われ大いに笑う、ゆえにわれ笑う・土屋賢二(文藝春秋)
筆者の2冊目のエッセイ集。前に読んだ再新刊の「哲学者、かく笑えり」を読んでしまっているせいか、どうも「同工異曲」の感が強く、最初に読んだ時ほどは楽しめなかった。つまるところ、この筆者は文章が面白いわけで、はじめは特異に見えた「発想」や「切り口」の方はパターンが見えてきたということか。畢竟、分かり切っている結論をどう表現するかということが、氏のエッセイの真骨頂なのだと考えるに至ったワケで。ハマるのも早かったけど、飽きるのも早かったなあ。わはは。
都市の鑑賞法・別役実(大和書房)
デパートの屋上や、横断歩道や、お稲荷さんや、そういった当たり前に有るものを、一風変わった捉え方で切ってみる。その手のエッセイ集。赤瀬川源平とかがやりそうな感じの本だな、というのが第一印象かな。
「リング」の続編だと聞いてはいたけど、ここまでしっかり続編だとは思わなかった。いや〜、これは続編なんてもんじゃなくて、「リング」の後半部分だわ。これがあって初めて「リング」は完成するのよね。というわけで、まさかとは思うが、「リング」を読む前にコレを読むなどという真似はしないように、だ。
読ませるねぇ、このひとは。文章が巧いんだな。よく考えると、なんだかありがちな設定だったり人物関係だったりするんだけども、そういうアラを捜させる暇を与えず、一気にページをめくらせる巧さがある。これが筆力というものか。
あきらめのよい相談者・剣持鷹士(東京創元社)
福岡で働く弁護士のもとに寄せられる相談や事件。それを話を聞いただけで解決してしまう友人。非常にオーソドックスな新本格のパターンですね。オーソドックスなだけに、こういうのは謎の魅力と、その解明の鮮やかさに全てがかかってくる。
仮想現実の殺人・羽場博行(講談社ノベルズ)
バーチャルリアリティーのゲームを体験中に殺人が起こる。衆人環視の中、密室状況で、それはどうして行われたのか……。最大の難関は、そのゲームってのがどういうものなのか、絵が全く浮かばなかったこと。状況の説明が判りにくいのよ。ま、あたしの想像力の欠如だと言われればその通りなんですけど(笑)。ゲームの画面(?)がどういうものなのかは、なんとか判る。でも、プレイヤーがどういう状況になってるのかが、今一判らないのよ。これは致命的。だって、これが判らないと、どうすれば殺せるのかも判らないし、第一、これが不可能状況だってのが理解できないわけだから、謎の魅力も半減なワケだ。うーむ。ゲーマー君たちには判るのかな。あたしがゲームをやらないから判らないだけなのかしら。でも、そうだとしたら、読者を選ぶよなぁ、これ。
毎日が13日の金曜日・都筑道夫(光文社文庫)
同じ作者の「退職刑事」シリーズのホテル版といった感じ。「退職刑事」がアームチェア・ディテクティヴだったのに対し、こっちはけっこう動き回るんだけども、それでもやっぱ雰囲気が似てるのよね。同じ舞台で起こる事件のオムニバスだし。
湯布院の奇妙な下宿屋・司凍季(講談社ノベルズ)
なんなんだこれは。
藤田先生のミステリアスな一年・村瀬継弥(東京創元社)
小学校の教師と生徒の物語。教師は「魔法」を使って、生徒に人生を教える……という、ピューリタリズム溢れる物語で、なんというか、その、ちょっと痒くなってくるくらいなんだな、これが。中には5つの謎が提示されてて、それを後にオトナになった生徒が推理していくという形。いかにも新本格らしい筋立てだし、5つのトリックの中には、膝を打つようなモノも含まれてたし(非現実的なものもあったけどね)、それ自体はいいのだ。
こういうのは実にスキだ。新本格と社会派が上手に融合されてる。ああ、こういうのがスキなのよあたし。謎解きのカタルシスの少ない社会派と、物語のテーマ性が薄い新本格と、両方のエッセンスが互いを補い合ってる逸品だぜ。
とはいうものの、面白くなかったワケではもちろんなく。「いつか使ってやろう」と思わせるようなフレーズがあちこちにちりばめられているのは相変わらずで、文章の面では多分に影響を受けそうな(嫌な)予感がしたりする(笑)。「女性を徹底的に賛美する」の章と、「ロバなのか暴力団なのか」の章は、文章のみならず内容にも啓発されるものもあるし。この文章センスを殺すことなく、内容レベルの方も飽きさせないものを期待したいところですな。
ところで、考えてみると「内容は同工異曲だが、文章がいい」という点では、森雅裕氏に通じるものがあるような気がしてきたぞ(笑)
(97.9.17)
中で気に入ったのは「動物園」の項目。動物愛護協会的考えに対して、それは結局動物に対しての勝者の論理であると言い切る筆者。このあたり、膝を打つ感じだね。いわば、これまで当たり前としていながらも、ちょっとどこかにひっかかっていた違和感、小さな違和感だから無視しようと思いながらも、ずーっと片隅に持っていた違和感。この違和感に解説を与えてくれるエッセイ集なのだ。「感じ」や「雰囲気」をちゃんと言葉にできる人っていうのは、やっぱすごいもんだ。 (97.9.17)
らせん・鈴木光司(角川書店)
従って、「リング」のネタバレなしに感想を書くのは非常に困難な作品なんだけども(笑)、つまり、「リング」は終わってなかった。終わったと思ってたけど、こっちにどんでん返しがあったワケで。ホラー色はちょっと薄れたかなという感じで、その分、ちょっと瀬名秀明ちっくなバイオホラーの世界に入ります。このバイオな世界も、それからバイオな世界を知らないとワケの判らない暗号も、素人にはちょっと辛いけど、そこさえクリアすれば前作に勝るとも劣らないエンタティメント。「リング」の恐さってのは、その正体(結局正体じゃなかったんだけどさ)が「あり得る恐怖」だったんだけど、今回はそれが「既に進行している恐怖」になる。このあたり、うまい。実に巧緻。ともかく、「リング」のネタバレなしに感想書くなんて無理なんだから、とりあえず両方とも読む、だ。
(97.9.15)
狗神・坂東眞砂子(角川書店)
舞台は高知県の山村。過去を持つ女性と、その一族が背負った運命の物語。こういう話に特有の、なんかどろどろした雰囲気が、なんともしれずいい味を出してる。灰色と茶色だけで描かれた絵のような暗さ。文章は普通なのに、ちゃんと暗さを伝えてるのよ。でもって作者が女性なもんだから、その暗さに「色」が入るし、おまけに作者は童話作家出身なもんだから、「寓話」的要素を入ったりして。恋愛もあったりするんだけども、全体をつらぬくヘドロのような暗さは微塵も損なわれない。淫靡でいいわあ。なんか横溝に通じるような気がするくらいだな。でもって、横溝の作風に、島崎藤村の「破戒」のようなエッセンスが入ってるのよね。ああ、暗い。精神的な暗さじゃなくて、土着の暗さ。
クライマックスでは、ニッポンのムラってのが浮き彫りになって、非常に胸に迫るものがあります。やっぱこの国の社会の在り方ってのは、暗い掘り下げ方をした方が文学としては盛り上がるよなぁ。伝奇にして社会派の一冊。(97.9.23)
で、そういう観点から見ると、非常にうまくいってると言ってもいいんじゃないかしら。パズルゲームとしては極めて良質。物語にテーマ性は無いんだけども、クイズとしては非常に良く考えられてると思う。
中でも、「規則正しいエレベーター」と「詳しすぎる陳述書」が秀逸。この手の安楽椅子探偵モノは、どうしても「こじつけ」や「論理の飛躍」が避けられない場合があるんだけど、この2作品に関しては、これ以外に論理的説明はない、というところまでキチっと決めてくれてる。新本格パズルが好きなひとには、
です。 (97.9.23)
でも、そこさえクリアしちゃえば、なかなかに人物が個性的で面白かった。人員配置の上手な小説って感じかな。最後の方では、謎解きもスリルもしっかりしてて、なおさらゲームの臨場感の薄さが悔やまれる一冊。 (97.9.25)
元刑事が再就職した警備会社。で、ホテルの警備を担当してるうちに、いろんな事件が起きる。設定がいいね。確かにホテルっていろいろ起こりそうだもん。子供がいなくなったり、ロビーに芸能人やヤクザがいたり、あげくの果てにヌード撮影なんかもあって。そういうのが起こっても不思議じゃない場所ということで、ホテルを舞台に据えたというのは慧眼かもしれない。この手のって、意外と少ないんじゃないのかしら。その上、ホテルの場所が浅草。下町の風情と、ホテルという都会の形がうまく融合してて、一種独特の雰囲気を持つ短編集でした。事件やトリックはまぁ、ちょっと古いかな(笑)ってのもあったけど、これはもう設定だけでマルですね。これで謎解きまで上質のモノを求めてはいけない(笑)。シリーズで前作があるらしいので、捜してみよっと。 (97.9.25)
舞台は大分・湯布院。そこの下宿屋で起きる事件を、地元の探偵・一尺屋遥が解きあかすという、本格(の体裁を持った)モノ。たしかに舞台も凝ってるし、登場人物もクセがあるし、奇妙な符号や殺人予告や、とにかく本格モノの小道具が盛り沢山だし、おまけに大分はあたしの地元だしで、ワクワクの設定なのだ。それなのに。ああそれなのにそれなのに。
なんなんだ、この結末は。なんなんだ、このトリックは。なんなんだ、この設定はっ!
本格ファンがこれを読んで、「くぅっっ、そうだったのか、なるほど。やられたあ!」などと言うとでも思ってるのだろうか。アンフェアだとか、非現実的だとか、もはやそんなレベルじゃないぞ。「意外」と「んなアホな」は違うのだっっ!
(97.9.26)
だがしかし。なんなんだよこの登場人物たちは。善人ばっかりだとか素直で真面目なひとばっかりだとか、そういうのはまだいい。北村薫や加納朋子だってそういう系統だもんね。ただ、この作品に至っては、人物描写があんまりだ!先生も生徒も他の登場人物も、みーんな同じだ。同じ善人でも、ひとによってタイプが違う筈。それなのに、皆クローンじゃないかと思うような「同じひとたち」ばっかり。いかにもツクリモノ、嘘っぽさが蔓延して、これは童話なんだとでも思わなくては読み進められなかったほど。小学生が小学生らしからぬ語彙を持ってたり、それが成長してもまったく変わってなかったり、言葉遣いも全員一緒だし、口癖まで一緒だし。(文尾にやたらと「ね」をつけるんじゃないっ!うざい!)ああもう、なんだか作文みたいだったのよねぇ。小説技法ってところから勉強して頂きたいというのが正直な感想。ふぅ。
(97.9.27)
火刑都市・島田荘司(講談社文庫)
まずは火事から物語が始まる。焼け死んだ警備員の死因に疑問を持って追跡を始める刑事。このあたり、ところどころで偶然に頼ってはいるものの、だんだん絞られていく謎が非常にワクワクさせる。そして第5章以降。事件はもうひとつの展開を見せる。あまり書くとネタバレになってしまうんだけど、ミステリを離れた部分で、非常に興味深い「東京」の姿が浮かんでくるのだ。
島田荘司は、「東京」の都市論ともいうべき作品を幾つか書いているけれども、この「火刑都市」は、その代表長編と言ってもいいんじゃないかな。(短編の代表は「糸ノコとジグザグ」をおいて他になし!)主役は他の長編にもチョイ役で登場する中村刑事だけど、御手洗モノにはない、追跡推理の妙がある。佳作と言えよう。これを読んだ後は、なんだかここに描かれている東京を歩いてみたくなる大矢なのだ。 (97.9.29)
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