じゃじゃ本ならし


球は転々宇宙間・赤瀬川隼(文春文庫)

 1983年、プロ野球はコミッショナー吹田氏は、今の12球団を解体して3リーグ18チームとする大改革を決意。新しい機構のシステムは簡単。一都市一チームとし、選手は出身地に近いチームに入るのである。「おらが国の野球」は、果たして巧く行くのか。今のままの金にモノを言わせた覇権を守りたい東京の某球団や、プロ野球から利権を得ている政治家が妨害工作に走る中、純粋な野球の楽しみを求めるコミッショナーの戦いが幕を開ける──。
 SF、と分類していいのではなかろうか。野球を愛する著者が、今の金にまみれたプロ野球はイヤだ、もっと純粋に野球を楽しみたいという思いで著した「もうひとつのプロ野球の物語」である。だから著者は、作中の新聞記者の口を借りて、野球に対する彼の思いを綴る。普通なら、そういうのは得てして著者の自己満足になりがちで、読者を置いてけぼりにすることが多いが、この作品は違う。そういう箇所も「こんな見方があるのか」という面白いエッセイとして楽しめるのだ。
 そして吹田コミッショナーが大英断を下し、少しずつ仲間を水面下で増やして活動を始めるあたりから、物語は俄然面白くなる。利権の横行するプロ野球界。横浜や所沢を入れれば6チームが首都圏に、4チームが大阪圏に集中している(小説の発表当時、ダイエーは南海でした)。地元に根付いた地方球団は広島と中日だけ。これを全解体して、日本各地に公平に「地元球団」を増やすべくチームを組み直そうというのだからスゴい。
 もちろん既存球団は反発する。だってプロ野球は「美味しい宣伝媒体」だから。特に強固に抵抗するのは勿論巨人だ。金にモノを言わせて全日本から優秀な選手をかき集める巨人にとって、「新人は地元球団に入団」などというシステムは許せないのである。果たして、戦いの火蓋は切って落とされた!
 とにかく、楽しい。古い本なので選手も昔の人ばかりだけど、「あ、そうか、中日の星野は倉敷出身だから岡山モモタローズに行っちゃうのね」「ひえ〜〜、東北には落合、中畑がいるのか。え、阪急の山田も東北かあ。今なら佐々木もここだよな。強そうだなあ」などと考えながら読むと、5倍は楽しい。長嶋は「千葉フィッシャーメン」の監督になって相変わらずワケの分からないことを行ってるし、福岡ドンタクスの監督が稲尾というのは、今のマスターズリーグを予言してるような設定だ。
 とにかく楽しい! ワクワクする野球小説。野球好きは必見だよ。そしてホントは「俺は野球ファンなんじゃなくて巨人ファンなんだ」というような人にも読んで欲しい一冊なのだけど。 (01.12.23)   

大問題'95・いしいひさいち/峯正澄(創元ライブラリ)

 前年にあった出来事を、鬼才・いしいひさいちのマンガと峯正澄の用語解説コラムでまとめた、マンガ版一年の総括、である。戦後史開封とか、社会風俗年表などの本も出てるが、実はこのシリーズが一番的を射ている気がするのはあたしだけだろうか。
 この巻には、1994年に起こった出来事がまとめられている。用語解説コラムのタイトルから幾つかピックアップすると、まず政治では【細川内閣】【自社さ連立】【新進党】など。国際・経済では【コメ】【就職氷河期】など。スポーツでは【FA制度】【イチロー】【ハーディング】など。社会・芸能では【サリン】【すったもんだがありました】【同情するなら金をくれ】など。
 数年後にこれを読むと、勘違いしそうになる。【イチロー】というのは、シアトルマリナーズでの大活躍ではなく、オリックスで急に脚光を浴びた時の話なのだ。【サリン】というのも地下鉄ではなく、松本サリンである。【就職氷河期】は今でも続いているが、言葉が定着するくらい問題になったのはこの年である。こうしてみると、後年もっと問題が大きくなる出来事の芽が、この年にあったのだなあ。よしにつけ悪しきにつけ。そうそう、【ハーディング】って分かる? リレハンメルオリンピックでライバルのケリガンを殴らせたというスキャンダルを起こしたアメリカのスケート選手。う〜ん、すっかり忘れてたぞそんな事件。
 いしいひさいちのマンガでは、とにかく【FA制度】のくだりが秀逸。これを読むと、この制度がいかに巨人のためにある制度かが分かるわ。 (01.12.27)
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大問題'96・いしいひさいち/峯正澄(創元ライブラリ)

 この巻には、1995年に起こった出来事がまとめられている。1995年と言えば、何の資料を見ずとも浮かんでくる二大事件がある。阪神大震災と、地下鉄サリンに端を発するオウム真理教問題である。でも、それ以外に何があったかと言われると何も出てこないのがこの年なのだ。
 用語解説コラムのタイトルから幾つかピックアップすると、まず政治では【阪神淡路大震災】【タレント知事】【橋龍】など。国際・経済では【エリツィン入院】【乱脈融資】など。スポーツでは【NOMO】【がんばろうKOBE】【よっしゃあ】など。社会・芸能では【ボランティア】【地下鉄サリン事件】【ああ言えば上祐】【セアカゴゲグモ】【もんじゅ】など。
 ああ、野茂が大リーグへ行った年だったのね。【がんばろうKOBE】については峯正澄氏のコラムが秀逸。あの震災で被害が大きかったのはオリックスよりも阪神だったのに、がんばろうKOBEの文字を袖に入れてシーズンを戦ったオリックスは優勝し、阪神は最下位だった。こういうあたりに企業スタイルというものがはっきり出るのだ。【よっしゃあ】というのは、ドラフトでPLの福留孝介を引き当てた近鉄の佐々木監督が思わず叫んだ一言。結局福留にはふられたけどね(笑)。福留は三年後に無事ドラゴンズに入り、活躍してくれてますありがとう。
 阪神大震災で、田舎の村の村長だったらどんなにいい村長になっていただろうと思わせる村山首相の弱点が浮彫になった。しょーがないわな、そういうキャラじゃないんだから。結局「最も運の悪かった総理」ということになるわけだが。そこで急浮上したのが【橋龍】だったが、いしいひさいちのマンガではポマード頭がヤケに可愛くて笑えます。
 しかし、震災にサリンにもんじゅ……アカルイ話題はスポーツだけだったのね。 (01.12.27)
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大問題'97・いしいひさいち/峯正澄(創元ライブラリ)

 この巻には、1996年に起こった出来事がまとめられている。この年はとにかくオウム問題の余波というか後始末というか。そして阪神大震災から1年たって、しばらく静かだった政界がぞろぞろと動き出したという印象がある。そしてオリンピック、かな。
 用語解説コラムのタイトルから幾つかピックアップすると、まず政治では【橋本政権】【住専問題】【菅直人】【官官接待】など。国際・経済では【ロシア大統領選】【クリントン再選】など。スポーツでは【メークドラマ】【アトランタ五輪】など。社会・芸能では【破防法】【TBSビデオ問題】【薬害エイズ】【O-157】【チョベリバ】など。
 【菅直人】が俄然人気を博した年。なんせ【薬害エイズ】について厚生省の非を認めちゃったんだからスゴイ。悪いことをしたら隠さずに謝りましょう、という幼稚園で習うような指導を官僚に対してやっちゃったんだもんなあ。菅さんのあとで厚生大臣になったのは現首相の小泉氏だったのだけれど、ハンセン氏病訴訟での控訴断念なんかを見てると、この時の菅さんを思い出すんだよね。菅さんは、この時期に政権を取っていれば間違いなく総理になったろうに、タイミングを逸しちゃったなあ。
 悪いことをしたら隠さずに謝りましょう、というのが度をはずして変な方向に行っちゃったのが【TBSビデオ問題】である。この問題が報道されて、もう言い逃れができないとTBSが悟った時、TBSの全報道番組でキャスターが謝罪したのである。筑紫哲也や渡辺真理が謝る理由がどこにあるというのか。悪いのは会社ではなく、関わった個人である。会社というのは個人の集まりまのだ。 (01.12.27)
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大問題'98・いしいひさいち/峯正澄(創元ライブラリ)

 この巻には、1997年に起こった出来事がまとめられている。前年の年末から年を越したペルーの日本大使公邸占拠事件。そんなニュースを見ながら、おせちを食べお雑煮を食べて迎えた97年の正月であった。
 用語解説コラムのタイトルから幾つかピックアップすると、まず政治では【太陽党】【佐藤孝行】など。国際・経済では【青木盛久前ペルー大使】【香港返還】【オレンジ共済】など。スポーツでは【伊良部秀輝】【岡田ジャパン】など。社会・芸能では【ナホトカ号】【たまごっち】【透明な存在】【臓器移植法】【火星探査機】【ダイアナ】など。
 社会・芸能の【透明な存在】というのが何のことか分からないだろう。これは、酒鬼薔薇聖斗事件のことを言っているのだ。この章のコラムは秀逸。十四才の少年犯罪を伝える警察署前に集まった、同世代の少年少女たち。アナウンサーの後ろでブイサインを出したり、はしゃいだり、携帯電話をかけたりする。悲しくも、淋しい光景を日本中が目の当たりにした。そして犯人の少年の顔写真を掲載したFOCUS。それを買った人達。そのページをコピーして高値で売った人たち。それを買った人達。【ダイアナ】の死に関わった「パパラッチ」という職業の存在を知った時も同じ気持ちになった。と同時に、加害者人権保護ばかりが叫ばれ、被害者のプライバシーは垂れ流しになる事実。
 場を弁えない好奇心、覗き見趣味、人の不幸を肴にする発想。これほど気持ちが暗澹とするものは、他にない。 (01.12.27)
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大問題2000・いしいひさいち/峯正澄(創元ライブラリ)

 この巻には、1999年に起こった出来事がまとめられている。あれ、どうして1年トバしちゃったんだろう。そっちの方が大問題だぞ。だって買い忘れてたんだもん。まぁいいか。
 用語解説コラムのタイトルから幾つかピックアップすると、まず政治では【自自公】【セクハラ知事】【日の丸・君が代】【地域振興券】【ブッチホン】など。国際・経済では【コソボ】【ユーロ】など。スポーツでは【リベンジ】【フリューゲルス】【IOC疑惑】【ダイエー日本一】など。社会・芸能では【脳死移植】【介護保険】【2000年問題】【臨界事故】【てるくはのる】など。
 ちょっと一言言いたいゾ。1999年なのである。中日優勝の年なのである。それなのに、中日ドラゴンズ優勝に触れたマンガがひとつもないってのはどういうワケだコラ。そんなに地味だったか。そんなに話題性がなかったか。う〜ん、優勝決定の直前に臨界事故があったりして、報道は全部そっちに行っちゃったしなあ。スター選手もいなかったしなあ。星野の乱闘も少なかったしなあ。でも一個くらいあってもいいんじゃないのかコラ。
 コラムを是非読んで欲しいのは【脳死移植】の項。最初の臓器移植は、マスコミが患者の「死」を待ちかまえるという、反吐が出るような報道を見せつけられた。「まだ死なないのか」と言わんばかりの報道に、こんなふうに遺族が扱われるのならドナーカードは持ちたくないなどという、お門違いの発想をしてしまったくらいだ。 (01.12.27)
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終業式・姫野カオルコ(新潮文庫)

 すべてが書簡で構成された物語。女子高校生二人の交換ノートから話は始まる。どこにでもあるような、女の子どうしの交換ノート。友だちのうわさ話、教師の悪口、気になってる男の子の話、嫌いなクラスメートの悪口。その合間合間に挿入される、他の人物の手紙やメモ。ラブレターや、出せない手紙。そして彼女たちは高校を卒業し、大学へ進み、就職して、それぞれの場所で新たな出逢いを経験する。それも全て、手紙やメモ、ファクスだけで構成されているのだ。すべての(それもけっこうな数の)登場人物は、常にその人が書いた手紙で表現される。高校時代から三十代までの二十年の年月を、手紙だけで綴った叙情詩である。
 高校時代は、恥ずかしくも懐かしい。淡い恋心、カッコつけたラブレター。友だちにも言えない気持ちを、ラジオのDJに書き送る。バレンタインに忍ばせた手紙。そんな恋や友情がどうなるかも、すべて手紙が物語ってくれる。告白したのか、うまくいったのか、手紙に書かれていない事実は知りようがない。読者に説明するための手紙ではなく、本当に相手に分かればいいだけの手紙だから、読者にはわからない「あのこと」「あのとき」などという言葉が頻出する。しかし、少し後の手紙に、初めてのKISSが──などと書かれていて、読者は初めて「あ、この二人付き合い出したんだ!」と知るのである。
 大学時代。就職。さまざまな出逢いと別れを繰り返し、個々に事件も経て、登場人物達はそれぞれの伴侶を見つける。そして……。
 なんていうんだろうなあ、切ない、のだ。滲みる、のだ。登場人物たちが自分と同世代だというせいも勿論あるだろう。でもそれ以上に、ただ、4〜5人のメインの人物が書いた色々な手紙やファックスを並べるだけで、これだけの物語になってしまうという事実に圧倒される。手紙の向こうに見える彼らの恋愛や出逢いや別れが、はっきりと書かれていないにも関わらず、手に取るように見えるのだ。説明的でない、本当に「私信」を並べただけの物語。それでも、それが個々の人物をはっきりと浮彫にし、読者を掴む。
 これは、すごい作品だ。そして、心に滲みる、恥ずかしさや懐かしさや嬉しさなどがないまぜになった、切なくも暖かい傑作だ。そして最高のハッピーエンドが待っている。読後感は最高! 三十代の女性、これは読まねばいけませんよ。 (01.12.28) 
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