じゃじゃ本ならし


私が愛したリボルバー・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 バツイチ30歳のステファニー・プラムは職を失い、困り果てていた。困った末に選んだ職業は賞金稼ぎ。保釈中に逃げ出した逃亡者を捕まえ出頭させるという仕事。ところが最初に選んだターゲットは偶然にも、ステファニーが高校時代に一度だけ関係を持ったことのある曰く付きの相手で。おまけに彼は冤罪を主張し、真犯人を自分で捕まえるという──。
 まずこの賞金稼ぎっていう仕事にビックリだ。事件の容疑者が逮捕されると、その状況に応じた保釈金を払えば容疑者は裁判まで解放される。このとき、お金を工面できない容疑者に対して保釈金を貸し付ける会社があるのね。裁判所に出頭すれば保釈金は返って来る。でも解放されたのをこれ幸いと、しらばっくれて逃げちゃうケースがあるわけだ。そういう逃亡者を見つけて警察に出頭させるため、保釈金貸付会社は人を雇う。それがバウンディ・ハンター(西部劇の用語ですって)と呼ばれる賞金稼ぎたちのこと。へええ、こんな仕事があるのかあ。
 仕事もすごけりゃヒロインもすごい。恨み重なる初体験の相手を往来で偶然見かけたとき、思わず車で轢いちゃったってんだから。何だそれは。そういう性格で賞金稼ぎなんて仕事をしてるんだから勇敢な女丈夫かといえばさにあらず、けっこうビビリだったり無防備だったり。すぐに尻尾巻いて逃げ出したかと思うと、ヘンなところで意地っ張りだったり。妙にキュートなのよね。冷静に考えれば「もっと手軽な案件をたくさん請け負ってお金貰えばいいじゃん、なにもそんな危険な仕事に自ら飛び込んでいかなくても」と思わずにはいられないんだが、本人が一番ビビってるし、いざというときはちゃんとヘルプを頼むので、よくある好奇心だけのバカヒロインほど腹は立たない。
 他のキャラもいいぞ。特にステファニーのおばあちゃんがサイコーなんだが、今回の白眉は賞金稼ぎのターゲットであるモレリだ。モレリはなんとステファニーの初体験の相手にして現在は警官。殺人の疑いをかけられている。でもモレリは冤罪を主張。二人は出し抜きあったり協力し合ったりしながら事件の中枢に迫っていくんだけど、この駆け引きがサイコー! 事件とロマンスの両面で繰り広げられる丁々発止の攻防がたまらなくエキサイティングだ。でも、笑ったりワクワクしてると、突然ドキっとするようなサスペンスフルな展開になったりして、油断できない。まさに息をもつかせぬといった感じ。
 とまあ、とっても魅力的なキャラにエキサイティングな展開で面白いんだけども。ただどうにも気に食わないのが「犯人」なのよ。だってさー、これ、バレバレじゃん。中盤にはもう「あー、この人かあ。動機はこれかあ」ってのが、はっきり分かるよ。話そのものがすっごく面白いだけに、結末ももうちょっと「えっ」と思わせてくれても良いのになー。   (07.8.4)
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あたしにしかできない職業・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。まだまだ新米なので軽めの案件を回してもらった筈だったが、実際初めてみるとターゲットのケニー・マンキューソはなかなか見つからない。そんなとき、地元の葬儀屋スパイロから妙な依頼を受けた。棺桶が盗まれたというのだが──。シリーズ第2弾。
 うおっ、面白ええええっ! キャラクタの魅力が3倍増しだよ! 〈天敵以上恋人未満〉のジョー・モレリとの掛け合いも相変わらず冴えてる(というかドキドキしちゃうよ)し、就職・結婚にうるさかったお母さんも個性が出て来たし、何よりメイザおばあちゃんがすごいぞ。抱腹絶倒とはこのことだ。四五口径のロングパレルを「友達から借りて」来てぶっ放すし、孫の男関係に興味津々で自分も現役気分だし、葬式に行って棺桶の中の死体を見るのが趣味だし、そして何よりクライマックスでの活躍ときたら! 助演女優賞だよメイザおばあちゃん。
 やや無鉄砲なところもあるヒロインは、けれど分をわきまえている。そこが魅力だ。中でヒロインのステファニーに対しジョー・モレリがこう評すシーンがある。「おまえは、探してる人間にぶち当たる妙な才能みたいなものがあるが、相手を取り押さえる腕はまったくない」──ステファニーはそれを全面的に認める。認めた上で、モレリやレンジャーといったプロの助けを借りながら、逃げずに闘う。逃げたいし泣きたいし、時には気絶しちゃうこともある(ウンコまみれになった上に死体の足を見つけたら、そりゃ気絶くらいするさ!)けど、自分のできる範囲には全力で当たる。ヒスも起こすし、自分の欲求に負けることもある(特にダイエットとセックス)。つまりは、めちゃくちゃ自然体。だからこそ応援したくなっちゃうんだよねえ。そんなヒロインを、コミカルにキュートに、ちょっとお下劣に描いたこの文章がまた良くて。ミステリ濃度は薄いけど、そんなの気にならないよ。とにかくテンポが抜群にいいんだもの。
 ところで本書の中に、ステファニーが葬儀屋という職業を「汚れ仕事だ」と思うシーンがあるのよ。ここを読んで、マイクル・M・リューインの
「探偵家族」にも似たような価値観が出て来るシーンがあって、訳者の田口俊樹さんにご教示を乞うたのを思い出した。こと奔放なステファニーをしてこの意見。うーん、こんな職業差別が根強く残ってるのか……。 (07.8.6) 《この本の詳細情報&注文画面へ》


モーおじさんの失踪・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回のターゲットはモーおじさんことモーゼスだ。武器携帯で逮捕されたものの、裁判所に出頭せず行方をくらませてしまったのでステファニーが出てきた次第だが、なんせモーおじさんは街の人気者。「モーおじさんが悪いことをするわけない」という街のコンセンサスのもと、ステファニーへの風当たりは超強い。ところがモーおじさんを探している途中、別人の死体に次々と遭遇。事件はどんどんきな臭くなっていって──。シリーズ第3弾。
 
「私が愛したリボルバー」でたいへんな目に遭った売春婦・ルーラが、「あたしにしかできない職業」で保釈金貸付会社のファイル整理係に転身したわけだが、本書ではそのルーラが大活躍! ファイル整理に意外な才能があったのは前巻で分かってたけど、やっぱり彼女の爆走機関車キャラはバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)の方が好みに会う。それで半ば無理矢理ステファニーとコンビを組んで一緒に行動するんだが──うわははは、ルーラ、面白ええっ。これまでステファニーの行動を見て「おいおい、危ないよ自重しろよ」とハラハラすることがあったが、ルーラに比べたらステファニーの行動なんて冬眠してるカエルくらいおとなしいぞ。ルーラの登場で、さらにお下劣度にも加速が……うわはは。明るいお下劣なので楽しいのよ。
 さてさて、今回はいかにも悪者然としていた前二作のターゲットと違って、街の人気者を追わねばならないってところがミソ。ここで表面に出て来るのが、このコミュニティのありようだ。生活感と言ってもいい。武器携帯という明らかな犯罪を犯し、おまけに逃げているというのに街の人々は彼を庇い、彼を追うステファニーの方を責める。それは後に、もっと大きな犯罪にモーおじさんが関わっていたことが判明した後でも変わらないのよ。おまけにステファニーが彼を追っていることは、電話と噂であっという間に街に広まるわけで。ああ、コミュティってこうだよなあ。このコミュニティの描写と、それからステファニーの家族の描写が、賞金稼ぎと言うハードボイルド・ヒロインの設定でありながら本書をコージーたらしめている大きな要因なのよね。
 それにしても、ステファニーとジョー・モレリのロマンスの進展が気になるっ! さすがロマンス作家だなあ。あと、この表紙イラスト……モーおじさんだよな? ってことは、この鼻が……鼻が……うぷぷ。イラストレーターも困ったろうなあ(大笑い)。   (07.8.9)《この本の詳細情報&注文画面へ》


サリーは謎解き名人・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 えっ、違うの? 違ったの? だって前作のラスト1文がアレだったから、あたしゃてっきり……。でも「そうじゃなかった」ってことが29ページを読んで分かってビックリ。もう、気を持たせるんだからー! ……何の話かといえば、ステファニーとジョー・モレリのロマンスの進捗の話。ミステリ部分と同等(もしくはそれ以上に)に読者が気にする二人の仲は、また今回も実にヤキモキさせてくれるよ。でも、でもね──うふふふ、この先は読んでくれい。
 さて、あまりに驚いたので心の叫びが迸ってしまったが、気を取り直して本巻のあらすじ。シリーズ第4弾だ。保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回のターゲットは、元カレの車を盗んで捕まったマクシーン・ノーウィッキーだ。ところがマクシーンは遊んでいるのか何なのか、暗号文を送って寄越す。ステファニーは暗号解読が得意という人を紹介してもらい助けを借りたが、その人物はなんとも強烈なドラッグ・クイーン! おまけにステファニーの天敵・ジョイスまで同じ賞金稼ぎ稼業に割り込んできてステファニーの邪魔をしだしたからもうたいへん!
 巻を追うごとにドタバタの度合いが増しているなあ。でもそれが決して単なるドタバタではなく、話がどんどん楽しい方向にエスカレートして行くドタバタだから大歓迎。もともとはロマンス作家だったこの著者、キャラで読ませるタイプなのかしらと思うくらい、登場人物の個性がすごい。「あたしにしかできない職業」でのメイザおばあちゃん(彼女は前巻通じてすごいんだけど)、「モーおじさんの失踪」でのルーラ(彼女もこの後更にエスカレートするんだけど)、そして今回はドラッグ・クイーン(オカマ)のサリーだ。彼女(?)のファッション、言動、読むだけでくらくらして、思わず「くくく」と忍び笑いが漏れてしまう。そのサリーが、ステファニーと同じアパートに住む老女の親戚だっていう突拍子もない繋がりも良いのよ。
 それからジョイス。ステファニーが昔、ちょっとだけ結婚していたとき、当時の夫を寝取った女。彼女が同じ職場に来て、どう絡んで来るのかと思ったら──もう完全にコメディじゃん! うわははは。
 ただ今回は大きな不満が。まず、マクシーン・ノーウィッキーが何度も送って来る「暗号」の詳細がまったく呈示されないこと。いくらミステリ色は薄いとは言え、暗号を読者に見せるくらいはあって良いんじゃないの? どんな暗号かも見せられずサリーに答だけ教えられたって、ノレないわよ! それともうひとつの不満は、放火犯がバレバレだってこと。むう、もうちょっとミステリ的に気を配って欲しいなあ。   (07.8.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》


けちんぼフレッドをさがせ!・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。ところがこのところ仕事がない。お金に困ったステファニーは同僚のレンジャーにバイトがないか、と申し出た。ところが彼が持って来たのは、どうみても合法とは思えない荒くれ仕事。加えて、親戚のフレッドおじさんが失踪してしまい、ステファニーに探すように母親からの指令が。なんとフレッドおじさんの机にはゴミ袋に詰められた遺体の写真があって──。本業はあがったりなのに、へんなことでステファニーはまたまた大忙しに! シリーズ第5弾。
 帯に「借りたベンツは大炎上」とあるんだけど、借りたのはポルシェだよ……。いや、小さいことなんだけどね、どうもこのシリーズに対する出版社側の詰めの甘さがときどき見えるんだよなあ。解説の若竹七海さんも書いていた「あたし」と「私」のタイトルでの不一致もそうだし、全10巻並べたときのタイトルの不統一さなんかすっごく気持ち悪い。2巻まではパロディタイトル、3巻から本巻までは人名を入れるパターンで、次の巻からは数字(これは原題に添っている。これが一番巧いタイトルのつけ方だ。最初からこれにすればよかったのに)って具合。翻訳者は同じだから、担当編集がちょくちょく変わったのかな?
 ま、それはさておき。内容の方は、めっちゃ面白かったぞい! 今回はハンター稼業以外のあれやこれやが降り掛かってくるんだが、そのひとつひとつがどんどん転がって思いもよらない事件に発展。それぞれの事件で絡んで来る脇役がまたいい味出してるのよ。「小さい人」のブリックス(こういう、日本の小説だとちょっと扱いが難しいような肉体的ハンディを持ってる人を出して来て、それをコミカルに描いた上にやっつけちゃうって、すごくない?)や、正体不明のバンチ。フレッドを心配してるかと思いきや、のびのびしてる妻にも笑えるし。そしてステファニーが事情聴取をしようとした人が先回りして殺されるというドキドキ感。それらがすっとひとつところに落ち着いて、無理も無駄もなくて、でもお遊びはいっぱいあって。これはここまでの最高傑作かも。
 そして最早ミステリ部分より気になるロマンス部分。ジョー・モレリとの進捗は三歩進んで二歩下がる(つまりは確実に進んではいる)状態だけど、そこに来たよ来たよレンジャーが来たよ! いやあ、第1作から、こいつ絶対ロマンスに絡んで来ると思っていたよ! もちろん最終的にはジョー・モレリなんだろうけど、これはもうロマンス作家の本領発揮だぜよ。   (07.8.12)
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わしの息子はろくでなし・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。ところが同僚のレンジャーが銃器携帯で逮捕、保釈されたのち行方をくらませてしまった! 同僚であり先生であるレンジャーをターゲットとして追うよう命令されたステファニー。そんなこと、心情的にも物理的もできるわけがない。おまけに別口でレンジャーを捜しているという怪しい二人組まで現れて──。シリーズ第6弾。
 っていうかイヴァノヴィッチ、ことここに来て完全にロマンスとコメディに重心が流れちゃったよ! まぁもともとミステリ色は薄いシリーズなんだけど、今回のコメディぶりと言ったら。「奥様は魔女」や「I LOVE LUCY」といった昔のアメリカドラマでときどき観客の笑い声が入るやつがあるでしょ? あのノリに近い。はい、ここで笑い!みたいなシーンがてんこもり。
 何に笑ったって、家出したメイザおばあちゃんがステファニーのアパートに転がり込むくだりだよなあ。恋人のジョー・モレリを泊めることもできないし、忍び込んで来たレンジャーと間一髪のところでおばあちゃん入って来るし。このあたりなんかもう、完全にコメディ。毎回車を壊すのもいつものことだが、壊し方もバラエティに富んでる。更に今回はラブラドール・レトリーヴァのボブもレギュラーの仲間入りだ。おかげでやたらと「うんち」が登場し、お下劣度も3割増しよ。どこまで行くんだイヴァノヴィッチ。
 ロマンス部門ではレンジャーとの仲に危険な香りが──(どきどき)。でも、前作まではけっこう魅力的に思えていたレンジャーだけど、この巻ではちと戴けない。考え方が極めてマッチョ過ぎて自分勝手なのね。ステファニーに余計な情報を与えると返って彼女が危険な目に遭うってのは分かるんだけど、だからと言って何も教えずにただ従わせようとするのは男としてはマイナスポイントでしょう。ステファニーの人格を認めてないってことだもの。
 ミステリ部門では──ま、いいか(いいのか)。相変わらず危険と隣り合わせで、読んでて(結局助かると分かってはいても)ドキドキしちゃう。この「真相」は本格ミステリでもよくあるパターンなんだけど、本格のようなフェアプレイや伏線といったものがまるでないので、サプライズも中途半端なのよね。もうちょっと「なるほどぉ!」と思わせて欲しいんだけど……ま、それを要求してもしょうがないか。コメディだし。ロマンスだし。
 そうそう、プロローグが前作の続きになってるところにも注目だ。前作のラストがリドルストーリーみたいな終わり方だっただけに「どっちなのよ!」とヤキモキした読者は必見。そして今回のラストも引きが強いぞ!  (07.8.15)
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怪傑ムーンはご機嫌ななめ・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回のターゲットは密輸煙草をくすねた老人エディ・デクーチだ。ところがこのご老体、何度も顔を合わせてるのになかなか捕まらない。そんなとき、ステファニーの知り合いで故買屋のダギーが行方不明になるし、幸せな結婚生活を送っていたはずの姉が夫と別れて戻って来るし、恋人ジョー・モレリとの結婚話が意に反して具体化するしと、またまた厄介ごとが一気に押し寄せて──。シリーズ第7弾。
 ああ、ロマンス部門の展開から目が離せないっ。ついうっかり家族の前でジョー・モレリと結婚すると口走ってしまったステファニー、それを受けての周囲の暴走がもうおかしくておかしくて。あ、それはロマンス部門じゃなくてコメディ部門か。大げさな式はしたくない、ドレスも着たくない、こじんまりとバーベキューパーティくらいで、というステファニーの主張は完全に黙殺され、やれドレスを見に行くだの披露宴用のホールを抑えただのと、話が進むこと進むこと。ああ、この家族の描き方は微妙にリアルで楽しいなあ。つか、冷静に考えるとステファニーがアワ食ってるそばでジョー・モレリの対応はちょっと無責任なのではないかと。
 でもってロマンス部門には更なる驚きの展開があるのだが、ま、それは読んでくれ。ジョー・モレリとベッドインした翌朝、思わず彼の台所を家庭的に飾りたくなってしまう(
サリーは謎解き名人)くらい乙女な部分を持っているステファニーだけど、譲れない部分は譲れない。そんな「女性として当然」の矜持を久しぶりに見た。頑張れステフ、キミは正しい!
 ミステリ部門は、今回シンプルでちょっと良いかも(あくまでも比較的、ってことだけど)。ステファニーが追っていた爺さんと、ダギーの行方不明がリンクして、その二つを繋げた物をめぐって策を弄するあたりはなかなかの読みごたえ。「繋げた物」の正体にもうちょっとヒントがあれば尚良かったんだが。いやあ、ぶっ飛ぶよ、このブツには。とにかくコメディ成分がどんどんエスカレートしてて、いろんなエピソードやアクションが入り交じってるので、メイン(だよな?)のミステリ部分はこれくらいシンプルな方が分かりやすくていい。
 さてさて、今回のプロローグも前作のラストの続きだ。むむむっ。そして今回のラストがまた「ギャース!」と叫んで飛び上がりたくなるようなところで終わっているので、これはもう次巻を読まずにはいられないぜっ。うー、著者の思うツボと知りつつ、すっかりノセられちゃってるよなあ。あ、それと今回一番笑ったのはカバー折り返しの人物紹介。ここに愛犬ボブが加わったんだが、その紹介で吹き出しちゃったよ。  (07.8.17)《この本の詳細情報&注文画面へ》


やっつけ仕事で八方ふさがり・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回は仕事ではなく、失踪したお隣の孫娘イーヴリンを捜すよう頼まれた。子供を連れて夫から逃げ出したらしい。ところが探し始めたステファニーの前に、怪しい男達が現れる。そしてなんと、ヘビがうじゃうじゃ、クモがわさわさ、挙げ句の果てにウサギに殺されかけるはめに──? シリーズ第8弾。
 へ? あれ? あたし何か読み逃した? この事件って決着してるの? 話終わってるの? 事件は確かにこれで一段落なんだけど、なんだかものすごく割り切れない終わり方なんですけど。自分から危険が去ったらそれでいいのかステフ! うううう、スッキリしないよお。ということで、ミステリ的展開には不満も不満、大不満! いろんな動物(?)が出て来るところはコミカル且つサスペンスフルで良かったんだけどなあ。
 さて今回は弁護士のアルバートが新登場。これがもう、仕事はできないし、非常識なほど図々しくつきまとうし、肝心なときは全然頼りにならないし、なのに自己正当化だけは達者だし……ステフは「うっとうしいけど憎めない、好きになる」なんて言ってるけど、いやあ、これはうっとうしいだろ。あたしはもともと小説の登場人物については「実際にこんな人が身近にいたら」という目線で読んでしまうタチで、その見地から言えばルーラやメイザおばあちゃんの度を超したハタ迷惑な奔放さってのもホントはギリギリなのよ。でもそれを著者の筆力で「面白い」の方に引っ張ってくれてるから楽しく読めるのさ。でも、でもでも。このアルバートのヘタレキャラは腹が立つなあ。
 と思って気がついた。本書に出て来る男性としては、ヘタレってのは初めてのパターンなんだ! 悪役はこれまでとにかくひたすら悪かった。悪事についてはずる賢かった。レギュラーメンバーはジョー・モレリもレンジャーもとにかく頼りになって仕事は完璧。イヤなヤツであるはずのヴィニーやステフの元夫のディンキーも、自分の仕事についてはデキる男なのよ。地味に見えるお父さんだって、あの女性陣の中でじっと我慢してるという強さがある。性格の善し悪しはさておき、それなりの頭と能力を持った男達ばっかりだったのだ。そこに登場した、この鬱陶しくもバカなキャラ。うーん、どうもレギュラーになりそうな気配だが、さて、ステフの言う通り「慣れると気にならなくなる」ものかどうか?   (07.8.20)
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お騒がせなクリスマス・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回のターゲットはサンディ・クローズというおもちゃ屋だ。ところがある朝、ステファニーの部屋にいきなり見知らぬ男が現れる。鍵をかけても平気で入って来るこの男は幽霊? それとも宇宙人? おまけにクローズ探しにまでついてきて──。クリスマスに贈る、ステファニー・プラム・シリーズ番外編。
 番外編ってどういうこと?と思いながら読んでみたら……おわっ、これってファンタジーじゃんSFじゃん! ステフの前にいきなり舞い降りた正体不明の男。この男がステファニーにつきまとう理由が分かった瞬間「わあ!」と思っちゃった。へえ、こんなスペシャルバージョンがあったとは。ただ、ドタバタとロマンス成分が少ないだけで、テイストはいつもと同じよ。
 ステフを巡るロマンスの進行は今回しばしストップ。でも前作
「やっつけ仕事で八方ふさがり」で出戻って来た姉のヴァレリーには大事件が起きるぞ。なんと妊娠しちゃうのだ。相手はあの人。つまり、時系列としては本書は「やっつけ仕事で八方ふさがり」「九死に一生ハンター稼業」の間に入ります。出版順通りだね。メイザおばあちゃんにも彼氏ができるし、姪っ子は相変わらず馬になりたがってるし、ヴァレリーはトイレに立てこもるし、うわあ、もういったいこの一家はどうなっていくんだか。
 ただ、この番外編を読んで一番印象に残ったのは、クリスマスというものの文化的生活的な意味なのよね。正体不明の男に振り回される一方で、クリスマスが近づくのにプレゼントも買ってないしツリーも買ってないしカードも書いてないステファニー。やらなくちゃやらなくちゃ、と焦るステファニーは、日本人にはちょっとピンとこない。でもこれって、おそらく日本で言うところの「もう大晦日なのに大掃除も済んでない年賀状も出してない、お正月の準備も何もしてない!」という焦りと同じ、と考えればものすごく共感できるってもんだ。そういう、生活人としてやるべき手順はちゃんとやらなくちゃ、と焦っているステフがとっても「いい育てられ方」をしたんだろうなと伺わせる。
 姪っ子が「サンタクロースなんていない」と言ったことに家族が青ざめたり、ユダヤ人の婿が来るかもしれないことに両親がおののいたり、キリスト教というのが如何に生活の中に根付いているかというのを示すエピソードがたくさんあって実に興味深い。そして、そんなドタバタや不満や文句を抱えながらも、クリスマスイブの夜にはサンタクロースがプレゼントを持って現れ、家族は家族として幸せなクリスマスを過ごすのよ。これもきっと、除夜の鐘が鳴ったら親子喧嘩や兄弟喧嘩も一時止めて年越し蕎麦を食べ、年が明けたら正座して「あけましておめでとう」と挨拶する。あれと同じなんだろうな。そう思うと、問題はいろいろあっても、とても良い家族なのが伝わってきて、読後感はステキに暖かい。   (07.8.24)《この本の詳細情報&注文画面へ》


九死に一生ハンター稼業・ジャネット・イヴァノヴィッチ(扶桑社ミステリー)

 保釈金を借りたまま逃げた容疑者を捜し、警察に出頭させるという仕事をしているステファニー・プラム。今回のターゲットは期限付き就労ビザで働いていたコンピュータ・オタクのインド人青年だ。ところが調査を進めるうちに、花が添えられた妙な手紙がステファニーのもとに届いた。「鬼ごっこだよ、お前が鬼だ」──シリーズ第9弾。
 おわっ、面白い面白い。今回はミステリ部分にも満足満足。ネットを使ったゲーム殺人なんてイマドキなものが出て来たよ。赤いバラと白いカーネーションが挑戦状とともに送られて来るあたりもドキドキだし、クライマックスはゾクっとするし、なんといっても「ウェブマスター」の正体が! 思わず「ああっ、そういうことか!」と仰け反ってしまった。このシリーズには珍しく伏線もあって。これ巧いなあ。あまりに当たり前に思って見過ごしてた部分が実は……という唸るようなサプライズだ。
 サスペンスの盛り上げ方がとても巧い一方で、コメディ路線もさらに加速。ルーラのダイエットのくだりなんて、あまりに自分勝手な解釈に大笑い。今回は危険な犯人ってことで「レンジャーと愉快な仲間たち」がステフの護衛についてくれるんだけど、屈強でやり手の男達が次々とスットンキョーな不運で倒れて行くのが死ぬほどおかしいよ。これまでは毎回車を燃やすのがお約束だったけど、今回更に護衛潰しが加わった観あり。特にキャル……病院で××を頭からかぶって、××を目にしたショックで気絶って……面白過ぎる! このあたり、女性作家ならではの感性だなあ。
 ロマンス部門については今回フテフより出戻りお姉ちゃんのヴァレリーがナイス! 完璧な良妻賢母で女性としての幸せをすべて手にしているかのように見えたヴァレリーが夫に出て行かれたあと針が正反対に振れた様は
「やっつけ仕事で八方ふさがり」に詳しいけど、今回それが更にエスカレート。それが「えええっ」と思うようなところに落ち着くぞ。そしてその落ち着き方が玉突き方式でステフをジョー・モレリのもとに走らせる。うふふ。さあ、この状況で次巻はどうなる? 楽しみだあ。
 ただ今回、一番印象的だったのは。ヴァレリーが誰か男性に救って欲しがってるのを見て、ステフはこう考える。「あたしもヴァルとまったく同じことを感じていた。あたしも誰かに救い出してもらいたいと思っているのだ。あたしは勇敢でちょっと有能であることにうんざりしているのだ。ただ違うのは、あたしはそれを口に出すことは拒否しているというところだ。それが基本的な本能であるということは疑わしいが、どういうわけかそれを口にするのは間違っているという気がする」──これね、ある種の女性にとってはものすごく共感出来ることだと思うの。男性に丸投げしてしまえたらどんなに楽かと、そうしている女性がどんなに幸せそうかと、そう思いながらも、でもそれを拒み続ける。このシリーズが女性に圧倒的人気を誇っているのは、キュートでロマンチックでお下劣で大笑いしつつ、でもときどきこうして胸に刺さるような女心をすくいあげてくれてるからなのだろうな。   (07.8.27)《この本の詳細情報&注文画面へ》


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