ハードボイルド・エッグ・荻原浩(双葉社)
私は探偵になるために生まれてきた。三十三になる今でも、そう信じている。敬愛するのはフリップ・マーロウ。危険な犯罪捜査も辞さないタフな私立探偵だ。けれど、持ち込まれる依頼と来たら……。私は決意した。そうだ。秘書を雇おう。ハードボイルドな私立探偵にはつきものの、ナイスバディでセクシーな秘書を。で、秘書募集の貼り紙を見て電話をかけてきたのが片桐綾だった──。
2000年、春。俺は10年ぶりに、十代最後の1年を過ごした予備校の寮へと足を踏み入れた。同じ寮の仲間であり、今は仕事のつきあいもあるヨージと一緒に。ところが、そこでヨージから「リュータが死んだって噂、知ってるか」と訊かれた。リュータも俺たち寮の仲間の一人で、特に親しくしていたメンバーだ。その噂の真相を確かめるべく、俺は当時の寮の仲間に連絡をとった──。
夏の最後の薔薇・連城三紀彦(文藝春秋)
大人の恋愛をテーマに綴る短編集。家庭のある者の恋愛、と言い換えてもいいかもしれない。恋愛小説集ではあるけれど、そこは連城三紀彦だ。叙情的にしてリアルなエピソードと、サプライズ・エンディングが、個々の作品をピリっと引き締めている。
スペイン子連れ留学・小西章子(新潮文庫)
もう一度スペインに行きたい、スペインに留学したい──熱い思いを抑えきれず、マドリードに留学を決めた著者。夫を日本に残し、幼い娘3人を連れての子連れ留学だ。周囲に侃々諤々の議論を呼びつつ、夫の理解に支えられて、いざスペイン! 果たして子供は異国に馴染んでくれるのか──?
「Think」は猫の名前。ある時期からThinkは、夜にふらりと出ていったかと思うと、妙なものを持ち帰るようになった。青い16個のボタン、羽、何かの包装紙の切れ端、釘、上戸、メモの切れ端、プリズム……これはいったい、何? 彼はどこに行ってるの? 私と円田さんは「探偵団」を結成し、その謎の答を想像した。推理ではなく、空想を……。
音ちゃんと円田さんのミルリトン探偵局の2冊目。今回もThinkが拾ってくる様々なものからステキな物語が紡がれるという体裁は同じなのだけれど──今度は、その《物語》の方にかなり重点が置かれている。
考える水、その他の石・宮沢章夫(同文書院)
とぼけた味わいのお笑いエッセイを書かせたらとっても面白い著者だが、本業は劇作家であり演出家である。その著者が、80年代にあちこちに書いた演劇評論集を集めたもの。第1章はまだ、一般的なエッセイが中心だが、2章3章は、当時のアングラ劇団の観劇評や演劇界そのものに対する評論ばかりなので、演劇に興味のない身としては、かなり理解に苦労する。でも、これは演劇をやってるひとには、随分刺激的なんじゃないかな、と素人感覚では感じるんだけど。
もう、大御所という言葉が相応しい位置に座ってしまった著者だが、今の本格ムーブメントの中にあって、この世代の或いは時代のミステリ作家というのは、どうも若い読者に馴染みがないような気がする。もったいないよ、こういうビッグネームを知らないのは。
異次元カフェテラス・松尾由美(光風舎出版アルゴ文庫)
いまやバルーン・タウンのシリーズでミステリファンの耳目を集める著者だが、1989年に出版された長編デビュー作が、これ。
三十代にして、とある事情からホームレスになってしまった男。彼は、食べ物を求めてさまよっている時、火災を発見、通報する。ところが焼け跡から発見された死体には、他殺の痕跡があった。折しも町内で連続して起きていた殺人事件との関係も気になり、図書館で新聞を読んでいた男は、ある少年と出会う。その少年は、男がホームレスになる前、ある事件で出会ったことのある少年だった──。
ぶわっはっはっは\(^o^)/
いやもう、なんというか……読み始めて数ページで「ぐわはは」と笑うこと請け合いだ。お約束と言えばお約束の設定なのだけれど、実に小ネタが聞いてて笑わせてくれる。あたし自身は、例えコメディ用にデフォルメされたキャラであろうと「勘違い野郎」や「人の話に聞く耳を持たないワガママなヤツ」ってのには腹が立つクチなので、最初はちょっと抵抗があったのよね。でも、そのあたしをして次第にストーリーに引きずり込むあたりは、著者の手腕に負けたとしか言いようがない。
最初はショボい話だったのが、「私」と綾が訪れた私設動物園で、動物に殺されたらしい人間の死体が発見されてからは一気呵成。マスコミのバッシングを受ける私設動物園の夫婦は「私」の友人でもある、なんとか助けたいが……。思わぬところで話が繋がる意外性と、手に汗握るクライマックス、そして──泣かせます。キャラクターも一人一人が魅力的。ホームレスのゲンさんなんて、いい味出してるし。
総じてエンターテインメントというか、サービス精神旺盛で逆に類型的になってるキライはあるんだけれど、それでも収まるべきところに話が収まる安心感とカタルシスがある。いやいや、どうしてなかなか、《真相》も《手がかり》も、ドラマティックで「あっ」と言わせてくれますよ。コメディという前提で読み始めたので、あまり最初は気にしてなかったのだけれど、終盤になってからの《伏線を拾い集める作業》はなかなかに秀逸。人情モノ的な仕上がりになってるせいでサスペンスの印象は薄れるけれど、それがなんだかもったいないくらいだ。
ライトな乗りでサクサク読める。でも、新味はないが、その実はなかなかに人情派ハードボイルド。ドラマになると面白そうな話だな。
(02.8.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
風に桜の舞う道で・竹内真(中央公論新社)
旧友の安否を確かめるために、当時の仲間と連絡をとる2000年と、寮にいた当時・1990年の1年間が交互に語られる。入寮して真っ先に友人になったヨージとリュータ。男子校から共学の予備校に来て「俺は童貞を捨てる」と宣言するニーヤン。東大一直線の吉村さんに、やたらと占いに頼るダイ。寮の庭で猫を飼っていたタモツ、不良高校生にカツアゲされたゴロー……。
そんな連中に連絡をとり、逢ってみれば、それぞれが「予想通り」の仕事についていたり、「まったく意外な」方向に進んでいたり。東大から大蔵省官僚の道に進んだ者もいれば、既に二児の父になった者もいる。そんな彼らの「今」と「10年前」が交互に語られるこの構成は、実に効果的に、自分の「あのころと今」を甦らせてくれるのである。
体裁は、リュータの消息探しだが、実態は《自分探し》の物語である。と言っても、主人公の自分探しは10年前に一応の決着を見ているのだ。じゃあ、自分探しをするのは誰なのか。他ならない、読者である。10年前、19才のときに同じ屋根の下に暮らし、酒を飲み煙草を吸い、勉強してケンカした同期の桜。同じ場所にいた彼らは、十年という歳月の後に、まったく違った場所にいる。しかしそれでも、自分たちが十年前にそこにいたという歴史はしっかりと踏まえ、変わるべきところは変わり、変わらぬところはそのままで──物語は問いかける。おまえは、どうだ?と。19才のおまえは、今のおまえは、どうだ?と。
若くて、熱くて、そして何にでもなれたあの頃。何がいいって、この話は「あの頃は良かった」というだけの話ではないのだ。今だって、若く──はないかもしれないが、それでも、まだ充分に熱くて、そして何にでもなれるのだ。
爽快にして、暖かい読後感。元気が出て、やる気が出て、そして古い友だちに電話でもしてみたくなる、そんな一冊。
(02.8.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》
不倫の話と言えば、主要人物は普通は3人だ。しかし、話の主人公になる二人(不倫してる二人か、或いは不倫してる当人とその配偶者か)以外のもう一人は、記号的に済ませる小説が多いのではないだろうか。時には「自分が幸せになるための邪魔者」だとか「自分の家族を奪う憎い相手」としての、主人公の目を通した役割しか与えられない小説が多い。ところが、この連城作品は、不倫に走った側も走られた側も決してなおざりにせず、それぞれを、血の通った、感情も理性も歴史もある一人の人間として描く。だからこそ、のっぺらぼうに「妻」と書かれたような書き割りのキャラではなく、名前と思いを持った人間として浮かびあがるのだ。
中でもお薦めは表題作【夏の最後の薔薇】。夫の浮気に腹を立て家を飛び出した妻が、若い男性にナンパされるという話。しかし、その話は思わぬ方向に流れる。家に帰った妻が、その日の出来事を夫に話して聞かせるのだ。彼女をナンパした若い男性が本当は何だったのか……。ミステリーのアンソロジーに入れてもいいような、サプライズとカタルシス。
【仮橋】も素晴らしい短編だ。病気で死にゆく妻が「病院の先生を好きになった、私は病気が治ったら、あの人と暮らす」と夫に宣言する物語。夫は、死期の近い妻のために、その医師のもとに妻からのラブレターを届ける……。
迸る感情や爆発する思いが直截に描かれているわけではない。ただ、日々の行動のちょっとしたところに見せる、大人の男女の恋愛。それは密やかで、時として暖かく、そして深いものなのだ。しっとりと心を包み込むような佳作集である。
(02.8.15)《この本の詳細情報&注文画面へ》
中にフランコ総統死亡の話が出てくるので、彼女の子連れ留学は1975年だと分かる。あの時代に、夫を残して子連れで留学だなんて……すごいなあ。
スペインでの家探し、日本とはまったく違う生活習慣──食事の時間や回数からして違うのだ──近所のひとたちとの触れ合い、そしてスペイン料理。文章を読んでるだけで、スペインの「太陽が6つもある」かのような熱い日差しを感じてしまう。何より、スペイン料理の美味しそうなことといったら! 後書きにはレシピまでつけてくれるという親切さ。にんにくのスープは是非とも作ってみなくては。
市井の生活そのものは非常によく分かり、興味深い。ただ、個人的な好みで言うなら、もうちょっと硬派な話があっても良かったなあ。著者の留学中に、フランコが死亡し、40年近い独裁政治に終止符が打たれ、ドン・ファン・カルロスが国家元首となる。ただ、その頃の町の様子には触れているものの、政治的・社会的・歴史的にもうちょっとツッコンで欲しかった──と思うのは、エッセイの主旨にはずれるのかな。そんな歴史的な日にスペインにいながら、なんともアッサリ流されてしまったのは少々残念。ま、別にスペイン社会のルポに行ったわけじゃないから仕方ないんだけど。
それと、こういうエッセイにありがちなのだけれど、日本の子供とスペインの子供(とその環境)を比べて、日本をやたらと憂うあたりが気になった。確かに、テレビ漬けで勉強に追われる日本の子供よりも、泥んこになって転げ回るスペインの子の方が良いように思えるけど、著者が留学した1975年なら、まだまだ日本の田舎は「スペインみたい」なところがたくさんあった筈。それに、当時のスペインには浮浪児も多く、その福祉体制は決して完全じゃなかったと聞いた記憶がある。ホントはそういう闇の部分も書いて欲しかったのだけど。
(02.8.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》(絶版)
Think 夜に猫が身をひそめるところ〜ミルリトン探偵局シリーズ1・吉田音(筑摩書房)
あのクラフト・エヴィング商會の娘にして4代目(になるのか?)、吉田音の第1作。奥付を見てビックリ! 1986年生まれですってぇ?! この本が上梓された1999年には、13才! うっそお!
──まあ、本は多分にクラフト・エヴィング商會の手が入っていて、もちろん中学生の女の子ひとりで書いたわけじゃないだろうけれど……それにしても、「うっそお!」である。このノスタルジィ、この文章、この構成、そしてこのファンタジックなお話たち。13才の作品だとは、とてもとても。いや、ちょっと待てよ。なんせクラフト・エヴィング商會だもんねえ。音ちゃんと探偵局を立ち上げる「円田さん」って、確か「クラウド・コレクター」に出てきたし……吉田音って、実在するかどうかも疑問に思えてきたぞ。
それはともかく。
黒猫Thinkが拾ってきた妙なものたち、それを見て勝手な空想を広げる円田さん。《現実》の章のあとには、《推理》の章が来る。いやいや、《推理》じゃなくて《空想》か、それとも《ファンタジー》か、はたまた《事実》か? クラフト・エヴィング商會ならではの不思議な物語なのだが、しかしそこには「手がかりが論理的に結びついて意外な絵を見せてくれる」という快感が、確かにある。しかしそれだけではなく、ノスタルジックで、ちょっと切なくて、どことなくおかしみがあって、童話みたいで──とにかく、ステキ、なのだ。
大きく分けて3部構成になっているこの《推理ではなく空想の物語》、どうか美味しいお菓子でもつまむつもりでご賞味下さい。最初は、どういう話なのかわからないで戸惑うかもしれないけれど、【猫だけが行ける場所】と【久助】を続けて読んだ時点で、この本の趣向が腑に落ちますから。腑に落ちると同時に、「うわあ、巧い、ステキ!」と唸ってしまうこと請け合いですよ。
(02.8.30)《この本の詳細情報&注文画面へ》
Bolero 世界で一番幸せな屋上〜ミルリトン探偵局シリーズ2・吉田音(筑摩書房)
Thinkが今回拾ってくるのはメモの切れ端とか、チョコレートの包み紙とか。で──ああ困った、何を言っても興を削いでしまいそうな気がする。別にミステリじゃないんだから(いや、多分にミステリ的要素はあるのだけれど)ネタバレなんか構わないような気もするのだが、それでもやっぱり、初読のときの「ああ、ここに繋がるのか!」という驚きは、まっさらな状態で味わって欲しいのよね。困った。何も書けないではないか。
繰り返しになるけれど、今回の白眉は《推理ではなく空想の物語》の各章だ。それぞれの章が充分に素晴らしいのだけれど、通して読むと、そこには一段上の「良さ」が演出される。Thinkが現れる《もうひとつの世界》がはっきりと描かれる。過去、あるいはパラレルワールドを思わせるような、まろやかなファンタジーのような物語。でも、そこに登場するのは、とってもステキな人々の、甘酸っぱくてリアルな物語。音ちゃんと円田さんは、Thinkが訪れているそんな世界のことはつゆ知らずに、ああだこうだとお喋りしながら毎日を過ごす。
読み終わった時には、タイトルの「世界で一番幸せな屋上」というのが、くっきりした映像を伴って眼前に広がるのである。古いビルの屋上。夜明け。屋上から見る東の空は、瑠璃色に染まる。涼しい風──そして、そこに仲間がいるのだ。何を話すでもなく、仕事終わりの気怠い体で、風に吹かれながら瑠璃色の空を眺める……ファンタスティック!
とにかく、ステキなんだから。こんな下手な説明じゃあ、魅力の百万分の1も伝えられない。「これがこう繋がるのか!」という驚きは日常の謎系本格ミステリを彷彿とさせる緻密さだし、ちょっと笑ってしまうような妙な解釈もあったり(まさか、単なるスパイスの名前がああいうふうに読まれるなんて!)。
尚、先に「Think 夜に猫が身をひそめるところ〜ミルリトン探偵局シリーズ1」を読んでおいた方が、設定が分かりやすいと思います。話の内容からは、別にどっちが先でもいいのだけれど。
(02.8.30)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ということで、第1章に特化して感想を書くとしよう。
一般的なエッセイが中心とは言っても、そこはやはり演劇人なので、サブカルチャーの話題が多い。そこに描かれている内容からして「ああ、80年代!」というのが強く思い出されるのよね。「ネアカ」と「ネクラ」で二分されるパーソナリティ。「気持ちいい」という価値基準が認知され、吉本新喜劇がブームになり、赤塚不二夫が見直される。そういう時代を、著者特有の文体で軽やかに、しかし哲学的に斬っていく。
と同時に、昨今のオトボケエッセイと同じ様な文章も多い。冒頭の「話すことの快楽」を読んだときには、「なんだ、10年以上前の本だって言っても、今とまったく変わってないじゃん」と思えるくらいの、「日常のオトボケ」をおもしろおかしく書いてくれている。それ以外にも、今と殆ど変わらない味わいのエッセイは多い。
しかし、そのどれもが、今のエッセイよりも《一歩深く説明している》のだ。そのせいで、オトボケエッセイに込められた《哲学的命題》がはっきりと浮かび上がって来る。
現在の著者の文体というのは、当時の文体から《一歩踏み込ませる部分》をどんどん削ぎ落としたものなのだ。それに気づかされたとき、現在の著者のエッセイ集を読んで、ただ笑っていた自分を省みてしまう。あのオトボケエッセイの《一歩踏み込んだ哲学》を感じとれなかったってのは、まだまだ読解力不足なのだなあ。
(02.9.3)《この本の詳細情報&注文画面へ》
夏樹静子のゴールデン12・夏樹静子(文春文庫)
この本の「ゴールデン12(ダズン)」というタイトルは、著者が親交のあったエラリー・クイーンに倣ったもの。自選ベスト短編集である。トリック主導の謎解きミステリからサスペンス、ブラック、トラベル、リーガルなどなど、常にミステリ界の第一人者として歩いた来た著者ならではの幅の広さと奥行きの深さ。巻末に収められた鼎談で述べられた「シリーズ探偵を持たない理由」「推理作家としての理念」などは一読に値する。これだけの年数、一定レベル以上のモノを書き続けて来た人ならではの重みだ。
また、鼎談での言葉を借りるなら、《人生を感じさせないミステリーは読む気がしない》という読者にこそ、自信を持って薦められる佳作集。
謎解きの妙味を味わえるのは、【一億円は安すぎる】【足の裏】【二つの真実】【懸賞】【宅配便の女】など。【足の裏】は英訳されてEQMMに掲載され、1982年にヨーロッパで最優秀短編に選ばれたという名作です。また、サプライズエンディングはもちろんのこと、心理サスペンスとしても秀逸な【死ぬより辛い】【カビ】【一瞬の魔】【罪深き血】。トラベルでもあり、ラストが秀逸なブラックユーモアになっている【特急夕月】。人の心の機微や情感、情緒といったものが遺憾なく描かれている【逃亡者】【凍え】。どこから食べても美味しい幕の内のような短編集。お好きなモノを、どうぞ。
(02.9.4)《この本の詳細情報&注文画面へ》
了子とエマと和明は、高校の同級生三人組。放課後によく寄る喫茶店「EASY」は、日によって違った傾向の音楽がかかっており、それに併せてマスターのファッションも変わるという、ちょっと──いや、かなり変わったマスターや、個性的なお客さんが集まる居心地の良い店だ。ところが、ある日、その店に、奇妙な外人がやって来た。その外人は、美少女・エマを見つけると、あるゲームを持ちかけた……。
もう、バリバリのヤングアダルトです。高校生の女の子・了子の一人称は「あたし」。最初の方で自己紹介や友だちの紹介があったり、地の文でつっこんだり。「自分に自信のないオンナノコの健気な頑張り」と「毅然とした強い美少女」というヤングアダルト2大キャラもちゃんと網羅されて。80年代のコバルト文庫で確立された《オンナノコ向けヤングアダルト》の手法がきっちり浸透してて、もう、懐かしいこと懐かしいこと(笑)。
話の核になるのは、二つ。ひとつは、謎の外人が持ちかけたゲームの行方とその真意。もうひとつは、謎めいたマスターの正体。それぞれに話は面白いのだけれど、リンクが今ひとつ掴めないのよねえ。ゲームの方はとってもエキサイティングで、細かい部分まで行き届いてて楽しめたのだけれど、その分、マスターの謎めいた感じが途中で薄れてしまうのだ。最初の頃に「失踪事件」があって、妙な解決のされ方でひっかかってはいたんだけれど、話がそれからゲームの方に移ってしまい、その間、マスターの方はなおざりにされちゃうのだ。だから、最後の展開は、読者としては少々唐突さが否めない。「それが、あの外人とどう関わってたわけ?」「それなら、あの外人が動いてるときに、マスターがなんか行動してもいいんじゃないの?」と思えてしまうのよね。
ま、一番の不満は、「こんな終わり方したら、続編はできないじゃん!」ってことなんですが(笑)。これって、長い長いシリーズモノの中の一話って感じがするんだもの。どうもこれだけじゃ食い足りない。
そうそう、これを忘れちゃいけない。全編に流れる、ロックの数々。ああ、「ブラックエンジェル」の原点は、こんなところにあったのね!
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償い・矢口敦子(幻冬舎)
感想の前に、どうしても一言、言いたい。この帯の惹句はダメだよおお! 《真相》に触れなきゃ何書いてもいいってことはないでしょうが。そりゃ、ネタバレとは言えないかも知れないけれど、もう、物語も終盤に差し掛かってから主人公が気づく「可能性」あるいは「推理」を、帯でバラしちゃってるのだ。そりゃないよ、である。なので、これを今から読む人は、帯には一切目をくれず、帯の表も裏も何も見ずに、買ったらすぐに帯をはずして隠してしまおう。じゃないと、面白味8割ダウンします。ほんとにもう。
さて、本題。
テーマは、《魂の救済》。「自分が悪い」「償わなくちゃならない」という自責の念に駆られて日々を過ごしている人物の、自分との戦いである。しかし、読み進んでいくうちに、《魂の救済》は主人公だけの問題ではないのだということに気づかされる。罪の意識からホームレスになってしまった主人公は、まだ分かりやすい。しかし、ここに登場する何らかの人々が、それぞれ異なった種類の「罪の意識」「贖罪願望」を抱えているのだ。その発露はさまざまで、それが殺人事件へと転嫁されていく仮定は、悲しく、切ない。
少年のキャラクターが少々掴みにくいのだけれど(あの「能力」は、どう理解すればいいんだろうなあ──少年の思いこみであれ事実であれ、少年がそうだと思ってしまったこと自体が問題なんだから、いいのか)、主人公と少年の関わり合いの変化は、ページをめくる手を休ませてくれない。途中「あ、これって、まさか!」と思わせる出来事を契機にして、ガラリと変わっていく二人の関係が見所だ。
謎解きミステリとしては、フェアとは言えない。しかし、「罪悪感」とは何か、「責任」とは何かという問題を、不可能興味の連続殺人事件に絡めて展開させる手腕は見事だ。真犯人も、被害者も、そして刑事までもが、悲しみを背負って闘っていく。「人の心を殺しても罰せられないのですか」というセリフが胸を打つ。誰が誰に対して何をどのように償わなければならないのか、読み終わって改めて考えさせられる。人間の弱さ、そして強さを、読ませて貰った。
(02.9.6)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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