フェニモア先生、人形を診る・ロビン・ハサウェイ(ハヤカワ文庫)
心臓医にして私立探偵のフェニモア先生シリーズ第2弾。フェニモアの患者である老齢のパンコースト姉妹は、親族を招いて感謝祭のパーティを開いていた。ところがその最中、家族の一人が急死する。その死は、姉妹の趣味であるドールハウスで予言されていた。そしてまた、ドールハウスの人形通りに殺人が起こって──。
フェニモア先生、宝に出くわす・ロビン・ハサウェイ(ハヤカワ文庫)
心臓医にして私立探偵のフェニモア先生は、老齢で亡くなった患者からニュージャージーの土地を寄贈された。それも宝の地図つきで! 助手のホレイショを連れてその土地に出かけた折り、近くに住んでいる患者のリディアの屋敷に立ち寄ると、なんだかリディアは脅迫を受けている気配。土地を売るように迫られているのだという──。
列車に轢かれて死んだ男は、高級老人ホーム「海の上のカムデン」の入居者の恋人だった。事故か他殺か自殺かわからず、警察は捜査を開始。そしたらもちろん、カムデンのおばあちゃん探偵団がじっとしている訳がない! 好奇心だけで生きているアンジェラと、パワフルにして泰然自若のキャレドニア、そして関節痛に悩むブライドン翁まで加わって、じじばば探偵団第4弾だあ。
ストロベリー・ショートケーキが泣いている・ジョアン・フルーク(ヴィレッジブックス)
レイクエデンで、大手製粉会社の主催によるデザートコンテストが開かれた。街一番のパティシエとして審査員に選ばれたハンナだったが、別の審査員がコンテスト初日の夜に何者かに殺されてしまう。現場が自宅のガレージだったため妻が容疑者扱いされ、友人のハンナは黙っていられない。手作りクッキーの店「クッキー・ジャー」を経営するハンナが事件に関わるコージーミステリ、ハンナ・スウェンセン・シリーズ第2弾。
シュガークッキーが凍えている・ジョアン・フルーク(ヴィレッジブックス)
手作りクッキーの店「クッキー・ジャー」を経営するハンナが事件に関わるコージーミステリ、ハンナ・スウェンセン・シリーズ第6弾……なんだけどもさ。うわーっ、騙されたっ。これはもう騙された。いやいや、ミステリとして騙されたってんじゃないのよ。造本自体に騙された。
ミステリ専門書店の店主ペネロピーは、傾きかけた書店の経営をなんとか立て直すべく、ベストセラー作家の講演を企画した。ところがその最中に、作家が急死! 病気だと思っていたらなんと毒殺の怖れがあるという。彼が死ぬ直前に水を渡したペネロピーは容疑者No.1だ。困ったペネロピーの頭の中に、いきなり誰かが話しかけてきた──?
UL社のネットワークに存在する女の子型人工知能、チューリングは不安だった。彼女を制作したプログラマーのザックが、急に会社に来なくなったのだ。会社からでも自宅でもザックがネットワークにアクセスした痕跡がまったくない。ザックに恋心を抱くチューリングは、自分の持つデータベースやハッキングの能力をフルに使い、ザックの行方を追い始めた──。
ダージリンは死を招く・ローラ・チャイルズ(ランダムハウス講談社文庫)
チャールストンでティーショップを営むセオドシアは36歳。ティー・ブレンダーのドレイトンやパティシエのヘイリーと、お茶の販売やイートイン、ティーパーティのプロデュースも手がけている。ところがそのパーティの最中、一人の男がティーカップを持ったまま急死した。毒殺と判定され、パーティの給仕をしていたベサミーが疑われて──。「お茶と探偵」シリーズ第1弾。
グリーン・ティーは裏切らない・ローラ・チャイルズ(ランダムハウス講談社文庫)
あれあれ? 前作の感想では否定的なことを書いたが、今度はいきなり面白いぞ? 前に不満だった「人物の個性が無さ過ぎ」という点が(主人公を除けば)今回は見事にクリアされている。構成も段違いにスマートだ。ミステリとしての弱さは相変わらずだけれど、サスペンスとしての構成はきっちりしてるし。おっと、その前に粗筋を。
ひゃーっ、これはすごいすごい! ディーヴァー初の短編集だが、どれも実にテクニカルで捻りの利いた、見事なまでに読者を騙してくれる、ゾクっとさせてくれる、けれど決してアイディアだけじゃなく物語をしっかりと持った、そんな短編集。巧いなあ。うーむ。唸るしかないほど巧いなあ。ホント巧いなぁ。うーむ。とにかく「騙し」「どんでん返し」が身上なので、各編ともあまり粗筋を詳らかにできない。そもそも「どんでん返し」があると書くだけでも予断を与えてしまいそうなんだもの。原題は「Twisted」だそうで、なるほどなるほど。
もうそのまんま「そして誰もいなくなった」の世界。オーソドックスでクラシカルで、あまりに様式に乗っ取り過ぎてて、おかげで犯人はすぐに分かっちゃうよ。読者への挑戦まで入れて、ホントに思わせぶりにクラシカルに仕上げたのは分かるんだけど、なにもトリックまでここまでオーソドックスなものにしなくても。まあ、そこいらにあまり凝るタイプのミステリじゃないからいいのかな。逆にコージーでここまでフェアプレイに徹したのを評価すべきかも。それにしても安易だと思うが。まるで様式をパロっているかのようなストーリー。
けれど事件と謎解き以外はいいぞ(ミステリに於いて、事件と謎解き以外を褒めてもなぁ)。フェニモアのアシスタントであるヒスパニックの少年・ホレイショと、ドイル夫人の掛け合い漫才は更にレベルアップして、楽しい楽しい。特に、物置になっている地下室を二人が結託して片付けようとするくだりはサイコー。物置掃除の目的は二人とも違ってて、ホレイショはバザーの収益金目当て、そしてドイル夫人は開いたスペースをつかって老人のための空手教室を開くってんだから大笑いよ! この空手教室が凄まじくて、ドールハウス連続殺人事件よりそっちを読みたくなったくらいさ。ちなみに空手おばーちゃんズのチーム名は「紅傘軍団」。赤い傘をトレードマークにし、いずれは赤い傘を持ってるだけで空手の達人として一目置かれるようになる、襲われなくなるという目論み。それだけでも笑うのに、注文間違いで届いたのは黒い蝙蝠傘! うわはははは、それじゃ普通の傘だよ!
もうホレイショとドイル夫人と紅傘軍団から目が離せない。目が離せなくなる場所がちょっと違うような気もするが。
(06.11.2)《この本の詳細情報&注文画面へ》
2作目ではクラシカルな本格ミステリの様式に乗っ取っていたが、今回は一転、海賊の宝探しだ。入り組んだ河川に湿地帯、れんが造りのコテージ、秘密のトンネルなどなど道具立ては完璧。土地を売るよう脅迫や嫌がらせを受けている老婦人リディアの身を案じ、フェニモアは調査を行うとともに、看護婦のドイル婦人をボディガードとして屋敷に派遣。リディアの周囲にいる人々は皆、リディアの土地を欲しがる動機がある。さてこの脅迫事件の黒幕は誰?──という話なんだけれど、うーん、こういうのでは容疑者を絞って行く過程が楽しいものなのだけれど、なかなか絞れないのでイライラする。寧ろ、絞る過程をすっ飛ばして「こいつだ!」というのが出て来るんだよね。おまけにその犯人が「普通は真っ先に調べるだろ」という人物なので、ちょっとばかり拍子抜け。まあ、今回は謎解きというより冒険ものだからね。その分、アクションシーンはなかなか堪能させてくれます。
そんな中、今回の最大の売りはドイルだ! もう、ドイルが大活躍! 聞き込みはするしフーディニもびっくりな脱出劇もあるし。その一方で、派遣された屋敷にテレビがないことにショックを受けるあたりが可愛いぞドイルおばさん! フェニモアは恋人と一緒に行動することが多いんだけど、読んでて楽しいのはドイルやホレイショの方なのよね。いっそフェニモアいらないんじゃと思ってしまうくらい。恰幅が良くて鷹揚で世話好きなドイルおばさんと、機転も小回りも効くホレイショ少年のコンビで一作書いてくれないかしら。
ところでこれ、読み終わって気付いたんけど、人が死なないのね。びっくり。いや、大昔の人死にはもちろんあるんだけど、これだけさまざまな脅迫や実力行使や立ち回りがありながら結局のところ誰も死なないって、なかなかにステキだなぁ。 (06.11.5)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ピーナッツバター殺人事件・コリン・ホルト・ソーヤー(創元推理文庫)
ああもう、楽しい楽しい! このパワフルなおばあちゃんズがやっためたらと楽しい! 特にアンジェラってのは並外れて好奇心が強く穿鑿好きで、カンケーないのに妄想を膨らませては他人の迷惑省みず事件に首をつっこむタイプ。要は、殺人事件という人の死を娯楽だと考えてるタイプ。こういうキャラって謎解きミステリに於いてはとてもありがちなのだけれど、これが若い女の子だったら「常識をわきまえなさい」と苦々しく思うし、中年のおばさんだったら「こうはなりたくないな」と眉をひそめるところなのよ。ところが不思議なのは、事これがおばあちゃんになると。許せちゃうんだよなあ。いやむしろ可愛いんだよなあ。
それを端的に説明してくれる印象的なシーンがある。アンジェラがカムデンで働いている若い人の恋愛問題に首をつっこもうとしたとき、キャレドリアが彼女をたしなめて言うセリフ。
「アンジェラ、殺人をゲームに──知的パズルにするのは、血も涙も無いようだけど悪いことじゃない、とたしかにわたしたちは認めているよ。刺激にも挑戦にもなるし。それに、警察の邪魔さえしなければ、誰も傷つけずに愉しむこともできるしさ。だけど若い人たちの人生を引っかきまわそうってのは、また全然別の……」(p227)
何がいいことで何が悪いことか、そのものさしは年齢によって変わるのだと目から鱗が落ちたよ。人の死を娯楽にするなんてもちろん普通は不謹慎なこと。死んだ人の恋人が友達なんだから尚のこと。けれどこっちだっていつお迎えが来るかわからないんだもの、頭でっかちの若いのが考えるよりずっと彼女たちにとっては死は身近であり、馴染みのある出来事なんだよなあ。馴染みのあるものをいじって楽しむ方が、「若い人の迷惑になる」よりずっといい、と彼女たちは考えるわけだ。なんかものすごく納得。
おおっと、肝心のミステリ部分の感想が後回しになってしまった。これまでのシリーズ作品の中では、最もちゃんと伏線とロジックがあって、ミステリ部分も楽しめました。もうちょっと読者も推理出来るような書き方をしてくれると、もっと良いんだけどな。ま、本格ではないのでそれを求めるのは間違いか。
(06.11.7)《この本の詳細情報&注文画面へ》
ああ、こうなるのか! 実はシリーズ1作目の「チョコチップ・クッキーは見ていた」を読んだとき、とても大きな問題がひとつ解決されてないじゃないか、と思ったのよね。ところが2作目である本書を飛ばして3作目以降を読んでみると、なんかいつの間にか状況が変わっていて。「何があったの?」と思ってたんだが、そーかそーだったのかあ。こうして見ると(3作目以降の展開を知ってるだけに)、どうやらこのシリーズ、イヤなキャラはいずれ死ぬ運命にあるんじゃないか?
とまれ、内容。ミステリとしての形式は1作目より数段こなれた観がある。手がかりから容疑者を絞っていくその過程で、レイクエデンに住むいろんな人たちのいろんな面が浮き彫りになって。後半には心臓バクバクのサスペンスがあったかと思えば、そのすぐあとに笑いがあったりという、そういう緩急のつけかたも見事。特に今回はまず初めに恐喝という犯罪があり、容疑者がその恐喝の被害者かその周辺に限られるという枠があったのが入り込みやすかった。欲を言えば、「推理」がなぁ……偶然に頼るところが大き過ぎるよなあ……まぁでも本格じゃないし、得てして実際はこんなもんだろうなという気もするし。でも展開が読めちゃうのはちょっと残念。
でもやっぱり、面白いのは事件そのものよりもレイクエデンの面々の方。リサが共同経営者に昇格したり、マイクとノーマンの間でハンナが揺れたりという、そっちの方が楽しいな。それにしてもノーマンの秘密って何なんだろう……。
(06.11.9)《この本の詳細情報&注文画面へ》
このシリーズは毎回、章の変わり目と巻末にスイーツや料理のレシピがついているのが特徴。ええ、それは分かってましたよ。分かってましたとも。でもさ、全402ページあるうち、話は300ページで終わって、残り100ページがまるまるレシピ集ってのはどーよどーなのよ。どうやら本国ではクリスマス用のボーナストラック的出版で、最初から短かったらしいのね。でもそんなこと知らないからさ、全体の4分の3近くで犯人が分かったときは、まだ4分の1以上残ってるんだからこのままでは終わらないはずだと思うでしょ普通思うでしょ思うわよね? ね? それがあんた、ホントに300ページで、全ページの4分の3で話が終わったと分かったときにゃ「へ?」と声に出しちゃったもんさ。
さて、とは言うものの、実は話自体は悪くない。いや、むしろ良い。レイクエデンの料理本出版に向け、掲載される料理を実際に作って開催されたクリスマスパーティ。その途中で殺人が置き、おりしも外はブリザード、犯人はまだこの中にいる!という定番中の定番。ハンナに加えて、第二子を妊娠中の妹アンドリア(予定日は過ぎてるのにまだ出て来ない)、大学生の末妹ミシェルも帰ってきて、すっかり三姉妹探偵団のノリ。これもまた良いぞ。推理自体はユルユルだが、それはしょうがない。ページ数が少ないせいか、ハンナとマイクとノーマンの三角関係の描写もダレずに切れがよく、にやりとさせられるし。毎回これくらいの長さの方がいいんじゃないの?
印象に残ったのは、すべてが終わったあとの病院のシーン。アンドリアの出産を待つ一族の様子があまりにバカバカしくて笑っちゃったい。そしてトレイシーが書いたサンタさんへの手紙が素晴らしい! それともうひとつ、聞き込みを手伝おうとする母親ドロレスにハンナが「幸運を祈ってるわ」と言ったとき、母親が応えて曰く。「運なんて関係ないわよ。威嚇はひとつの芸術形態なのよ。よく覚えておきなさい!」──うわははは! これはもうレイクエデンの名言集に入るでしょう! って、ミステリには無関係なとこばっかりだな。
(06.11.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》
幽霊探偵からのメッセージ・アリス・キンバリー(ランダムハウス講談社文庫)
50年以上前に死んだ私立探偵のジャックが幽霊となり、ペネロピーと一緒に調査をするというシリーズ第1作。似たような話はけっこうあるぞ……と思ったのだが、これが良い! まず、ペネロピーは完全にコージーミステリの住人で、リアルな生活感に満ちあふれたシングルマザーなのね。ご近所さんとの付き合い(町内会の議論が楽しい!)、亡夫の親戚との確執、一人息子のこと、そして経営する書店のこと、そういう日々を送ってる女性。一方、ジャックはハードボイルドの住人。彼の思考やセリフはまさにハードボイルドのそれで、コージーとハードボイルドがものすごく変な形で上手に融合してるのだ。
コージーもハードボイルドも、ジャンルとしては謎解きそのものにあまり重きをおかないものなんだけど、そういう推理の面でも見るべき部分がある。「あ、これはそういう意味だったのかあ!」とひっくり返るような仕掛けや伏線があって、本格ミステリファンでも充分楽しめるんじゃないかしら。
舞台がミステリ専門書店という設定もファンには楽しいぞ。息子のスペンサーの名前はロバート・パーカーの人気シリーズからとった(ホントは違う)だの、絶版本コーナーには「オリエント急行の殺人」の米国版である「カレー行き列車殺人事件」(1934年ドットミード社刊)があるだの、コリン・ウィルソンの「暗黒のまつり」を買った客をコレクターだと推理したりといった、そういうくすぐりが楽しいのよ。のみならず、アメリカでの書店経営のあれこれ(返本の制度だとか)の情報もあって「へえ」と思う箇所も多いし。
うん、これはいいぞ! 今回はペネロピーがジャックの幽霊を受け入れるまでに枚数を費やしたが(そりゃそうだ)次回からはその手間ははぶかれるわけで、よりコージー&ハードボイルドが堪能できそうよ。楽しみ楽しみ。ジャックがこの場所で死に幽霊になるに至った事件についても、きっとこれから出て来るのでしょう。この著者は「名探偵のコーヒーの入れ方」を書いたクレオ・コイルの別名儀だそうだけど、これは拾い物だあ。
(06.11.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
恋するA・I探偵・ドナ・アンドリュース(ハヤカワ文庫)
うわ、女の子型人工知能って! うわははは。この人工知能の擬人化(という表現も正確ではないが)が素晴らしい。この人工知能は社内の防犯ビデオにアクセスして映像情報も見ることができるし、ネットワークで繋がってさえいれば世界中のどこからでも情報をとってこられる(場合によっては改竄できる)という万能ぶりなのだが、どうしても出来ないことがある。データとしてネットワーク上にないものは、どうやっても知り得ないということ。そしてカメラや電源のない場所では何もできないということ。ザックの失踪も、「ネットワークにアクセスしない」「クレジットカードを使ってない」「電話を使ってない」「ATMを利用してない」「ホテルや病院の顧客・患者リストにも名前が無い」など、なんらかのネットがらみの情報だけでしか判断できないってわけ。
となると当然、彼女には人間のサポーターが必要になる。有能でパワフルなおばさん秘書のモード、そしてチューリングを人間だと思い込んでいるコピー係のティム。人間と人工知能の連携がエキサイティング。例えばティムはチューリングに頼まれてある場所に忍び込むのだけれど、彼に危険が迫るのね。それを察知したチューリングは、まさに人工知能ならではの、ネットワークを駆使した方法で彼を救出するのさ。なんてスリリングなの!
正直言うと、読み始めたときには「感情を持ってしまった人工知能が自分のアイデンティティに悩むってな話か、でなければ機械に頼りすぎる社会への警鐘みたいな話になるんだろうな」とちょっと斜に構えていたのさ。ところがどっこい、そんな手垢のついた話ではまったくなかった。ただ、ものすごい能力を持っている一方でとてつもない制約が課せられている名探偵が──それもとびきりステキな名探偵が登場したというだけにとどめ、その効果を最大限に生かしつつもミステリとサスペンスの出来で読者を引っ張るのだ。クライマックスなんてあんた、どれほど手に汗握ることか。
難を言えば、最終的な問題解決のための処理がちょっと分かりにくいってことくらい。とまれ、これは楽しい。専門的な話にはならないのでSFに弱くてもまったく問題無いし、キャラの魅力も充分。著者の新シリーズだそうで、続編が待ち通しいぞい。
(06.11.20)《この本の詳細情報&注文画面へ》
セオドシアが独身で仕事のできる女という設定のせいもあり、ドメスティックな要素は殆ど無し。代わりにティーショップ「インディゴ」のメンバーが暖かな家族のように描かれているし、お店の仕事内容のディーテイルも興味深い。お茶にまつわる蘊蓄も楽しいぞ。舞台となっているチャールストンの描写もいい。サウスカロナイナ州のこの町には、大昔だけど一時期いたことがあるので、すっごく懐かしかった!
ただ、この主人公のセオドシアの人となりが、今ひとつ伝わってこないなあ。どうやら美人で賢くて仕事もでき、周囲から一目置かれている女性のようなのだが、まったくそういうふうには見えないぞ? それどころか、何の個性も感じられない。セオドシアと二人の従業員(ベサミーをいれれば三人)は、もうちょっとそれぞれ持ち味があっても良いんじゃないかしら。この刑事もねえ……普通、コージーの刑事といえば、もうちょっとこう、良きにつけ悪しきにつけ、描き込まれるもんじゃないかと思うんだけど。
ミステリとしては、まぁ、その……ごにょごにょ。フェアじゃないのはしょうがないとしても、フェアじゃないのに「なんか立ち位置的にこのあたりが犯人ぽい」というところで当たっちゃうのはどうか。雰囲気作りのための思わせぶりは多いけど、それらもなんか浮いてるし。いくらコージーとはいえ、もうちょっと推理があっても良いんじゃなかろか。紅茶の一言メモや料理のレシピがついてる(またかよ)けど、そういうものよりミステリ色がもっと欲しいぞ。
ということで、ミステリとしても弱く、家庭的な生活感もなく、ロマンスも殆どないとなれば、つまるところこれは「お茶」と「お店」と「街」を味わうお話なのだな。うん、そこいらをのんびり味わうには──それこそ、お茶とマフィンでくつろぎながら味わうには、うってつけなのかもしれない。毒殺の方法や真犯人像なんかより、「そうか、葉がしっかり丸まってる中国茶は7分くらい蒸らしてもいいんだな」てな箇所の方が印象に残ってるものなあ。あまりミステリとは思わずに読むが吉。
(06.11.28)《この本の詳細情報&注文画面へ》
チャールストンの海では毎年恒例のヨットレースが開催中。ゴール付近では浜辺のお茶会が催されており、セオドシアの経営するインディゴ・ティーショップがお茶や料理をケータリングしていた。ところがゴールの号砲が鳴らされたと思ったら、銃が暴発。号砲係の資産家が犠牲になってしまった。これは事故なのか、それとも──?
なるほど、前作はシリーズ一作目ということもあってやや説明が多かったきらいがあったが、今回は導入部から美味しそうなお茶や料理がてんこもりで、インディゴ・ティーショップの面面がそれぞれどういう仕事をしているのかが、賑やかな郷土の祭りの中で上手に紹介されている。説明ではなく、シーンとしての演出が生きてるんだな。それに、前作では薄かった登場人物たちの性格や個性といったものが、今回はかなりはっきりしてきた。ヘイリーの辛辣さ、ドレイトンの凝り性もさることながら、デレインの超ゴシップ好きというキャラが見事に生きてるし、前作では偏屈なだけだったティモシーの意外な正義感と茶目っ気も嬉しい驚き。うん、これならいいじゃん。
ただ、セオドシアのキャラクタだけは引き続き不満。嫌いなんじゃなくて、可もなく不可もなくって感じなのね。このメンバーにあって最も個性が薄い。感情の描写や生活感のあるエピソードが少ないせいか、セオドシアの「私」がぜんぜん立ち上がってこないんだよなあ。この物語を読んでる途中で、「セオドシアって、かっこいいなあ」とか「可愛いなあ」とか「楽しいなあ」とかっていう類いの感想を持てない。読者が主人公に共感するとっかかりが無いのよ。コージーのシリーズで主人公に共感できないのは辛い。もうちょっとセオドシアそのものをオープンにしてくれると良いのだけれど。
ミステリ面。犯人当ての本格ではないので、アンフェアなのはOK。この手の素人探偵がよくやる「犯人を罠にかける」という趣向も凝っててこれはなかなか。ただ、この事件が事故か殺人かが分かってない段階から殺人だと決め打ちして動き出すのはちょっとどうかと思ったぞ。ホントに皆が言うほど「頭のいい女性」なのかセオドシア?
(06.11.29)《この本の詳細情報&注文画面へ》
クリスマス・プレゼント・ジェフリィ・ディーヴァー(文春文庫)
もちろん全てが同じ高レベルにあるわけではなく、そこにはばらつきがある。けれどそのばらつきは、作品そのものの出来不出来というよりも寧ろ読者の好みの問題で左右されそうな部分。どれが一番好きか、どれに一番驚いたか、読んだ人同士で話し合ってみると楽しいだろうなあ。
あたしの場合。何気なく読み始めた一作目の【ジョナサンがいない】で、いきなりひっくり返った。「えっ」と声に出した。【ウィークエンダー】は強盗殺人を犯してしまった若者が人質をとって逃げる物語。ラストは怖い怖い。【サービス料として】は精神科医とクライアントの物語。ミステリとしてはよくあるパターンだが、展開が巧い。【ビューティフル】は絶世の美女が悪質なストーカーを撃退しようと策を練る話。【身代わり】【三角関係】の2編についてはもう何も書けない。本編を読んで。表題作【クリスマス・プレゼント】はご存知リンカーン・ライムのシリーズ。面白さはピカイチだけど、ストーリーとは別に、車椅子の背中にクリスマスリースがつけられてるくだりが可笑しい。【超越した愛】はありがちな話と思って読んでいると、最後に驚かされる(<いや、この感想は全部の話に言えるんだけどね)。【パインクリークの未亡人】はコンゲーム小説として絶品。そして最後の一編、【ひざまづく兵士】はダークな読後感に身震いだあ。
他にも、夫の妄想が悲劇を招く【宛名のないカード】、シェークスピアがモチーフの【この世はすべてひとつの舞台】、O.ヘンリーを彷彿とさせるちょっといい話の【ノクターン】なども印象的だが、あたしが【ジョナサンがいない】と並んで挙げるイチオシは【非包含犯罪】だ! 裁判の話なんだけど、これが痛快。
とまれ、タイプはさまざまだけど読者を騙すという点においてはどれも同じ。気に入るのがきっとあるぞ。そして何より「前書き」に記された、著者の短編・長編へのそれぞれの姿勢に共感。
(06.11.30)《この本の詳細情報&注文画面へ》
書評リストに戻る