恋する男たち・松尾由美(他)(朝日新聞社)
様々な恋の形をテーマに、6人の女性作家が描いた恋愛小説のアンソロジー。
沢木耕太郎ノンフィクション(1) 激しく倒れよ・沢木耕太郎(文藝春秋)
沢木耕太郎全集の1冊目で、主として1970年代に発表されたスポーツノンフィクションの短編が収められている。モノによってはセンチメンタリズムの過ぎるきらいがあるし、「私は」「私が」が前面に出てくるのも鼻につくんだけど、テーマの選び方や料理の仕方はやっぱ巧い。これは観戦記ではなく、スポーツ選手(それも殆どが旬を過ぎている)の暮らしを追ったものばかり。いわば舞台裏の物語である。
京都の大学に通う南条は、恋人の美樹を呼び出した。郷里の福岡に就職が決まったと告げた途端、自分は京都を離れられないのにと激昂する美樹。そんな美樹の「京都を愛する気持ち」に、あるモノがとり憑いた──。
ゆらぎの森のシエラ・菅浩江(ソノラマ文庫)
甲冑の騎士・金目は異形の者だった。命じられるままに村長の家を遅い、家族を惨殺する。しかしその途中で「可哀想……」という声が聞こえ、突然、人の心を取り戻す。その場を逃げた金目は、森の中で一人の少女・シエラに出逢った。その少女は、「少し足りない」ように見え、ネズミや虫などのゲテモノを好んで食べるのだった──。
マークスの山(上下巻)・高村薫(講談社文庫)
昭和51年に山梨県の高峰・北岳で起こった事件が、16年後、東京での連続殺人事件を呼んだ。狂気に支配された残虐な殺人鬼マークス。刑事・合田雄一郎はマークスを追う中、過去の事件との関連に気づく。ところが、上層部からなぜか圧力がかかるようになり──。
あろうことかSMAPの中居が主演でドラマ化されてしまい、それがまた原作とえらくかけ離れたものになっていると聞いたため、あらためて原作を再読しようという気になった。いやあ、名作は何年経っても名作だ。
いつまでも折にふれて/さらば6弦の天使・森雅裕(KKベストセラーズ)
「私家版」としてファンの間で垂涎の一品だったものが、ついに出版! いやもう、これだけでKKベストセラーズ、偉いっ!
北町奉行所筆頭与力の妻にして元柳橋芸者のおこうが、舅の左門と力をあわせて江戸の巷を騒がす怪事件に挑むシリーズ。いやあ、捕物帳だわ。与力自身が謎を解くんじゃなくて、その妻と舅が組むってあたりもいいし、短編はどれも本格テイスト充分。なかなかにトリッキーで膝を打つものが多い。おこうが元芸者・元ばくれんだったってのも、事件にクビを突っ込むきっかけとして巧い設定だなあ。宮部みゆきの時代物が好きな人は、これも楽しめるんじゃなかろうか。
殺意の迷走・斎藤肇(天山ノベルス)
パソコン通信で知り合い、薔薇の城を舞台にしたゲームを作ることになった10人の男女。彼らは、そのロケハンのため薔薇の城へと向かう。しかし、メンバーの1人は殺人計画を練っていた。城で最初の夜を迎えたとき、犯人は動き出す──。
F県警捜査一課の、1班から3班は、それぞれ個性的な班長を頭に据えて鎬を削っている。それぞれの班長、または班員が持ち回りで主人公となるシリーズ。いやあ、いい。これはいい。この作品が「このミス」だけではなく「本ミス」の方でもランクインしたのを見て「へえ?」と思っていたのだが、読んでみて、なるほど納得。警察を舞台に繰り広げられる男のドラマ、そしてあっと驚く仕掛け。こいつぁ高レベルだ!
【密会】篠田節子:父が死に、一人暮らしになった母親を心配する勝則。同居の話を出せば妻の反対に遭うのが分かっていたので、勝則は週に一度、母親の様子を見に行くことにする。それは妻には内緒だったのだが……。別にばれてもいけないことじゃないのに、なぜか言い出しにくくて、そのまま事態が進んでしまうという心理がとてもよく分かる。ラストシーンは相当に怖いな。
【彼方へ】小池真理子:学生時代に心を寄せていた女性が、夢に出てくるようになった。それはかなりリアルな夢で……。ホラーめいた観の強い話だが、でも描かれる物語は相当に生臭い。そのバランスが絶妙。
【終の季節】唯川恵:会社で閑職に回され、早く家に帰るようになって初めて、家庭内に自分の居場所がないことに気づいた父親。彼が偶然、町でみかけた援助交際をしている高校生が自分の娘の友人だと知り……。おお、なんかこれだけで映画の一本、純文の一冊が描けそうなテーマ。直接には何の償いにもならないんだけど、でも何となく胸に迫る。
【マンホールより愛をこめて】松尾由美:作家・水村宏香は、担当編集者の楢林から、作品にヒロインの千草をあまり出さないように言われる。理由は何と、「千草が実体化して楢林の家にいる。作品に登場しているときは、彼女が消えてしまうから」というのだが──。うわははは、またまた松尾由美らしいスットンキョーな設定の話。でも、なんか「いい」んだよなあ。ほんわかとヒンヤリがいい具合に同居してて。
【マジック・フルート】湯本香樹美:ピアノ講師の家で出逢った年上の女性。彼女は講師の姉だった。中学生の僕と中年女性の奇妙な逢瀬が続く──。主人公の僕の環境と、神社、というモチーフがなんとも映像的。全体に薄い膜の向こうで物語が展開する印象がある。
【谷中おぼろ町】森まゆみ:戦前から戦中にかけてを舞台に、谷中の人々からの「聞き書き」の形で語られる街の物語。気っ風のいい後家さんのちょっと切ない恋の話や、三十も歳の離れた三味線の師匠と手伝いの男の話。どれもこれも、語り口調が江戸っ子で、粋な話ばかり。
(04.1.21)《詳細情報&注文画面へ》
【儀式】ジャンボ尾崎が西鉄ライオンズのピッチャーだった時代に遡り、そこからプロゴルファーとして成功するまでの物語。そうか、池永と同期だったんだなあ。確かに「いい時にやめた」のかも。池永が一頃本気でゴルフをやっていたのも、尾崎という前例があったからなのかな。
【イシノヒカル、おまえは走った!】日本ダービーに出走するイシノヒカルという馬を取材した話。厩舎同士の駆け引きなどの話が興味深い。
【三人の三塁手】長嶋という偉大な三塁手が入団したためにポジションを追われてしまった二人の選手を描いている。難波はともかく、こういう取材がいやで行方をくらませている土屋を追うのって如何なものかなあ。
【さらば宝石】プロ野球史上3人目に二千本安打を達成したオリオンズのE。しかし、その末路は哀れだった……。う〜ん、発表当時ならEというイニシャルも、最後にフルネームをあかすのも「ああ、あの」という効果があったのだろうけど、今となっては通じないかもな。それにしても読後感が重い……。
【長距離ランナーの遺書】東京オリンピックで銅メダルをとったのち、メキシコ五輪を前にして自殺してしまった円谷幸吉選手。彼の、マラソンランナーとしての生涯を追ったもの。知らなかったこともたくさんあったし、これは読みごたえがあった。
【普通の一日】引退したマラソンランナー、瀬古利彦の一日に密着したもの。モスクワ五輪のボイコットがどれだけ大きかったかが分かる。ロス、ソウル五輪にも出たとき、「円谷にならずに良かった」という世評を訊き、「それは円谷の遺族にあまりに配慮がない言い方だ」と怒る筆者に強く共感。
その他はボクシングの話。輪島功一の防衛戦をルポした【ドランカー“酔いどれ”】【コホーネス“胆っ玉”】、交通事故で急逝したチャンピオン大場政夫を育て上げたマネージャ視点で語る【ジム】、ジョー・フレイジャーとのインタビューにまつわる【王であれ、道化であれ】、相撲取りからボクサーに転職した【ガリヴァー漂流】、モハメド・アリの最終戦【砂漠の十字架】を収録。
(04.1.22)《詳細情報&注文画面へ》
鷺娘──京の闇舞・菅浩江(ソノラマ文庫)
「鬼女の都」の原型ともされている、「京都もの」のオカルトファンタジーSF風味、な物語である。魔性のものにとりつかれた美樹を救うべく、南条を手助けする舞妓の鴇絵。この鴇絵も、普通の人間ではない。なんてったって、そばに仕えてるのは狐だ。おまけに矢田硝子、ってどっかのガラス会社かよ、八咫烏まで出てきちゃう。これらが「バトル」を展開するわけだが……うわあ!
正直、ヤングアダルトものだし、京風味をまぶしたヒロインの戦いの話なのねと思って読んでいたら、このバックグラウンドの凄さといったら! 鴇絵の秘密に話が及んだときはゾゾ気が走った。それを持って来るか。おまけに、ちゃんと芸の細かい伏線まであって。それが「美樹の命を救う」デッドラインに向かって、一気呵成にストーリーが展開するあたりはもう、ページをめくる手が停まらなくなってしまった。その上《動機》があまりに切ない。ここらあたりは、やっぱ巧いなあ。そういう物語の構成の見事さと、舞踊や着物の視覚効果も相俟って、後半は物語がぐっと広がる。
とまあ、話は相当に面白かったのだけれど──このラストは納得いかんぞ! いや、そりゃあ、この話の流れとしては、南条が京都に残る方がハッピーエンドでしょうよ。でもさ、でもさ、京都のためなら福岡をないがしろにしていいってもんじゃないでしょうが! 九州人としては極めて納得がいかない。平安京より邪馬台国の方が古都じゃないかっ。神武天皇だって日向の国じゃないかっ。<そういう問題?。白村江や元寇や防人の亡者だって、うようよ居るわい。南条よ、おまえはホントに九州男児か。女は黙ってついて来いとばかりに、美樹の鼻の穴に指つっこんでそのまま福岡まで引きずって帰るのが九州男児の心意気ってもんじゃなかとかっ。九州男児の風上にもおけないヤツめ、罰として志賀島で金印掘りを命じるっ!
(04.1.23)《詳細情報&注文画面へ》
ぎゃあ。いたいけな少女が野ネズミを「がつがつ」と食べてるよ(泣)。切なさの名手・菅浩江の長編デビュー作が、こんなグロな主人公だったなんてえ……。おまけに、ゲテモノを食べる度に、成長して賢くなっていくという……こんな成長物語がかつてあったろうか! でもそれが、単なるキワモノ設定ではなく、物語の中枢にも繋がる《意味のある・スジの通った》設定だったところは実に巧い。
物語はまさにSFファンタジー。金目は、自分をこんな体にした相手への復讐を誓い、その相手がシエラの村に来ることをつきとめる。そこからは《対決モノ》になるわけだが、そこにゲテモノ食いのシエラがどう絡んで来るのかが最大のテーマ。しかしこりゃまた、仇役の造詣もすごいなー。なんかもう、シエラより金目より、しまいにゃ憎まれ役の妖怪ヒス女・リュクティに感情移入しちゃったわいな。
ヤングアダルトという体裁上、展開も結末も予定調和ではあるけれど、それは別段瑕疵ではない。ただ、ちょっと詰め込み過ぎかなあ、という気が。テーマとしてもエピソードとしてもね。もっと個別のエピソードを細かく深く読ませてよ、という気になってしまい、消化不良。この消化不良が、「いっそ大河ドラマにでもなりそうな話なのに、展開早すぎ」というという食い足りなさに起因するものなのか、それとも「このボリュームにエピソード詰め込み過ぎでお腹いっぱい」に起因するものなのか、どっちともとれるんだよなあ。
ラストシーンは映像的で、実にキレイ。ラストの少年のセリフ「急いで大きくなった甲斐があったんだ……」は、結末を象徴するものとしては最高のセンテンス。
(04.1.23)《詳細情報&注文画面へ》
見事なまでに女っけのない話だなあ。<そんな第一印象かよ。女性といえば、マークスをかくまう女性看護士ひとりだけじゃないか。妙な恋愛沙汰がからまない分、読んでて流れを中断させられることもなく、すっと世界に入っていける。
マークスと合田の戦いもそうなんだけど、それ以上にこの物語の中枢にあるのは、警察組織の暗部だろう。上層部との対立とか、所轄同士の対立とか、同じ署の中での競争ってのはもちろんなんだけど、それ以前に……えーっとね、「いい人」がひとりもいません(泣)。義兄くらいか。どんな職場でも、ここまでヒドくないだろう、というくらいヒドい職場だ。人間歪むよ。歪まないわけがないよ。この人たち、絶対に普通の社会生活はおくれないぞ。町内会の集まりに出てこんな態度とってたら、あっという間に町内の嫌われ者になって、回覧板も回してくれなくなっちゃうぞ。みんな、大人になれよ。
しかし、「いい人」が一人もいないからこそ、この行間から火花と冷気が同時に出るような世界が作れるんだろうなあ。そして、クライマックスで合田と吾妻がある人物を尋問するシーンの、ものすごいこと! 文章だけで、文字だけで、ここまでの迫力が作り出せるものなのかと、ただただ圧倒される。このシーンは一読の価値ありだ。まあ、ここを一読するためには最初から読まないとワケわかんないんだけどさ。
「ミステリ」を期待して読むとスッキリしないところもある。つか、謎解きミステリではないな、これは。マークス対合田という構図ではあるけれど、物語自体は、マークス内部に於けるマークス自身の戦いと、警察組織に於ける合田の戦い、この二つによって成立している。合田は確かにマークスを追うんだけど、いつの間にか合田とマークスが同じところを目指して戦ってるような、そんな気分になった。
(04.1.24)《詳細情報&注文画面へ》
砂の器(上下巻)・松本清張(新潮文庫)
蒲田の操車場で、男性の撲殺死体が発見された。身元も分からず、警察の捜査は行き詰まる。そんな中、被害者と思しき男性が、連れと一緒にあるスナックにいたことが判明。同じスナックに居合わせた客の証言によれば、被害者は東北弁らしき訛があったことと、連れが「カメダは相変わらずか」と話していたことがわかったのだが──。
ドラマを見て、この書評を読んでる人は、「あれ?」と思うかもしれない。ドラマでは、最初に犯人が分かっている倒叙モノとして描かれているらしいが、原作では下巻の途中まで犯人はわからないのだ。で、この「犯人探し」もキモの一つである。
この物語が《社会派》として脚光を浴びたのは、ひとえにその「動機」のせいだろう。今でも、ミステリでは殺人事件の動機として「秘密を守りたい」「口封じ」というのはよく登場する。ドラマでは「犯罪者の息子」というのが動機とされていたが、原作は違う。この本で扱われているこれが「守りたい秘密」になってしまうという、その悲しさ。これが書かれた頃は、確かにそんな時代だったのだ。そして、今でもそのときの意識が引きずられていることは、最近のニュースでも耳にした。原作通りにドラマを制作することは不可能なのはわかるが、やはり、「砂の器」の動機は、これでなくてはならない。
そういう社会派部分を横に置いても、これはミステリとして、実に秀逸な物語だ。小さな手がかりから捜査を絞り込んでいく警察。意外なものが手がかりとなる、その驚き。思わずひっくり返ってしまうような殺害手段(これもドラマでは再現されなかったらしいが、これは実にミステリ的な殺害手段だ)。犯人のしかけるミスディレクションの周到さ。謎めいたダイイングメッセージ。そして、犯人の生い立ち。
確かにドラマも面白いかもしれないが、これは是非、若きミステリファンの人達に原作を読んで欲しい名作。くれぐれも、ドラマを見て読んだ気にならないように。まったくの別物なんだから。
(04.2.18)《詳細情報&注文画面へ》
【いつまでも折にふれて】錺泉深(かざりいずみ)をボーカルに据えた、人気のロックバンド、HERGA(ヘルガ)。彼らはまったくといっていいほどメディアに露出せず、ライブもやらないということでカリスマ的な人気を集めていた。ところがニュー・アルバムの録音中、人死にが出る。はたしてそれは事故か、それとも……。
うわあ、キャラクタがいちいち森雅裕だ! なんかもう、それだけで嬉しくなっちゃうなあ。泉深ってば、もうお約束のような森雅裕キャラ。長年のファンにはお馴染みのキャラで嬉しいし、初めての人には新鮮で魅力的なんじゃなかろうか。
ここで描かれている事件の根っ子にあるのは、「壮大な家族のゴタゴタ」。煎じ詰めれば「家庭の事情」が、ここまで大きく、且つ、ドラマチックになってしまうのも森雅裕ならでは。
著者本人がバンドをやっていたということもあって、音楽小説たる部分と、ミステリの部分がキレイに融合している。読んでる最中は音楽小説としての色合いの方が強いくらい。なので(キャラは別として)ミステリとしては地味な印象を受けるけど、小道具の使い方が伏線として実にミゴト。
【さらば6弦の天使】HERGA(ヘルガ)が解散して4年後の物語。人気ロックバンド・4REALとの対バンに負けたバンドのメンバーが、次々と殺されるという事件が起こった。そして起こった誘拐事件。犯人からの要求は、4REALとHERGAの対バンだった──。
全体にゆったり、静かに話が進んでいた【いつまでも折にふれて】と比べると、俄然、ストーリーが派手になった印象。誘拐犯との駆け引きや、連続殺人事件の推理など、今回は音楽よりミステリが前面に出てきてる。ヘンな表現だけど、ミステリとして普通に面白いよ、これ(笑)。なんで私家版なんだ。全編これ森雅裕って感じで、森雅裕色がミッチリ詰まってるからか? それとも、モデルが具体的に想像できるからか?
(04.2.20)《詳細情報&注文画面へ》
おこう紅絵暦・高橋克彦(文藝春秋)
【願い鈴】柳橋時代の仲間が訪ねてきた。花売り娘が、殺人の咎で捕まったというのだが──。
【神懸かり】親を見捨てて出奔した息子が、記憶を失い見違えるほどの孝行息子になって戻ってきた。
【猫清】長屋で猫をやたらと買っていた男が死んだ。ところが──。気にもとめないようなものが手がかりだったと分かったときの快感。なるほどねえ。
【ばくれん】昔の仲間が姑殺しの疑いをかけられた。おこうの気っ風が冴え渡る一編。
【迷い道】体が利かなくなった武士が生きていく甲斐があるのか──悩んだ左門は旧友を訪ねる。
【人喰い】昔、左門に使えていたお光がふせっているという。長屋で残忍な殺しがあったせいらしい。
【退屈連】蝦蟇にとりつかれた娘を山伏が癒した。蝦蟇の祟りといって、料理屋に上がり込んだが。
【熊娘】見世物小屋に出ている「熊娘」の話を聞いたおこうは、自分の知り合いではないかと疑う。
【片腕】顔を潰され、片腕を切断された死体が川に浮いていた。身元はすぐに割れたと思ったのだが──。
【耳打ち】ちょっと変わった趣向の芝居が受けていた。ところが戯作者が台本を変えると言い出し──。
【一人心中】おこうのもとで下働きをしていたお鈴の、母親と思しき女が見つかった。ところが当人はそれを頑として認めない──。一種のダイイングメッセージか。悲しいエンディングだなあ。
【古傷】鏡平が牢から出てきた。ところが、牢の中で知り合った男が濡れ衣を主張していると言う。
(04.2.22)《詳細情報&注文画面へ》
城、と銘打たれてはいるが、これはもう今で言うところの「館モノ」である。もう、この仕掛けといったら! 本格ファンなら嬉しくて笑い出しちゃうような仕掛けよ。犯人の独白あり、推理合戦あり、ばりばりの機械トリックあり、予想を裏切る展開あり、こまっしゃくれた子供は出るし、ミステリ作家志望のくら〜いマニアも出るし、もう、いろんなものがテンコモリ。サービスいっぱい謎いっぱい。舞台装置も100%本格。おまけにトリックがまた大胆不敵。何より、最初の被害者の意外性には、思わず「おお、やるじゃん!」と拍手してしまった。このスタートは魅力的だ!
ペダンティック且つエキセントリックな雰囲気の充満する「城」に閉じこめられたメンバー、電話が通じず外界と隔絶された現場、1人ずつ殺されていくサスペンス──てのはもう、本格のお約束のパターンなんだけど、この城の設定はちょっとわかんない。勢いで読まされてしまったけど、いったいどんな建築なんだ。設計図がみたいわっ。頭の中で、舞台が全然描けない。だもんだから、イマイチ、殺人シーンの状況が掴めないんだよなあ。そもそも、この城、なんでこんないろんな仕掛けがあるのさ。いくら、もともとは映画の撮影に使うために建てられたとはいえ、これだけの機能を備えるのって、あまりに非現実的じゃないか?
まあ、そんなところでリアリティを追求しだすと本格なんて読めなくなる、という意見もわかる。わかるんだけどさ。館モノってのは、「舞台そのものの説得力」が不可欠なんじゃないかなあ。
しかし、発行時期を見てみると、1989年。おお、まさに新本格黎明期ではありませんか! なるほど、この時期だってことを考えると、ここまで実験的な作品が出てきたのも頷ける。そういう意味では、マニア(あえてファンではなく、マニアと呼ぶが)受けはするかもしれない。ただ、一般の、物語好きな読者にはちょっと薦めにくいかな。
(04.2.25)《詳細情報&注文画面へ》
第三の時効・横山秀夫(文藝春秋)
【沈黙のアリバイ】強盗事件の従犯を逮捕、自白に追い込んで起訴したが、なんと彼は法廷で自白を覆した。1班班長の朽木は取り調べを担当した島津に事情を聞いたが──。うわあ、これ、すごい! まさに男vs男の戦い、そして犯人の思惑。ひたすら圧倒。
【第三の時効】主婦を強姦し、その夫を殺して逃走していた犯人。今夜で時効を迎える。時効が成立した途端、その主婦のもとに連絡をとってくると踏んだ第2班は──。これまた超がつくほど怜悧な2班の楠見が光る。クライマックスの驚きは第一級。
【囚人のジレンマ】F県警は三つの事件を同時に抱えていた。その中のひとつに目星がついたと踏んだか、課長の田畑のもとに記者が押し掛ける──。いやぁ、カッコイー! 縄張りとか競争心とかの中にしっかり存在していた「情」の物語。
【密室の抜け穴】捜査の途中で倒れた3班班長の村瀬。誰もが現場復帰は絶望だと思っていた。代理を負かされた東出は張り切るが──。もう、緊迫しっぱなし。呼吸するのを忘れるくらい。
【ペルソナの微笑】1班の矢代は、ヘラヘラ笑顔が身上だった。しかしその笑顔には理由があったのだ──。ただでさえ充分なサスペンスなのに、それだけでは終わらない。「読者の期待の上を行く展開」が畳み掛ける。
【モノクロームの反転】一家三人刺殺事件。事件の大きさを鑑み、一課長の田畑は1班と3班を一緒に派遣する。そこで始まるのは、もちろん「競争」だが──。ラストシーンは泣かせるなあ。
(04.2.27)《詳細情報&注文画面へ》
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