抜粋なまもの日記

2000年7月「都道府県別合い言葉」の巻


 島村洋子「へるもんじゃなし」の作中に、大阪で正月に行われるお祭り──今宮戎(えべっさん)について書かれた章があり、そこにこんな一文があった。(p.135)

都道府県別に合い言葉を作ったとしたら、きっと大阪は  
「商売繁盛で」「笹もってこい」になることは確実である。

 他県の人には分かりにくいかもしれないが、「商売繁盛で笹もってこい」ってのは、「えべっさん」というお祭りでのかけ声っつーか、スローガンっつーか、まぁそんなようなものらしい。
 ここを読んだ時「都道府県別の合い言葉」ってのは面白いな、と思った。喫茶店で偶然隣に座った見知らぬ他人。しかし、その人の言葉のイントネーションやアクセントが、なんだかとても懐かしいように感じる。もしかしたら、同郷なんじゃないか? そんな時、あなたはトイレに行くふりをして彼の脇を通り、そっと囁くのだ。
 「商売繁盛で」
 間、髪を入れず彼は答えるだろう。
 「笹もってこい」

 おおおお、面白いぞ面白いぞ。例えば、こんな感じか?

    群馬 「赤城の山も」   「今宵限り」
    三重 「その手は桑名の」 「焼き蛤」
    千葉 「立て、立つんだ」 「ジョー」

 って、ちば違いだろう最後のは。「愛知は何だろうね」とダンナに聞いたらちょっと考えたあとで、「尾張名古屋は」と言ったので、すかさず答えた。「城でもつ」
 あ、ちょっと待てよ。だめだめ、これじゃダメだ。だって冷静に考えれば、これらのフレーズは他県人だって知ってるじゃないか。

  そんな人口に膾炙したフレーズが合い言葉として機能するワケがない。

 かといって、「いらんものは」「コメ兵に売ろう」が愛知の合い言葉ってのも、ちょっとイヤかも。←愛知近郊の人だけ分かって下さい。

 てなことを日記に書いた2日後。「ウチの合い言葉はこれでどうでしょう」というメールを何通か頂いた。どうでしょうって言われても。他県人には殆ど意味不明だが、同県人が読むとウケるんだろうなぁ。47都道府県揃ったりすると面白そうだぞ。

   長野 「信濃の国は十州に」  「境連ぬる国にして」O塚さん
   福井 「ハァー北陸トンネルね」「イッチョライ」  (Rainbow Houseさん)
   愛媛 「愛媛のまじめな」   「ジュースです」
       「ミカンは愛媛の」   「こころです」   (共にHリンさん

 長野県には「信濃の国」というタイトルの長野県歌(!)があって、件のフレーズはその冒頭部分。長野県民なら小学校で習うから絶対に知っているのだそうだ。他県人は知らないから、大学は長野だったとか長野に転勤したとかの似非長野人を見つけるのも簡単だそうで。ところで、数えてみたらホントに十州に接してるんでやんの>信州。正確な歌だこと。

 愛媛の一つ目はCMで流れてるからあたしも言えるけど、二つ目はさすがに知らない。ただ、愛媛には嫌な思い出があるのよね。大学時代に愛媛県人G司クンから「愛媛の家庭には水道が二つあって、ひとつは水、もうひとつはポンジュースが出るんですよ」と言われ、3年間信じてたんだよなぁあたし。それ以来、愛媛県人と言われると警戒しちゃうんだけど。
 前にも書いた記憶があるが、同じような理由で滋賀県人も警戒している。これも学生時代のことだが、滋賀県人N尾クンから「琵琶湖は少しずつ北上してるから、そのうち福井県に入んねん。昔は三重県にあってんで」と聞かされたのよ。ええ、これも信じましたとも。……今、気付いたけど、もしかしてあたしって騙され易いタイプ?

  (注・↑この長野県歌および愛媛・滋賀のご当地ギャグについては、このページ最下部の「後日談」を参照のこと)

 そして投稿はこれに留まらない。なんと森博嗣さんが日記で反応してくれたよ!

   愛知 「ぼんぼんぼんと」 「時計がみっつ」森博嗣さん

 実はこれ、愛知県民歴4年のあたしには何のことだかピンと来なかったのよ。でもものは試しとダンナに何の前置きもなく「ぼんぼんぼんと」と言ってみたところ……「時計がみっつ」だけでは終わらず、その先まで歌い切ってしまったよ! 最後のフレーズを聴いて、ようやく何なのか分かった次第。長野県歌と同様に似非愛知人(あたしだあたし)を見抜けることも判明したし、これに決まりかな。
 おかげであたしはやっぱり愛知県人ではなく大分県人なんだわということが分かったところで、大分県の合い言葉。

   大分 「八鹿八鹿の」 「天気予報」

 でどうだ!<いや、どうだって言われても。

 その他の県の合い言葉についても、メールを引き続き戴いてます。つっても、あたしも意味も分からず書き移してるだけなんだけどさ。

   栃木 「セブンシックスポイントフォ〜」 「レディオベリ〜」Mほろさん
   群馬 「伊香保温泉は」         「日本の名湯」  (Y澤さん他)
   熊本 「豪華かき氷と言えば」      「しろくま」   (O方さん

 うーむ、大分県出身としては日本の名湯を他県に取られるのは忸怩たるものがあるぞ。伊香保温泉には一度だけ行ったことがあるが、こんにゃくアイスという強烈なアイスクリームしか記憶にない。大分の湯布院には豆腐アイスがあるが、まだ豆腐の方が抵抗ないと思いません?

 そしてついに、観測史上最もワケわからん合い言葉が来た! と言えば見当がつくだろうが、鹿児島県である。

   鹿児島 「まこてげねこちゃ」 「わっはっは」Kこーらさん

 何じゃそりゃ。
 さすが鹿児島弁、この上なく意味不明である。ちなみにその前に紹介した熊本県の合い言葉──「豪華かき氷と言えば」「しろくま」O方さん)──について、Kこーらさんによれば「しろくまは鹿児島のかき氷なので、その合い言葉は鹿児島県人でも答えられる」とのこと。「別に喧嘩したいんじゃないですけど」と書いてはいるが、明らかに喧嘩を売ってると見た。しろくまを巡っての薩肥戦争勃発かっ?! 復活・田原坂!<煽るなって。

 熊本県の合い言葉について、いきなり鹿児島県人にツッコまれてしまったのみならず、普段交流のなかった地元のご友人からも直メールで

 「しろくまは博多や鹿児島でも食べよるたい」
 「セブンイレブン経由で東京にも進出中ばい」
 「他県の合い言葉とパターンが違う。なんばしよっとや」

 と叱られてしまったらしい、可哀想なO方さん。で、熊本県人による水面下での協議の結果

   熊本 「水輪100閃」 「皆、清水」O方さん改め熊本なまもの読者代表会議

 を推すそうです(いや、推されても)。鹿児島のKこーらさんに対しては、「鹿児島の合い言葉の強烈なワケわからなさは示現流並に無敵と思う」と白旗を掲げておりますので、勘弁してやってくれ。おお、田原坂の恨みが130年にして晴れたか?

 そしてこの「しろくま」が合い言葉を離れて新たな展開を見せるのであるが──それは本家隠し日記の00年9月4日〜8日の日記をご笑覧あれ。


 後日談1・信濃が接する十州とは

 長野県の合い言葉「信濃の国は十州に」「境連ぬる国にして」について、「信濃が接してる十州ってどこですか」というメールを幾つか頂いたのである。蛇足だけど解説しますね。
 当時の信濃の国が接していたのは、東から時計回りに行くと、上野(こうづけ)・武蔵・甲斐・駿河・遠江(とおとうみ)・三河・美濃・飛騨・越中・越後。それぞれ今の何県かは分かるよな?

 九州も昔は九国あったから九州なんです。さぁ、九つ挙げてみよう──つっても無理か。なんせ今の7県ですら、東日本の人に訊いたら大分と佐賀は最後まで出てこないことが多いんだから(滂沱)。「ほら、伊万里焼きとか葉隠とか」とヒントを出してるのに、佐賀を最後まで思い出せなかった友人が言うことにゃ

 「だってあたし、修学旅行で福岡と長崎と熊本は行ったけど、佐賀には行ってないんだもおん♪」

 佐賀を通らずにその三県を廻れるもんなら廻ってみやがれ。

 いや、そりゃ不可能じゃないけどさ、修学旅行でワザワザ海を渡ったり大回りしたりしたワケじゃあるまい?


 後日談2・愛媛と滋賀のご当地ギャグ

 「琵琶湖は少しずつ北上してるから、そのうち福井県に入る。昔は三重県にあった」という滋賀県人のネタについて。なんと、琵琶湖はホントに三重県にあったらしいのだ。U田K彦さんからのメールによれば、

  「100万年単位で考えると本当に三重県にあったんです。
   伊賀あたりにあって,古琵琶湖と呼ばれています。(中略)
   まぁほんのあと2、30万年もすれば福井県に達することは確かでしょう」

 とのこと。うわぁ、「琵琶湖は北上してる」と言ったN尾クンをずっと嘘吐き呼ばわりしてきたけど、申し訳ないことをしてしまった。でもでも「だから琵琶湖の北側に住んでる人は、数年おきに立ち退きを勧告される」というN尾クンのセリフは嘘だよな? な?

 琵琶湖だけでショックを受けていたら、「愛媛県の水道からはポンジュースが出る」という話についても、Hリンさんより続報。この話には段階があるそうで、

   1.愛媛県の家庭の蛇口には、赤と青の間にオレンジがある。
   2.赤はお湯、青は水なんだけど、オレンジはポンジュース。
   3.月に ¥2,000を農協に払えば、飲み放題。
   4.だから愛媛では贈答用以外にポンジュースを買うことなんて滅多にない。

 嘘をつけ嘘を。
 しかし凄いのは、Hリンさんによれば、この話は誰に教えられたわけでもないのに、愛媛県人のネタとしてよく使われているというのだ。最初は信じなかった人も、3段階目の農協のくだりで信じるそうで、性格が悪いにもほどがあるぞ愛媛県人。おそるべしご当地ギャグ


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