由布院温泉殺人事件・吉村達也(講談社文庫)
丁度自分が湯布院に旅行し、それを機に友人からこの本を頂いたという経緯がなかったら、まず自分からは買おうとしない部類の本ですね。たとえ作者が新本格にカテゴライズされる吉村氏だったとしても。で、あたしゃこの本を、別府駅から由布院駅へと向かう特急【ゆふいんの森】号に揺られながら読んだのでした。
わらの女・カトリーヌ=アルレー著 安堂信也訳(創元推理文庫)
友人一同に勧められた翻訳モノの名作。新聞の縁結び欄を見て、富豪の結婚相手にと立候補してきた女性とその富豪、そして彼の秘書が織りなすコン・ゲーム。面白い面白い。初版を見ると、なんと1964年!あたしが生まれた年ではあーりませんか。この時代にこの物語ってのは、随分斬新だったんじゃないのかなぁ。
茶色い部屋の謎・清水義範(光文社文庫)
清水義範氏の、ミステリー色強い短編を集めた一冊。専門でないだけに、トリック云々というあたりはこっちも期待してないわけだが、どうしてどうして。ナカナカに本格しているモノも、いくつかあるのだな。収録作品が多いので、中でも本格物っぽいやつをいくつか紹介。
明治29年の帝都、東亰。雰囲気がいいよなぁ。魑魅魍魎の跋扈する舞台で起こる奇妙な殺人とお家騒動。そんな異世界のようなお膳立てをしなくったって、きちんと理に落とせる時代推理にする事も可能なアイディアだと思うけど、そこは、作者の勝利。パラレルワールドのような東亰を作り上げることによって、実際の歴史と違う事を効果的に出せるばかりか、狂言回しの人形使いにどんどん読者を引き込んでいける。うーむ、うまいねぇ。
白い手の錬金術・本岡類(新潮社)
「絶対にばれない究極の詐欺」をやろうとしていたメンバーの一人が他殺死体で見つかる。殺人犯を追うと同時に、詐欺の正体を突き止めようとする刑事達。殺人はともかくとしても、詐欺の方が非常に面白い。おお、確かになぁ。騙されたと気付いた時点で詐欺が成立するなら、被害者が騙された事に気付かないままにしておけるなら、これは確かに究極の詐欺だ。おもしろいおもしろい。ただ、騙された事に気付かせない手段が、ちょっと後味が悪いねぇ。このあたりも完璧な頭脳ゲームだとよかったんだけど。
星を継ぐもの・ジェイムス=P=ホーガン著 池央耿訳(創元文庫)
SF。月探検のさなか、死体が発見される。しかしその死体は、人類発生以前、今から5万年前のものだった……。確かに設定はSFではあるけれど、物語のメインはこの謎。この謎が解かれて、物語は終わる。SFの体裁を借りてはいるが、これはもう謎解き小説、ミステリーと言ってもいいような物語ですね。
青い密室・鮎川哲也(出版芸術社)
名探偵・星影龍三全集2だそうです。いかにも【本格の鬼】らしい作品群。最初の作品【白い密室】なんて、おおっと思ってしまった。基本的に好きなのよね、こーゆーピースを填め込んで結論を導き出すって話。特にインパクトのあるものはなかったんだけど、【白い密室】【手の絶筆】はキッチリしたパズルだし、【薔薇荘殺人事件】はナカナカにトリッキー。全体にマルかも。気軽に読める短編集だけど、気軽に済ませず、しっかり読んだ方が驚きガイのある作品群といえましょう。ただ、この星影龍三って探偵の造形、どうも御手洗にダブるのよね(笑)。あ、こっちが先輩か。 (97.11.16)
感想の前に一言。この作品は昭和30年代に発表されたもので、傑作の誉れ高く、文藝春秋社より上梓されたのちに、集英社文庫でも出されたりしてます。で、平成5年にこの出版芸術社が【ミステリ名作館】シリーズの一巻として再出版した訳ですが……。文藝春秋社・集英社文庫の方で読まれるひとはいいんだけど、この出版芸術社版をこれから読まれるひとは、本文より先にカバー折り返しの宣伝文を読まないようにご忠告します。まったく、冗談じゃない。これを書いたひとは、本文を最後まで読まずに書いてるとしか思えない。あたしが手にとったのは初版だけど、二版目以降は訂正されてることを期待します。
法廷物。一件の殺人事件を巡っての公判のさなかに別の事件が。途中からの急展開が面白い。検察と弁護側との軋轢や策略をうまく読ませてくれる。盟約の砦に続く氏の第2弾だけど、前作に出てきたしのぶちゃんが登場してきたのも、なんか嬉しかったし。シリーズ主役ではなくて、脇に置いてるのがいいね。
いきなり冒頭から登場するのは二枚目人気作家の本郷慶と、その彼にミーハー的に憧れるスチュワーデス朝霧玲子だったりする。なんかもう、この設定からして典型的なキオスク・ミステリなんだけども、それに輪をかけて文体がステレオタイプというか、芝居がかり過ぎてるというか、2時間ドラマみたいというか……。「そう……シノダ・ヒロミ、24才……謎の女」こんなセリフ、日常会話で吐かないっつーの(笑)。他の作品をいくつか読んだ限りでは、こういう文体を使う作者ではないというイメージだったんだけども、やっぱアレかね。この手の旅情ミステリは擦れたミステリマニアよりも、幅広い層を対象にしなくちゃならんからかね。
人物や文体は非常に気に入らないものの、肝心の事件やトリックといったあたりは、けっこう考えられてた印象あり。とくに湯布院に旅行中の老刑事の推理がいいね。ちょっとくどいけど。新本格テイストにしようと思えば幾らでもできるものを、あえてキオスク向けにした、という感じの一品。
(97.11.1)
うまく行ったかに見える計画が、突発的な事件で新たな展開を見せる。このあたりも読ませます。もうハラハラしちゃうもの。翻訳小説アレルギーで、カタカナ名前に脳味噌が沸騰する大矢がここまで楽しめたのは、やっぱ主要な登場人物が少ないからでしょう。上記の3人だけ押さえておけばいいもんなぁ。これは楽だわ。
ストーリーとしては、やっぱ仕方がないのだけれども、古い。いや、古くてもいいモノはいいんだけどさ、国産本格推理に擦れてしまった大矢としては、きっと最後に、もう一度どんでん返しがあると思ってたのよね。その思いこみが、エンディングの興を削いでしまいましたのよ。え、これで終わり?てなもんで。みょうに手慣れてなかったら、もっと最後まで楽しめたかもしれないのにねぇ。ああ、残念。
(97.11.4)
【茶色い部屋の謎】体裁はパロディなんだけど、トリックはナカナカの本格。こういうコメディ短編ではなくて、ホントに一部の新本格作家が書きそうなネタだよなぁ。パズルとしては秀逸。
【また盗まれた手紙】どっかで聞いたようなトリックではあるが(笑)、おそらくアレを模倣してるんだろうと思われるパスティーシュが面白い一品。
【やっとかめ探偵団のバスツアー】この人のミステリには、やっぱりこのおばあちゃん達がいなくちゃだわ。細かい伏線が上手。でもやっぱ、やっとかめ探偵団は長編向きだな。
(97.11.10)
東亰異聞・小野不由美(新潮社)
常も、直も、佐吉も、菊枝も、皆いかにも類型的ではあるけれど、それだけに人とナリが想像しやすく、感情移入も容易である。犯人を突き止める途中で示されるヒントにも膝を打つ物も多いし、けっこう上手に騙してくれた。本格物としても佳作ですね。最後の章で、××が実は●●だったってのにも驚かせてもらった。ちょっと蛇足っぽいというか、別に●●にする必要はないような気もしたんだけどね。
(97.11.11)
詐欺の方は面白かったんだけども、犯人が判ってからがちょっとトーンダウン。逃げ方にも、もうちょっと頭使って欲しいよなぁ。頭脳ゲームの雰囲気がここへ来て台無しだ。エンディングもちょっと不満。ワクワクしながら読んでただけに、あたしとしては、余韻を持たされるよりも、もちっとスッキリさせてほしかったところ。まぁ、このあたりは好き好きですね。
(97.11.12)
ただ、ミステリーと違うのは、やっぱSFだということなのよね。つまり、言葉は悪いけども、「何でもあり」がある程度通用してしまうじゃない?謎解きの前提条件が限りなく広いとでも言おうか。読みながら当然あたしもタネを考えた訳ですが、例えばタイムトラベルなんていう可能性を考えると、また別の答も出せるのよね。(実は、後半で主人公がある発見をするまでは、あたしゃ絶対にタイムトラベルものだと思ってましたわ(笑)。その方が美しく決まらない?)で、結局は、さすがにタイムトラベルなんつー大技ではなかったんだけども、ミステリーとして読むには条件が甘すぎて意外性やカタルシスに欠ける。SFとして読むには謎解きに終始してる。センスオブワンダー溢れる作品だとは思うし、読んでる最中はけっこうのめり込んだんだけど、結末まで読んでしまった今となっては、どうも消化不良の一冊でした。
(97.11.15)
弁護側の証人・小泉喜美子(出版芸術社)
さて、内容。30年以上も前の作品なのに、どうしてこれが傑作と言われるのか判った。すごい。見事にシテやられた。すーーーっかり騙されました。昭和30年代にありがちの設定ではあるし、翻訳家という作者の生業を考えると、さもありなんというような文章ではあるけど、そういうのが返っていい雰囲気を出してる。後半にさしかかると、アレ?と思って、もう一度最初から読みなおしたものあたし。見事だ。ああ、あんまり言うとネタバレしてしまうんだけど、これは本格モノ好きな人にはお勧めです。トリッキーなだけでなく、女心もイイ。ヒシヒシと来ます。このまま行くと、将来には本格ミステリの古典と言われるようになる作品じゃないかしら。 (97.11.18)
夜間検証・藤村耕造(角川書店)
リーガルサスペンスではあるけれど、きっちり張られた伏線や意外な犯人像という点では、そこらの本格物に引けを取らない、なかなかの出来だと思う。ああ、確かにそういう記述があったよなー、ちくしょー、これが伏線かよぉ!と、のけぞる、あの快感があるのよね。実行するにはちょっと無理があるかな、という気もするけど、あんまり気にならなかったし。ただ、あの老人の××が何か絡んでると思ったんだけどなぁ。そこだけがちょっと心残り。
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