じゃじゃ本ならし


王妃の離婚・佐藤賢一(集英社)

 おおおおおおお面白いっ!これを昨年、出版当時に読んでいたならば、間違いなく「永遠の仔」と自己ベストの首位を争っていた筈である。爽快・痛快・そして感動! 「読みたいんだよね〜」と去年から言ってて結局まだ読んでない義妹よ、早く読みなさい。
 ルイ12世の頃のフランス。暴君と言われた11世が他界し、その姫君の婿が12世となった。ところが、自分が王になった途端に12世は、王妃との離婚を発表したのである。離婚には応じない王妃。審判は法廷へと持ち込まれたが、王の優位は動かしがたかった。なぜなら王妃は──評判のブスだったから。
 はからずも、その王妃の弁護をすることになった弁護士・フランソワの物語なんだけども、中盤の裁判のシーンは実に痛快である。カトリックである王家が離婚するためには、二人は性交渉をしていないというのが絶対条件なのだという。結婚して20年、性交渉が一度もなかったなんてことがあり得るのか? していない、という王。した、という王妃。それを法廷で証明しなくてはならないわけだ。弁護士フランソワの作戦も、判官贔屓の傍聴人も、とにかく何もかもがメチャクチャ面白いぞ。だいたい「ブスだからエッチしてない」てなことが法廷でまかり通るってのが、そもそも凄いんだけどさ。
 しかし──。
 とても痛快・爽快な裁判シーンにワクワクしながら読んでいたが、終盤になって物語はとても感動的なクライマックスを迎える。ここまで拒絶されても結婚にしがみつく王妃の心、フランソワの昔の恋の顛末、それらが一気に物語の中核に押し出され、底が見えないほど深い悲しみの淵に読者は落とし込まれる。そして、そこに表れる希望という名前の光明。こんなに気持ちのいいハッピーエンドは類を見ない。物語の持つパワーに取り込まれてしまうこと間違いなしだ。読み終わって、とても幸せな気持ちになれる一冊。フランスの歴史はよく分からないとか、外国が舞台なのは苦手とか、そういう理由で敬遠してたら損をするぞ。フランスに知識がなくても、外国ものは苦手でも、そんなものは簡単に凌駕してしまう傑作なのだから。  (00.6.18)   

嫁洗い池・芦原すなお(文藝春秋)

 「ミミズクとオリーブ」に続く、台所の「ウチの奥さん」探偵シリーズ第2弾。アームチェア・ディテクティヴならぬキッチン・ディテクティヴだ。とは言っても、本格ミステリ好きを満足させるようなガチガチの論理パズルでは決してない。伏線も薄いし(笑)、偶然は多いし、奥様のカンだけってのも結構あるし、謎解きミステリとして読むと拍子抜けするので注意。仕掛け自体はホントに本格ミステリだから、同じネタで誰か新本格作家が書くと、ものすごい本格推理になりそうな要素を孕んでいるものもある。
 この物語で作者がやりたかったことの一つは、語り手になっている「情けない夫」と「しっかり者の妻」、そして難題を持ち込んでくる「転勤ばかりの警察官・河田」のトリオ漫才──つまりは、その会話の楽しさではないか。そしてもう一つは、四国の郷土料理に始まる美味しそうな料理の描写であることは論をまたない。
【娘たち】短編集全体の色合いからすると、ちょっとインパクトが薄いかな。
【まだらの猫】何がすごいって、このトリックに誰も気付かなかったのがすごい。病院の会話は爆笑。
【九寸五分】手がかりを見つけるきっかけになった出来事が笑える。偶然手がかりを拾うよりも説得力がある演出。
【ホームカミング】あう、極辛塩鮭、食べたいーっ! それにしても警察、気付けよ(笑)。
【シンデレラの花】会話が軽妙なので気付きにくいが、これってものすごいトリックだぞ!
【嫁洗い池】犯人も手段もすぐに分かってしまうけれど、それよりは河田のその後が気になる(笑)。
 (00.6.18)   

震える岩〜霊験お初捕物控・宮部みゆき(講談社文庫)

 人には見えないものが見えてしまうという能力を持ったお初。長屋での死人生き返り事件、油屋での少女殺害事件、夜になると震えて泣く岩があるというお屋敷、そんな「不思議」を体験したお初と右京之助は、その根底に百年前の赤穂浪士の討ち入りが関係している事を知る──。
 短編集
「かまいたち」に収録されている【迷い鳩】【騒ぐ刀】で登場したお初の長編第一弾である。ちなみに長編第二弾は「天狗風〜霊験お初捕物控《二》」で、こちらも佳作。
 正直、今さら赤穂浪士もないだろう、と最初は思ったのだ。新解釈にしたって手垢がつきすぎてるだろう、と。ところがどっこい大作(古!)、なるほどこう来たか、である。あらゆる面から語り尽くされたと思っていた忠臣蔵が、宮部みゆきの手にかかるとこうも切ない物語になるのか。
 無論、忠臣蔵新解釈が物語の眼目ではない。「死人憑き」の謎をめぐって走り回り、苦悩するお初やその周囲の人々にこそ、この物語の主眼がある。「死人憑き」の謎がだんだんに解かれていく様は見事だ。最初の「死人憑き」が終わった後、第二の事件が起こった時にお初が気付くある現象──第三章の最後の最後。ここを読んだ時には鳥肌が立った。見事なミステリではないか。勿論、それ以外の箇所にも小さな本格ネタが散りばめられていて、だけどそれ以上に江戸市井の人々の生き生きとした生活は余すところなく描かれていて──捕物帖の新しい波の到来と言っても過言ではない。
 個人的には、「その浪士」が四十七人の中の誰だったかってのが気になるんだけど(笑)。吉良の用心棒に誰かが入り込んだという話は聞いたことがなかったので、吉良屋敷に入り込めるとしたら蕎麦屋に扮した杉野十平次か、俳句のつてから吉良邸の情報を掴んでいた大高源五か──剣の腕からいけば堀部安兵衛かな、などと考えてみるのも楽しい。  (00.6.18)   

にぎやかな眠り・シャーロット・マクラウド著・高田恵子訳(創元推理文庫)

 ヴァラクラヴァ農業大学のシャンディ教授は、毎年クリスマス・イルミネーションの騒ぎにうんざりしていた。そこで芽生えたイタズラ心。仕掛けだけして、自分はとっとと旅行に出たのだが、帰ってみると……シャンディ教授シリーズ第1弾。
 いやぁ、エンターティメントだなぁ。殺人事件の犯人だとか真相だとか、そのあたりには疑問が残らないでもないのだけれど、この物語の真骨頂は何といってもヴァラクラヴァの人々にある。カブの品種改良が専門という応用土壌学(ど、どんな学問なんだろう)教授のピーター・シャンディが魅力的なのは勿論のこと、彼の友人で同僚のティモシー・エイムズは耳が遠くて変わり者だけどとってもキュートだし、スヴェンソン学長夫妻には笑えるし、そして何よりティモシーの手伝いにヴァラクラヴァへやって来たヘレン! カタカナ名前はどうにも覚えられない大矢だけども、このあたりの主要人物は一回でマスターできたくらいだ(普通できるって)。
 それに「犯人だとか真相だとかには疑問が残る」と書いたが、それだって不満というわけでは決してない。むしろ、非常にあたし好みのネタなのである。被害者はなぜ殺されたのか、というのが一つの問題になることは明かなのに、被害者の強烈な個性が前に出てるから、×××のことを忘れちゃうんだよね。みごとなミスディレクションだ。真相が分かった時には膝を打ったぞ。
 ただ、読み終わってどうにも解せない部分があるんだけど──どうしてシャンディ教授はいきなりモテだしたの? 誰か教えてくれい。  (00.6.22)   

蹄鉄ころんだ・シャーロット・マクラウド著・高田恵子訳(創元推理文庫)

 「にぎやかな眠り」で運命的な出逢いをしたシャンディ教授とヘレンは結婚して、ヴァラクラヴァで楽しい日々を過ごしていた。ある日、ヘレンはヴァラクラヴァ農大の女性蹄鉄工・フラックレーと畜産学部の学部長ストッドを夕食に招待。ところがその日から不可解な事件が続き、大学あげての大騒ぎとなった!……シャンディ教授シリーズ第2弾にして、あたしがこのシリーズを買うキッカケとなった作品。だってカバー絵があまりにカワユイんだもの(笑)。
 今回の白眉は何と言ってもイデューナとベリンダだ! 前者はヘレンの友達、後者は畜産学部の豚なんだけど、ほとんど似たようなものだと言っても過言ではない(笑)。いいなあイデューナ(シャレか?)。イデューナとヘレンのくだりを読んでると、「ああ、あたしもちゃんと家事をやらなくちゃ」という妙に前向きな気持ちになってしまうのだ。
 事件の方も、豚の誘拐&殺人事件の二本立てを中心に、金銀強奪事件は起こるは競技大会を前にして妨害工作に遭うはイデューナとティムを何とかくっつけようとするはで、もう大騒ぎ。しかし、それらのドタバタにアハハと笑っていると、思わぬところでそれらがキレイに繋がることに驚かされる。無関係に見えた事柄が結びつくのがミステリの常道とは言え、これは見事だ。いや、よく考えれば分かるのかもしれないけれど、物語の面白さと人物の魅力のせいで、推理をしたり伏線を探したりなんていう気に全くならないのである。そんなことをするよりも、物語やキャラクタ達の中に浸っていたいのだ。これって、最高にして最強のミスディレクションではないだろうか。ベリンダがどこにいたかって……うわぁ、そうかあ! やられたぁ!   (00.6.22)   

ヴァイキング、ヴァイキング・シャーロット・マクラウド著・高田恵子訳(創元推理文庫)

 ホースフォール農場で起こった不幸な事故死。ところが、その近くでヴァイキングの遺跡と思しき石碑が見つかったため、これは呪いなのではないかという話になった。石碑を一目見ようと怒涛のごとく押し寄せる野次馬たち。こんな中で捜査なんてできるの?……シャンディ教授シリーズ第3弾。
 毎回毎回魅力的な新キャラが登場するこのシリーズだが、今回は新聞記者のクロンカイト・スウォープ、そして何といっても104才のヒルダ婆さんと102才のスヴェン爺さんだ! バラしてしまうけど、104才と102才の恋愛だぞ。102才の爺さんが104才の婆さんに向かって「かわいこちゃん」て呼ぶんだぞ。これで笑わずにいられる筈がないではないか。
 謎解きにはちょっとご都合主義も見え隠れして不満が残るんだけど、読後感は最高にいい。これ以上ないってくらいのハッピーエンド。中にも書かれてるけど「尾張名古屋は城でもつ」……じゃなかった、「終わりよければ全てよし」という言葉通りだ。なるほどそう来たか、てなもんである。ずっと分からなかった(騙されていた?)動機が解明されるとともに、全ての問題点が一気にクリアされるところなんか、実に気持ちがいいね。非常に爽快な一作。  (00.6.22)   

猫が死体を連れてきた・シャーロット・マクラウド著・高田恵子訳(創元推理文庫)

 下宿屋の女主人・ローマックス夫人は飼い猫のエドモンドがくわえて来たものを見てビックリ。これはアングレー教授のカツラじゃないか! 本人が気付く前にこっそり戻しておかなくては。しかし、その時アングレー教授は既に死亡していた。一方、ヴァラクラヴァ農大では学長のスヴェンソンが州議会選挙の陰謀に巻き込まれて……シャンディ教授シリーズ第4弾。
 被害者となったアングレー教授が最後に出席したヴァラクラヴァ・ソサエティの会合。しかしソサエティのメンバーは、特にアングレーに変わった点はなかったという。事故死で処理されかかった時、ローマックス夫人の観察眼と、葬儀屋グールソンの経験がモノを言った。
 このシリーズはどれも、大がかりな物理的トリックなんかは登場しないで、ホンの小さな矛盾や些細な手がかりからシャンディ教授が真相に辿り着くというパターンなんだけど、今回はそれにジェットコースターのようなスリルが加わったという感じ。なんせ事件が起こってから解決まで、一日経ってないんじゃないのか? 次々に関係者を尋問するシャンディ教授。いやぁ、解決編は圧巻でした。あれよあれよという間の急展開。「どうしてそれが分かったの?」というところが、やや弱い気がするんだけど、ドラマ性という点ではシリーズの中でもこれに勝るものはないだろう。これ、映画にすると見栄えがしそうだなぁ。あ、選挙用アジテーターを大学に送り込んだ対立候補の陰謀に対して、学生たちが事を納めるシーンもなかなかのミモノ。日本の大学じゃぁちょっと無理だろうな、という学生のフンイキがなんともいい味を出している。
 今回の白眉はオッターモール氏。警官の名前がオッターモールっていうのは、バークの短編【オッターモール氏の手】から来てるんだろうなあ、やっぱ。前回で葬儀屋グールマンが名を上げ、今回はオッターモール大活躍ということで、主要人物以外のレギュラー陣も、だんだん顔が見え始めた。今後が楽しみ。  (00.6.24)   

オオブタクサの呪い・シャーロット・マクラウド著・高田恵子訳(創元推理文庫)

 シャンディ教授シリーズ第5弾にして、番外編というか異色作というか遊んでるというか……なんと、イギリスへ出張中のシャンディ教授・ティモシー・ストッドの3人が、中世ウェールズにタイムスリップ! 魔法で吟遊詩人に変えられてしまったという王子に出会い、火を吹くグリフィンを探し、魔女と戦い、そして起こる殺人事件! わっはっは\(^o^)/
 あたしはもともと、ヒロイック・ファンタジーってえのはどうも苦手だったのだけど、いやこれは思いの外楽しめたぞ。吟唱詩人になったシャンディ教授、老師になったティモシーとストッド、なんだかどれもハマってて、それぞれの現世での特技もちゃんと活かせたりして。弓矢とかセッケンとかチーズトーストがこの世に登場したのは、この3人のせいだったというのが分かります(笑)。
 もちろんご都合主義もあるんだけど、それはミステリのご都合主義じゃなくてファンタジーのそれだから気にならない。なんだかミステリを読んでる感じはしなかったなぁ。けっこう手に汗を握りながら、シャンディ教授の冒険譚を堪能してしまいましたことよ。
 不満を言えば、今回はヘレンを初めとする女性陣の活躍がなかったことかな。こういうのも楽しいけれど、ヴァラクラヴァの町と、そこに住む女性陣が好きな身としては、やはり通常のパターンの方が落ちつける。  (00.6.24)   


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