御宿かわせみ・平岩弓枝(文春文庫)
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」。若い女主人るいは、元は八丁堀同心の娘だ。父の死で同心株を手放し、当時の奉公人らとともに「かわせみ」を開業した。その宿を訪れる人々が起こす事件に巻き込まれ、八丁堀時代の人脈もあって事件解決を図るという連作捕物帳だ。一方、捕物部分でも活躍するるいの恋人・神林東吾は奉行所筆頭与力の家柄で、当主の兄に子がないためゆくゆくは家を継ぐことを望まれている。町人となったるいと、武家の東吾の関係がどうなるのかも、本シリーズの読みどころ。
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、女主人るいと奉行所筆頭与力の弟・神林東吾の恋の行方を絡めた捕物帳のシリーズ第2弾。
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、女主人るいと奉行所筆頭与力の弟・神林東吾の恋の行方を絡めた捕物帳のシリーズ第3弾。早くも3巻にして、個々の短編の物語だとか背景だとか滋味だとかより、るいの焼き餅がちったあ治るかどうかに興味の焦点が移ってきちまったよ。けれど同時に、もっと割り切ってもいいんだと気がついた。
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、女主人るいと奉行所筆頭与力の弟・神林東吾の恋の行方を絡めた捕物帳のシリーズ第4弾。
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、女主人るいと奉行所筆頭与力の弟・神林東吾の恋の行方を絡めた捕物帳のシリーズ第5弾。
江戸の大川端にある小さな旅籠「かわせみ」を舞台に、女主人るいと奉行所筆頭与力の弟・神林東吾の恋の行方を絡めた捕物帳のシリーズ第6弾。
うわははは、く、くだらねえええ(嬉)
ファンタジー営業部、リターンズ! アニメでお馴染みの建造物をホントに作る気で設計から見積もりまで本気でやっちゃう前田建設ファンタジー営業部だ。前作「前田建設ファンタジー営業部」で「マジンガーZ格納庫兼プール構築工事」を請け負うためあれこれ調査し、見事「予算72億円、工期6年5ヶ月で引き受けます(ただし工期は機械獣の襲撃期間を除く)」という結論を出すに至ったファンタジー部。今回のテーマは「メガロポリス中央ステーション 銀河超特急999発着用高架橋(基礎及び上下部)工事」だ。ほら、アニメのオープニングで、999が天空へ向けて駆け上がる、あの途中で切れてる線路よ!
骨董店を経営するイザドーラはオークションで幾つかの品を入手。ところがその品を売った先々で強盗や盗難が相次ぐ。ドーラは骨董展の二階の部屋を賃貸ししている休職中の警部ジェドとともに事件を探るが──。ロマンスの女王ノーラ・ロバーツによるロマンティックサスペンス。
北尾トロの裁判傍聴エッセイ。裁判シーンなんて2時間ドラマくらいでしか見た事なかったけど、実際はこんなのなんだ、と新鮮な驚きがたくさん。ものすごく不謹慎なのは承知で言うけど、いやこれ、裁判の傍聴って、実に面白そうだ!
大昔に拾い読みしたのだけど、改めて1巻から読んでみたら、るいのイメージが随分違ってビックリだよ。ドラマでは高島礼子がやってたので、大人っぽくてしっかりした女主人なんだと思ってた。東吾は中村橋之助で、ちょっくらボンボン風味のイメージだった。でも原作は違うのねえ。東吾はもっと男っぽいし、るいはキュートだよ。いや、キュートというより、東吾にのぼせちゃってるというか何というか。
とは言え、小説はこれが第1巻だから、この二人のキャラクターもこれからだんだん変わって行くのかもしれない。何より、投宿する客の事件の方がメインなんだから、毎回目先が変わって、なるほどこれは楽しく読めそうだ。
【初春の客】深夜に訪れた不審な男女二人連れ。男は顔を隠していたが、実は異国から売られて来た黒人だった──。へえっ、第一回にこんな突拍子もない話を持って来るとはびっくりだ。こういうのってある程度馴染みができたところで「異色作」って感じで出しそうなものだけど。ラストシーンが映像的で実にインパクトがある。ところでここに出て来る「ハンウフキ」という黒人の名前、どっかで聞いたと思ったら「ここはグリーンウッド」じゃないか! これが元ネタだったとは。びっくり。
【花冷え】男連れでやって来る女。けれど相手の男はいつも違う。商売女と見て断ったが──。
【卯の花匂う】仇討ちのためかわせみに投宿していた若い侍の物語。これはいい話だなー。供の女中もいいが、仇のありようがすごく胸に迫る。卯の花の使い方もさすが。
【秋の蛍】かわせみに父娘が泊まり始めた夜から江戸には旅籠ばかり襲う族が現れ──。嘉吉ナイス!
【倉の中】るいが助けた自殺未遂の老女。しかしその老女に自殺の理由はなく──。最も捕物テイストが強い一品。。
【師走の客】かわせみで預かった大百姓の娘おすずは、夜中に目惚ける癖があって──。るいの悋気が可愛いやら鬱陶しいやら。
【江戸は雪】客の所持金五十両が紛失、そして泊り客の若い男がちょうど五十両持っていて──。人情ものではこれがイチオシ。
【玉屋の紅】新婚夫婦のところに刃物を持った芸者が乗り込んできた。その事件の顛末は。
(08.1.8)《この本の詳細情報&注文画面へ》
江戸の子守唄 御宿かわせみ2・平岩弓枝(文春文庫)
早くも2巻にして、るいの色ボケぶりと悋気が鼻につきだした。が、この評価は実はお門違いであることは自明。というのも、まず本書が書かれたのが今から30年以上前(1970年代)であるということがひとつ。当時に是とされた女性像と今とではまったく違うからね。それともうひとつは(こちらが大事なのだけれど)二人の仲がとても不安定なものであるということ。過去はどうあれ現在は町人となったるいと、現在は冷や飯食いながら兄の後を継いで与力になることが期待されている東吾とでは、身分の違いというものがある。心の中では互いを夫と思い妻と思ってはいるものの、すんなり夫婦になれるわけもないし、何の保証もない。だから東吾が「やーめた」と思えば、るいは何の文句も言えない立場なわけだ。だから東吾の訪れはとにもかくにも安心出来るし嬉しいし、来なくなれば不安だし(でも不満は言えない)、ちょっとでも他の女性の影がちらつけば必要以上に神経質になる。色ボケも悋気もしごく当然なのであって、むしろそれこそが二人の不安定な関係を示していると考えねばならないだろう。
【江戸の子守唄】かわせみに置き去りにされた子供。親を捜す手がかりもなくて──。
【お役者松】縁日に出かけた折り、掏摸の仲間に間違われて盗んだ財布を預けられた東吾。翌日、お役者松と名乗る掏摸の仲間の一人が東吾の家を訪れた──。この設定は面白い。特にお役者松の使い方が秀逸。
【迷子石】江戸の町に跳梁する辻斬り。東吾はその手管から刀の扱いに慣れた者の仕業だと考えるが──。
【幼なじみ】植木職人の清太郎に親方の娘との縁談が起きる。しかし清太郎には幼なじみの娘がいて──。
【宵節句】江戸の町に連続する押し込み強盗。遺体に残る突きの跡に東吾は心当たりが──。
【ほととぎす啼く】かわせみが取引している油屋の主人の身辺に事件が相次ぐ。
【七夕の客】かわせみ開業以来、毎年七夕の日に泊まり合わせる男女の関係は?
【王子の滝】東吾がかわせみに色っぽい女性を伴って現れる。るいが焼き餅を焼いているうちに、その女性が死体となって見つかり──。この展開に「あれっ?」と思う。すずの手紙の内容って、結局恋文だったの、それとも? 「それとも」の方だとしたらこりゃ結構なトリックだと思うんだけど、はっきりと書かれてないんだよなあ。うーん。
(08.1.9)《この本の詳細情報&注文画面へ》
水郷から来た女 御宿かわせみ3・平岩弓枝(文春文庫)
というのも、あたしはドラマを先に見たのでどうしてもるいをヒロインだと思ってしまい、そのヒロインに感情移入しようにも悋気がすごくてイマイチ好きになれないって点が問題だったのだ。でも、小説ではあくまで東吾が主人公なのよね。与力の弟で冷や飯食い、けれど剣の腕はたち推理力も人望もある東吾の物語なんだ、と。でもってその東吾には焼き餅焼きの恋人がいますよ、と考えれば良いのだ。中村主水に口うるさい奥方と姑がいるようなものなのだ。そう考えるとイライラも減るぞ。
今回特筆すべきは【風鈴が切れた】や【女主人殺人事件】のミステリテイストでしょう。特に【風鈴が切れた】なんて、二作ともトリックそのものを見れば、本格ミステリの世界では極めてよくあるパターンなんだけれど、料理の仕方が巧いのね。それを実に巧く捕物帳に取り入れてる。ただ単に○○トリックを使ったというだけでなく、その事件が周囲に与える影響や人の心の綾ってものが、市井人情小説の味わいを深めてるのね。単なるトリック先行じゃなく、かわせみシリーズのテーマそのものに結びつけてる。さすがだ。そうそう、本格と言えば、【夏の夜ばなし】なんて、東吾より砂絵のセンセーが出て来て謎解きしそうな趣向だぞ。
その一方で、【女がひとり】【桐の花散る】やみたいにものすごく偶然が重なるもあるんだけどさ。総じて、東吾がかかわってる奉行所扱いの事件の関係者が、なぜかかわせみに現れるっていう都合のいいパターンが多いよなあ。でも単なるご都合主義に終らせず、たとえば【女がひとり】のヒロインのように、その矛盾した愛情のあり方が逆になんだかリアルで壮絶な、印象の強い作品になっていることが多々ある。このあたりの作風の振れ幅も魅力なんだろう。
【江戸の初春】では江戸の正月風景の描写が楽しい(
猿回しなんて回ってくるのか!)し、【湯の宿】では箱根が舞台。他、【秋の七福神】【水郷から来た女】を収録。 (08.1.10)《この本の詳細情報&注文画面へ》
山茶花は見た 御宿かわせみ4・平岩弓枝(文春文庫)
いやあ、脇役がどんどんいい味出して来るなあ。今回のお気に入りは【女難剣難】の畝源三郎だ。あ、源三郎ってのは東吾の親友でもある、八丁堀の定町廻り同心。骨惜しみしない働き者で、剣の腕も立つし勘もいい。真面目が過ぎて女っけ無し。東吾とるいには、あてられっぱなし。そんな源三郎が水戸の豪商の娘に「見初められた」ってんだから、かわせみも大騒ぎになるってもんだ。この顛末はなかなかにサスペンスフルで話としてもお勧め。「江戸の子守唄」に出て来たお役者松の再登場もファンには嬉しい。ただ、その娘と源三郎をとりもつよう東吾に頼めとお吉に言われたるいが、「その娘が、源三郎より数段いい男の東吾に会って、東吾に乗り換えちゃったらどうしよう」と心配して目を潤ませるあたりなんかもう、バカらしいっつーか何というか。
もうひとつ印象的だったのは、惚れた遊女を身請けするため、娘を女衒に売るという【ぼてふり安】の話。なんちゅう親かと思うが、これが遊び人の話じゃなくて、長屋住まいのごく普通の魚屋だってのが、なんともたまらないのだよなあ。すべてが済んだあとの、安のセリフが意地っ張りの江戸っ子らしくて切ない。ま、自業自得なんだが。
ミステリという点では、大店の婿養子が突然行方不明になる【鬼女】が秀逸。最後まで読むと、かなりフェアに伏線が張られていたことに気づいて驚くぞ。おまけにこの伏線、時代小説でなくちゃ使えないタイプのもので、その点でも花丸。夕涼みの男女が殺されるという事件が続発する【夕涼み殺人事件】も、細かい矛盾から真相が浮かび上がるミステリ作品。ただこちらはトリックそのものより、そのあとで分かる真相の悲惨さが印象的。
その他、自分の証言のせいで捉えられた押し込みが島抜けしてきたと知り、仕返しを恐れる【山茶花は見た】、芸者が賭けで大川に飛び込むというイベントの最中に殺人が起きる【江戸の怪猫】、娘をテキ屋の妾に差し出せと言われ断った男が殺される【鴉を飼う女】(これは切ない!)、お腹の大きい娘が甲斐から人探しに現れる【人は見かけに】を収録。
(08.1.12)《この本の詳細情報&注文画面へ》
幽霊殺し 御宿かわせみ5・平岩弓枝(文春文庫)
ふふふふ。東吾とるいの恋の行方に、ちょっとばかし変化がありそうよ。【恋ふたたび】で大店の中の子供殺し事件が起こり、番屋に留め置かれたおとせ・正吉母子。この話は単体でもとても良いんだが(この真犯人の造形といったら!)、このおとせ・正吉親子がレギュラーメンバーになるのさ。このおとせ、疑いが晴れてもお店には戻らず、離縁して幼い息子の正吉と一緒に生計を立ててゆかねばならないのだが、【川のほとり】で、東吾の世話で狸穴の方月館に住み込みで働くことになったことが分かるわけ。おとせは東吾に恩を感じるし、正吉なんて父親代わりに慕って来るという次第。東吾は東吾でなかなか居心地が良かったりして。ふふふふ、ライバル登場だぞるいちゃん。
まあ、ライバルとは言え、東吾の気持ちはるいから微動だにしないのは読者には重々分かってるんだけど、焼き餅焼きのるいに辟易した身としては、【川のほとり】や【源三郎の恋】(この話がまたいい!)に登場するおとせの、控えめながらしっかりしたところがなんとも魅力的で、「東吾もさあ、こっちにしちゃえばあ? 安らげるって大切よぉ」と無責任にも面白がってしまうのだった。
たとえば、【奥女中の死】だ。大店の娘で大名家の奥向きに奉公し、気に入られたがために市井に戻れず婚期を逃し、商家の生き方もできなくなってしまった女性、みよじ。周囲はそんな彼女を、結婚もできなかった変わり者の年増だと偏見の目で見る。そんなみよじが東吾と立ち話をしていたというので、るいはいつもの悋気を起こし、みよじを悪し様に言うのだけれど、東吾はそんなるいを怒るのよ。本人のせいではない不幸せの上に、世間が更に不幸せの追い打ちをかけるのに腹が立つ、と。
この至極真っ当な東吾の怒りに対し、るいは何というか。「堪忍してください。あたし、はしたないことを言いました」──そう、反省して改めればいい話。なのに彼女は泣きながらこう付け加えるのだ。「あたしに愛想をつかさないで……もう決して、いやなことはいいません」……だはぁ。そうじゃない、そうじゃないだろ、るい。それじゃあ東吾に嫌われたくないから反省してるだけじゃないか。違うだろ。自分の考えが足りなかった、そのことを反省すべきだろう。これじゃダメだよ、るい。こういう場面を見るにつけ、おとせに乗り換えちゃえ東吾、と思わずにはいられないぞ。
その他、貸席屋の主人が女中に化けた幽霊を殺したという【幽霊殺し】、毒入り饅頭がきっかけでるいが誘拐される【秋色佃島】、赤ん坊を使った強盗事件を描く【三つ橋渡った】を収録。
(08.1.16)《この本の詳細情報&注文画面へ》
狐の嫁入り 御宿かわせみ6・平岩弓枝(文春文庫)
このシリーズのもうひとつの魅力は、江戸の四季や風物が描き込まれているところ。たとえば、大店の娘が恋に狂ってお金を持ち出す【師走の月】(これは殺人事件の動機がとても切ない)では、毎年年末に畳替えをするってな話が出て来る。独り身の同心・畝源三郎が「畳替えってのは毎年やるものなのか」と訊ねるのに対し、これだから独り者はダメだと東吾が畳屋を手配してやったりするのね。畳って毎年替えてたのか! もちろん生活レベルにもよるんだろうけど、今となって見るとすごく贅沢なことのように感じるなあ。職人ってのが腕を振るえる時代だったのね。
また、超美人の若い内儀を持った大店の店主が殺される【迎春忍ぶ川】では、正月の行事として、大黒天に備えた餅を湯に浸して、その湯を参詣人が飲む「大黒の湯」っていうのが紹介されてる。そういう季節の顔がごく当たり前の生活のワンシーンとして作中に出て来るのが、なんだか生活感があってとてもいい。
前巻で登場したおとせ・正吉母子はもうすっかりレギュラー。法事のためにおとせがかわせみを訪れた【千鳥が啼いた】では、るいが「いつもより女房っぽい仕草で東吾の太刀を受けと」ったりしちゃって、ばりばりに意識してるのが見てとれ、思わず苦笑。可愛いっちゃあ可愛いけどもさ。正吉が行方不明になる【子はかすがい】では、さすがにるいも焼き餅を焼くどころではないが、それでもまるで実の父親のように心配して走り回る東吾を見てちょっと不安になったりもするのね。こういった小さなエピソードは、今の価値観から見るとあまりに精神的に男によりかかり過ぎてて、すごく情けないっつーか腹立たしいんだけど、何の保証もない身分違いの恋をしてる身としては、ほんの些細なことに心が乱されるんだろうなあ。
その他、東吾が女掏摸と出会う【梅一輪】、江戸のはずれで狐の嫁入り騒ぎが持ち上がる【狐の嫁入り】(これはなかなかにトリッキーですよ)を収録。本書で最もドラマチックなのは、ちょっと上でも触れたけど、赤ん坊が誘拐され正吉が行方不明になる【子はかすがい】かな。
(08.1.19)《詳細情報&注文画面へ》
私の旅に何をする。・宮田珠己(幻冬舎文庫)
「本の雑誌」でエンタメ・ノンフの雄として紹介されていた宮田珠己。年末に「ジェットコースターにもほどがある」を読んだところ、これが評判通りというか、評判以上の面白さですっかり虜。そこでもっと初期の物を読んでみようと思った次第。初期の二作「東南アジア四次元日記」「旅の理不尽」は既に品切れ、たまたま書店で見つけた4作目がこれだった。
本書は、サラリーマンだった著者が「旅行したい」という一心で仕事を辞めた顛末、サラリーマン時代に有給を使ってあちこち旅行した体験記、退職後に「これで旅行できる!」と思った途端に病気になった話などがランダムに収められているのだが、この天衣無縫な脱力感がなんともいい! なんせ一行目からいきなりこうだ。
「私はついこの間までサラリーマンであった。結局退職したのだが、ええい会社なんか今すぐ辞めてやる、そうだ、今すぐにだ、という強い信念を十年近く持ち続けた意志の堅さが自慢である」
もう、この一文だけで面白さを確信したね。そしてその確信は大当たりなのだった。
実にあちこち旅をしているのだけれど、驚くのは、ガイド的な要素が何もないこと。行った場所はどういう国でどんな文化があって国民性はどうでといったような基礎知識も、日本からここへ行くにはどんな手段があって何が名物でといったような情報も、何もない。代わりに何があるかと言えば、「おれ、こんなとこ来ちゃったよー」である。「何やってんだ、おれ」である。旅行に行って、何かを学ぼうとか現地の人と親しくなろうとか、そういう色合いが一切ないのよ。現地の人と友情が芽生えたり、異文化交流の素晴らしさを実感するみたいな、そんなありがちな啓蒙が皆無! だってアンタ、「ヒマラヤでひまだった」ですよ。うわははは。ヒマラヤまで行って、言うに事欠いて「ひまだった」って! むしろコミュニケーションは面倒くさがってるくらいだもの。すごいな、こんな旅行記があるんだ。
騙されたりボラれたり、ボラれそうになって戦って結局相場より安値で異動したり。話しかけられてうんざりしたり、高山病になったり。中国で買った日本語会話の本につっこんだり(この章はもう、笑い過ぎて腹筋が痛かった)、ルートの途中で核実験があったり。波瀾万丈の旅なのにぜんぜん波瀾ぽくない、とにかく笑えるエッセイ集。旅に行くとついつい「せっかく旅行してるんだから、楽しまないともったいない」「元をとるくらいは楽しもう」と、楽しむ事に汲々とする傾向が日本人にはあるが、なんか頑張ることがバカバカしくなるよ。お勧め。
(08.1.23)《詳細情報&注文画面へ》
前田建設ファンタジー営業部NEO・前田建設工業株式会社(幻冬舎)
実を言うと、マジンガーZの格納庫工事がすごく面白かったため、「結局線路を作るだけでしょう? 格納庫に比べると地味なんじゃ?」と思っていたのさ。ところがとんでもない! 高架橋を作るって、タイヘンなのねえ。あのアニメの細い鉄柱で自重を支える、それだけで大騒ぎ。おまけに風の影響もあるし。どうやってあんな高さで作業するんだという問題だってある。
ただ「マジンガーZ格納庫兼プール構築工事」がかなり現実的な調査及び設計をしていたのに対し、今回初手からちょっとユルいのが残念と言えば残念。サイトで読んだときにはとても新鮮で面白く感じたんだけど、今となってはマジンガーZと比べちゃうからね。だって、マジンガーZはさあ、実際の場所がはっきりしていて、そこに建築する上での土質を調べるところからやったわけですよ。ものすごくリアルなのよ。翻って今回は、まず映像からではどうやっても高架橋の高さがわからない! リアリティを追求する際、それが分からないのは致命的。加えて999自体が架空の乗り物なので、線路にどれくらい重さがかかるのか、線路が電気などのエネルギーを供給する必要があるのかなどの、実際の計算が出来ないのね。もちろんそこを営業部の面々はあの手この手でリアルに考える(そこが面白い)んだが、やっぱマジンガーZのリアリティと比べちゃうとなあ……(<冷静に考えると、マジンガーZのリアリティって、とんでもない文章だなこれ)。
それでも前回で感心した「建設会社ってこんなふうに仕事をしているのか」という新鮮な感動は今回もたっぷり。業界紹介モノとしてはサイコーだよこれ。ディテールの検証も相変わらず面白いし。そもそも枕木ってのはバラスト上でしか必要のないもの(地下鉄に枕木はないでしょう?)なのに、999の高架橋にはかなり密に枕木が敷かれている理由を、「職人さんが保守点検作業のため歩けるようになってるのでは」なんて推測するんだもん! うわははは、あんな高いところ、どんな鳶さんが歩くんだ。鉄ちゃん成分のある読者にはタマラナイんじゃないかな。揺れを防ぐ為のダンパーの説明には「なるほど!」と感心したし、たわみを防ぐための工夫も勉強になる。「年1度しか発着しない999なのに、ステーションに撮り鉄が一人もいないのはおかしい」という指摘には笑い転げた。そして何より一番楽しかったのは、表紙の人形たちのコスプレだ。わはは。これメーテルかよ! 睫毛つけてくれれば満点だったのに。
(08.1.23)《詳細情報&注文画面へ》
悲劇はクリスマスの後に(上下巻)・ノーラ・ロバーツ(角川文庫)
上記のように粗筋をまとめてしまうとごく普通のミステリのように見えるが、犯人もその目的も最初から出て来るし、その危険を如何に回避するかというところでドキドキさせるわけだから、ミステリというよりやはりサスペンスですね。それに何といってもロマンス小説ですから。ノーラ・ロバーツですから。本編の眼目がドーラとジェドの恋愛にあることは論を俟たない。サスペンスのドキドキと、いつ二人が結ばれるのかというドキドキ(これがもう、引っ張ること引っ張ること)が合わさって、上巻はもう一気読みよ。
ただ、二人の関係がある程度落ち着き、事件が佳境に入ってくると。うー、定番とは言え、どうしてこうもドーラは「自分には出来る」「自分でやる」と思っちまうんだろうなあ。警察が動いてるんだから、でもってその警察はちゃんと頼りになるんだから、なぜ任せてしまえないのか。人を殺すのなんか何とも思ってないような敵を相手にしてるのに、ジェドが自分に秘密を持っていたことなんかに拘ってケンカして口もきかないって、子供かっ! 調査に行った先のショーウインドウでステキな服を見つけてショッピングしたがるだとか……なんかね、ドーラの感情の振り幅が大きくて、ぐったりしちゃうのよ。
けれど相対的にはロマンティックサスペンスとしてはかなり上級だと認めざるを得ない。上記のようなドーラの無鉄砲さというのはこの手のヒロインにはつきものだし、そんな中でもドーラはかなり慎重な方(これでも!)なんだもの。このレベルで苛ついてたんじゃロマンティックサスペンスなんか読めないって。ピンチで恋人が助けに来るのも定番だけど、ドーラはジェドに助けられる以前にかなりやられちゃってたりもして、「わかった、確かにドーラは出しゃばりでちょっとは痛い目にあった方がいいとは思っていたが(そんなこと思ってたのか)、でもここまで辛い目に遭わせなくていいから、そろそろ助けに来いジェド!」と思わされてしまうので、ただ都合良く王子様が助けに来るパターンとは一線を画してる。
何よりね、サスペンスとしての筋立てがしっかりしていることと、ドーラ&ジェドを取り巻く脇役の皆さんが実に良いのさ。ジェドの心の傷をドーラが少しずつ癒して行く様はややありがちだが、「うわー、ありがち!」とツッコミながらも徹頭徹尾ハラハラドキドキさせられるってのは、こりゃもうやっぱりサスガなのよ。
(08.1.28)《上巻の詳細情報&注文画面へ》《下巻の詳細情報&注文画面へ》
裁判長!ここは懲役4年でどうすか・北尾トロ(文春文庫)
本書はあくまでも興味本位に書かれた裁判傍聴記録なので、たとえば俎上にあがった事件の背景を考察するだとか、被疑者や被害者に人生に思いを馳せるだとか、そういう社会派的な要素は一切ない。ので、そのあたりを期待して読んだ人は怒るかもしれない。けれど敢えて言おう。それは、そういうものを期待した方が悪いのだ。だってそんな本じゃないんだもん。殺人やレイプを「面白がる」というのは確かに被害者のことを考えれば不謹慎だけれど、本書の眼目はあくまでも「裁判って、どんなふうにやってるの?」を素人目線で体験することにあるんだもん。そこで展開される北尾の視線は、まさに素人のそれで、言い換えればあなたやあたしの視線と一緒だ。被告の顔を見て「こいつ絶対やってるよなー」と思ったり、弁護士や検事の仕事ぶりにつっこんだり。弁論より検事の歯並びが気になったりね。
いやもう、すごいよ現実の裁判って。もっとしかつめらしいものかと思ってたけど、北尾トロがレポートしてくれるとすごく親近感が湧く。驚かされることも多い。たとえば交通事故の裁判で、遺族も傍聴席に来てて、それで被告も反省めいたことを言うんだけど、その被告の服が髑髏マークのトレーナー! 待て待てっ。著者でなくなって「おまえダメだろそれは」と言いたくなるよなあ。或いは、社会見学なのか何なのか、痴漢裁判を大人数の女子高生が傍聴し、なんだか裁判長が俄然張り切ったり。ヤクザ系では、傍聴席に組員がずらりと並び、悠然たる態度で判決を聞く組長、なんて絵も。報道される事件なんかごく僅かなのに、毎日毎日こんなドラマが繰り広げられているのだなあ法廷。
加えて驚いたのは「傍聴マニア」の存在だ。ただ趣味として裁判を傍聴しに来るマニアがいるんですって。そういう人たちは面白そうな公判を嗅ぎ分ける嗅覚を持ち、判事の人事にも詳しく、裁判長の個性なんてものまで知ってる。そして、どんな判決がくだるか、だいたい見当がつくという。うー、どんな道にもいるのだなあ、こういう人が。
間もなく、日本でも裁判員制度が始まる。なんだか自分には関係ないことのように感じていたけど、本書を読むと、なんだか前向きな興味を持って望めそうな気がしてきたよ。決して社会派ではないけれど、素人目線であるが故に裁判所がとても身近に感じられ、蒙を啓くには充分過ぎるほどのレポートと言っていい。 (08.1.28)《詳細情報&注文画面へ》
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