これは面白い!漱石の「猫」は生きていた。それも何故か上海に。なぜ「猫」は上海に居るのか?そして日本で起きる苦沙弥先生殺人事件。うう、わくわく。それを猫仲間で推理するってんだから面白くないワケがない。おまけに猫仲間にはフランス生まれの「伯爵」、ドイツ軍人に飼われていた「将軍」、その上、イギリスの探偵に飼われていた「ホームズ」と、その相棒で医者に飼われていた「ワトソン」なんかが出てきた日には爆笑モノである。皮肉ではなく。ホントに爆笑できるのだ。バスカビル家の犬まで出るんだから(笑) このホームズは他人、いや、他猫の風貌を一目見ただけで履歴を当ててしまうという芸当があったりして芸が細かい。とにかく登場人物、いや、登場猫がいい。前々回の直木賞で「犬が描けている」という良くわからん理由で受賞した作品があったが(笑)、これはその点では猫が非常に良く描けているのである。わっはっは。にゃおん。
あたしが最も好きな作家は東野圭吾氏なのであるが、彼の佳作のひとつに「変身」というのが、ある。他人の脳を移植された人間、彼はドナーなのかレシピエントなのか?彼の人格はどっち?という話を切なく描いた物語。いい話なので読んで下さい。以上。そうでなくて。何の話でしたっけ?そうそう、2010年の殺人です。これも同じ様なテーマのお話。舞台は2010年という近未来で、進んだ脳外科技術で記憶の移し換えが可能になる。しかし、移された側の人格はいったい誰のものなのか?東野圭吾氏以外にも、北川歩美氏の「模造人格」、新井素子氏の「今はもういないあたしへ…」などなど、脳と記憶とアイデンティティというのをテーマにした作品は枚挙に暇がないのですが、この作品もまた、ひとつの例を示してくれるものですね。「変身」が好きな方にはお勧めです。ただ、総じてこの類の話の結末というのは何でこうも似たりよったりになるかね……(笑)
(97.1.23)
まりえの客・逢坂剛(講談社)
うううう、この人は長編の方がいいなぁ。短編集ですが6作中3作は舞台がスペインで、外国モノが苦手なあたしはこれはパス。で、国内モノの3作はまぁ、そこそこってとこでしょうか。感想になってないなこれじゃ(笑)
ホームページを始めてから、始めて書く外国モノである。そもそも外国モノなんて読んだのは「マディソン郡の橋」か「アルジャーノンに花束を」以来じゃないか、というくらい、普段は読まないのよね。だって名前がカタカナで覚えられないんですもの。(単なるバカじゃねーか、それじゃ(笑))
これに関しては感想を言う言葉がない。著作権がなんちゃらという制約が多分あるのだろうけれど、是非とも作品の一部を引用させて欲しいのである。もしも心が動いたなら、是非手にとってみて下さい。被災したひと、遠くからテレビを見て心配していたひと、そんなひとたちが朝日新聞に寄せた、短歌と俳句です。
<短歌> 死なせてはならぬ友なり繋がらず 地虫のように電話は鳴るに
六歌仙暗殺考・井沢元彦(講談社文庫)
うーーー、おもしろくない(;_;) タイトルからして井沢氏お得意の【隠されたもうひとつの歴史】モノだと思ったんだけど全然違ってしまった。単に六歌仙の歌をなぞって見立て殺人が起こるだけ。ひとつひとつのネタもおもしろくないし、探偵役の南条圭という人物も、薄っぺらい。せっかく六歌仙を扱うのなら、も少し文学的な解釈をしてほしかったなぁ。 (97.1.20)
ダビデの星の暗号・井沢元彦(講談社文庫)
井沢氏の「猿丸幻視行」があたしの生涯ミステリのトップテンに入るのではないかというくらい好きなので、かなり期待をして読んだ作品です。同じ暗号モノだし、同じく当時の文人を主役に据えてるし。で、まぁそこそこ面白くて充分及第点ではあるのだけれど、「猿丸幻視行」に比べると全体に軽くなっている感があります。せっかく芥川龍之介、菊池寛、江戸川乱歩といったようなスターキャストを揃えながら、彼らである必要がぜんぜんないんだもんなぁ。暗号も「猿丸幻視行」よりもかなり簡単だったし。あの程度だったら江戸川乱歩の知恵がなくても解けなきゃおかしいと思うのよね。まぁ江戸時代に作られた暗号だから、あまり凝るのもヘンなんだろうけどそれにしても謎の中心に据えるほどの大変な暗号ではないのだわ。背後の真実はとてもスケールが大きくて、当時の風俗も面白く読めたために、ちょっと残念。 (97.1.19)
そもそもあたしは、推理小説に於ける必然性のない濡れ場は嫌いなクチなのである。別に潔癖症って訳じゃないんだけど。なんか雑誌掲載時に色っぽい場面も少しはないと男性読者に読んで貰えないかもと思って書いたような濡れ場が嫌いなの。だがしかし、この話は濃厚な濡れ場がこれでもかこれでもかと出てくる。最初は「何もこんなにこまかくしつこく書かんでも」と思ったが、読み進めるうちに術中にはまってしまった。OL紀子は旅先で知り合った男性と一夜を共にする。が、翌日には彼は消えてしまい、捜しているうちにその男性は2カ月も前に死んでいたことがわかる。で、第二章では男性側の視点で情事が描かれるのであるが、第一章とすんぶん違わぬ話でありながら相手の女性の名前が違うのだ。これは、やられた。推理小説に濡れ場はいらんと思っていたが、ここまで見事に融合させうることができるもんなんだなぁと、ただただ圧倒。最後まで読んでから、もう一度ページを戻し、伏線の部分を確かめるという行為をついついやってしまう。話のテーマはちょっとぼけてるような気もするが、その緻密な構成と仕掛けられた罠の魅力に、テーマ性の薄さも克服されているような気がするのである。ま、難を言えば、そんな一時の感情で一生をホイホイ決めるもんだろうか、という疑問が残った程度かな。 (97.1.18)
夏、19才の肖像・島田荘司(文春文庫)
新本格の島田荘司とは一線を画したような感じのストーリーである。ミステリーというよりも青春小説。大沢在昌の描く青春アクションのような感じである。入院した病室から見える家の娘に恋をする主人公。双眼鏡で家を覗き、近所の喫茶店から情報を集め、退院してからもその娘につきまとう。立派なストーカーである(笑) これを若さ故の情熱と思って読めたのは少なくとも3年以上前だな。今読むとありがちなストーカーの、でも、ストーカーの気持ちになって書いた小説と言えなくもない。でも、このストーカーはなかなかカッコいいのである。ただ、ミステリー色はあるにはあるが、別に謎解きが主ではないため伏線らしい伏線もなく、謎解きのカタルシスはない。島田御大だからと思って買うと、ちょっとはずす可能性あり、ってことで。 (97.1.18)
しょうもない先入観をもつとロクな事はない、ということだ。この作品はなんとなく惹かれていながらも「夏樹静子のおにーさんなんだよなぁ」というそれだけでこれまで手にとってなかったのだから。今回読んでみて、はまってしまったのだ。こんなことなら、ずーっと気になってたんだからもっと早く読めば良かった。舞台は第二次大戦中の日本、軽井沢。ノルマンディ上陸作戦と言えば、ちょっと歴史を知ってるひとなら誰でもがあの対戦の雌雄を決するきっかけとなった大事な舞台だった事をご存知だろう。そのノルマンディ上陸作戦を成功させようとしたドイツ将校、つまり八百長だ。その将校と日本の女の子の恋の話。ミステリーと恋愛小説がきれいに両立している。おまけに50年という歳月を経て再会するマディソン郡の橋もびっくりの浪漫である。これは面白い。歴史の興味のないひとは一部退屈する部分もあるかもしれないけど、さして問題ではないので是非手にとって頂きたい。何がいいって、ひとりしか死なないのだ。最近の長編でこれは珍しい。そのせいか、みょうなトリックに走っていないし登場人物の行動に説得力がある。非常に読後感がいい。ただ、マディソン郡の橋を読んだ時にも思ったのだけれど、純愛を通した二人はカッコイイが、その夫や妻はいいツラの皮である。彼らにも感情があるだろうに。 (97.1.17)
越前の女・石川真介(東京創元社)
石川氏のデビュー作「不連続線」の印象はというと、食べ物の描写がすごく上手で読んでてお腹がすいた、というモノだったりする。関係ないんですけど。で、この本ですが、プロローグがいい。3人の女性の反省をプロローグで描いているのだけれど、このプロローグが非常にいいですね。うん。引き込まれる。が。プロローグだけなんだよなぁ、いいのは(笑)。竜頭蛇尾というか何というか。謎解きの部分はそれなりに伏線も手がかりもとても魅力的で、思わずはまってしまったのだけれど、だんだん尻すぼみになってきてる。プロローグで示された3人の半生というのは、それが後になんらかの形で事件に陰を落とすんじゃないかと思ってたんだけど、結局、人物描写でしかなかったのね。提示された謎も100%解かれるわけではなく、あれ?これはどうなったの?これの解説はこれだけなの?という感が強かった。話が面白かっただけに、残念。 (97.1.15)
髑髏は長い河を下る・森山清隆(新潮社)
新潮ミステリ倶楽部は総じてレベルが高く、ハズレが少ないのだけれど、これはちょっとどーかなー、という感じがしたです。中心となる事件自体はとっても魅力的な構想だし、文章も重厚でいい感じなんだけど、冒険小説なのか推理小説なのかちょっと中途半端なのよね。いや、話が面白ければカテゴライズなんかどうだっていいんですが。主人公が事件に巻き込まれるうちに、少しずつ見えてくる真相、と言う観点では推理小説なんだけども、それにしてはアンフェアすぎる。倫子がアレだったとか、あの人とあの人はこんな関係だったとか、唐突に空かされるんだもん。伏線らしい伏線なしで。そりゃ意外だったけど、騙された意外さではなく、「そんなこといきなり言われても」という意外さなのよね。だから推理小説としてはアンフェアという気持ちがどうも拭えない。じゃ、いっそ冒険小説として読んでみたらいいんじゃないかと思ったんだけど、それにしては展開がなりゆきまかせ。この探偵は自分から動くっつーことがないのか?怪しいと思う人物を尾行したら偶然こんな所にでくわしました、友人から久しぶりに電話を貰ったら、たまたま友人のお父さんが大事な情報を持ってました、そりゃないぜべいべぇ。首都圏の水を賄う利根川水系に目をつけて、バラバラ死体のパーツが流れ着く、というあたりや、今のご時世で水を売るという商売の陰に何かがある、というあたりはとっても面白いと思うんですけどもね。いっそ、も少しガチガチの社会派推理小説に徹した方が面白かったのはないかしらん。 (97.1.9)
赤いべべ着せよ…・今邑彩(角川ホラー文庫)
今邑彩の本は全部チェックしてる筈なのに、この本は知らなかったなぁ、いったいいつの出版なんだろう……と思って奥付を見た。奥付の右頁が目に入った。
「吾輩は猫である」殺人事件・奧泉光(新潮社)
作者はかなり漱石を読み込んでいるのか、文体はかなり原作に似せてあるし(なにせ旧仮名を使ひ、旧字体まで操つてゐるのだ。哥哥哥。)文章のそこかしこが妙におかしい。苦沙弥先生が日本で殺されたのを新聞を読んで知った(!)猫が、それぞれ取材をし、推理を披露する。その推理のそれぞれが、スジが通っているようで抜けているようで、それも妙におかしい。旧仮名遣いで読みにくいかと思ったが、ずんずん読めるのでおためしください。残念な点を言えば、最後は本格推理ではなくて、SFというかファンタジーというか、そっち方面に話が流れてしまったことかな。これがちゃんと論理的に〆られればその方が好みだったんだけど。でもまぁ、猫が人語を解したり新聞を読んだりするだけで充分SFなんだから、ま、いっか、てなもんである。尚、これを読む前には、漱石の「吾輩は猫である」を読んでおいた方がいいのは言うまでもない。
(97.1.25)
2010年の殺人・五十嵐均(角川書店)
【まりえの客】別れた不倫相手が病気で倒れ、それを機に彼女の秘密が暴かれ……うう、二時間ドラマみたい(;_;)(;_;)
【盗まれた風景】これはこの本の中では面白かった。見知らぬ女からいきなり恋人のように振る舞われる。何か勘違いしてるだろうと指摘しても「いいのいいの、あなたの気持ちは分かってるから」なぁんて言われたら、これは恐いよなぁ。動機のあたりが如何にもって感じでちょっと気に入らないけど、でも、構成やどんでん返しはけっこう引き込まれる作品でありました。
【三十六号車の男】こんな安易で偶然だけの話があっていいものだろうか(笑)
(97.1.23)
モモ・ミヒャエル=エンデ(岩波書店)
で、内容はさすがにブームを呼ぶだけのことはあると思いましたです。子供の頃に読んだのならワクワクどきどきの冒険ファンタジーだったんだろうと思うけれど、今の年で読むと胸につまされますね。時間を盗まれた街の人々、時間を取り返そうと戦うモモ。でもモモの活躍よりも、時間を貯めることに汲々としだした街の人々の描写が辛い。自分は自分に与えられた時間の半分近くをもう使ってしまったんだなぁとしみじみしてしまいました。大事はモノは他にあったのにね。時間惜しさに移動しながら携帯電話で商談するひと、急いでるからと肩がぶつかっても挨拶もしないで通り過ぎるひと、そういうひとに是非読んで頂きたい作品です。 (97.1.21)
阪神大震災を読む・朝日新聞社歌壇俳壇(朝日新聞社)
悲しくも四五日分のひげ伸びて 怪我ひとつなき遺体掘り出す
助けたい 死んでもおっぱい出るのかな 余震の続く避難所の夜
自転車でぼくを訪ねてきてほしい 道の瓦礫も片づけたから
街はまだ死んでぇへんで パンを焼くビフテキを焼くコーヒーを挽く
回線に励ましのせて返すなり 被災地からの間違い電話
<俳句> えらいこつちや 被災の姉の第一声
その時に止まりし時計冴え返る
一枚の賀状が遺書となってゐし
(97.1.20)
湖底のまつり・泡坂妻夫(双葉文庫)
ヴィオロンのため息の……高原のDデイ・五十嵐均(角川書店)
「本書は1992年1月に双葉社より『「通りゃんせ」殺人事件』というタイトルで刊行されたものを、改題・加筆し、文庫化したものです。」
……げげん。こういうのはさぁ、表紙とかのもっと目立つところに書いといてくれよぉぉぉぉぉ。こういう妙なダブり本は勿体なさすぎるよぉぉぉ。まぁ、かなり書き直してて「通りゃんせ殺人事件」よりもこっちの方が数段すっきりしてていい作品になってはいるけどもさ。しくしくしく。これって一つ間違えれば「狡い」商売だぞぉぉぉ!!!話の中身がどうこうよりも、断固としてこの事の方があたしゃ言いたいのであった。改題はハッキリ記せ!(97.1.2)
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