じゃじゃ本ならし


泥棒はボガードを夢見る・ローレンス・ブロック著・田口俊樹訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)

 表の顔は古本屋、しかしてその正体は泥棒──というバーニィの店へ、魅力的な女性がやって来た。彼女はハンフリー・ボガードの大ファン。バーニィは彼女につきあって毎晩ボガードの映画に行くのだが……シリーズ7作目。
 楽しい会話は相変わらずなのだが、今回はバーニィがハンフリー・ボガードに影響されちゃってるために、「ボガードが乗り移ったバーニィ」が楽しめる。それにいちいち茶々を入れるキャロリンも楽しくて、クスクス笑いながらページをめくるうちに話が終わっているという始末。国際的陰謀(!)を扱いながら、このアットホームな雰囲気は何なんだろうなあ(笑)。
 もちろん泥棒であるからして、ちゃんと今回も盗みには入るし、それが後で大きな意味を持ってきたり、殺人が起こって例によってバーニィに疑いがかかったりもするんだけど、今回はもう、そのあたりはどうでもいい(いいのか?)。だって余りにも、登場人物の配置の仕方がご都合主義なんですもの。リアリティだの謎解きのカタルシスだのを求めちゃいけないのよ。そんな瑕疵なんか、小さい小さい(そうかぁ?)。小さいんだってば(ホントにそうか?)。だって、最大の魅力はキャラクタの魅力と会話の面白さなんだもの。
 今回、謎解きはバーニィの店でやるんだけど、その部分は圧巻。と言いつつ、いったいどれだけ広いんだバーニィの店は、てなもんである。その最中にも妙な客がやってきたりして、やはりこのシリーズはコメディなのだ。 (01.3.3)     

泥棒は野球カードを集める・ローレンス・ブロック著・田口俊樹訳(ハヤカワ・ポケットミステリ)

 表の顔は古本屋、しかしてその正体は泥棒──というバーニィの店が入っているビルの持ち主が変わった。そして家賃値上げの通達。しかし、今のままの条件で居座ることのできる方法があったのだ。それは、野球カードを盗むこと?!……シリーズ6作目。
 謎解きミステリとしての手応えよりもキャラクターの魅力や会話の面白さで成り立っているシリーズだが、その中にあって今回は謎解きも楽しめた。いかにも!という密室も登場。訳者あとがきによればその「密室も驚くほどではない」のだけれど(そんなことを訳者が書きますか普通)ヒントもちゃんとあって、でも魅力的で、真相はシンプルで分かりやすくて、こういうの好きだなぁ。「意外な犯人」もちゃんといたし、野球カードにまつわる一連の事件も最後はキレイにまとまったし。
 勿論、本格ミステリを読み慣れた人にとっては「驚くほどではない」トリックだし、人物配置もご都合主義だし、話の展開は簡単すぎるし、決して満足はいかないとは思うんだけど……このシリーズは謎解きを楽しむんではなく会話を楽しむんだと思って読んでると、「おおお、謎解きもちゃんとしてるじゃん」という当たり前のことに感動したりするものなのよ(笑)。
 相棒キャロリンは今回も絶好調で、蒐集狂という人達の描写についてもシニカル且つコミカルで、バーニィはいいように利用されつつもちゃっかり最後は笑ってるし。とにかく読んでて楽しく、読後感も最高。他の作品を読むのが楽しみになった。 (01.3.3)     

ifの迷宮・柄刀一(カッパノベルス)

 舞台は近未来。遺伝子診断で障害を持つことが分かった胎児は堕胎するのが半ば常識となっている時代。旧家でもあり、遺伝子医療や堕胎児の医療利用でも有名な宋門家で、殺人事件が起こった──遺伝子指紋で容疑者の特定が出来る時代に、データが出した結論は……犯人は死者?!
 これまで柄刀氏と言えば、三千年の何とかだの四千年のアレコレだの、とにかく過去に題材をとったものが多かったのだが、今回は近未来である。しかし、遺伝子を証拠として扱えるという設定が必要だったから近未来になっただけであって、それ以外は現代ミステリと何等変わらない。遺伝子だのゲノムだのDNAだのという言葉がやたら出てくるが、それも上手に説明してくれて(それも決して説明的でなく)読んでる方もすんなり受け入れられる。
 そして──とにもかくにも、謎がとびきり魅力的なのだ。だって、遺伝子指紋だのDNAだの、指紋以上に個人の特定が可能で確実な手段を駆使した結果が、「犯人は既に死んだ人」なんだぞ。どうやるんだ、どう始末をつけるんだ、と思っていたら──おおおおお、なるほど。そうか、そこに通じるわけね。そしてそれは、この物語が持っているテーマ自体にも通じるわけね。ああああ、すごい。膝を打つとか「あっ」と叫ぶとか、そういう驚きよりも……何と言うか、現れてきた真相に圧倒されるのだ。
 社会派チックな(或いはカッパノベルズっぽい)設定を作りながらも、本格ミステリ好きをドキドキさせるような密室もあるし、思わず「あああ、ここかぁ!」と叫んでしまうような細かい伏線がそりゃもうテンコモリである。「これが伏線だったのか! くーっ、やってくれるなぁ」と思わず感心するほどの伏線の妙は、やはり本格畑の作家なのだなぁという思いを強くする。
 そして最後には──百合絵の選択が、読者の胸を熱くする。百合絵の抱えている問題、そしてこの時代がはらんでいる社会的問題には何も解答が与えられないまま終わるのは消化不良だが、しかし簡単に答の出る問題ではないのもまた、事実である。答は未来にある。しかし、そんな答を、いや、そんな問題を持つような未来にしないことが何よりも大切なのだ。  (01.3.3)     

赤き死の炎馬〜奇蹟鑑定人ファイル1・霞流一(ハルキ文庫)

 超常現象が起こった時、それが詐欺やカルト宗教に悪用されないように、合理的に解きあかすのが仕事の「奇蹟鑑定人」。今回の仕事は岡山県の山村の民宿で起こったという「時空の歪み」である。ところが、その民宿に行ってみると──。
 わははは、いいなぁ。霞節全開である。いくら著者が岡山出身だからって、ここまで書いたら岡山県人は怒るぞ(笑)。羅馬駄(らばだ)村の駅についたら、フランスの名曲「男と女」が流れているのである。♪ラバラバダ〜、ラバラバダ〜。うわはははっ。おまけに村興しの祭りが乱馬駄──ランバダ。ひーっ、しょーもなー、と言いながら爆笑\(^o^)/。
 中で起きる事件ってのは、そりゃもう本格バリバリなんだけれど、あまりに荒唐無稽な真相なので腰が砕ける。いや、褒めてるのよ褒めてるんだってば。細かい仕掛けは、実に本格ミステリ好きの心をくすぐるものばかりなんだから。伏線もしっかりしてるし、膝を打つ箇所も多いし。ただ、別の演出で見せれば横溝正史ばりの、田舎の因習・怨念ドロドロの話になりそうなんだけど、この人が書くとどうしてこうも笑えるのかなぁ。
 もともとこの人は
「同じ墓のムジナ」でデビューした後、カニだのキツネだのをテーマにお笑いミステリを書いてきた人で、今回は馬、そして馬とくれば当然次作は鹿である。いやぁ、続けて欲しいなあ、このシリーズ。 (01.3.18)     

屍島〜奇蹟鑑定人ファイル2・霞流一(ハルキ文庫)

 超常現象が起こった時、それが詐欺やカルト宗教に悪用されないように、合理的に解きあかすのが仕事の「奇蹟鑑定人」。今回の仕事は兵庫県の離島で起こったという「木の股から鹿の首が生えた」という事件である。ところが、その島に行ってみると──。
 うわははは、笑うしかない。異形の動物がテーマなのに、いきなり遺伝子操作や外科手術でキメラ動物を作るのが趣味の医者とか、奇怪なオブジェを作るアーティストなんかが出てきて「そんなもん、コイツらが関わってるに決まっとるやんけ!」と本に向かってツッコミを入れてしまった(笑)。
 相変わらず謎解きは無理矢理で、トリックのためのトリック。鹿の正体なんて、おいおい偶然にしたってそりゃ無理があるだろう、てなもんである。中に散りばめられた事件にしたって、「なんでわざわざそんなことを」とツッコミたくて仕方ないんだけど、でも、それをワハハと笑って楽しめてしまうあたりが、この著者の持ち味なんだろうなあ。いや、実は「ほぉ」と感心してしまう仕掛けや真相もあるんだけど、お笑い風味にごまかされて、一緒に流してしまう。あああっ、この真相、井沢元彦とか鯨統一郎とかに書かせたいぞ!(笑)
 本格ミステリに期待する驚きだとかカタルシスだとか、そういうものとは違うんだけど、それでも読むのが楽しみになるシリーズだ。キャラクターの魅力、文章や会話や設定の魅力、力技のトリック。こういうのがあってもいいよね。 (01.3.18)     

明智光秀の密書・井沢元彦(光文社文庫)

 歴史を題材にとった短編集。手法もテーマも時代もけっこうバラバラ。……どういう主旨で編んだんですかねこれは。
【天正十二年のクローディアス】鍋島藩の有名な「葉隠」の欺瞞を暴く?! 歴史作家と編集者の会話で話が進むんだけど、これって結局「小説」じゃないよね。普通に歴史ノンフィクションまたはエッセイとして書いてもよかったのでは?
【修道士の首】信長が保護しているバテレン修道士が幽霊になって市井を騒がせている?──織田信長が謎を解く。
「織田信長推理帳〜修道士の首」(講談社文庫)のシリーズのうちの一作。
【明智光秀の密書】これ面白い! イチオシ! 織田信長を討った明智光秀は毛利に書状を送った。途中でその書状は羽柴秀吉の手に落ちる。しかし、その書状は暗号で書かれていたために読めない──うふふふ、好きだなぁこういう暗号モノは。著者のデビュー作を彷彿とさせる。
【賢者の復讐】栄華を欲しいままにした
【太閤の隠し金】大阪の陣の後、宮本武蔵が出会った豊臣の落ち武者。どこかに太閤の隠し金があるというのだが……うーん、こういう話はもっと文章にケレン味が欲しいなあ。
【暗殺】幕末の孝明帝死去の謎を解く勝海舟。話自体はさして目新しいものじゃないけど、ストーリーの流れつく先が巧い。
【怨の系譜】これも【天正十二年のクローディアス】同様、歴史作家と編集者の会話で語られる「名前論」の蘊蓄。とても面白い話なんだから、歴史ノンフィクションや評論、エッセイで書けばいいのに、どうしてこういう手法にしたのかなあ。
(01.3.21)     

天井のとらんぷ・泡坂妻夫(講談社文庫)

 奇術探偵・曽我佳城シリーズ。この著者のシリーズ探偵ものって、亜愛一郎もそうなんだけど、探偵はちょこっとしか出てこないんだよね(笑)。だからどうもシリーズという雰囲気が乏しいんだけど。
【天井のとらんぷ】天井にトランプを投げて留めるという妙な流行。流行の根本を突き止めようとした法界は、意外な事件の存在を知る。──ダイイングメッセージもの。しかし、この流行って、「てんとらぽん」に成功した時点でトランプゲームはできなくなるよなぁ。なんてもったいない。
【シンブルの味】これ、いわばこの手の常套手段なのに、ついうっかりとダマされてしまった。このシリーズは「奇術」それ自体がミスディレクションになってるから侮れない。
【空中朝顔】これ、曽我佳城は確かに出てくるけど、話そのものには全く関係ないのでは……(笑)。で、あの朝顔が咲いたからって、彼を信じていいかは分からないぞ。真の詐欺師は、それくらいの手間は惜しみませんもの。
【白いハンカチーフ】テレビのワイドショー。脚本形式の会話のみで構成された一編。実際のワイドショーに、ここまでおバカで勝手な司会者はいないと思うが(笑)、まぁそこはお約束ってことで。動機はかなりキビシイと思うけど、伏線の妙がある。
【バースディロープ】何が怪しい、どこが怪しいってのはすごく分かりやすく書かれてるんだけど、意外なところに伏線が張られていて脱帽。
【ビルチューブ】雪の山荘で起こった盗難事件──ミッシング・リンクもの。この短編集の中でイチオシ。無理もないし破綻もないし、動機も伏線も見事。ただ、ウナトットとカマトットはどうかな(笑)。
【消える銃弾】志賀直哉の小説を思い出したぞ。物理トリックなんだけど、ちょっと分かりにくい。それよりも佳城が犯人を限定する思考法に感心。
【カップと玉】商店街で起こった誘拐騒ぎ。その真相は──暗号がテーマ。しかし、この暗号は分かりにくい。ってゆーか、あれが暗号だなんて一般読者が分かりますかいな(笑)。
(01.3.22)     

神宿る手・宇神幸夫(講談社文庫)

 死んだと思われていた孤高の名ピアニスト、バローが生きていた。音楽業界は騒然とする。バロー本人の演奏というテープがスイスから届き、雑誌はこぞって特集を組む。そしてCDとして発売されるや否や、大評判となった。しかし──。
 ミステリというよりはクラシック音楽業界を描いた小説を書いたらミステリ仕立てになりました、という雰囲気。どっちかというとサスペンスかな。内容は──何だかもう盛り沢山である。事件(クラシック音楽業界に於いての事件、という意味)は次々と起こるし、謎の女は笑っちゃうくらい謎の女だし、恋愛問題まで絡んで来るし。登場人物も、脇役に至るまで細かく細かく人となりや個性が描かれていて、「こんな細かい設定まで決めて、この人、あとでメチャクチャ大事な存在になってくるんじゃなかろか?」と思わされるのだけれど、何ということもなく終わってしまったり(笑)。この超具体的な設定は何なのッ!(ただし、これは次作以降も続く話なので、これ一冊だけでは判断できないんだけどね)
 ことほど左様に、小説としては非情にぎこちなく、洗練されていないのだけれど、それでも中枢を流れる謎は非情に魅力的だ。いや、謎自体は謎でも何でもなく、けっこう簡単に分かってしまうのだけれど、その謎を巡る人々の色々な心情が興味深いのである。スキャンダルを巡る音楽業界の話も興味深いし、演奏を聴いて真贋を見分けるくだりはワクワクする。そして、最後のバローのセリフ。ストーリーは見え見えなんだけど、それでもキュンとしちゃうんだよなあ。
 これに始まる四部作。今後、どういう展開になるか楽しみである。 (01.3.23)     

消えたオーケストラ・宇神幸夫(講談社文庫)

 コンサート中のホールから、五十人のオーケストラが消えた? 前代未聞の誘拐劇には、意外な理由があった──。
 何はさておき、まず
「神宿る手」を読んでからこちらのページを開いて欲しい。だって、登場人物や舞台が同じというだけではなく、出てくる人々は軒並み「神宿る手」の事件を引きずってるし、こっちでで起こる事件も「神宿る手」に起因したものだし、何より、こちらの冒頭でいきなり「神宿る手」のストーリーを全部、最初から最後まで、思いきりネタバレで紹介しているのだよ。このストーリー紹介を読んだら「神宿る手」を読まなくてもオッケー、ってくらいに完璧なあらすじなのだ。
 で、とにかく白眉は《オーケストラの集団消失》に尽きる。コンサートの最中、演奏が中休みに入ったところで、ホールから突如消えてしまった五十人のオーケストラ。あんなに目立つ集団が、短時間でどこからどうやって抜け出したのか?──おおお、このトリックはなかなかではなかろうか。集団誘拐と言えば、西村京太郎氏の作品に多いが、こういうのは無かったような気がする。
 構成は洗練されてないし、話の流れもリズミカルとは言えないし、心情描写は類型的だし、島村夕子の思考回路は相変わらずワケ分からんし、犯人との対決シーンでの検事の思考回路も同じくらいワケ分からんし、ケチをつけようと思えばいくらでもつけられるのだけれど、この「人間消失」のトリックは、そのバックグラウンドとなる動機部分も含めて、実に素晴らしい。くーっ、分かってみれば、あれもコレも全部ヒントだったのよねぇ。「なんだか表現がこなれてないなぁ」とバカにして読んでたあたし自身がバカでした、ハイ。
 ただ、「犯罪の美学」みたいなセリフはこの話には使わない方がいいと思うなぁ。音楽という至高の芸術を扱ってるだけで「美」というのは全面に押し出されてるんだから、余分な「美」が入って来ると鬱陶しくて。企業陰謀小説としても優れてる分、妙な犯罪美学は雰囲気にそぐわない気がする。犯人はもっと普通でよかったのでは。ま、これも好みの問題ですが。
 ところで、途中から仙台に行った人はどうなったの? それが第3作で出てくるのかな? (01.3.27)     


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