高校を卒業し、池袋で果物店をやっている実家を手伝っているマコト。頼まれたり巻き込まれたりしているうちに、マコトはいつの間にか池袋のトラブルシューターになっていく……。
赤・黒〜池袋ウエストゲートパーク外伝・石田衣良(文藝春秋)
借金で首が回らなくなった小峰渉は、誘われるままに狂言強盗に手を出した。巧くいった……と思いきや、その金が持ち逃げされてしまう。おまけに狂言強盗がばれ、クザ相手に更に多くの借金を抱えるハメに。この苦境を何とか打破しようと、渉は「金を持ち逃げした真犯人を掴まえる」と大見得を切ってしまう……。
大学生のリョウは、大学にはほとんど行かずにバーテンのバイトをしていた。ある日、店にやってきた謎の女性。リョウはこの女性に見初められて、男娼の仕事を始めることになる。男娼として得たさまざまな一夏の体験。
野球、いや、ベースボールというスポーツが国民の中にどっかりと浸透している国、アメリカ。その文化のせいなのか、アメリカにはベースボールにまつわる「名セリフ」がたくさんある。これはそんな「名セリフ」を紹介しながら、そのバックグランドとなったベースボールの歴史や魅力をたっぷりと教えてくれる、ナイスな1冊だ。
戦後野球マンガ史〜手塚治虫のいない風景・米沢嘉博(平凡社新書)
戦後の野球マンガを、時代を追って論じた評論である。とにかく相当数の野球マンガが紹介されており、「へええ、こんな作品があったのか!」と驚いてしまうほど。サスガに40年代50年代の作品はまったく分からないが、「巨人の星」が野球マンガのエポックメイキングであったことはわかる。よ〜くわかる。
白銀を踏み荒らせ・雫井脩介(幻冬舎)
柔道の元世界チャンピオン、望月篠子。彼女はひょんなことから日本アルペンスキー高速チームにメンタルコーチとして加わることに。ワールドカップでも入賞が狙えるというエースのマーク石野がスランプに陥っているというのだ。マークは兄のケビンが富良野でのレース中に転倒、死亡した事件からまだ立ち直っていないのだった。篠子は、マークの不安を取り去るため、ケビンの事故の真相を調べ始める……。
1960年。小学校4年生の米原万里はプラハのソビエト学校に通っていた。そこで出逢った印象深い3人の女の子。筆者は音信の途絶えた3人を捜して会いに行く。それだけでも充分感動的でドラマチックなのに、その結果がこれだなんて! 激動の東欧にあって、プラハのソビエト学校という特殊な場所に集まった子供たちは皆、自国の歴史や社会に敏感になる。だから小学生にして、みな自分なりの国家観を持っているのだ。そしてそれが「政変」を経た30年後になると……ああもう、とにかくお薦め。その筆致は、怒涛の東欧の歴史を迫力満点に伝えてくれる。ノンフィクションとしても、読み物としても、実に素晴らしい。これは読め。
東京難民殺人ネット・村上政彦(ハルキノベルス)
ハイパー・クライムネット・マガジンは、実際の事件を元に、会員が自らの推理を開陳するインターネットのクラブである。そこには、クライムネット(ニュースサイトのようなものか)で紹介された様々な事件の梗概に始まり、関係者の証言、関係者の人物紹介など、推理に必要なさまざまなデータが手に入る。そして会員は掲示板のようなところに自分の考えた解釈を書き込み、チャットで議論するのだ。
舞台は昭和三十年代後半。青森県の中学2年生・神山君は冴えない野球部員だ。初めて聞いたビートルズの感動。中学生活最後となる野球部の試合。分からず屋の教師への反抗。性への憧れ。淡い恋心。親への反抗。夏休みの冒険。そんな神山の数カ月を描いた、青春小説。
陰の季節・横山秀夫(文春文庫)
警察の中でも、警務という「人事」を担う部署を舞台にした、まさに新機軸の警察小説。人事ならではの苦労と事件が、実に巧く描かれている。なるほど、警察小説にはまだこんな手があったのか。警察内部の細かい描写もさることながら、ひとりひとりが「警官として」「刑事として」きっちり肉付けされており、物語の吸引力は相当だ。
池袋ウエストゲートパーク・石田衣良(文春文庫)
ストリートギャングという、オトナが眉をひそめるような一見アナーキーな世界を扱いながらも、ここに出てくる人物たちはみな気持ちがいい。自分なりの正義感やプライドを持ち、目の前の問題と格闘していく。イマドキの若者、かっこいいじゃん!と喝采してしまうのだ。ストリートでウンコ座りしてようが、口の聞き方を知らなかろうが、友だちのために駆け回る彼らは、オトナの目から見てもかっこいいのである。
【池袋ウエストゲートパーク】ストリートでたまたま出逢い、なんとなくツルんでいた仲間のひとり、リカが殺された。マコトは考える。リカのためにできること……。適度にクールで適度にウェット。ボーイズのチームワークの小気味よさもさることながら、事件の動機がなんとも切ない。
【エキサイタブル・ボーイ】ヤクザの組長の娘が失踪した。探すように頼まれたマコトに、連絡係としてついたのは中学時代の同級生・サルだった。ううう、アツいぜっ。クライマックスのシーンなんてもう、最高。でも実はサイドストーリー的に描かれているひきこもりの同級生のエピソードが秀逸なんだよねえ。娘探しを主眼にしつつも、サルや和成との交流が物語の骨格を作っている。
【オアシスの恋人】マコトのクラスメートだった千秋は、今やアナルファックOKの風俗嬢。その千秋から恋人の事で相談され……。「あきれたボーイズ」の活躍譚。Gボーイズの他にこういうチームを作ってしまうあたりが巧いなあ。まるで戦隊ヒーローものじゃないか。
【サンシャイン通り内戦】池袋を二分する勢力争いと、それを取材しようとするフリーの女性ビデオジャーナリスト。ああもう、これは最高にステキなラブストーリーだ。【エキサイタブル・ボーイ】に並んで、この巻のお薦め。「だめだよ、急いだら。今から十分間キスをしたら、つぎに進もう」というセリフは、ラブシーンのセリフとしては最高の部類だよ。
(03.9.1)《詳細情報&注文画面へ》
この渉の監視係として登場するのが、「池袋ウエストゲートパーク」のレギュラーであるサルだ。顔しか知らない相手を東京で探すという、砂浜に落とした針を拾うような賭けなのだけれど、ちゃんと進展があるのがご愛敬。そうそう巧くいきますか、という気もするけれど、進展がなくちゃ話が進まないしな、しょうがないよな……と小馬鹿にしつつ読んでいったら。あらら! そうか、こういう状況なら見つけることは不自然じゃない。うわあ、やられた。おまけに泣かされちゃったよ。「恣意的」の謗りを受けないギリギリのところで、キレイにドラマにしてくれる。
しかし、真犯人が見つかったからといって話は終わらない。タイトルの赤と黒ってのは、ルーレットの色のことなのね。で、大凡の予想通り、クライマックスはルーレット勝負になるわけだ。ここらあたりになると……クールな浅田次郎って感じでしょうか(笑)。「伝説の博打打ち」とか出てきちゃったりするの。「波のうえの魔術師」でもあったな、そういうの。でもってこの「伝説」の人物に協力してもらったりするんだが、肝心要のところは自分で勝負に出る。ここらあたりも「波のうえの魔術師」と同じパターン。いわば、この手の勝負ものの黄金パターンだね。だから結果も見えてはいるんだけど、わかりきった結果でもちゃんとそこまでどきどきはらはらさせてくれる、それはやはり筆力のなせるワザだ。とにかくストーリーテリングがムチャクチャ巧い。
「こんなに巧いこといくかよ!」という部分は多々あるが、ノワール(というよりピカレスクかなあ)の面白さはそこにあると言っても過言ではない。スピーディな展開と勝負ごとのワクワクが好きなら、気にいるんじゃないかな。
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娼年・石田衣良(集英社)
うっわーーーー、いいなぁ、これ。なんともステキな小説だなあ。ひょんなことから男娼になってしまったリョウの、いろんな人との性の話が順に出てくるだけ(だけってこたあないか)なんだけど、それぞれにドラマがあって。セックスシーンてんこもりなのに、いやらしさを感じない。いや、エロティックではあるんだけど、「オジサン向け雑誌に載ってる小説のエロシーン」みたいな不快感がまったくないのよね。けっこう微に入り細を穿ったベッドシーンばかりだし、普通の(?)セックスばかりではなく、その、けっこうマニアックな性行為も出てきたりするんだけど、それでも不思議といやらしくない。エロティックなのにいやらしくない。妙に透明なのよね。女性が読んでも不快に思わない、むしろ「きれい!」と思ってしまうような性描写なのだ。
これはひとえに、リョウがすべての客に敬意を払っているが故だと思う。「この人を楽しませてあげたい」「この人の助けになりたい」という思いでセックスしている、それが分かるように描かれているせいだ。仕事中は、ちゃんと相手の女性を好きになる。おお、男娼の鏡!
ひとりひとりの客とのエピソードも、思わず笑ってしまうものもあれば、なんだか切なくなってしまうものもある。何だろう、「世界を知る」っていうのかな、リョウがこの「仕事」を通して、これまでに知らなかった世界を知り、未熟ながらもそれをちゃんと自分の中に受けとめていこうとしてるのが伝わってくるのだ。バーテンの頃のリョウは、何に対しても興味が持てずに、うすぼんやりと日々を過ごしていた。そんな子がこういう域に達しちゃうと、それが「体を売る」という違法な職業であったとしても、そんなこたあどうでもいいじゃん、という気にさせられちゃうのよね。
しかし当然、「いろんな人とセックスする」だけの話ではない。そこには色々な過去が絡んだり、他人とのしがらみがあったり。そうして最後に事件は起きる。でも、この終わり方はいいなあ。なんか希望があるじゃない? 一夏の出来事として一度はピリオドを打つわけだけど、それが返ってこの一夏を特別なものにしてくれるような気がする。
願わくば、これは是非、続編を!
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野球は言葉のスポーツ・伊東一雄、馬立勝 (中公文庫)
例えば、日本にもそんな名セリフは幾つかある。伝説の二出川審判による「俺がルールブックだ!」っていうセリフは今でも語り継がれているけど、ヤンキースの監督だったビリー・マーチンが似たようなことを言っている。しかしレベルが一枚上だ。マーチン曰く、「規則はおれが作る。しかしおれがその規則に従うとは限らない」……って、おい!(笑)
アメリカという国の国民性なのか、それともこれくらい気の利いたことが言えなくちゃプロとしては失格なのか、とても日本のプロ野球選手からは出てきそうにない名セリフがたくさん出てくる。打撃不振だったヤンキースのベラの言葉。「考えて打てだと? 無理をいうな。二つのことが同時にできるものか」……うわはは、こんなこと、巨人の選手は絶対に言わないだろうな。驚異のナックルボールを投げるピッチャーとバッテリーを組んでる捕手のセリフ。「ナックルボールを捕球する感じがどんなものか、おれに聞いても無駄だ。あんな球はとれやしない。後ろに逃がすだけだから、バックネットに聞くがいい」……って、インタビューで笑わせてどうするよ。
しかし、この本はただ「気の利いたフレーズ」を紹介するためだけの本ではない。そんなセリフが生まれた当時、メジャーリーグはどんな問題を抱えていたか。黒人差別。障害者差別。労組問題。「ボールだけが白かった」と言った黒人リーグの選手。初めてメジャーリーガーになった黒人選手の「好かれようと嫌われようと気にしない。ただ望むのは人間として扱って欲しいということだけだ」という言葉。《黒人締めだし》……つまり、メジャーリーグに入れるのは白人だけだという暗黙のルール《カラー・ライン》が存在したなんて、どこが自由と平等の国アメリカじゃい!と言いたくなる。
身長1メートル9センチの小男・ゲーデルを登録してバッターボックスに送ったことがきっかけで始まる論争。野球の友、ホットドッグが生まれた一部始終。審判の目をすり抜けて行われた、さまざまな違法行為。歴史から消されたホームランキング。そして、名選手の球界追放に発展したブラックソックス・スキャンダル。ここで野球界で最も泣かせる名セリフが生まれた。「嘘だと言ってよ、ジョー!」
とにかく、いろいろなエピソードがテンコモリ。考えさせられる社会問題から、爆笑できる珍プレーまで、野球好きならきっと気にいる一冊。
(03.9.19)《詳細情報&注文画面へ》
そこから「アストロ球団」のようなSFとみまごうような作品が出たり、「アパッチ野球軍」のようなアウトロー路線が出たり、「キャプテン」「プレイボール」、そして水島新司の「ドカベン」「あぶさん」「男ドアホウ甲子園」などが紹介されていく。
ここまでは、作風の違いこそあれ、どれも「スポ根」だった。ところが70年代後半に入って地殻変動が起きる。スポ根がダサくなってきたのだ。プロ野球選手をパロディにしてしまった、いしいひさいちの「がんばれタブチくん」、ギャグとびまくりの江口寿史「すすめ!パイレーツ」、もはや野球マンガとしてよりラブコメの比重の方が大きい「タッチ」。少女マンガとして野球を描いた川原泉「甲子園の空に笑え」(どうして「メイプル戦記」が載ってないのさ!)や大和和紀「紀元2600年のプレーボール」。
そして2000年になると──野球マンガはサッカーに押され、マイナースポーツになってしまった。もう衰退するしかない。って、おいおい! でもまぁ、そうかな。
……とまあ、こういう話を順を追って紹介している評論なのだけれど。う〜ん、俎上に挙げられたマンガの数には圧倒されるけども、もうちょっと踏み込んで欲しかったなあ。紹介にページを割いたがために、例えば社会との関わりであるとか、同時代の野球マンガの比較検討だとか、そのあたりが通り一編で終わってしまった歯痒さがある。情報が多すぎて、その先の分析や推理までは充分に言い尽くせていない感じなのね。ページ数がこの3倍くらいあればねえ。
野球マンガには手塚治虫がいなかったせいで、ストーリーマンガではなく、ヒーローマンガになってしまった、という主張は理解できる。でもそれが別段悲劇だとは思わない。だって野球を描けば、野球の試合そのものが無限のストーリーを持ってるんだもん。
(03.9.20)《詳細情報&注文画面へ》
アルペンというのはまた、絶妙な題材を見つけたものだと思う。作中でコーチの五十嵐が「アルペンってのはスキーの中でも目立たないから」というのに思わず頷いてしまった。「スキーをひとつの学校と考えると、ノルディック複合は活発な子、ジャンプは優秀な子、モーグルはやんちゃな子。それでアルペン高速スキーは、目立たない子なんだ」というセリフには、思わず「巧い!」と思っちゃったわよ。ただ、肝心のケビンの事故(事件?)がダウンヒルの最中だったために、スラロームやジャイアントスラロームのシーンはあまり出てこないし、細かいルールの説明もないので、アルペン高速スキーという競技それ自体の魅力や面白さがダイレクトに伝わって来ないのは、ちょっと残念。
話は総じてテンポが良く、動きも激しいので飽きずに読める。読者を引っ張る手腕はさすがだ。でもねえ……この展開、かなり戸惑ったんですけど。五十嵐率いる日本チームって、考えてみたらナショナルチームの筈なんだけど、キャラクタのせいか描写のせいかそれとも現実はこうなのか、なんだか趣味でやってる仲間達って感じでアットホームなのよね。それ自体は別にいいんだけど、そんなアットホームなチームに対して、国際的な謀略だの特殊な経歴を持つ殺し屋だのが出てくるのだ。え、え、そんな話だったの?
それにさあ……いくら女子柔道の世界チャンピオンだからって、傭兵もどきの経験を積んでる殺し屋と戦って腕力で勝つか普通。なんかもう、途中から特撮ヒーローものを読んでる気分になっちゃった。
ということで、その《活劇》の部分だけはどうにも受け入れ難かったのだけれど、それ以外の──動機も、真相も、その処理の仕方も「おおっ」と膝を打つものばかり。特に動機に関しては、確かにスキー界ってのはそういう事実があるよね、と大きく頷いてしまったわよ!
惜しむらくは、《活劇》《謀略》《謎解き》《スポーツ》という4つの要素がバランス良すぎるのだ。もうちょっと、どっかにしっかり重心を据えてくれてれば、読んでて戸惑わないんだけど。
(03.9.24)《詳細情報&注文画面へ》
嘘つきアーニャの真っ赤な真実・米原万里(角川書店)
【リッツァの夢見た青空】ギリシャ人のリッツァは、いつも万里に男の見極め方やセックスのことを教えてくれた。両親はギリシャ人だが亡命してきたので、リッツァは祖国を見たことがない。でもギリシャの空は抜けるように青いのよ、と嬉しそうにいうのだ。果たして彼女は、オトナになってギリシャに戻れたのか?
【嘘つきアーニャの真っ赤な真実】ルーマニア人のアーニャは、どうしようもない嘘つきだった。特権階級で優雅な暮らしを享受し、何かと言えばルーマニアが一番といい、知り合いを「同志」と呼ぶ、小学生にしてばりばりの社会主義者。そんなアーニャは、30年後には、なんとイギリス人の夫と結婚し、ルーマニアを悪し様に言う。チャウシェスク処刑後も特権を享受するアーニャの言動に腹立たしさを覚えて仕方がない。そこにある真実とはいったい何なのだろう。
【白い都のヤスミンカ】ユーゴスラビア人のヤスミンカは、クラス1番の優等生。芸術方面の才能にも溢れていたが、それを自慢することもなく、いつもクールだった。そしてひょんなことから万里と親しくなる。30年後、彼女はボスニア紛争の真っ直中にいた。30年ぶりに逢った万里に「マリ、私、空気になりたい」と呟くヤスミンカ。彼女がなぜ危険なセルビアにとどまり続けたのか──米原万里って、とんでもない人物と友だちだったんだなあ、と舌を巻いた。後半部分は、なんだかもう胸が締め付けられるようで。「ドキュメント戦争広告代理店」と並べて読むと、更にいろいろ考えさせられてしまう。
「旧友を訪ねる」という話が、こうも辛く切ない話になるなんて。米原氏には、もっともっと、いろいろな体験を伝えて欲しい。それは今の日本の読者にとって、知らなくてはならないことばかりのように思えるから。
(03.9.25)《詳細情報&注文画面へ》
今回俎上にあがったのは、東京都内のクリーニング店の裏庭より、ミイラ化した子供の遺骸が発見された事件。発見者がクライムネットの会員ということで、様々な情報や推理が寄せられた。コンピューターネット上で推理される事件。事実、噂、偏見、憶測、虚言が渦巻く虚構世界で、果たして真実は明らかになるのか──。
著者の村上政彦さんは、もともと純文学の作家さんである。ただ、著者の言葉によると「読者のキャリアとしてはミステリーやSFの方が長い」そうだし、この作品には「古今のミステリーの先達へのオマージュの意味もあって、僕が愛読してきた作家のパスティッシュが挿入されている」のだという。そそられるでしょ?
一読して──なるほど、「実験的」なミステリーだなとは思う。ただ、いわゆるミステリーマニアにしてみれば、「実験的ではあるけれど、論理的解決がないよね」という感想が出てくるのではないかな。謎があり、手がかりがあり、様々な推理があり、その推理の穴が指摘され、しまいには立脚点すら揺らいでしまうという体裁だけ聞けばまるで「毒入りチョコレート事件」のように思えるけれど、実際は全然違う。とにかく、論理(一般的な意味の論理ではなく、本格ミステリにおけるコードとしての論理ね)が圧倒的に欠落している。フェアプレイとか、伏線とか、どうやらそういう論理パズル的謎解きミステリではないのかもしれない──ということに気付いたのは、読み終わった後だったわよ。ちっ。
とにかく、ネットが舞台なんだもの。どこまでが事実なのかまったく判断のしようがない。クライムネットそれ自体が恣意的なものでない保証もないし、ネット外のシーンがまったくないので、全部(事件の存在そのものも)作り話かもしれないわけだ。う〜ん、これではサプライズもカタルシスも得られないぜ。
在日外国人問題や、様々な解釈の展開など、部分部分はとても興味深く面白かったんだけどなあ。
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翼はいつまでも・川上健一(集英社)
いやもう最初は、「いまどきこんな、中学生日記でもやらないような王道の青春かよ!」と、ちょっと引き気味で読んでいたのである。野球部での球拾いの最中に、同級生から「どうして赤ちゃんができるか知ってるか」と持ちかけられたり。ビートルズを禁止した学校に反抗したり。美人だけど無口で顔に傷のある転校生の少女が、なぜか気になったり。わー、きゃー、恥ずかしいよおおおお、と思いながら読んでいたのである。
ところが。いつの間にか、すっかり引き込まれてしまった。なんせ昭和三十年代ですからね。もう、中学生の純なこと純なこと。この「純」というのを大前提として読者に納得させることができなければ、この手の小説は「寒!」「古!」で終わってしまう危険がある。が、本書に関してはそんな心配、どこかへ飛んでしまう。最初こそ違和感はあったものの、次第にすっかり神山君の同級生の1人になってしまうのである。
みんなで勝とうと約束していた野球の試合。ところが、主要メンバー3人が相撲部の教師にスカウトされ、半ば無理矢理掛け持ちをやらされる。涙ながらに文句をいう生徒。ああああ、分かるよ分かるよ。こういうことに、熱くなっちゃうのよこの年代は。音楽の時間、口パクするだけで決して歌わない少女。それをめざとく見つけた女の子が、勝ち誇ったように先生に言いつける。うわあ、いるいるこういうヤツ。シーンが目に浮かぶようだよ……そんなふうに考えているうちに、いつしか気分は中学生に、それも昭和三十年代の中学生になってしまう。
夏休み、どうしても性体験をしたくて1人で十和田までキャンプに来た神山を待っていた出来事。ああもう、すごいドラマチック。爽やか青春版「潮騒」って感じかな。そして切ない「別れ」。もう、事ここに及んでは、寒いだの臭いだのとのは全く感じない。ただ、胸を震わせるのみ。最後の野球の試合のあとでの、教師との会話のシーンなんて、マジで泣いちゃったもの。
エピローグがまたステキで。読書中はすっかり中学生になっていた自分を、改めて味わわせてくれる。なんてステキな、なんて感動的な物語なの。うん、これは現代が舞台じゃ書けないよ。これは「きれいな涙を流したい」という人にお薦め。
(03.9.25)《詳細情報&注文画面へ》
ただ、これはちょっと特殊な例なのかもしれないが、あたしはたまたま本書を読む前に、これがドラマ化されたものをテレビで見てしまっていたのだ。俳優の上川隆也が二渡警視を演じているシリーズである。このドラマがまた、すごく良く出来ててねえ……。おかげで「ドラマと違う」とか「ドラマではもっと、この人の気持ちを前面に出してたのに」とか、そういう部分ばかりが目についてしまって、この本自体の面白さをかなり減じてしまったように思える。ドラマを見る前にこれを読んでたら、お薦めマークだったと思うんだけどなあ……。
【陰の季節】退官者の天下り先を調整している最中、今年で辞めるはずのポストから動こうとしないOBと遭遇。彼に辞めて貰わなければ、次の退官者のポストがなくなる。そのOBはなぜ、今のポストにしがみつくのか──。普通に考えれば「金」か「肩書き」が欲しいのだろうと思うが、こう来ましたか。謎解きよりも、人事担当者がこんな仕事をしてることが驚き。
【地の声】ある日飛び込んできた生活安全課係長の女性スキャンダル。いったい誰が密告したのか、そしてその密告内容は真実なのか。うわあ、すごいや。これは驚く。この真相には、ただ、ただ、脱帽。
【黒い線】婦人警官の描いた似顔絵が手がかりとなって、犯人が逮捕された。お手柄婦警として一躍有名になった彼女は、なぜか翌日、署に出てこない──。ぎゃあ、これって「顔(FACE)」の前日譚じゃないか。「顔(FACE)」を先に読んでたら、完全にネタバレだあ。
【鞄】県議会で、警察に関する質問が何か出るらしいが、その内容がわからない。事前調査を命じられた秘書課課長補佐は──。追いつめられていく過程が見事。ただ、これしきのことで、ここまでするかな。もっと簡単確実な方法がありそうだけど。
(03.10.2)《この本の詳細情報&注文画面へ》
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