ヨコハマB級ラビリンス・山崎洋子(集英社)
まさにB級、まさにラビリンス。よくぞつけたなぁ>このタイトル。小説にも色々あって、マジメに人生を見つめてしまうような重厚なものから、わははと笑いながらサクサク読んでしまうようなもの。前者が懐石フルコースなら、後者はジャンクフードか。そしてこれは、お好み焼きとか餃子とか──つまりはB級グルメだ。
バールのようなもの・清水義範(文藝春秋)
筆者お得意の分野である。小説のようで小説でなく、エッセイのようでエッセイでない。それは何かと訊ねたら(ベンベン♪)──清水義範、なのである。ちゃんとした小説も勿論書いてるし、この収録作もノンフィクションというわけではなく創作なのは間違いないんだけど、小説というのもチト違う気にさせる。今回はパスティーシュってんでもない。なかなかに分類が難しく、強いて言うなら「清水義範」なんだよな。
『室内』40年・山本夏彦(文藝春秋)
山本夏彦が主宰する雑誌『室内』が創刊40年を迎えたのを機に、社員の若い女性を聞き手に山本翁が昔語りをするという趣向。この人のエッセイは非常に辛口で辛辣で、でも的を射てて、この手のエッセイにありがちな「頑固な年寄りの繰り言」的雰囲気がないのである。「昔はよかった」というだけのものでもない。自分の知識と矜持に立脚した批評なのだ。素直に読めて、素直に反省してしまうほど鋭い。
やはりあたしはどうも、この手の「一代記」に弱いようだ。それも昭和を生き抜いた女、ってのに殊の外弱いらしい。そのツボにズバリとはまった。
高村薫の小説世界は何かを思い出させると前から気になっていたのだが、ようやく判った。ドストエフスキーのそれだ。具体的な根拠もなく何となくそう思ったんだけど、一度思いついてしまうと、何だかもうそれ以外にはないような気がして仕方がない。賛同者はいるかな?
一の悲劇・法月綸太郎(祥伝社ノンポシェット)
子どもを誘拐したと電話が入る。しかし、子どもは部屋にいた。犯人は間違えて余所の子をさらってしまったらしい。警察と、さらわれた子どもの親に連絡をとり、身代金も準備するが、その子どもは死体で帰ってきた──。
「本所深川ふしぎ草紙」で登場した、回向院の旦那こと岡っ引きの茂七が活躍する捕物帖。ただ、ちょっと違うのは、「謎の稲荷鮨屋」が登場するところにある。事件に行き詰まった茂七は、この稲荷鮨の屋台を訪れる。そこで出される料理を味わっているうちに事件の糸口を掴む──何やら、北森鴻の「花の下にて春死なむ」とか、鮎川哲也だっけ?バーテンが謎解きするってシリーズ──そういうのを思い出しちゃうんだよね。おまけに、その屋台で出てくる料理がもう、美味しそうなことといったら! 料理をほんとに美味しそうに描くってのは、これはもう描写力表現力がないとできないことだよなあ。
【付記】読者の方からご教示頂きました。このシリーズが「初ものがたり」なのは、各編にそれぞれの季節の「初もの」が登場してるから、だそうです。そう言われれば、蕪だの鰹だの、どの編にも美味しそうな「初もの」が出てくるじゃないか! なるほど。ありがとうございました>教えて下さった皆様。
(00.1.22)
かまいたち・宮部みゆき(新潮文庫)
江戸時代を舞台にした短編集。サスペンス1、コンゲーム1、超能力2である。こうしてみると時代物って感じがまったくしないが、あくまで舞台は江戸時代である。しかし江戸時代の超能力ってのもすごいなー。江戸時代版・龍は眠るって感じだ。では個別に。
横浜の余毛という街に住む人々の物語。各章毎に違う人物が語り手となり、その人の体験した物語を語る。同じ場所が舞台なので共通した人物も出てくるけど、あくまでも主役は語り手であり、別の話なので、連作という感じもあまりしない。しかしそれでも、余毛という街が持つ匂いが、実感を伴って押し寄せてくるのである。横浜、下町、人情噺──落語になりそうな短編集である。一人語りっていうのも、落語っぽい雰囲気を出してるしね。
【うつ鮨事件】で、まずは舞台説明。
【朱雀事件】や【パタム・パタム】、【いつか王子様が】は水商売の女性(?)の切ない話。【四月の夢】や【余毛・三文オペレッタ】は騙されても何だか笑える詐欺事件。【踊る女】はちょっとホラー的要素もある。イチオシは【芝居の時刻】だ。女性ならではの「動機」を描く。サクサク読めるが後味のいい、今風だけど懐かしい人情噺だ。
(00.1.19)
【バールのようなもの】テーマはすごく好きなんだけど、妙なストーリーを持たせるより類似した現象を挙げて、そこを論じて欲しかったな。清水氏の話の中で、あたしは「インパクトの瞬間」(「永遠のジャック&ベティ」所収 講談社文庫)というのがとても好きなんだけど、あれに近い作りができそうな気がする。
【秘密倶楽部】ブ、ブラックだ。でも、ホントにこれってお爺ちゃんたち生き生きしそうで怖い。
【○○についてどう思いますか】これ、ある!これを承知してれば、無為に踊らされずに済むのに。
【みどりの窓口】わーははは、これもあるぞぉ。みどりの窓口では謙虚に振る舞おうっと。
【特別審査員】わーははは、これもあるぞぉ──としか言いようがないくらい、ホントにありそう。
【役者語り】これ、パスティーシュと言えなくもないな。遊んでるようで、すごい知識だ。
【善男善女の夜】こんな普通の情景をここまで描けるってのもすごい。
【愛知妖怪事典】これ、愛知県以外の人に通じるんだろうか……。
その他、【旅は道づれ】【豪奧新報元旦号第二部】【山から都へ来た将軍】【新聞小説】など。
(00.1.19)
しかし今回は自らが主宰する雑誌を振り返るという趣向──それも、上野の彰義隊を将棋隊と間違えたり、話が退屈になると居眠りしちゃうような若い女性が相手。翁もいつもと比べると、随分柔和である(笑)。話の内容はこれまでのエッセイとかぶってるものも多いし、言ってることは随分辛辣なんだけど、全然そんな感じがしないぞ。若い女性との対談形式にするというだけで、こんなに変わるものなのか。うーん、エッセイを読んでるだけじゃなくて、山本翁から直に話を聞きたくなった。工作社に入社して、「あんたほんとに物を知らないね」って、言われてみたい(笑)。やっぱ年寄りから話をきかなくちゃダメだよな、うん。
山本夏彦のエッセイは言い方がきつくてどうも素直に読めない、と思ってる人は、これを読んでみるといいかもしれない。それにしてもあたしゃすっかり聞き手のお嬢さんに惚れ込んでしまったぞ。わはは。
(00.1.19)
熊谷突撃商店・ねじめ正一(文藝春秋)
キヨ子という幼い少女が育ち、結婚し、子供を持ち、その子供が結婚して子供を持つ。それだけの長い時代を描いている。父は戦争から帰って来ず、母は妾になった。騙されたような結婚をした夫は救いようのない浮気者だった。娘は妻子ある人を好きになった。それでもキヨ子は商売に精を出し、パワフルに生きる。
モデルがいる。女優・熊谷眞実さんの御母堂・清子さんである。つまり、妻子ある人を好きになった娘ってのは、三女の美由紀さんであり、その相手は故・松田優作氏だ。微妙に名前を変えてはあるものの、後書きで全部ばらしてるし、ばらしてなくても読めば判る。ほぼ実話だという。それが何よりすごいのだが、仮に実話でなかったにしても、この物語はページをめくらせるだけの力を持っている。
キヨ子は、特に歴史に名を残すような何かをしたワケではない。この時代の女性なら、誰もが当たり前に重ねてきたような人生だったのかもしれない。それを「すごい」と思うってことは、つまり、あたしは既に違う時代に生きてるということなのかもしれない。しかし、こういうことを当たり前に重ねてきた女性がいたのだ。そういう女性達がいたのだ。こういう生活をして、そしてパワフルに笑える女達が、たくさんいた時代──それが昭和なのかもしれない。
悲しい話であると同時に、元気が出る話だ。小さなことでクヨクヨするのがバカらしくなる。人間というのは、誰しも強いものなのだ。
(00.1.19)
レディ・ジョーカー(上下巻)・高村薫(毎日新聞社)
さて、競馬場でよく出会う男5人。ひょんなことから「大企業から金を脅し取ろう」という話になる。ターゲットは業界第1位のシェアを誇る日之出ビール。日之出ビールを選んだ理由は──。
事件が起こるのは、上巻も半分を過ぎたところである。それなのに飽きさせない。何となくタブー視されていた被差別部落の就職・結婚差別を扱い、大企業の内幕、ブラックマネー、警察の捜査などなど、一体どうやって取材したんだと思うようなキッチリした、それでいてどこかに鋼の匂いを感じさせるような硬質の高村節で歌い上げる。
エンターテイメントというには娯楽性に欠ける。純文学というには社会派すぎる。ミステリに入れるには結末が曖昧で、クライムノベルとするには犯罪以外が深すぎる。ただ、読ませることは確かだ。情報が盛り沢山で、ひとつひとつの事象・心象を悉く微に入り細を穿って描写するために、息抜きが出来ず、途中で疲れたり飽きたりする部分がないとは言わない。しかし、ここまで掘り下げて書くというのは、やはりすごいとしか言いようがない。レディ・ジョーカー、日之出ビール、警察──それぞれの内幕がこれでもかとばかりに、それでいて情緒的にならずに、硬派に描いているのだ。
個人的趣味で言えば、合田(もちろん出てくる)と義兄のクリスマスってのは、どんなだったのかってことが気になる(笑)。普通の恋愛よりも、こういう展開が自然でドキドキさせるってのも、結局は筆力なんだよな。
(00.1.21)
法月綸太郎シリーズ。作品毎に作風が変わると言われていた時代の作品である。なるほど今回は、どこか二時間ドラマを思わせるようなサスペンス仕立てである。しかし勿論、本格としての「仕掛け」はある。展開が早く、どんどんどんどん物語が進むので、読者も飽きない。ロジックやトリックよりも、サスペンスとエンターティメントの方に重きをおいたかな、と思わせるくらいだ。それでいて、ちゃんと論理の背負い投げを喰らわせてくれるんだから、そのあたりはサスガである。法月綸太郎モノは小難しくて──というイメージを持ってる人でも、これなら楽しく読めるのではないか。いわゆる「新本格」の匂いは薄い。
それにしても、何だか必要以上に警察がバカに書かれてる気がするんだよなぁ。ま、そうでなくちゃ名探偵が活躍する素地がなくなるから仕方ないんだけど、んなこたぁ警察が気付くだろうって部分が多々あり。無論、そうと判っても目をつぶって楽しむのが本格のお約束であることは、言うまでもないんだけど。
(00.1.22)
初ものがたり・宮部みゆき(新潮文庫)
収録作は【お勢殺し】【白魚の目】【鰹千両】【太郎柿次郎柿】【凍る月】【遺恨の桜】の6編。捕物帖ながら、推理の醍醐味もある。中でも白眉は【白魚の目】だな。人情話というだけでは語れない、現代への警鐘がある。
ただ、このシリーズ、尻切れ蜻蛉なんだよね。結局、謎の稲荷鮨屋の正体は明らかにされないままで、どうみても「まだ続きます!」という感じで終わっている。早く続編が読みたいものだ。それと、このタイトルはどこから来てるんだろう? この後に読んだ「かまいたち」には、初って名前の女の子が主人公のシリーズがあるんだけど、そっち用のタイトルじゃないのか>初ものがたり。
【かまいたち】街に出没する辻斬り。その現場を目撃したおようは番屋へ駆け込むが、役人を連れてくると死体は消えていた──。一見、ミスディレクションを誘うような構成だが、読者はすぐ真相に気付くしかけになっている。気付かないのはおようただ一人だ。そこがまたハラハラさせる。
【師走の客】これは巧い! 毎年師走にやってくる客に騙された宿屋の主人。しかし最後にはほのぼのと終わらせる。イチオシ。
【迷い鳩】超能力者・お初のシリーズ1。超能力は出てくるものの、理に落ちた解決の捕物帖になっている。しかし、これこそ「初ものがたり」なんじゃないのか?
【騒ぐ刀】超能力者・お初のシリーズ2。夜になると呻き出すという不思議な脇差しの謎を解く。つまりは妖刀に纏わる話なのだが、こういうのって森雅裕が書きそうな世界だなー。
(00.1.22)
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