分で最新型食器洗い機を選択。持って帰ろうとしたら、「おおおおお客様、その前にお宅にお邪魔して工事の見積もりを致しませんと! 設置や工事が可能かどうか見た上で、改めてご来店いただいてご購入を! まずは見積もりの日程のご相談を!」と引き留められる。ちっ、今夜から使えるわけじゃないのか。
 とまれ、Macはお古でも、食器洗い機は最新型なのよ! これにOS Xを乗せて走らせてやるわ!<無理です。

 3日後。
 食器洗浄機設置の見積もりをしに、工事屋のお兄ちゃんがやって来て、ダンナとあーだこーだ話している。どうやらうちの水道の蛇口(水栓、っていうのかな?)は特殊な形をしていて、普通の工事では食洗機が取り付けられないらしいのだ。それは分かっていたので、「カウンター工事になる筈だからヨロシク」と電機店の店員さんにそう伝えていたのに、どうやら工事屋さんに巧く連絡されていなかったらしい。しっかりしてくれGガス
 うちのダンナは建築屋なので、こういうことには詳しく、シンク下に潜ってボードをはずし配管を見ながら工事屋さんに説明している。専門用語使いまくり。大人しく説明を聞く工事屋のお兄ちゃん。どっちが工事屋なのかわからない。
 挙げ句の果てに、その工事屋さんではダンナが望む工事は出来ないことが判明してしまった。どうなるのだ食器洗浄機。いったいダンナはどんな注文をつけたのだろう。訊いてみる。

 「ほら、ここ、食洗機を置く予定のところにガス栓が出てるだろ」
 「うん、まったく使わないガス栓だけどね」
 「だから、このガス栓をとっぱらって、ここから食洗機用の水道栓を出したいわけ」
 「えっ、ガス管から水を出すの?!」
 「そうじゃなくて。ガス管を下の方で閉じちゃって、そこから上の管をとっぱらうんだよ」
 「……」
 「そうすると、今、ガス栓が出てる場所に穴が残るだろ?」
 「……」
 「で、シンクの下で水道管を分岐させて、その穴から水道を出して、食洗機に繋ぐんだよ」
 「……」
 「わかる?」
 「……それ、食洗機のスイッチ入れた途端に、食洗機内にガスが噴出したりしない?」
 「しねーよっ!」

 なんかすっごく怖いんですけど。食洗機内にはトンガリ帽子の小人さんがたくさんいて、ちいさなブラシで皿を洗ってくれるという絵を想像している大矢としては、食洗機が小人さんにとって恐怖のガス室に変わる様を思い描き、思わず倒れ込んでしまう。
 そんな妻の心配を余所に、ダンナは高校・大学時代の同級生で現在水道屋をやっているS保さんに電話をかけ、工事を依頼。今週中には下見に来る由。ああ、どうなるんだ食洗機。食洗機と小人さんの運命やいかに!

 それから更に一週間後。
 水道工事屋さんとガス工事屋さん来訪。台所のシンク下の壁をひっぱがし、なんかどえらい工事をしている。でも、その甲斐あって無事に工事も終了。あとは食器洗い機を買ってくれば、素人でも設置ができるという状況が出来上がった。いよいよ明日ですコーチ! うちにキッペイ1号(そんな名前になったらしい)がやって来るのよ、ひろみ!

 翌日、嬉々としてGガスへ。
 はぐぁっ! 雨の中をわざわざ電機屋まで出向いてやったというのに、キッペイ1号は在庫切れだとよ。あれだけ「工事は自分ちでやるから、1台押さえておくように」と命じていたというのに。平身低頭するお兄ちゃんに「今週中には必ず」と約束させ、今日はこれくらいにしといたらあ、と帰宅。キッペイ1号が大矢家にやってくるまで、あと数日かかるみたい。

 そして更に待つこと1週間。

     うぇるかむ、キッペイ1号

 そうなんです。来たんです。食器洗い機がついに! もう、頬摺りしちゃう。キスしちゃう。巨乳に挟んで喜びの猫じゃ猫じゃを……さすがに踊れなかったので、取扱説明書を巨乳に挟んで踊る。
 シンク脇に、ダンナが設置してくれる。ああ、ステンレスの銀色のボディがクールだわキッペイ! 取扱説明書に従い、この日のために溜め込んでいた洗い物を中に入れてみる。食器洗い機専用洗剤をスプーンですくい、「キッペイちゃん、あ〜〜〜〜ん♪」と言いながら、投入口に入れる。ドアを閉める。電源を入れる。コースを選ぶ。さあ、スイッチオンだ。ぽちっとな。

     ああ、ミステリを読んでる間に洗い物が終わったよ!

 すごい。嬉しい。幸せ。もう、OS XのMacなんて要らない。ええ、要りませんとも。いくらダンナの新型Macが高性能だろうが、キッペイ1号のように完璧な皿洗いは出来まい。思わず「キッペイ!」と叫び、正面から食器洗い機に抱きつき、喜びのキスの嵐を浴びせる。

 ……。
 サンヨーさん、ここまでPL法がうるさく言われてる時代なんだから、「食器乾燥中は、排気口から暖かい空気が出ますので、抱きついたりキスしたりしないようにしましょう」くらいは書いておいて欲しかったわ。顔面に直撃を受け、観測史上最高のドライアイに10分苦しむ。でもいいの、お皿がキレイだから。

 いや、それにしても食器洗い機、いいよ。ホントにいいよ。頭の古い人の中には「共働きならまだしも、洗い物くらい専業主婦なら自分でやれよ、それが仕事だろ」と思ってらっしゃる方がいるかもしれないが、それこそ認識不足だと言わせて戴こう。
 洗い物だけでなく、洗濯機しかり、掃除機しかり、電子レンジしかりだ。家事なんて、いくら手を抜いてもいいんです。だって、手でやるよりも早く、効率的で、経済的で、仕上がりも良い道具があるんだから。会社員なら、コピー機を使うでしょ。「それが仕事だから」って手で書き写したりしないでしょ。それと同じ。時間と手間をかけて、疲れて手は荒れて腰は痛くなって、それで機械ほどキレイにはならない──それが《専業主婦の仕事》だなんて、バカ言っちゃいけない。仕事ってのは、力を入れる箇所と手を抜く箇所をキチンと分けるのが大事なのだ。
 それにね、何より──時間が買えるのよ。これは大きい。ルーチンワークを機械に任せることで、機械にはできない《主婦の仕事》により手がかけられるようになる。勿論、本も読める。「洗い物が増えるから面倒だなあ」と思わずに、お皿やカップをふんだんに使って、美味しそうなテーブルコーディネイトが出来る。食事の準備が楽しくなるのよ。

 全国のダンナさま、ここはひとつ、愛する奥様にどーんとプレゼントして差し上げては如何? 水や洗剤で、奥様の手は荒れてませんか? 体に合わないシンクの高さで、奥様は腰を痛めてませんか? お客様を招いたとき、食後にあなたがお友達と談笑している最中、奥様は洗い物をしているのでは? 奥様も一緒に食後のコーヒーを飲みたいかもしれないのに。
 それにね。「手でやれよ、主婦なんだから」と思ってるのは、実は男性だけじゃなくて、女性の側にもそういう意識があるのが事実。「洗い物は面倒だけど、でもこれが仕事だから、食洗機が欲しいなんて手抜きで贅沢だと思われたら嫌だし」と考えて、欲しいと言い出せない女性も多いんですよ。あたしだって、ダンナのOS Xの一件でブチ切れてなかったら……(笑)。
 買うなら、音が静かな(これ大事!)6人用くらいのやつがお薦め。今日日、6万円そこそこで買えるんだから。


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