逢坂剛と言えば、なんかスペインの灼熱の太陽の下でスパイがドンパチというイメージがあって手が出なかったのだけれど、友人にすすめられてこれを読む。ここここれは面白い!アクロバティックな展開に舌を巻いたぞ。謎が最後に解きあかされるんじゃなくて、少しずつ少しずつ手持ちのカードを開いて行く。それでも最後まで読者を引っ張り続ける。で、ミステリの王道とも言うべき謎解きもちゃぁんと用意されてるってわけだ。これは巧い。これを分類するなら、どういう範疇に入るのか判らんけど、あたしは敢えて叙述ミステリだと呼びたい。ハードボイルドという意見もあるだろうし、倒叙モノだという人も居るだろうけど、あたしから見たらこれは叙述トリックだな、やっぱ。叙述モノを叙述だと指摘することは最大のネタバレなんだけど、この話に限って言えば、そんなネタバレ小さい小さい。だって謎解きがメインじゃないもの。種を明かされたあとで、ページをめくりかえし、ああこれが、ああこの文章が、といういわゆる「伏線の確認作業」を思わずしてしまう。叙述モノを叙述だと指摘することは最大のネタバレなんだけど、この話に限って言えば、そんなネタバレ小さい小さい。だって謎解きがメインじゃないもの。トリックがすべての作品では決して無く、登場人物のひとりひとりに癖があり個性があって、そのストーリー展開が見事だ。これはおすすめ。
私家版 青春デンデケデケデケ・芦原すなお(作品社)
ここんとこの直木賞はどうも納得がいかん、というのはあちこちで書いてるし言ってるので繰り返さないけども、じゃぁどのあたりまで直木賞が「正当」だったんだろう、と思ってしまったのがこの本を手に取るきっかけでありました。それもこれは800枚の完全オリジナル版だ。まぁ、京極夏彦氏やコズミックあたりを読んだ身としては、これくらいの厚さ、あまり厚いとは感じなくなってるあたりが悲しいけど(笑)
ここんとこはまってる浅田次郎であります。いやぁ、こういう「オトナのファンタジー」を書かせたら天下一品だね、このひとは。ファンタジーって言うと、羽や角の生えたワケの判らん小動物が出てきたり、主人公が白魔術を習ったり、吟遊詩人と騎士が道ならぬ恋に走ったりするもんだとばかり思っていたが、こういうファンタジーもあるんだなぁ(笑)。一読してよぉく咀嚼してみると、親とうまく行っていない中年のオトコが過去を旅するうちに、親の内面を知る、という、まぁありがちと言えばありがちな設定なのです。でも、浅田次郎氏の作品はどれも設定は非常にありがちなのだよ。そのありがちな話をぐいぐいと読ませる筆力、文章、ボキャブラリー。それがすごい。登場人物ひとりひとりが非常に緻密に書き込まれているので、ページの上を真次が、みち子が、アムールが、お時が、奔放に飛び回っているのが見えるようです。小間切れの過去が筋道をたてて一つにつながる、その時の個々の登場人物の心が痛いくらいに伝わってくる。エンディングはあまりに切ない。泣けます。おかぁちゃん、おとうちゃん、あたしは元気で幸せに暮らしてるよ、と故郷に電話しそうになりましたね。しなかったけど。
百舌の叫ぶ夜・逢坂剛(集英社文庫)
で、これから読む人に一言。あたしも最初はそうじゃないかと思ったんですが、この本、決して乱丁ではありませんのよ(笑) (96.12.16) back
さて、これは1960年代にロックに目覚めた田舎の高校生のお話。あたしが生まれたのが1964年だから、あたしよりも1〜2世代前の人たちの青春時代ですね。でも、この時代って、自分が中途半端に覚えているせいか、とってもノスタルジックで好きです。小林信彦の世界にも通じるモノがありますね。で、当時の高校生の青春群像(!)を赤裸々に(!)綴った大作ということで、とーっても楽しませて頂きました。ただ、ちょっと一人上手かな、とも思うけど。ロックに見せられた田舎の少年という設定は(多分に私小説なんでしょうが)魅力的なんだけど、ロックに興味のない世代や、あの時代の思い出を共有できない世代までを巻き込む威力があるようには思えなかった。同じ時代の小説なら、小林信彦の「Yesterday Oncemore」二部作の方がお勧めですな。 (96.12.20) back
地下鉄に乗って・浅田次郎(徳間書店)
プリズンホテルも面白かったけど、あたしは個人的にはこの「地下鉄に乗って」の方が好きだな。これで主人公がコドモだったら、20年くらい前に流行った鶴書房のSFベストセラーズに出てきそうなノリの設定ではあるけれど、それを見事に「苦いオトナのファンタジー」に仕上げている。佳作です。 (96.12.22) back
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