ZOO・乙一(双葉社)
まさに乙一がみっちり詰まった短編集。バラエティに富み、でもその根底にははっきりと乙一のサインが見える。それも黒乙一と白乙一の両方がちゃんと入ってて、人によって好きな作品とそうでない作品がはっきり分かれそう。白乙一の方が好みなんだけど、でもいつまでも後を引くのはやっぱり黒乙一なんだよなあ。
10メートルの高さから時速60キロで水面に飛び込む──それが「飛び込み」競技。わずか1.4秒の落下中の演技を採点される。このシリーズは、まだまだ日本ではマイナーな飛び込み競技に打ち込む少年達を主人公に据えた、ヤングアダルト向けスポ根もの。
DIVE!!(1) 前宙返り3回半抱え型
幼なじみたちと、ただわいわい楽しみながらMDCに通っていた知季。ところが、アメリカ帰りのコーチが知季にだけ自主トレメニューを渡す。言われるままにトレーニング始めた知季だったが……。
DIVE!!(2) スワンダイブ
津軽の海で飛び込んでいた沖津飛沫。MDCのコーチにスカウトされ、ある契約のもと、しぶしぶMDCにやってきた。けれど飛沫にとって、プールは薬臭く、狭く、どうしても馴染めない。おまけに飛び込みを「採点」されるだなんて。俺はこんなところで、いったい何をしてるんだろう?
DIVE!!(3) SSスペシャル'99
ライバルたちとしのぎを削りながらオリンピックを目指してた──はずだったのに。なぜか予定よりずっと早く、要一のもとにオリンピック代表内定の通知が。周囲は喜んだが、どうしてこんなに早く決まったのか。どうやら「裏」があるらしいことに気づいた要一は、ある行動に出る……。
DIVE!!(4) コンクリートドラゴン
やってきましたクライマックス。いよいよ、オリンピック代表選考会の始まりだ! 切符を手にするのは、前人未踏の4回転半に挑む知季か、見る者の目を惹きつけずにはおかないスワンダイブの飛沫か、ミスター・パーフェクトの要一か、はたまたよそのクラブのライバルたちか? ところがその当日、要一が高熱を出して……。
ミカ×ミカ!・伊藤たかみ(理論社)
ミカとヨウスケは双子。ミカは小学校の頃から男勝りで、「オトコオンナ」と呼ばれていた。ぼくはそんなミカに慣れてたんだけど、中学生になったある日、ミカが突然「女らしいって、どういうこと?」と訊いてきたんだ! あのオトコオンナのミカにいったい何があったのか?
しおりは、本が大好きな小学校5年生の女の子。近所にある雲峰市立図書館は、イトコの美弥子さんが勤務している関係もあって、よく利用している。これはその雲峰市立図書館でしおりが遭遇した事件を綴った、小学生向け図書館ミステリ。
TUGUMI つぐみ・吉本ばなな(中公文庫)
イトコのつぐみは、生まれたときから体が弱かった。だからすごく大事にされ、甘やかされて育ったため、高校生になった今ではとんでもない厄介な性格になってしまった。口は悪いし、平気で嘘はつくし、乱暴だし……それでいて、見た目は儚げな美少女だからってんだから、もう!
遠い海から来たCOO・景山民夫(角川文庫)
12歳の洋助は、海洋生物学者の父と一緒にフィジー諸島のパゴパゴ島に住んでいた。ある日、洋助は珊瑚礁の潮だまりで、見たことのない生き物を発見する。ええっ、これってどう見ても、6千万年以上前に絶滅したはずの、プレシオザウルスの赤ん坊じゃないかあ! おまけにこの恐竜の子ども、「刷り込み」のせいで、洋助を母親だと思ってるみたい。しかし、この貴重な種を巡って、国家間にはとある陰謀が渦巻いていた。果たして洋助はクーを守れるか? 直木賞受賞作。
これ、出版された当時(うわあ、20年近く前だよ!)に読んで、ハマったんだよねえ。このたび映画化されるってことで、なんとなく再読してみた。うん、やっぱ面白いわ。
【カザリとヨーコ】カザリとヨーコは双子なのに、カザリは母親に溺愛され、ヨーコは虐待を受ける。……うわぁ、何も短編集の最初にこの話を持ってこなくても! もう、初手からテンション下がる下がる。ずーんとした気持ちはしばらく抜けない。
【血液を探せ!】事故の後遺症で、痛みを感じない身体になったしまった老人が刺された! しかし輸血用の血液が消えてしまう。急いで探さなくては……。スチャラカだと思っていた設定が見事に生きる本格ミステリ。
【陽だまりの詩】制作者を看取るために作られたロボット。死の概念のないロボットはやがて……。意外で切ない結末。
【SO-far そ・ふぁー】ある日、ぼくは気づいた。ぼくにはパパとママの二人が見えるのに、パパとママはお互いが見えてないらしい。その上、二人とも相手が死んだと思っているのだ──。きゃあ、これイチオシ! 足下が浸るくらいだった水がちょっとずつちょっとずつ嵩を増していくような、そんな迫り方をする。もっとも印象の強かった一編。
【冷たい森の白い家】馬小屋で暮らす僕は、頭を潰され、無視され、ついには出ていくはめに。1人で暮らす僕が選んだ道は──。この救いがあるようなないような、ないようなあるようなラスト。やっぱないか。そうか。
【Closet】義弟の死体をクローゼットの中に隠してしまった私。しかし義妹は何かを知ってるようで──唯一理に落ちたミステリ。同じ手法のトリックが著者の別の作品にあったな。
【神の言葉】口に出すことで他者を操ることのできる少年の物語。この結末には「巧い!」と唸るとともに、背筋がひんやりする。「2002ベストミステリーズ」所収。
【ZOO】殺された恋人の写真が毎日届けられる。しかしそれは──。なんともシュールな短編映画を見ている気分。ラストにおこったある出来事が、物語の展開を変え、読者をほっとさせる。
【SEVEN ROOMS】「殺人鬼の放課後」所収。
【落ちる飛行機の中で】乗っている飛行機がハイジャックされた。飛行機はこのままT大へ突っ込むという。私は隣り合わせた男性から「どうせ死ぬんだから、安楽死の薬を買いませんか」と持ちかけられ──。あははは、これも好き。変わった印象の舞台劇を見ているような作品。シュールでスットンキョーで現実離れしてるんだけど、でもラストで締めてくれる。
(04.6.17)《詳細情報&注文画面へ》
DIVE!!(全4巻)・森絵都(講談社)
普通で平凡な少年だったのに、アメリカ帰りの美人コーチにその「秘めたる才能」を見いだされた中学生の知季。伝説のダイバーと言われた祖父の血を受け継ぎ、ひとり津軽の海に飛び込んでいた高校生、飛沫(しぶき)。そして両親ともオリンピック選手だったというサラブレットの高校生、要一。きゃあ。お好きなタイプとりそろえました的なラインナップですことよお嬢ちゃん!
といっても決してキャラ先行の物語じゃないんだな。赤字経営のMDC(ミズキ・ダイビングクラブ)は閉鎖の危機にあり、閉鎖を免れる条件はただひとつ、「このクラブからオリンピック代表を出すこと」。オリンピックなんて夢のまた夢だと考えていた少年たちが、美人コーチの手により、ライバルとなり、傷つき、いろんなものを犠牲にしながら成長していくのだ。
これがもう、よく出来てるっていうか何というか、飛び込みという競技の面白さも堪能できるし、青春物語としても成長物語としても実に読み応えがある。小学校高学年から中学生くらいを対象に据えた児童文学の範疇に入るんだろうけども、大人が読んでもハマりますよこれは。4巻の奇跡的なハッピーエンドには、思わず「ブラボー!」と叫びたくなるけれど、それを味わうためには1巻から順に読んでいかなくちゃなのだ。1〜3巻はそれぞれ、主人公が持ち回り。タイプの違う3人の少年の成長物語が楽しめるよ。
《4巻まとめて買い物かごへ》
中学生の知季のアンビバレントな心情描写が秀逸。見いだされ努力した結果、力がついてくる。だから飛び込みが楽しくなる。熱中する。その一方で、友だちだと思ってた幼なじみからは嫉妬される。常に飛び込みを優先してきたがため、ガールフレンドからは手痛いしっぺ返しを受ける。そんな目に遭ったときの知季の心情といったら……あたしくらいの年齢になると、それがもう可愛くてしょうがないんだが、もちょっと若い世代が読むと「わかるわかる」と胸キュンになってしまうんじゃないかな。ひとつのことしか目に入らない年齢だからこそ、気づいたときには他のものを失ってしまう。だけど、それも自分の選択だということを咀嚼できない。
ガールフレンドに対する知季の心情の変化は、実にリアル。その一方で、そういう青春ドラマを堪能しつつ、飛び込みというマイナー競技について説明くさくならず読者に示す技術もミゴト。
(04.6.20)《詳細情報&注文画面へ》
キュートだった知季くンから一転、ワイルドな飛沫の物語。伝説のダイバーだった祖父の血と意志を受け継いだ……と思っている飛沫が、祖父の真実を知るというくだりはなかなかの読み応え。脇役として出てくる知季くンが、ちょころびっと成長してるのも嬉しかったり。
スポーツものにありがちな展開かな、と思って読んでいったら、実はかなり周到に計算されていたことがわかってビックリ。あ、それと、大会のシーンで他のクラブのライバルを要一が紹介するんだけど、これも冗長にならずに、楽しく読ませてくれる。こういうところも巧いなあ。
(04.6.20)《詳細情報&注文画面へ》
1,2巻で「ミスター・パーフェクト」ぶりを発揮していた要一の、極めて人間らしい一面が出た巻。内定通知を貰って腑抜けてしまうあたりや、そこから何とかしようともがくあたりは実に読ませる。が、個人的なクライマックスは、ケガをした知季を要一が見舞いにいくシーン。もう、この場面での知季くんの成長ぶりといったら、おばちゃん泣いちゃう。くい〜ん。
しかしこの要一の行動は、考えさせられるね。自分だったら、ただ「ラッキー」と思っちゃうんじゃなかろうか。思わず汚れた自分を省みてしまったわ。こういう、自分の損得を越えて真っ直ぐに、利害ではなく自分自身に恥じないように、という行動が今一番描かれるべきなのは、もしかしたら児童文学なのかもしれないなあ。
(04.6.21)《詳細情報&注文画面へ》
この盛り上がり! 1巻まるまる使って、選考会の様子を描写。一巡ごとに、誰かの視点で状況と心情が綴られる。章の終わりごとに、その時点での総合獲得ポイントが記される。野球で言えば、一回表裏ごとに章が変わるとお考えください。
もうここまで読んできたら、みんなに行かせてやりたいオリンピック! いや、そのうち一人はさすがにこの状況では無理かもしれんけど、残りの二人(さて誰でしょう)に優劣をつけるなんて、おばちゃんにはそんな残酷なことはできませんッ。ええ、できませんとも。
そして迎えた終章。──うわあ、こんな決着のつけ方をするとは! のけぞって飛び上がって拍手拍手。そうか、この手があったか……。すっかり失念していたが、この手があったかあ!
ということで、爽やか友情スポ根成長物語。これはお薦めです。続き物なので、くれぐれも順番に読んでね。
(04.6.21)《詳細情報&注文画面へ》
二人の小学校時代を描いた「ミカ!」(文春文庫)の続編。独立した話なので、こっちを先に読んでも大丈夫だけど、「ミカ!」を読んでると「え、あのミカが女らしさを追求するなんて」と、なおいっそう驚けます。
ああ、男勝りだった女の子の「恋」がなんともキュート。一方、ユウスケにもアプローチしてくる少女がいるんだけど、これがまた絵に描いたような「女友達の協力体制」に笑ってしまう。なんだろうなあ、この著者って、ひょっとしてものすごく記憶力がいいんじゃないだろか。普通は忘れてるよな、こういう行動とか、こういう思いとか。
ただ、飼ってるインコの「シアワセ」がユウスケに話しかけてくるくだりが、個人的には「ここまでリアルな中学生小説を書いておいて、なんでいきなりスーパーナチュラルな要素が入っちゃうわけ?」と不満だった、。逆に「そこがいい」という人も多いかもしれないけど、あたしとしてはなんだか話が違う色を帯びたような気がしちゃったのよね。インコ無しでも、いや、インコは必要なんだけど、しゃべらなくても……。
とはいえ、リアルな小学生の日常を綴った「ミカ!」の方にも、なぜか「あり得ない動物」(名前はオトトイ)が登場するんだよね。ということはこのシリーズ、リアルな生活の中にファンタジックな生き物を配置することで、別の効果を狙っているということだ。そしてそれは多分、「子どもの衝動の具現化・子どもだからまだ明文化できないでいるけれど、実は潜在的に感じていることの現れ」ということなのではないか。いや、わかんないけどさ。あたしにはそういうふうに受け取れた。
そういえば、オトトイのあり方は不思議と受け入れられたなあ。というか、むしろオトトイの存在が、ミカとユウスケの心情を浮き上がらせると同時に話を動かす中心にあったのだった。うん、やっぱシアワセもしゃべりさえしなきゃなあ。
(04.7.10)《詳細情報&注文画面へ》
晴れた日は図書館へいこう・緑川聖司(小峰書店)
いやあ、よく出来てるよ! 姪に読ませたいと思ったね。あたしは小学校のときに読んだ砂田弘の「サインのない手紙」が、ミステリーを面白いと感じた原体験なんだけれど、これを読んで同じ思いを持った小学生がきっといるに違いない! しおりの、本に対する思いがいかにも優等生的で小生意気だけど、逆に小学生だからそれが「まっすぐさ」という美点になるんだな。謎解きと物語のバランスもいい。
加えて、「図書館の仕事」がよく分かるよ! 図書館がどういう理念で運営されているのか、図書館とはどういう場所なのか、本を貸し出す以外の図書館員の仕事にはどういうものがあるのか。図書館にはどんな苦労があるのか。大人が読んでも「へえ」と思う。それが、決して説明ではなく、物語の中で小学生にもすんなり入っていけるように紹介されているのだ。図書館員が泣いて喜ぶジュブナイルミステリだな、これは。
これはお薦め。ミステリとしての面白さ、図書館という舞台のドラマ、そしてしおりの周囲に起こるいろんなドラマ。小学校高学年向けだけど、図書館員の仕事のくだりなど、大人にも読んで欲しいな。
【わたしの本】図書館でお母さんを探していた小さな女の子。しおりは、一緒にお母さんを捜してあげようとするが、女の子はしおりが借りようとしていた本を見るなり「わたしの本だ!」と叫んだ。どうしてこの本が、この子の本なのか?
【長い旅】クラスメートの安川くんが、「図書館で返却期限に遅れたら罰金があるのか?」と訊いてきた。どうやら期限切れの本を持ってるらしい。どれくらい遅れてるのかという質問に、安川くんの答はなんと「60年」! どういうこと?
【ぬれた本のなぞ】閉館時にも本を返せるように作られている返却ポスト。そこに飲み残しの缶コーヒーが捨てられるという事件があった。高校生のしざわだったが、後日、今度は水が入れられて……。
【消えた本のなぞ】図書館の児童コーナーに、借り出されてはいないはずなのに消えてるが多い。誰かが持ち出してるのか? しおりは犯人を見つけようとしたが……。美弥子さんの言葉が滲みるなあ。
【エピローグはプロローグ】図書館で騒ぐ子どもを美弥子さんが注意したら、近くにその子のお母さんがいた。どうしてお母さんが自分で叱らないだろう……。終章はミステリではなく、図書館でしおりに起こったある出来事が描かれる。ちょっとストレートすぎるきらいはあるし、大人にしてみたら巷間よく指摘される問題だから目新しさもないんだけど、小学生が読む本だから、こういう話は大事。ここまでの話に登場した人たちが、それぞれちゃんと「解決」して再登場するのも楽しい。
(04.7.11)《詳細情報&注文画面へ》
まりあは母親と一緒に、つぐみの家が経営する民宿の離れに住んでいた。母親の再婚でそこを出たものの、つぐみのいる海辺の街で夏休みを過ごすために戻ってきた。その一夏を描いた物語。吉本ばなな(現・よしもとばなな)の初期の作品。
こうしてみると、初期のよしもとばななってのは、コバルト文庫で育ってきた80年代後半〜90年代の女子大生・OLのツボど真ん中だったんだなあ、というのがよく分かる。語り手の自己紹介から始まるこの構成は、まさにコバルト文庫のそれだ。お堅いブンガクではなく、ごく自然に染みついた文体で紡がれる若い女性の視点。でも、コバルト文庫では味わえなかった、死や孤独といったものに対する破滅的・諧謔的な行動を静かに叙情的に描くといった世界。うん、これは当時の若い女性にはたまんないわ。そしてきっと、今の若い女性にも。
つぐみはホントに厄介な性格で、普通ここまで壊滅的な性格だと嫌われるだろうと思うんだが、ホントにまりあが心の底から起こったとき「ごめん」と謝って周囲を驚かせたりしている。「ごめん」くらいで騙されるなまりあ! と思うんだけど、こういう小さなエピソードが、「つぐみは性格が悪いけど、でも心根は腐ってませんよ」ということを読者に知らしめていくんだな。だから読者も、つぐみをキライにはなれない。
このつぐみが恋をするくだりといったら。おお、コバルト文庫、と一瞬思った。一瞬だけね。なんとなれば、そこから始まる「犬事件」がつぐみの真骨頂発揮なのだ。それで一気に物語はコバルト文庫でなくなる。「乱暴でわがままだけど、心根は腐ってない美少女」だったつぐみの、ダークサイドを見る。それは、常に死と隣り合わせに生きてきたつぐみならではの行動。
物語が終盤に近づくにつれて、読者の感情の移入先が、まりあからつぐみにシフトしていく。著者にすっかり手玉にとられる快感がある一冊。
(04.7.12)《詳細情報&注文画面へ》
メルヘンチックな動物ファンタジーだと思っていたら、途中からいきなり国家レベルの冒険アクションになったのでビックリ。だけどこれ、もともとはジュブナイルなのかな? アクションシーンがなんともマンガチックなのだ。訓練されたはずの兵士が、いくら油断してたとはいえ、素人の親子がそこらへんにあるもので作った武器でやられちゃうか普通。あははは。
でも、そういうマンガチックな部分も含めて、実に爽快な物語。途中、けっこう泣かされちゃったりもするし。あたしは動植物にはまったく興味も愛着もないんだけど、それでもウルウルしちゃったなー。
まあ、「こんなふうにうまくいくわけないだろ」とか「国家レベルの機関がこんなテイタラクなわけないだろ」という箇所は多々あって、それは確かに興ざめと言えば興ざめなんだけども、「マンガチック」という印象が強かったために、逆に「マンガならこれもアリか」と納得させられてしまった。クライマックスへの盛り上げはやはり巧いし、なんせ文章が平易なうえに達者なので、クライマックスの映像的な美しさといったらアナタ! 予定調和ではあるけれど、荘厳で爽快で気持ちの良いラスト。
(04.7.15)《詳細情報&注文画面へ》
69 sixty nine・村上龍(集英社文庫)
舞台は1969年。学生運動が高まり、東大では入試が中止になった年。長崎県佐世保市の進学校3年生のケンは、自分たちも闘争せねば、と立ちあがる。まずは高校のバリケード封鎖だ。それから映画を作って、フェスティバルを企画しよう。え? 政治的思想? いや実は、それもこれも「高校一の美女の気を引きたい」というそれだけだったりするのだけど……。めちゃくちゃで、明るくて、お調子者のケンを中心に、69年の高校三年生の青春を描いた、佐世保弁が楽しい村上龍の自伝的小説。
……というあらすじを読んで、気づく人は気づくでしょ。これは、あの大矢の永遠のベストワン小説、庄司薫「赤ずきんちゃん気をつけて」と同じ時代、同じ年頃の若者が主人公なのよ。厳密には、ケンは薫君より1年下ってことになるんだけど。ああ、それなのに、この違いといったら! 東京では薫君が形而上的な悩みに耽っているとき、佐世保ではお調子者の高校生が校長先生の机にウンコしてるのよ。うわははははは。なんて両極端な青春。互いに互いの爪のあかを煎じて飲ませたい。でも、どっちも当時の真実だったんだろうなあ。
で、ケンたちによる高校バリケード封鎖(って、今の若い人には通じないのかな? まあいいや、読めばわかるから)はミゴト成功したんだけど、当然当時の風潮からして、「弾圧」が始まる。警察まで出てきちゃう。一転、自分たちのしたことにビビったり、それでも謹慎を楽しんだり。
なんかねえ、あたしはケンより更に2世代下で、この頃はまだ幼稚園児だったんだけど、その十数年後に自分がこの年齢になってみると、ケンたちの行動が全然古くないんだよね。無論、バリケード封鎖とか、愛と平和を訴えるヒッピーとか、そういうのは下火になってたけど、その行動手段が違うだけで、パワーのあり方とかは、まるで同じなのさ。これはきっと、今でも変わらない。それはつまり、村上龍はあの69年という時代そのものを描きたかったのではなく、69年という時代に高校3年生だった彼らを描きたかったせいなんだろう。
終章で、「現在」のケンが、当時の友だちや先生のその後を短く紹介する。ここがねえ、実に滲みるのだ。その前段までは、とにかくハチャメチャで若さたっぷりの青春小説だったのに、終章で一気にしんみりさせられて、「ああ、あたしも、この時代を通り過ぎちゃったんだなあ」と溜息ついちゃう。読んでる最中はサイコーに楽しくて、読み終わってからしっとりした余韻の残る傑作。
(04.7.21)《詳細情報&注文画面へ》(現在の装丁は映画スチールに変更されてるかも)
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