結婚恐怖・小林信彦(新潮社)
彼女はいるものの、なかなか結婚に踏み切れない31才の主人公。物語自体は、サイコスリラーの色彩が強いんだけど、小林信彦が書くと全然怖くないのはどうしてかねー(笑)。いや、冷静に考えると充分怖いエピソードばっかりなんだけどさあ。これまでの作風のせいか、家族や恋人との葛藤、ってのがテーマに思えてきちゃうのよね。同じストーリーを新津きよみとか乃南アサとかが書いたら、めちゃくちゃゾゾ気が来そうな気がするんだけど(笑)。小林氏が書くと、なんかコミカルだわ。
夫と離婚し、二人の子供を育てる母親。しかし次男は夫と離婚したあとに出来た子供だった。その次男が誘拐される。脅迫状には『母親と父親で身代金を持って来い』という指示が……
情事・志水辰夫(新潮社)
実母が入院したのをキッカケに会社を辞め、岡山と東京を往復する生活を始めた50才の主人公。仕事を軌道に乗せ、輝いてくる主人公の妻。父親が大好きな明るい娘。岡山で主人公が出会った女性・亜紀と、その父親と称する男。その三者三様というか五者五様の物語だ。ま、こういう人物配置ならこういう事が起きるだろう、と思われることが起きる。勿論、そこに美味しそうな(笑)謎とか、心の機微とかがあったりするワケだけども。
山伏地蔵坊の放浪・有栖川有栖(東京創元社)
どーして山伏なんだろうなぁ、てのが読後の第一印象。だってさ、言葉遣い以外は全然山伏っぽくないわけさ>地蔵坊。いや、本物の山伏なんか見たことないんだけど、それでも随分俗っぽくないか?山伏を主人公に設定する意義って、いろんな場所に行くってだけで、それ以外の山伏の個性や属性が全然出てないよなぁ……と考えつつ後書きを読んだら。わはは。謎が解けた。そいつは知らなかったぜ。でも一歩間違えれば(間違えなくても)内輪受けじゃねーのかこれ(笑)。
いきなり自分が、誰かの生まれ変わりだと知ったら……うわあ、いきなりスットンキョーでワクワクするぅ。恩田陸だってえからさあ、てっきりソレモン(笑)の話だと思ったら、キッチリ理に落としてくれてすごく嬉しい。
青猫屋・城戸光子(新潮社)
素焼きの狐を作るのが商売の青猫屋・廉太郎。彼は弟子の頓痴気と一緒に暮らしている。彼らのすむ村では、「歌ぶり」が習慣で、皆が思い思いの歌を歌う。そんな廉太郎のところに、48年前の歌ぶり試合の判定が持ち込まれた……
しかしこりゃあ、すっかり和製ホームズだね。天才肌の探偵とちょっと凡庸で人のいいワトスンってのは、もう日本でもすっかり定番になったパターンなんだけども、この御手洗&石岡ほどホームズ&ワトスンを彷彿とさせるペアはいない。個性の出し方が巧いんだな。分かりやすいくらいに個性的に、わざわざ作ってあるもの。パロディのマンガだの小説だのが出るのがよくわかる。体裁だけホームズ&ワトスンを真似ても仕方ないわけで、これはホントに謎から展開から真相から、何から何までホームズだ。亜流ということでは、勿論ない。
御手洗潔のダンス・島田荘司(講談社文庫)
シリーズ短編も2冊目になるとパターンが読めてきたぞ(笑)。つまり、見立てなのだ。いや、童謡とかの見立て殺人って意味じゃなくてね。真相は一見●●のように見える。その●●が、あまりにもスットンキョーなのでビックリするけど、真相はちゃんと理に落ちるんですよ、というパターン。フーダニッドとかハウダニッドてな言葉があるけど、このシリーズはだいたい「何を勘違いしたのか」「何を見間違えたのか」ってところがポイントなんだな。
でも、その分を差し引いても充分楽しめる。帯には『何故結婚に踏み切れないのか』みたいな惹句が書いてあるんだけど、それだけ読んだら『結婚したくない症候群』の話って感じがしない?その手の話ではないので念のため。仕事が行き詰まってる、という立派な『結婚しない理由』が主人公にはあるんだし。仕事が軌道に乗り出すと、結婚しようと思い立つワケだし。それでも『結婚したいのに、外的要因で踏み切れない理由』があるってのが、この物語の中枢。冷静に状況を想像すると、けっこう怖いぞ。特にクライマックスなんか、めちゃくちゃ怖い。
しかし、この作者って、何買いても『ノスタルジー』は忘れないのねえ。智乃の父親と話すシーンが、一番小林信彦っぽかったわ(笑)。
(98.5.23)
真冬の誘拐者・本岡類(新潮社)
なにより感心したのは、動機である。いや、誘拐事件・殺人事件の動機ではなく。もひとつ別の動機の方ね。そう言われれば同じ理由で同じ事をしようとした人が問題になった事件がアメリカであったよなあ……ってのを思い出したりして。名前の秘密も面白いぞー。細かいことだけど、こういうのってあたしの趣味にあうのだわ(^o^)。
物語自体もテンポがよくて、展開もスムーズで読者を飽きさせない。逆にぐんぐん引き込まれますね。警察の捜査の途中で浮かび上がってくる手がかりで、ひとつひとつ進んでいくってのがハッキリわかってワクワクする。次男がかなりデキのいい小学生だって事を考えると、ちょっとリアリティのない部分もあるんだけど、それでもそういう齟齬を気にさせないだけの説得力もあるし。こういう半社会派(?)みたいな物語設定は、得てして中途半端になりがちなケースも多いんだけど、そのあたり、さすが本岡氏だ。この手のを得意にしてるだけのことはある。
(98.5.24)
シミタツ節は健在で、さすがに文章が巧い。読みやすいし、描写も的確で状況がたやすく想像できる。そういうところはやっぱスゴイのよね、この人って。ただ、【叙情の王者が初めて挑んだ情痴小説】らしいんだけど、そこがなあ……。確かに、濡れ場の多さは従来のシミタツを遥かに凌いでいる。そこまで書かなくてもってくらい、描写が細かい。だけどさあ、なんか全然エロチックじゃないのよね。行為をそのまま実況中継してるだけで。その手の言葉を使えばエロチックになるってワケでもないと思うんだけどさ。妻としてる(笑)のと亜紀としてるのと、状況(?)が違う筈なんだけど、説明されないとよく分からないし。違いが分からないってことは、浮気する動機も分からないってことだ。動機が分からなければ、感情移入できないってことだ。そもそもこの主人公、飄々としてるだけで何考えてるのか全然分かんねーぞ(笑)。
情痴小説なるものの濡れ場がエロチックじゃなかったら。これはもう、叙情に戻って頂いた方がいいような気がする。だって、濡れ場をはしょっちゃえば、充分面白いストーリーなんだもん。
(98.5.26)
さて、内容。有栖川有栖氏ってば絶対に「短編の方がいい!」と確信してる大矢だったりする。いや、初期の大学生アリスものには佳作が多いんだけど、火村シリーズの長編って、ちょっとナンじゃありません?それで最近は短編の方にいいものが多いような気がするのよね。ワンアイディアで読ませるってのが上手なんだな。
【ローカル線とシンデレラ】説明がちょっと分かりにくいけど、基本的スタンスの一作。
【仮装パーティの夜】アンフェアすれすれの騙しが巧い。しかし俗っぽい山伏だ(笑)。
【崖の教祖】今一トリックが現実的じゃない気もするが、伏線の張り方が巧いね。
【毒の晩餐会】この中ではピカイチ。お勧めの作品。謎の展開のさせ方が秀逸。
【死ぬ時はひとり】これはトリック云々よりも、物語として好き。切ないっす(;_;)
【割れたガラス窓】これもビジュアルで考えないと、ちょっと分かりにくいなあ。
【天馬博士の昇天】どうしても納得できない部分があるんだけど。足跡はどうしたんだ?
(98.5.27)
不安な童話・恩田陸(NONノベル)
25年前に死んだ女性画家の遺作展で気を失う主人公。主人公のところに、画家の息子が訪れて「あなたは母の生まれ変わりだ。母を殺した犯人を教えてくれ」という。で、好むと好まざるとに関わらず、主人公は事件へと巻き込まれていく。
何が巧いってさあ、やっぱ雰囲気作りだと思うのよ。個々の人物を書き込むっていうよりも、それをとりまく環境を克明に描写することによって、人物の人となりを分からせるっていうか。文章に色がついてるみたいなのね。画家の話だからってワケじゃないけど、ずいぶんと映像的な文章に思える。
物語の展開も文句無し。画家の遺言に従って4人の知り合いのところを回るんだけど、もうこれが怪しいの怪しくないのって。ホラー・ファンタジーが持ち味の作者ってところに惑わされるんだけど、この道具建てはしっかり本格だわ。容疑者がいて、謎に迫る主人公に魔の手が伸びて。主人公をとりまく人たちがまた魅力的で。これはお勧めの作品。
(98.5.28)
謎めいた、且つ素朴な色合いが面白い一冊。村の人々も皆個性的で、なんだか懐かしい雰囲気すらある。甘いモノしかつくれないドライブインのマスターや、歌で野菜を作る夫婦や、川の浮島の船頭や……なんか、こういう人たちの生活を描くだけでも充分な物語のように思える。これぞジャパニーズ・ファンタジーってか。
ただ、残念なのは盛り上げるだけ盛り上げておいて、結末があまりに突然。え、これで終わりなの?こんなところで終わるの?まだ決着のついてない事件があるよおっ、と叫びたくなってしまう。詩もなんだか暗示的でよく分からないし。ああ、消化不良。落丁なんじゃないかと思ったくらいに消化不良だわ。ぐすん。
(98.5.30)
御手洗潔の挨拶・島田荘司(講談社文庫)
【数字錠】ああ、いいっ!謎解きもいいんだけど、物語がいいっ!泣いちゃう、あたし(;_;)。
【疾走する死者】かなり無理がある気がしないでもない。が、謎の不可解さで読ませる。
【紫電改研究保存会】スケールの小さい「赤毛連名」。でも洒落ててかなり面白い。大好き。
【ギリシャの犬】地方者には辛いなあ。乱歩『東京地図』さえ未読なら楽しめたのに(;_;)
(98.5.30)
【山高帽のイカロス】これは「空を飛ぶ」という勘違い。ちょっと分かりにくいかな。
【ある騎士の物語】アリバイもの。ああ、これに出てくる女、ひっぱたいてやりたい!(笑)
【舞踏病】これは「狐憑き」という勘違い。この中ではピカイチだな。ホント和製ホームズっぽい。
【近況報告】これはボーナストラック。ファンには嬉しいかもね。
(98.5.31)
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