アメリカを駆けめぐるコン・ゲーム!これは面白いですよぉ。マジりっけなしのエンターテイメントですね。結局娯楽小説が面白いか面白くないかというのは、作家の側に、如何に読者を楽しませようかという意気込みとサービス精神があるかないかなんだな、と思いましたですよ。これはまるで「スティング」ばりのコメディ。日本人の元ボクサーがアメリカで一人の詐欺師と出会い、道中いろんな仲間と知り合いながらコン・ゲームに挑んでいく。笑いあり涙ありドキドキありで、ひとことでいうと「陽気なピカレスク」ですね。浅田次郎の「きんぴか」のアメリカ版というイメージがあたしにはあるのだけれど、いかがなもんでしょうか。登場人物のひとりひとりが個性的で生き生きしてるし、目の前で彼らが動き回ってる、その表情までが目に浮かぶくらいに映像的。若干、古いタイプのエンターテイメントという感じもするし、手垢のついたストーリー展開ではあるのだけれど、それがひとつの安心感になってますね。うまいぞ!>船戸与一。古くさいストーリーなのにツボを心得てる、といった感じです。つまりは松竹新喜劇なのです。船戸氏の事をミステリ界の藤山寛美と呼ぶ日も近いな。呼ばねーってか。(97.2.2)
夏の災厄・篠田節子(毎日新聞社)
日本脳炎。痛かったのよねー、日本脳炎の予防注射って。他のインフルエンザとかそういうのとはひと味違った痛さがあったような覚えがあるのです。でも、絶滅したんじゃなかったのね>日本脳炎。これを読むとマジに恐くなりますが。埼玉県のある市で急に持ち上がった日本脳炎騒動。それに対応せざるを得ない市の職員や当番看護婦。ヒーロー不在の小説を書きたかったというだけあって、たしかに小市民的な市の公務員が仕方なく対応にあたってるという感じが出てましたね。(でも、主役の看護婦や医者ってのは充分ヒーローだったと思うぞ。)でも、この作品で一番恐かったのは、今やほとんど発生しない病気だから臨床体験がなくて医者が診断できなかったという点、それから、特定地区で流行したためその地区が差別対象になってしまったという点。実際の病気の出所や病院という世界の裏の問題よりも、あたしはそっちの方がよっぽどパニック小説の体を示してるような気がしたなぁ。一部の金権の問題よりも市井の人々に芽生えた差別意識、そこから派生する私刑、そういったものを中心に描いた方がより「ヒーロー不在のパニック小説」になりえたのではないかという感じがするのよね。結局、病気の出所が判ってチャンチャン、となるわけですが、人々の中に一時的とは言え巣くってしまった悪意、選民意識、集団心理、そっちの方は効果として盛り上げるだけ盛り上げて放りっぱなしなのが残念でした。
同じ墓のムジナ・霞流一(角川ノベルズ)
いわゆる「ユーモア・ミステリ」かと、気楽に読み始めたのですが、けっこう楽しんでしまいましたのよ。東京のとある商店街。その店たちになぜか「タヌキ」に関連した悪戯が頻発。商店街の入り口に信楽焼の狸が置かれたり、頼んでもいないタヌキソバが届けられたり……一見、無関係に見える悪戯も、実はすべてタヌキが絡んでいた。頭を悩ませる商店主たち。そしてついに殺人が……!というお話。(なんか宣伝文書いてるみたいだな(笑))舞台が商店街ということで非常に庶民的なレベルで話が進みます。でも、文章が非常に個性的でキレ味がよろしい。どっかで見た文章だよなぁと思ってたのですが、森雅裕氏の文章を下町っぽくした感じなのです。小洒落てて、テンポがよくて。さくさくっと読める軽さがあるのだけれど、けっこう推理はしっかりしてるし。タヌキ関係の蘊蓄もとても面白く読めました。まぁネタは多分にこじつけではあるけれど、こりゃこじつけでも仕方ないかなと思えるし。(褒めてるのか?(笑))
女監察医 叶理香子・新津きよみ(大陸ノベルズ)
女の狂気を描く作家としてその地位を描いてしまったかに見える新津きよみ氏ですが、まぁ、初期にはこーゆーのを書いてたのねぇ(笑) 女性で監察医という職業の若い美女が3つの死体から推理する、そして彼女にほのかな思いをよせる刑事……ううう、そりゃ2時間ドラマが放っておきませんわ。わはは。いや、笑っては失礼なんですけど。新津きよみ氏のこういう作品を読むと、彼女はどこで化けたんだろうと逆に興味が沸いておっかけてみようという気になるから不思議だ。わっはっは。おまけに偶然彼女が担当することになった変死体が、彼女の昔の××で、犯人は××で……と来た日には、この調子で事件が進むんならこりゃそもそも主人公の交友関係に問題があるんじゃなかろうかと思ってしまうくらいのご都合主義であります。昔、一条ゆかり氏が描いた少女マンガで「デザイナー」というのがあったんだけど、どういう話かというと、主人公のデザイナーとそのライバルは実は生き別れの親子で、慕っていた男性は実は父親で、命をかけて愛した恋人は兄だったという、登場人物すべてが家族だったという凄いオチの話なんだけど、それに近いものがあるぞ。絵が描けるだけ一条ゆかりに軍配を上げたい。何の感想なんだ?これは。
(97.2.10)
安曇野殺人紀行・新津きよみ(大陸ノベルズ)
というわけで、初期の新津きよみを追うシリーズ第2弾であります。勝手に追ってるんだからタチの悪いストーカーみたいなもんだけども。だいたいタチのいいストーカーなんかいるのか?(笑)さて、普通なら駅のホームで本を持って来ることを忘れて仕方なくキオスクで車中の本を買うような時以外は絶対に手にとらないタイプのタイトルですね。まさしく、片平なぎさか誰かが主役でドラマになりそうな作品だ。で、地元の刑事が若林豪とかね。(笑)山で死んだ恋人が持っていた筈のペンダント。それが年を経て全く違う場所で見つかる。設定はけっこう本格推理なんだけども、タイトルだけでこうも印象が違ってしまうものかしら。帯のタイトルが「山で死んだ恋人の謎を追う愛と殺意の罠・殺された男が残した『上高地にいた……』の言葉の謎を解け!長編旅情ミステリー」ああああ、もうこれだけでそのまま新聞のテレビ欄に使えそうな惹句と豆の木。何やそれ。ところが、トリックとか動機とかそういうのはよく読むと非常にしっかり本格しているのです。真相にせまる手順もそのサスペンスもフェアだし。(でも、ダイイングメッセージは、ちょっとなぁ……。気付かねーって、そんな真相)それがどうして、こうも2時間ドラマ的な浅薄さがにじみ出ているかというと、タイトルはさておき、やっぱ文章のせいと言えましょう。なんかルポみたいなんだもん。「亜衣は嬉しかった」「亜衣は悲しんだ」ううう、作家ならそんな一言で表現しないで、嬉しさ・悲しさが伝わるように描いてくれよぉ。一歩引いた「作者の目」で文章を書いてるから、ぜんぜん人物の気持ちの動きが伝わってこない。だから、感情移入できない。したがって、面白くない、と来たもんだ。そう考えると、最近の新津氏というのは作風が変わったのもあるけど、文章が格段に旨くなってるという事が言えますね。
(97.2.10)
あのよう、名古屋ってのは余所モンにはどえりゃぁ住みにくいトコなんだわ。言葉も判れーせんし、文化も全然違うんだぎゃぁ。だで、これまで名古屋が舞台のミステリっちゅーと、ほとんどあれーせん。最近は森博嗣さんや太田忠司さんやらがいりゃーすけどあのひとたちぁ、共通語で描きよるもんでね、名古屋文化ちゅー話になると、チト弱あでかんがや。そう思って、この「やっとかめ探偵団と殺人魔」を読みゃあ、でぇらおもしれえもんで、紹介しようと思ったんだぎゃあ。
探偵事務所 殺人は小説よりも奇なり・鳥羽亮(角川ノベルズ)
金に目がくらんで、ボケたおばあちゃんの妄想に付き合ってみたらそこから死体が出た!それは5年前の心中事件に端を発していたが……という、鳥羽亮氏のシリーズもの。話の流れがチト強引なような気もしたけれど、登場人物がどれも個性がしっかりしてて判りやすいので、苦もなく読み進められました。しかしこれは冷静になって考えてみると5年前の事件が、当時さしたる抵抗もなく自殺と決められた事自体に無理があるような気がするぞ。あとになってこれほど殺人の手がかりが出てくるわけで、そんなもんに当時気付かなかったという方がチト現実味がない。
篠田節子が乱歩賞に応募した際の作品を加筆修正したものだそうです。やっぱうまい人は昔からうまいのね。善玉悪玉がきっちり別れるあたりが浅いような気もするけれど、でもそういうのって判りやすいし、感情移入もしやすいし。絵の修復師という職業を通じて事件に巻き込まれるという設定も面白かった。彼女が手がかりを見つけていく過程にも無理がないし、動機にも無理がない。どろどろした話なのに、なぜか読後感のよかった一作。贋作とか、絵の修復作業なんかの専門的な分野の話も面白くよめたし。でも、一番よかったのは、主人公の友人、才一のキャラですね。オカマさんなんだけど、「彼はオカマの彫刻家である」みたいな地の文での説明一切なしに、読み進めるうちに自然に人となりが判ってくる。この描き方が秀逸です。篠田氏の文章ってのは非常にシェイプアップされていて、余分な修飾がはぎとられている。でも、奥行きがある。凝りすぎてなくて、でも説明的でもなくて、素直に読めるいい文章だと思います、です。どことなくプロットや表現が東野圭吾さんに似ているような気がして、思わずおすすめマークをつけてしまったのでした(笑)
(97.2.12)
乱れからくり・泡坂妻夫(東京創元文庫)
けっこう評判を聞く作品なので楽しみにして読んだ。……確かに面白かったんだけれど、うーん、あたしの頭が悪いのかな。迷路のあたりでワケわかんなくなってしまって、考えるのを放棄してしまった(笑)迷路やってみたけど、なんか思うように行かなかったんですもの。でも、後になってみたら、それが大事だったのよね。(笑) からくり玩具の蘊蓄はさすがに得意分野というだけあって詳しいですねーー。で、それらがちゃんと殺人事件と絡んでくるのも面白い。ただ、どっちかってーと、謎そのものや小説そのものよりも、からくり玩具について書きたかったのかなーという感じがしましたけども。古き良き本格ミステリ、といった感じかな。幻影城のあたりが好きなひとにはいいかもしれませんね。あ、もともと幻影城出身か>作者。
蟹喰い猿フーガ・船戸与一(徳間書店)
そうそう、蛇足ですが、昔九州の某所で「日本農園」という農園を見たことがあります。ひっでーネーミングだよなぁ。(笑)(97.2.2)
ただ、惜しむらくは。舞台が商店街というだけあって登場人物が多い。当たり前だけれど皆、商売人だから何となく個性も似通ってしまう。少なくとも、八百屋のおっちゃんとエリートビジネスマン、みたいな対比で個性を表現するという手法が使えないあたりが苦しかったな。頑張って個性を書き分けてるのは判るんだけれど、会話になると地の文で説明してくれなければ、誰が誰に話してるのか判らなくなっちゃうのよね。だから、後半で探偵役の人物が容疑者をひとりひとり吟味するシーンで「えーっと、それ誰だっけ。アレしたひとか。いや、アレしたのはこっちだっけ?」みたいになってしまいかねない危険がありましたですね。もう少し絞るか、あるいはいっそ、巻頭に登場人物紹介つけたり、商店街の見取り図とか入れたりしたら判りやすかったかも。 (97.2.6)
やっとかめ探偵団と殺人魔・清水義範(光文社文庫)
……とまぁ、名古屋に住んでまだ7カ月のあたしがここまで名古屋弁を使いこなして(?)いるのは、一重にこの本のおかげだったりする。名古屋市中川区(実在)に住むおばあちゃんたちの探偵諢。とにかく会話とバックボーンとなっている名古屋文化が面白い。自分が名古屋に住んでるからという贔屓目もあるかもしれないけれど、それでも、名古屋人にとっては膝をうち、他県人にとってはファンタジーともSFともとれる文化が紹介されているわけである。で、話の方は連作短編集。自殺、窃盗、殺人などなどおばあちゃんたち相手に結構シビアな犯罪が起こり、それを名古屋のミス・マープル、波川まつ尾が解きあかすワケだが、最後まで読むとけっこう細かい伏線が張って合ったのに驚かされる。そこここに細かい社会風刺ややるせない感情なんてのも入ってる。ユーモアミステリというカテゴライズと名古屋という舞台に騙されて、軽い読み物のつもりで読んでしまいがちだが、どうしてなかなか、けっこうしっかり本格小説しているのでありました。だで、先入観なしで読んでみてちょ。
(97.2.11)
でも、人物はホントにいいですね。華子おばあちゃんもいいし、深石さんもいい。麻衣の執拗な誘惑にも断じて負けないイッキさんもけっこう好きだったりするのだけれど、探偵事務所モノにはなんでこういう麻衣みたいな役所の女性が必ず出てくるかねぇ。狩野俊介シリーズのアキちゃんしかり、犀川助教授シリーズの萌絵さんしかり、永井夕子シリーズしかり。あたしは「恋愛感情が先走って公私混同してる事に自分で気付かない思い上がったオンナ」というのが虫酸が走るほどでぇっきれぇなんでいっっっ!そういう奴等のために、世の多くの真面目なOLがどれだけ迷惑を被ってきたことかっっ!まず仕事をちゃんとしてから、大口たたけっっ!ぜえぜえ。
(97.2.12)
贋作師・篠田節子(講談社ノベルズ)
この本読みながら、ちょっと思い出した事がありまして。ロシアの人形で、胴体が上下に分かれるようになってて、人形の中に人形がいれこ式になってるのがあるでしょう?あれって、何て言う名称だったかしら。話とは何の関係もないんだけど、知っているひと、CXW00340@nifty.com(タグははずしました)まで教えてください。
(97.2.13)
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