感傷戦士〜五月香ロケーションPART1〜・森雅裕(講談社文庫)
主人公の名前が五月香(メイカ)ってくらいなんで5月の最初に読もうと決めていた。が、5月と何の関係もなかった>ストーリー。しくしく。
漂泊戦士〜五月香ロケーションPART2〜・森雅裕(講談社文庫)
上記「感傷戦士」の続編。前作に比べると、ちょっとパワーダウンの感は否めません。パワーがアップしてるのは五月香だけだよな。前作では、まだ、訓練を受ければ可能かもというレベルだった彼女のすごさが、今回はもう、こいつ人間じゃねぇってところまで来ます。胸に埋め込まれた発信器を自分で胸切り開いて出したあげく、翌日には立ち回りを演じるし、その上、脳下垂体破壊されて死亡が確認したあとで生き返るし。何でもありかい、ヒロインは。スケバン刑事でもここまでじゃなかったぞ。梵天丸もかくありたい、ってなもんだ。こうなったらもう、これは冒険アクション小説じゃないな。ホラーだぞ。
昨年非常に評価の高かった作品。というワケで読んでみたらば、うううん、面白い。世間の評価は参考にするもんですね、いやまったく。主人公がとぉっても魅力的なハードボイルドで、非常にオトメ心がそそられるのでありました。(誰がオトメだ、というツッコミは却下。却下だってばっっ)
今や、押しも押されもせぬパスティーシュ作家であり、名古屋を代表する文化人(?)となった清水氏の原点とも言うべき作品である。すごい。やりたい放題である。名古屋人なら一度は思うであろう疑問「信長も秀吉も家康も愛知の人間だのに、なんで日本の首都が名古屋じゃないんだ!」を、ここまでのドラマにした作家がかつていただろうか。答は否である。ドラマにできる人間がいなかったのか、そんな事考えるだけでもアホらしいからやらなかっただけなのかは判らないけど(笑)、とにかく、彼の書いた物語は「秀吉が天下統一したあと、名古屋幕府ができていたら」という物語なのである。
再読であります。が、初読はホームページ開設の前だったし、せっかくだから書いておこうってなもんで。だっていいもの、これ。泣けちゃうんだもの。浅田氏の他の作品が泣けるのは、なんつーか松竹新喜劇的あざとさがあるせいなんだけれども、これはもうドラマとして一級品ですね。推理小説以外の歴史モノには普段手を出さないあたしがここまで褒めるのだから間違いない。昨年の1位だもんな、あたしの。なんでこれで取れないかなーー>直木賞。ああ、今更嘆いても仕方ないのだけれど。
遥かなる啄木一握の殺意・小嵐九八郎(青樹社)
へーぇ、この人もこんなミステリー書いてたんだぁ、というのが第一印象。今となってはイメージが全然違うのであります。なんか斉藤栄氏みたい、と言えば判っていただけるかしら(笑)。啄木の東海歌「東海の小島の磯の白砂に われ泣きぬれて蟹とたわむる」を巡っておきる連続殺人。出だしの窓際刑事さんなんてすごく味があってよかったんだけどなぁ、話が進むにつれて、なんかだんだん俗っぽいキオスク・ミステリ(判ってくれる?)になってしまいました。残念。だいたいアリバイ工作にしろ伏線にしろ、無理がありすぎるって。
天皇(エンペラドール)の密使・丹羽昌一(文藝春秋)
第12回のサントリーミステリー大賞の大賞及び読者賞をとった作品。確かに面白いのだけれど、それにしてはチト「雰囲気のない作品」だなぁというのが第一印象。総じて、あたしはこういう歴史物で実在の人物が登場する設定というのは大好きだったりするのです。その上、今回はメキシコ革命というあまり扱われない題材だったし。そこに乗り込んでいく日本人外交官。メキシコに移民して革命に巻き込まれた大正の日本人。なんか、これだけでも「買いっ」じゃないですか。ところが、前半は延々と歴史の講釈が続くわけです。描写ではなく、説明。これは小説として致命傷じゃないかしら。なんか、小説を読んでるのか歴史書を読んでるのか判らないのよね。ところどころに歴史上の情報が説明として入るのは当然だとは思うけど、前半は大半がそれなんだもん。つまり、話が動き出し、人物が魅力的になってくるのは、後半に入ってからなのです。で、その後半が非常に面白いんだから、もう、勿体ないじゃないですか(;_;)。うーむ。もっと最初の方から「小説」だったらすごく面白かっただろうになぁ。残念。
(97.5.16)
泡姫シルビアの華麗な推理・都築道夫(新潮文庫)
東直己氏の「ソープ探偵くるみの事件簿」を読んだ後に、続けて読んだ作品。2作に共通するのはいずれも、男性が描いたソープ嬢の安楽椅子探偵モノという点ですね。まったく同じ発想に起因しているわけで、読み比べてみるのも面白いかも、と思ったワケだ。
ただ去るが如く・香納諒一(中央公論社)
あう。なんだか登場人物が多くて相関関係がわかんなくなりそうで、なんか一生懸命読んだのでした。後半になってくるととーってもサスペンスフルで、一気呵成に読めるんだけれども、前半はチトばかし間延びしてたような気がするのよね。後半に持ち込むための布石っつーか、それぞれの人物の状況や背後をキチンと押さえておきましょう的な、予習の章が続くような感じで。ま、たしかにその前半がないと、後半の面白さもないわけなんですけど。ヤクザの間で3億もの金が動く。それを横から頂いてしまおうというコンゲーム。コンゲームにしては立ち回りが多いんだけど。
ピアニストに手を出すな・山下洋輔(新潮文庫)
ジャズは好きなのです。好きなんだけどもっぱら外国の、それもやや古いボーカルものがメインのあたしにとって(ビリー・ホリディのコンプリートCD6枚組が宝物なのさっ)、日本のジャズピアニストってのは正直、音楽の部分ではあまり馴染みがなかったのです。特にこの筆者はステージでピアノを叩き割って燃やすという、ジャズ界のパンクロッカーのようなイメージがありまして(笑)。
ユンカース・カム・ヒア・木根尚登(角川文庫)
日本のミュージックシーンをリードする小室哲哉氏と一緒に「わいる、えん、たぁっ!」と歌っていたTMNの一人である>著者。天は荷物を与えずと言うが、間違い、天は二物を与えずと言うが、与えるところにはしっかり与えてるのね。演奏するわ歌うわ書くわ。それも小説の世界に於いて決して一発屋ではないというあたりも凄いもんである>木根氏。
なんか非常にバロック。バロックって何なのか知らないんだけれども(笑)、でもなんとなくバロック。殺人罪を犯して10年間服役し、模範囚として釈放された後、病死する女性。その女性がノンフィクション作家に語った事件の秘密。導入部は非常に巧い。自然と話に引きずり込まれます。彼女の告白の部分は、勿論服役前の話なので時代が遡り、学生運動華やかなりし頃の女子大生と助教授夫妻の、妖しくも儚い恋の模様が繰り広げられるわけだ。このあたりの描写というか、文章がなんだかとってもバロックなのよね。マイナーな作品を例に出して申し訳ないんだけれども、庄司薫氏のデビュー作・福田章二名義の「喪失」とだぶってしまうような情景なのです。どこが、と言われても困るんですけど。
密室法廷・和久峻三(講談社)
弁護士である妻を銃で撃ちケガをさせたという罪で起訴されたアル中の夫。その被告の弁護士を買って出たのは、被害者である妻だった。うわーーーミステリアス。和久氏特有の淡々とすすむ裁判風景も、小説だと思わず事件ルポだと思えば難なく楽しめる(なんかヘンな表現だな)。問題となるのは二つの動機。夫は何故妻を撃ったのか、そしてその夫を何故妻は弁護するのか。そのうち、いろんな手がかりや証人が出てくるわけだけれども、この最大の謎とされている動機ってのが、うーむ、正直、ちょっと判りやすいのが残念ですね。もしかしたらこうじゃないかなー、でも、そこまではしないかなーー、と読みながら想像していたことがドンピシャリで。ちょっと興を削がれた部分と、やっぱりね、という自己満足の部分が相まった読後感。
で、この森さんの作品っていうのはいつも思うんだけれども、結局は若年層向けなのよね。やっと昨年「会津斬鉄風」などの大人向けのものが出たけどもさ。この感傷戦士なんて、完全ジュブナイル。設定は劇画だし。漫画化して少年ジャンプなんかで掲載されると面白いかもしれない。なんか雰囲気が北斗の拳みたいなんだな。ひでぶ。飛騨の山奥に連綿と息づいてきた飛虎族。運動神経はいいわ夜目がきくわ多少のケガなら1日で治るわという、サイボーグもかくやという一族で(このあたり、完全にSFだと思うぞ)、それがクーデターを企てる自衛隊の目に止まる。こっから、ひでぶっ、あべしっ、というアクションが始まるわけで、けっこう退屈せずに読めたのでした。
でも、うーん、やっぱマンガだよなぁ、これは。登場人物が非常に芝居じみてるのはこの作者の特徴なんだけれど、おいおい、一人くらいは普通の人を出せよ、ってくらいみんな一癖二癖あるのよね。登場人物全員が妙にクールでシニカルなので、完全にフィクションという臭いがぷんぷんしてる。そのせいで、なかなか没頭はできないんだけど、その代わりにRPG的な面白さがあったような気がしますですね。なんか褒めてるのかけなしてるのか判らんが、ま、そういうことです。
(97.5.1)
エンディングもちっと不満なのよね。尻切れ蜻蛉で。結局、社会的な問題の方も個人的な問題の方も何も解決してないワケで。ま、まさか続くのか?これが……(笑)もしも次作があるのなら、もう五月香に足が8本あろうが目が5つあろうが驚かねーぞ(笑)
(97.5.3)
海は涸いていた・白川道(新潮社)
願わくば、誰も犯罪になんか手を染めたくはない。でも、否応なしに巻き込まれてしまう人々。社会的弱者と呼ばれる者達が手を携え、それでも生きていこうとする時に襲いかかる運命の奔流。おお、なんかカッコイイぞ。言葉はカッコイイが、そこに居る人々は決してカッコヨクはなく、一度負けたら這いあがれないトランプゲームの大貧民もかくやという蟻地獄に入ってしまうのね。しくしく。
北村薫とか宮部みゆきとかが得意な「みんないいひと」っていうパターンがあるけど、今回は、その「みんないいひと・ハードボイルドバージョン」なのだな。やったことは犯罪だ、でも、何とか逃げて欲しい。読者にそう思わせずににはいられない、主人公とその環境。そしてそれを描いた筆力。エンディングはあまりに悲しすぎる。でも、大抵が頭の固い敵役としてしか出てこない警察権力が、こんな切なくも爽やかに描かれているというだけで、あたしは力一杯評価したいのでした。
(97.5.5)
金鯱の夢・清水義範(集英社文庫)
とにかく、好き勝手やってる。尾張弁が公用語になるし、豊田の馬の名前は加露羅だし、ペリーの黒船は知多半島に来るし、江戸時代、いや、名古屋時代なのにデザイン博までやってしまうんだから、もう。おまけに名古屋幕府が倒幕された後、首都が東京に移る一般向けエンディングと、そのまま名古屋が首都になる愛知県人向けエンディングを二つ用意されている。とにかく、笑える。名古屋人なら倍笑える。とにかく、ご一読下さい。そして、どっちのエンディングがお気に召したかで、あなたの名古屋人度が判ろうというものです。
(97.5.10)
蒼穹の昴(上下巻)・浅田次郎(講談社)
舞台は中国・清朝の時代。夢を掴むために自ら宦官になろうと、自分のオチンチンを自分で切ってしまう豪気な男の子。科挙の難関を経て政治の表舞台に立とうとする若者。そんな彼らを中心に、諸外国のジャーナリズムやら中国史に名を残す孫文・袁世凱などなどがこぞって登場。そして彼らと、あの西太后を巡るスペクタクルなドラマなのです。夢に向かう男は美しい。でも、夢に急ぐ男は悲しい。国という化け物に挑む男達。歴史という大きな観点から振り返れば意味も見つけられるものを、渦中にいては何も見えなくなる切なさ。そしてそれは男だけではなく、そんな男を何もできずに見守る事を余儀なくされた女達も、そして稀代の悪女と言われた西太后とて同じことだったのかもしれない。歴史にも中国にも興味のない人が読んでも感動できる本であります。読め。読め遠目笠のウチ。何のこっちゃ。
そうそう、主人公である春児の妹・玲玲がいいですねー。「プリズンホテル秋」に出てくる美加ちゃんのような役所で、浅田作品には欠かせないキャラとなっております。
(97.5.13)
でも、短歌自体の蘊蓄は楽しめたな。どの世界も、素人の枠を超えて参画しようとすると、純粋に詩歌文学を楽しむってワケにはいかないのが常なのかしらね。それとも……。「思想はひとつの意匠であるか」と詠ったのは、確か萩原朔太郎だったと思うけれど、結局文学も例外ではないということか。ふぅ。やだやだ。
(97.5.14)
まず、「ソープ探偵くるみの事件簿」と根本的に違うことが一つ。くるみはソープ嬢だったけども、シルビアはトルコ嬢だということ。完全に時代が違うワケですね。舞台は吉原。うーん、だったらいっその事、女郎を主役に添えるくらいの方が味のある物語になったんじゃないかしら。こちらは、「ソープ探偵くるみの事件簿」よりも一層、主役が風俗嬢である必要がないものばかりだったのですわ。もちろん、風俗という場所で被害者と接しているからこその情報もあったりするワケだけど、そういう情報なら、聞き込みででも入手できるワケだしね。「退職刑事」のトルコ嬢版そのもののお話。どうせなら、やっぱ「風俗嬢ならではの情報」ではなく「風俗嬢ならではの発想」で勝負して欲しかったのでありました。
(97.5.18)
後半になってクローズアップされる4人、橋爪・万田・充・ちづるがそれぞれ実にいい。ヤクザの娘だったちづるの設定がとっても上手なのよね。お嬢さんにありがちな思慮のなさと、愛されて育った思いやり、そして頭のよさが危ういバランスで同居してて。橋爪と万田の「男」の部分もすごくいい。男たるもの、こうあらねばっ、と握り拳を握ってしまうのであります。充。道化の役なんだろうけど、なんか憎めなくて好きになる。これだけの人物を登場させて、個々をしっかり書き込んでるあたりやっぱすごいと思うんだけれど、それ以外の人物が薄かったのが惜しいっすね。ヤクザの皆様方、あたし最後まで区別がつかなかったりしたもの(笑)。あ、それはあたしの読解力の問題か。
(97.5.20)
でも読んでみると面白いんだよねーー>エッセイ。テーマは身の回りのことと演奏旅行のコトだけなんだけども、けっこう大笑いできるのです。観察が細かい。その観察で得たモノをそのまま出すのではなく、彼特有のメタファに仕上げる。うまいなーー。ゲロのメタファなんて、そうそう読めませんよ。二日酔い常習者は必読の書かもしれん(笑)。
(97.5.21)
で、内容としては、これまた立派なファンタジーだ。ユンカースと名付けられた不思議な犬と、その飼い主の女の子の心温まる友情秘話。童話と言ってもいいかもしれない。小学校高学年から中学生あたりに読ませて感想文でも書かせたい感じの物語ですね。大人が読むと、ありきたりの設定で多少食い足りない感があるものの「いい話」としてのストックにとっておきたいような。ペローの「長靴を履いた猫」を彷彿とさせる部分がありますです。子供向けの映画にしたいようなお話ですわ。うーん、あのTMNがこんな物語を書くんだもんなぁ。ひとの顔ってのは、一つじゃないんだなぁ。
(97.5.23)
恋・小池真理子(早川書房)
その秘密自体は、正直あまりたいしたことはないのではという気がしないでもないのだけれど、この話のすごさってのは、無意識のうちにかなり主人公の女性に感情移入させられてるってことなのよね。告白文を読んでる時には一歩引いてるつもりだったんだけれど、終章を読んだ時、「ああよかった」「むくわれた」と安堵のため息をついてしまう。辛い話ではあるけれど、最後の最後になって本当に安心できる、その安心のために、長い長い伏線を読んできたようなそんな感想を持ったのでした。
(97.5.24)
というものの、判りやすいのがイケナイというワケではなく。見事に調和した、いい動機(?)だと思うのであります。最後の種明かしの部分が、ものすごく説明的だったことを除けば(ここだけはやっぱ事件ルポじゃなく、小説であってほしかった)アイディアという面においては非常な傑作といえるのではないでしょうか。ただ、このアイディアを生かすなら短編の方がすっきりしたかもしれない、と言うのは素人考えかな。
(97.5.26)
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