明日、開会式を迎える万博会場に出席(?)するため、名古屋城の金のシャチホコがお城からおろされ、今日、市内を巡ったあとで会場入りするのだそうだ。夕方には藤が丘駅で2匹揃ってのお披露目があるという。名古屋城が改築されて以来、シャチホコが城外に出たのは初めてなんだってさ。へえ。
ニュースでその映像を見ると、地上に降ろされたシャチホコよりも、シャチホコの乗ってない名古屋城の絵にどえりゃあ違和感を感じてしまった。なるほど、なんだかんだ言いながらも、あたしはあのシャチホコで名古屋城を認識していたのだな。
ちなみに、その名古屋城のすぐ近くにある愛知県庁の屋根も緑青の瓦屋根でシャチホコが乗っている(←この写真ではシャチホコはちょっと見づらいが、瓦屋根なのは分かるでしょう?)。まだ結婚前、婚約中のダンナが車であたしを県庁に連れていき、「これが名古屋城だよ」と大嘘をついたが、あたしゃそれをあっさり信じたバカな嫁として大矢一族の語り草になってしまったわよ。もひとつちなみに、名古屋市役所の屋根には四方睨みのシャチホコが乗っている(←殆ど見えないけど、塔の最頂部が瓦葺きでそこにいるんです)。もうシャチホコさえ乗ってれば何でもいいのか名古屋。むしろテレビ塔のてっぺんにシャチホコが無いのが不思議なくらいだ。
このシャチホコの市中パレード、万博の開会式に出席するためというのはさっき書いたが、さらに驚いたのは、シャチホコは開会式に市民代表として出席するんですって! 市民代表って。ってことはシャチホコは名古屋市民だったのか……。でも、わけのわからん政治家がどこぞと癒着して代表ヅラされるよりは、まだシャチホコの方が市民代表に相応しいかもだ。知名度は抜群だし、今日のパレードを見にでかけた人数を見ると人気もあるし。きっとシャチホコが市長選や県知事選に出たら、当選するに違いない。
で、藤が丘駅までシャチホコを見に行ったんですが。
行ったのかよ!
という2億人のツッコミが聞こえるが、ええ、行きました。行きましたとも。雨の中を。暇なのか。だってダンナが何故かノリノリで「行くぞ!」って言うんだものぉ。
いやもう、すっごい人出。ラッシュアワーもかくやという人出で、押し合いへし合いしながら見て来ました。意外と小さいの。すれ違った女子高生が「ここから会場まではリニモで運ぶのかなあ」などとホザイており、「アホか、そんなわけなかろうが」と心でツッコんだものの、なるほどこのサイズならリニモに乗れるかもと思ってしまったよ。あたしが見た角度からは、なんか頭部が白っぽくくすんで見えて「金が剥げてるのかな?」とダンナに訊いたら、隣にいた知らないおじさんが「光の加減だろお」と答えてくれた。金鯱が結ぶ人の輪。
そうこうしてる内にも、後ろからは押されるし、前の人は戻ろうとするし、警備員さんは「動かないで! 押さないで!」と叫ぶし、順路が設定されてない上に立ち入り禁止の場所も多くて「ここから先は入れません」「ここを通せば人がもっと流れるだろうが」と警備員VS市民の言い合いが始まるしで、あたりは緊迫した空気に包まれる。シャチホコだけにキンパク。<それが言いたかったのか。
それにしてもえらい人混みで、シャチの全体像までなかなか確認できない。アングルに寄ってはケツしか見えなかったり。おかげで2匹のどっちが雄でどっちが雌なんだか、違いが確認できなかったよ。右のボケボケ写真はダンナが人混みに揉まれながらも腕を伸ばしてケータイで撮ったもの。これは雄? 雌? つか、それ以前に、シャチホコにここまで熱狂する名古屋っ子っていったい……。
その翌日。事態は思わぬ展開を見せた。
昨日のシャチホコ騒動について、「シャチホコにここまで熱狂する名古屋っ子っていったい……」というようなやや醒めたコメントを書いたところ、名古屋人の読者からたくさんメールを戴いたのだ。曰く
「そりゃ見たいですよ!」
「やっぱり地上に降りるとなれば、見てみたいのが人情でしょう」
「うちの区には何時頃来るかという情報が入らなくて行けなかった、知ってたら行ったのに!」
え〜〜〜、そんなに見たいものなの?
シャチホコのパレードは万博の一環ということで、じゃあ万博に反対してる人ならこの状況を苦々しく思っているのではないかしら、と訊ねてみたところ──万博に対してかなり強固に反対論を展開している友人ですら、
「シャチホコに罪はないので、見てみたかったです」
と言うではないか! えええええ、ブルータスおまえもか!
このアンケート結果に首を傾げつつ、今日はお仕事の日だったので勤務先へ。おそるおそる同僚や上司に「昨日、藤が丘にシャチホコ見に行ったんだけどさぁ」と話しかけると、「えー、行ったの? いいなあ」「あの時間、まだ仕事だったんだよね。見たかったなあ」と帰ってきたではないか。えええええ?
「そんなに見たいっすか? あれ、いつもお城に乗ってるのが見えるじゃありませんか」と訊ねてみたら、
「大矢さん、九州出身だっけ? 所詮、名古屋の人間じゃないってことよ」
名古屋に住んで8年半……。あたしは今日ほど「よそ者」である自分を思い知らされたことはなかったよ……。
話はまだ終わらない。それから2日後のことだった。
「1億人のためのミステリー!」の仕事を下さった編集のT橋さんが名古屋にいらっしゃるということで、あのムックで大矢の拙い原稿にステキなイラストをつけてくれた(というか絵が主役で文章がつけたしであったことよ)をかべまさゆきさんと一緒にお出迎え。大矢はT橋さんとは1年ぶりです。1年前に会ったときには、打ち合わせを終えてにこやかに別れた直後、大矢を車で轢こうとしたという、キュートな外面如菩薩内心如夜叉野郎です。
T橋さんが名古屋名物をご所望ということで、世界のやまちゃんに向かう(またかよ)。途中、ナナちゃんの股ぐらをくぐらせるのも忘れません。ナナちゃんを初めて見たというT橋さんは、ナナちゃんの股の下に立って写真に収まっていたが、あんたそれ、どえりゃぁ恥ずかしいがね。
しかしナナちゃんを云々できるような名古屋人の資格が自分にあるのかどうか、一連のシャチホコ騒動で自信をなくしている大矢である。「あのシャチホコへの思いは、あたしにはわかりません」と弱音を吐く大矢に、をかべさんが優しい笑顔で寸鉄の一撃を。
「大矢さん、日記にシャチホコって書いてましたけど、金シャチなんです。
シャチホコは一般名詞で、名古屋城のアレは、金シャチなんです。
違うんです。別物なんです。使い分けなくてはなりません!」
きゃーっ。
ああ、言われてみれば、ダンナを初め、みんな口では「キンシャチ」と呼んでいたよ。でも日記に漢字で「金鯱」と書くと「きんこ」と読んでしまいそうだし、「シャチホコ」の方が余所の人には分かりやすいかなと思ったのよ。親切のつもりだったのよお。でもそれは大きな間違いだったのね。はからずもまた、似非名古屋人である自分を晒してしまったのね! まるで、男として育ちながらフェルゼンへの愛を自覚してしまったときのオスカルのような気持ちです!<何をそんなカッコイイ喩えをしているのか。<おまけに喩えとして間違ってるし。
ショックを引きずりながら、3人で世界のやまちゃんへ。もう今更、似非名古屋人であるあたしに名古屋グルメを云々する資格はありません。手羽先、美味しゅうございました。1人あたり3人前戴きました。味噌串カツ、味噌うずら卵フライ、どて煮、美味しゅうございました。どれも同じ味噌の味しかしませんでしたが。「デザートは名古屋コーチンエッグアイスにしますか、それとも八丁味噌のアイスに?」という選択をつきつけられながらも「すみません、普通の柚子シャーベットを……」と逃げに走ったのも、やはり似非名古屋人だからなのよ。
それにしても名古屋名物と呼ばれるものは、どうしてどれもこれもB級でキッチュなんだろう。手羽先はスパイスの味、カツや煮物は味噌の味、鰻はタレの味。素材の持ち味だの素材が持つ美味さだのというグルメな味わいを、暴力的なまでのチカラワザでねじ伏せる調味料文化であることよ。その証拠に、今日の味噌串カツはいくら食べても、それが豚肉なのか鶏肉なのかわからなかったよ。……いや、きっと、わからなかったのはあたしが似非名古屋人だからだわ。真性名古屋人ならきっと簡単に分かるのだわ! しくしく。
そして2ヶ月の月日が流れた。
以上の出来事は2005年3月のことだったのだが、今はもう5月。似非名古屋人ショックからもようよう立ち直りかけていた大矢だった。
なんだか最近、知り合いがこぞって「金シャチタッチ」(つまり金シャチに触れるわけです)が売りの名古屋城博に出かけているらしいのだ。(何人か混同されてるメールを戴いたので付記:愛知万博とは別のイベントです)
最初は、ミステリ系主婦友人かおかおだ。彼女がこんなことを報告してきた。
名古屋城博に行ってきた。2時半についた時は金シャチタッチは60分待ちだったけど
4時半になった頃には10分待ちまで空いていた。らっきー。一回に雄か雌かのどっちかしか
触れないから、どっちか選べといわれて雄にする。「人生一度は万博だ」などとは思わないけど、
下りたからには金シャチに触らなきゃ!とは思うなあ。
へえ、そんなものなのかなあ。その気持ちはよくわかんないなあ。あれは天守閣に載ってるから良いのであって、アップで見るものでも触るものでもないんじゃないのかしら。
ところがそのかおかおに対し、同じミステリ系友人のいつみねことゆーたんがソッコ〜で乗ってきたではないか。
い:「私は雌金シャチタッチしてきたよん!」
か:「ふっふっふ、やっぱりいつみさんも金シャチタッチしてきたのな!
いやー絶対行ってるだろうと思ったらやっぱり行ってたよ! ゆーたんさんは行かないの?」
ゆ:「金シャチ、私も触りたいな・・・。」
ええええええ? なんでえ? なんでみんな、そんなに金シャチに対してアクティブなのぉ? なんでそんなごく普通に「あの映画、見に行った?」てな感じで話ができるわけえ? いや、そりゃ確かに名古屋の象徴だし、あれを見ると「名古屋だなあ」「歴史だなあ」という感慨もあるけれど、それ以上のものは感じないがなあ。同世代の女性達がなぜにこうも「金シャチ」に触りたがるのか、皆目見当もつかない。かおかおなんか、「金シャチは生暖かかった」なんていうワケのわかんない感想まで漏らす始末だ。話だけ聞いてると、善光寺の御開帳みたいな宗教イベントか、さもなくばオダギリジョーに触ってきたみたいに盛り上がっている。とてもシャチの置物について語っているとは思えない。
だがしかし。盛り上がっていたのは、同世代の女性達だけではなかったのだった。太田忠司さんの今日の日記。
名古屋城内で開催されている名古屋城博に行ってきました。
ここの目玉はなんといっても天守閣から下ろされた金シャチ、眼の前で見られるだけでなく、
直接触れられるんです。真正名古屋人なら万博よりこっちでしょ。
(中略)
金ぴかのシャチは、ほんとに神々しかったです。触るとき、ちょっと震えましたよ。
ああああ、太田さんまで……。すみません、あたし、金シャチに触るより、万博の方が興味あります……。そうか、やっぱりあたしはいまだに似非名古屋人であったか。事ここに至っては、名古屋人の金シャチへの思いというのはDNAレベルに刻み込まれているとしか思えない。しかし名古屋を終の住処と決めた今、金シャチの魅力が理解できるよう努力しよう! 頑張れ大矢! 負けるな大矢! でもどっちかというとあんまり理解したくないかも!