パンドラケース〜よみがえる殺人〜・高橋克彦(文春文庫)
いわゆる吹雪の山荘モノで典型的なフーダニットだけに安心して読めました。ただ、他の山荘モノと違うのは、地理的に密室なのに対して時空的には大きく開かれているということ。「殺人の動機は過去にあったのです!」なんて言ってしまうとなんかありがちで身も蓋もないんだけれど、その過去を探る小道具がなかなかよろしくてありきたりさを感じさせないのよね。探偵役のトーマもいい。大学時代の仲間が約20年ぶりに集まって、その中で殺人が起こるというシチュエーションはありふれてるけれども、それでも読ませてしまうあたりが筆力と、それから小道具の巧さなんだろうなぁ。誰がどの記事を選んだかというあたりは、チト牽強付会の感が強かったんだけど、それもあとで納得できたし。高橋さんて、浮世絵ばかりじゃないってことね(笑)。
(97.3.26) back
南朝迷路・高橋克彦(文春文庫)
「パンドラケース」の続編というか、同じ登場人物が3人出てきます。大人の男と女の掛け合いや駆け引きが読んでて面白い。青春時代を共有するってことは、ホント、一種独特の共同体意識を植え付けるもんだと思うので、この3人の掛け合いにもなんだか非常に納得させられる部分があるのだな。で、隠岐で事件の発端があり、そこから奈良、長野と日本を股に掛けて(?)の推理ドラマが始まるわけだけれど、真相のところでちょっと拍子抜け。もうひとつ、何かどんでん返しがあってもいいかなぁと思ってしまう物足りなさを感じてしまったのよね。
(97.3.26) back
芭蕉魔星陣・井沢元彦(講談社文庫)
20年くらい前に一世を風靡した、鶴書房のSFベストセラーズ(あの、なぞの転校生とかねらわれた学園とかね)を彷彿とさせるようなタイムスリップ推理。氏のデビュー作である「猿丸幻視行」の例もあるように、氏は歴史上の人物を探偵役に据えながら現代人をその中に投影するという手法をとることがあるわけですが、今回のように「心中した恋人同士がSFちっくな力で精神体として生かされ、江戸時代に行って戦う」というのはちょっとトンだ感じがしてしまって……(笑)。でも、内容はさすがで、あの悪法「生類憐れみの令」に代表されるような綱吉の悪政というのを、こういうふうに使うか!という部分で膝を打ってしまった。ポン。歴史とフィクションを織りまぜて解釈させたら、ホントうまいねこのひとは。
(97.3.27) back
義経幻殺録・井沢元彦(講談社文庫)
このへんになってくるとなんか意地で読んでる気がしてきた>井沢氏(笑)。ともかく、今回は義経です。義経がジンギスカンだったという説は有名だけど、実は清を築いたのが義経そのひとだった!という歴史学者真っ青の説を証明するための証拠をめぐっての丁々発止。芥川龍之介を探偵役に据えて、明智小五郎まで出してくるあたり、遊んでますねぇ。歴史物フィクションはこういうのができるから面白いやね。で、その証拠の解読にはげむ芥川と、別の事件に巻き込まれてる明智小五郎がいるわけで、そのふたつの事件が登場するわけですが、それらがリンクするわけでもないから、うーん、明智の方のダイヤモンド盗難事件はなくてもよかったんじゃないかしらと思うのだけどいかがなものかな。芥川の事件の方は、例によって謎解きよりも歴史の蘊蓄が面白い。このひとはホントによくいろんなことを勉強しているひとだなぁ。それだけで充分尊敬に値するわ。
(97.3.27) back
春信殺人事件・高橋克彦(カッパノベルズ)
あう(;_;)。浮世絵ってのは確かにすごい日本文化だし、春信ってひとも有名なのかも知れない。単にあたしがバカなだけなのかもしれないんだけど、でもなぁ。「捜し屋」仙堂が春信の絵を求めてニューヨークにまで飛ぶわけで、もちろん、それを巡っていろんな浮世絵関係者が動き回るわけ。で、だんだんいろんな事実が分かってくるわけなんだけども、登場人物たちが「おお!これは!」という感じで騒いでいる事実に対して、浮世絵に素人なあたしには、それがどんなにすごいことなのか分からないのよね。だもんだから今一物語に入り込めない。読者が知らない世界を描くにあたって、もちっと何かイントロダクションがあるといいなぁ、と思ったのですが。最後がメロドラマになってしまったのにも、ちょっとガッカリ。
(97.3.30) back
二重の罠(ダブルトラップ)・坂本光一(講談社文庫)
うーん、商社ってのは恐いトコだなぁ(^^;)というのが第一の感想。前作(「白色の残像」高校野球モノね)と随分色合いの違う話だなぁ、というのが第2の感想ですね。海外赴任から戻ってきた主人公が、元同僚の謎の自殺をあばくために動くんだけど、それがそのうち自分の会社、それから関連会社を含む陰謀に巻き込まれて……というパターンです。ああ、こいつ怪しい!という人物がいて(作品の中で怪しいんじゃなくて、こういう形で出てくる人物は推理小説の謎解きにおいて怪しい、という意味ね)それがそのまま犯人だったのにはマイッタけど、そこに到達する課程は企業小説としてけっこう面白く読めました。あたしが会社員だったころは営業ではなかったので分からないんだけど、商社ってのはこういうことがホントに行われてるのかね(^^;)。これだけの大企業なら、一個人の思惑でここまで事態が変えられるものか?という疑問もあるけれど、ま、島耕作の例もあるし(笑)、そのあたりはお約束ということにいたしましょう。
(97.3.30) back
文庫で出てしまった(;_;)。なんてタイミングが悪いんでしょう。ま、そんなことはどうでもいいんだけど、これは面白いよーーー。さすが、新潮ミステリ倶楽部にハズレなしと言われるだけのことはある。新人看護婦が勤めだした病院で気付いた妙な謎。婦人科の奧に、一部の人間しかはいれない部屋がある。その病院は小児科の臓器移植で有名な病院だった。そして看護婦は偶然「胎児が無脳症……」という言葉を聞く。となれば、もうネタは見えたようなもんです。結果はどうなるというのは分かってる。でも、その「結果」に行き着くまでのストーリーの展開が恐ろしくスリリングで引き込まれてしまうんだな、これが。人物配置もすごくいいし、何より登場人物が魅力的。ドラマを見ているかのような気分で、ぐいぐい読み進められます。立ち回りのところなんてマジに手に汗握るぜ。ケーブルカーの車掌さんがすごくいい。非常にグロな話なのに、読後感が一種さわやかなのよね。悪に立ち向かう強さと、純粋さを持ち続ける強さ。これに尽きます。おすすめの一品。
(97.4.1) back
イコン・今野敏(講談社)
パソコン通信が題材になった小説も増えてきましたねぇ。パソ通の中で生まれたアイドル。まぁ、実際に会わなくても好きにはなれる、というのは映画「ハル」の妄想(笑)のせいか難なく受け入れられる土壌ができてるのかもしれません。あたしゃどうも胡散臭さを感じてしまうんだけどね(笑)>ハル。で、話自体は、そのアイドルが実在するのか・誰なのかという謎をメインに進んでいくわけだけど、そのあたりは別にパソ通をこれほど全面に押し出す必要はなかったんじゃないかと思えるくらい、普通の捜査描写なのよね。アイドルという概念の移り変わりも、まぁ面白く読めたけど、それでもちょっと過剰の感が否めないし。何が動機で犯人は誰というのは読み進むウチに読者にも簡単に想像がつくようになってるし(だって人物配置がとってもオーソドックスなんですもの(;_;)。これはわざと分かりやすくしてるとしか思えないわよぉ)、テーマはひょっとしたら世代間の交流というあたりにあったのかしら、と思うんだけど、パソ通やアイドルといういわば「小道具」が全面に出すぎてテーマ性が希薄になってしまった感がします。ま、パソ通を知らないひとが読むということを考えると、これくらいの説明が必要なのかなぁ。
(97.4.2) back
多分、分類すればハードボイルドになるんだと思うんだけれど、ハードボイルドの割にはなんだか読後感がほのぼのしてしまうという作品。13才の登校拒否中学生、姫子。男好きのハツラツ婆ぁ探偵ウネ子。外見にコンプレックスを持つ中年探偵野崎。彼らが阪本というひとりの青年を追う。ある者は仕事で、ある者は郷愁から、そしてある者は初めての恋への憧れから。そして見つかる死体と手がかり。まったく混じりようがない3世代の「探偵たち」が真相を追い続ける。非常に面白い。
やっとかめ探偵団・清水義範(光文社文庫)
名古屋市中川区が舞台の名古屋カルチャー推理小説。おばあちゃんたちの名古屋弁と、そこここに出てくる名古屋文化の紹介がいいですねーー。あたしはまだ名古屋に住むようになって1年にもなってませんが、それでも「あるあるある!」と、何かのクイズ番組に出てるかのような反応をしてしまう時があるあるある(笑)。
やっとかめ探偵団危うし・清水義範(光文社文庫)
清水氏のシリーズもの。今回は連続殺人事件で、やっとかめ探偵団のおばあちゃんたちの役割分担もしっかりしてきます。どうでもいいけど、やっとかめって名古屋弁で「久しぶり」って意味なんだよね。八十日目、って書くのが由来だそうで。この「やっとかめ」というのは結構有名な名古屋弁らしいのですが、決して名古屋人相手には使わないようにお勧めします。他の地域のひとが辿々しく方言を使うのって、あまりみっともいいモノではないってのも勿論あるんだけれど、何より「やっとかめ」って、おじいちゃんおばあちゃんの世代しか使わない言葉らしいのです。あたしまだ、生で聞いたことないもん>やっとかめ。
「されどわれらが日々ー」とか「赤頭巾ちゃん気を付けて」とかの、あの時代を描いた話が好きな人にお勧めの一品。昭和40年代を中心に、コミューン運動というものがあった。文明を捨て、山奥などで集団で自給自足の生活を行う。今となっては「流行」で片づけるにやぶさかでない事象。でも、当時、それに賭けていた人々は確かに存在した。この話は、そんな人々と、そのコミューンからはずれて「普通の」生活に戻った主人公との関わりを描いた佳作だ。昔、自分が属したコミューンを捜して訪れようとする医者。そのコミューンがあったと思われる近くの村に住む人々。そして起きる殺人事件。まるで推理小説のような感じでストーリーは進む。
面白い。重厚なテーマ性があるとは云いがたいが、得も云われぬ鯵がある。開きが好き。間違い。味がある。学生運動上がりの売れない役者とその妻、そして双子の娘。浮気をしたり刑務所に行ったり、お父さんの人生は波瀾万丈。でも、お父さんが何をやっても双子は育つ。そんな中、お母さんが心の病にかかる。お父さんは頑張る。双子は泣く。お父さんは頑張る。双子は走る。お父さんは頑張る。でも、黙っていても双子は育つ。
ゴサインタン〜神の座〜・篠田節子(双葉社)
うーーーん。消化不良。けっこう評判がいいので読んでみたんだけれども、えーっと、これはサイコホラーなんですかねそれとも恋愛小説なんですかね。ネパール出身の妻に日本人名をつけて呼ぶ夫。教育しようとする母。そんな中で嫁の奇怪な行動が始まり、人が死に、人が集まり、宗教と呼べる段階へと上がる。そんな中で、夫の家は没落し、人生は転落する。スペクタクルなまでに話のテンポがよく、確かにぐいぐいと話は進むのだが、結局はすべてを夫は妻を慕うようになるわけだ。うーん、で、一連の妻の行動は何だったの?どうして彼女はあんな力を持つに至ったの?目的は何で、人為だったの偶然だったの?そういう事が何一つ解明されない。解明されないままの方がテーマ性が強まるかというと、そうでもない。なんじゃこれは。とっとと離縁しちゃえばいいじゃんよ、とつっこんだ事数知れず。なんかね、社会問題を扱ってた話が個人的な恋愛の成就で終わられても、全然カタルシスがないのよね。ふぅ。
(97.4.24) back
臓器農場・帚木蓬生(新潮社)
されど修羅ゆく君は・打海文三(徳間書店)
面白いのは、真相にたどり着く謎解きの過程だけではない。犯人が誰だというのも確かに意外で面白かったけれど、その謎解きや調査というのがそれぞれの登場人物の人生や私生活にどう影響を及ぼし、どう変えていくか。そこが何より見所である。13才の姫子の葛藤と反抗、情にもろくて現実的じゃない阪本、そして彼らに振り回されるウネ子や野崎。人生において、なにか事がおこった時にそれで人はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。同じ局面において、どう違う行動をとるのか。そういう人間模様が秀逸の一作。
(97.4.3) back
清水氏と言えば、バスティーユ、ってフランス革命起こしてどうすんねん、パスティーシュの大家として有名ですが、これはれっきとした推理小説。息子夫婦と同居して、ちとボケかかってきたお爺さんが何者かに殺される。その推理を、名古屋のミス・マープルこと名物ばあさんの波川まつ尾が買って出るというもの。本格推理と言うにはトリックも伏線も弱い!という意見も出ようかとは思いますが、これは本格推理ではなく社会派ですね。動機も行動も立派に社会派。ただ、名古屋弁だと社会派に見えないところが何とも……(笑)。
(97.4.13) back
で、これはその「やっとかめ」を使う世代のひとたちが被害者になり且つ探偵になるというお話。おばあちゃんならではのトンチンカンな会話は笑えるし、名古屋文化も笑えます。(笑っていいのか?)でも、このシリーズ全般に通じることなんだけど、切ない。名古屋弁で話が進むから切なさが隠れてしまうんだけど、実は非常に切ない物語なのです。その切なさを壊してしまう名古屋弁っていったい……(笑)。
(97.4.14) back
葦と百合・奧泉光(集英社)
しかし、エンディングが近づくにつれて、いわゆる推理小説ではないことに読者は気付かされる。推理小説としても成功していたであろう伏線や論理が存在するにも関わらず、作者は敢えて幻想の世界へ読者を誘う。結局真相は何だったのか、それを想像することは容易いが、真相究明というアプローチを排除して、主人公の心の奥襞を探ろうとする。何が真実で何がそうでないか。それを決めるのは客観事実ではなく、結局は人の心の数だけ真実があるということか。
(97.4.18) back
黙っていても双子は・小嵐九八郎(中央公論社)
小嵐氏独特の軽妙な文章で、風来坊のお父さんがとても魅力的に描かれている。行き当たりばったりで、ヒモで、女にだらしないお父さんがなんだか愛しく描かれている。そして、そのお父さんよりも、娘たちの個性が非常に何というか可愛くて、なんとなく自伝風に書かれた小説ではあるけれど、きっとこれはそんなお父さんの贖罪の物語なのだ。頑張れ、頼りないお父さん!
(97.4.20) back
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