ブラジル蝶の謎・有栖川有栖(講談社ノベルズ)
火村シリーズの短編集。全体を通しての印象なんだけど、どうも「あれ?それで終わり?」という肩すかしが多いのよねえ。ありていに言えば、謎は2つあって、一つは解明されるけど、もう一つは「何でもありませんでした。」で終わられてるような。おいおい、それだけかいっ!とツッコンでしまいたくなった作品がけっこうあったような……。
再読だ。何度読んでもいいものは、いい。山田詠美と言えば、愛と基地とセックスと退廃と、っつーのが売りだったよーなイメージがあったりしたわけだ。それが今回は作風が全然違う。いいっ!これはいいぞっ!高校を舞台にし、高校生を主人公に据えた青春小説なわけだが、この主役の時田秀美クンつーのが、やたらにいい!実にいいオトコなのだな。で、短編連作集なんだけども、軽い作風の中に辛いスパイスが入ってて、やたらと共感させてくれる。そうそうそうなのよね、ってな感じだ。
しかしね、ぼくは思うのだ。どんなに成績が良くて、りっぱなことを言えるような人物でも、
うわーーーー、真理だ。真理だよこれ。誰もが気付いてて、でも気付いちゃイケナイと思ってたことだよなあ(笑)。もちろん男を女と入れ替えても同じだ。女だって、どんなに能力があって立派なひとでも、ブスで男に見向きもされないってのは、なんか「負け」って感じだもんなあ(笑)。人間、スタイリッシュじゃなくちゃ。カッコヨクなくちゃ。カッコイイってのは正しい。カッコヨクあろうとする姿勢と努力と、それを確固として持ってる自分なんだ。ああ、なんて正しいの秀美クン。
放課後の音符・山田詠美(新潮文庫)
放課後のキーノート、と読ませる。今度は女子高校生が主人公の短編集。ぼくは勉強ができないがけっこう即物的だったのに対して、こりゃまた随分とリリカルだ。主人公は総じて、大人に憧れるものの大人になり切れてない少女たち。んでも、わあきゃあ騒ぐジョシコーセーではなく、そういう同級生を横目で見てるような娘なのね。で、その子の側には、もうすでに性を知っている友だちや、大人と恋愛してる友だちもいる。そんな中で、ちょっと大人のトバ口に立ってる女の子の物語だ。
推理短編六佳撰・北村薫、宮部みゆき(選)(創元推理文庫)
何年か前の創元推理短編賞の最終選考に残ったもののアンソロジー。最終選考に残るだけあって、けっこういいモノも収録されてます。今となってはよく聞く名前も混じってて嬉しいビックリだ。尚、見逃せないのは巻末の北村・宮部対談だね。なるほど、プロは見るところが違う!と勉強になる。書く人にとっては勿論いい指針だけど、読み方としても参考になるなあ。
すみっこのすみっこ・わかぎえふ(双葉社)
劇団リリパット・アーミーのわかぎえふ氏のエッセイ集。どうやらこれが処女作らしい。そのせいなのか何なのか、個人的な思い出話に終始してて、どうもノレなかったなあ。中には「そうそう、そうなのよねっ」ってのもあったんだけど、それも結局自分が似たような体験があるってだけで。年齢が近いからまだしもだな。世代が違うと、ちょっと辛いんじゃなかろか。りぼんの付録に狂喜しなかった人たちをも(そういう話題があるのよ)喜ばせ、笑わせるほどのツッコミがないのよね。
オーディション・村上龍(幻冬舎文庫)
再婚を思い立った男が、再婚相手を見つけるために友人と相談してオーディションを開く。そこで見初めた一人の女性。主人公は引きつけられるように、その女性にのめり込んでいくが……というお話。村上龍にしては異様に分かりやすいぞ(笑)。(←このあたり、どうも「限りなく透明に近いブルー」の印象を引きずってる)
青い雨傘・丸谷才一(文藝春秋)
オール読み物に連載されたエツセイを集めたもの。全般を通しての印象は、「なんか、他の本から持つてきた話ばつかりみたひ」つて感じ(笑)。実際のところ、きつちり出典を示すのが丸谷氏の矜持なんだらうとは思ふんだけど、それにしたつて、あまりに引用が多ひから、なんか他の本の紹介文を読んでるみたひな気になつた。
うわあ。巧いなあ。何が巧いって、もちろん構成だの伏線だのアイデアだの、そういうのは勿論なんだけども、やっぱこの人は文章が巧い!なんて味のある、いや、色のある文章を書く人なんだろう。特に表題作なんて、もう、絵が浮かんでくるもの。ミステリとしても一流なんだけど、推理だなんだって部分はどうでもよくなるよね、ここまでドラマがしっかりしてると。あ、もちろん、どうでもいいってのはモノの例えで、推理小説としての出来は勿論素晴らしいです。
【ブラジル蝶の謎】ねえ、天井の蝶は?ただの×××××だけだったのお?(;_;)
【妄想日記】ねえ、この日記って××じゃなかったのお?すごく考えたのにぃ(;_;)
【彼女か彼か】これって全然違うんだけど、ある一部だけで亜愛一郎の短編を思い出した。
【鍵】落ちはキレイ。ミステリとしてはどうか分からないけど、落ちだけでいいなこれは。
【人喰いの滝】これってけっこう有栖っぽいかも。絵を想像するとシュール。
【蝶々がはばたく】これは別格。これだけでこの短編集はオッケーだ(笑)。最後が泣かせる。
(98.6.4)
ぼくは勉強ができない・山田詠美(新潮文庫)
主人公秀美クンの目は鋭い。お母さんの目は鋭い。何よりあたしが共感してしまったのは秀美クンのセリフ。
その人が変な顔で女にもてなかったらずい分と虚しい気がする。女にもてないという事実の前には、
どんなごたいそうな台詞も色あせるように思うのだ。変な顔をした立派な人物に、でも、きみは
女にもてないじゃないか、と呟くのは痛快なことに違いない。【p.17】
やられた、と思ったのは。これ高校生の時に読みたかったなぁ、と思いつつあとがきをみると「おとなになってから読んで欲しい」と作者に書かれていたことだったりする。同時代性は、必要ないのだそうだ。まいった。
(98.6.5)
ある意味では、その「進んだ」友だちの方がヒロインとも言える。主人公は単なる狂言回しかな。ホントの恋をちょっと早く知ってしまった少女たちの、小さな決心や葛藤が、アンクレットやシャネルの口紅やジントニックや香水や、そういう小道具に込められる。(そう、小道具の使い方が巧いんだよなあ。)ああ、もうおばちゃんになってしまったあたしは(笑)、こんな思い忘れちゃってるよなあと、気恥ずかしくも遠い目になってしまう短編集なのでした。ああ恥ずかしい。
(98.6.6)
短編の方は多種多様なんだけども、「何もあえてミステリにしなくても」というのもあったかと思えば、バリバリの本格推理パズルもありで、非常にバラエティに富んでる。確かにこの中から一編を選ぶのは難しいわ。尚、北村・宮部の視点に非常に教えられるところが多かったため、個々の感想がご両人の意見にかなり迎合してます(笑)。そこはお許し下さい。
【萬相談百善和尚】遠田綾 面白い筋立て。後日談じゃなくリアルタイムで展開させたらいいかも。
【崖の記憶】釣巻礼公 ああ、巧い。あたしはこれがベストかも。弘美は××でもよかったのにな。
【試しの遺言】永田正夢 暗号もさることながら、暗号だけに終わらない物語がステキ。
【瑠璃光寺】永井するみ 決して本格推理ではないけど、小説としては、これが一番巧者かも。
【憧れの少年探偵団】那伽井聖 これってけっこうベタ(笑)。昔の仁木悦子みたい。
【象の手紙】植松二郎 ミステリにせず、普通の小説にした方がいい設定。青柳君が面白い。
(98.6.8)
特にメインとなってるのは大阪人気質の話題なんだけど、けっこう人口に膾炙してることばっかりなので今更の感が強い。視点っつーか、感性は鋭い人だと思うんだけどなあ、どーしてここまで「フツーの話題」ばかりになっちゃったのかなあ。それに終章は旅行記とでもいうか、海外へ行った時の話なんだけど、これも何だか観察日記みたい。別に読者は上海やアフリカやらに興味があって読むワケじゃないから、文章でそそってくれないと読む気なくすんだけどさあ。情報よりも臨場感だと思うのよね、この場合。
要は、巻き込み力の薄さがめだったってことか。文章が非常に簡潔で分かりやすいだけに、残念。もっとマニアックなまでにツッコンでよかったんじゃないのかな。本来はもっと面白いネタをたくさん持っている人なのに、処女エッセイ集ってことで無難にまとめちゃった感じ。
(98.6.9)
こういう類の女を書かせたら、たとえば新津きよみ氏や乃南アサ氏なんかは最高に巧いワケだけど、同性だからかやたらとリアルで怖い。同性として分かるだけに、同族嫌悪的ないや〜な気持ちの混じった恐さなのよね。ところが村上龍氏描く山崎麻美の恐さはちょっと違う。得体のしれない恐さ。新津きよみ氏や乃南アサ氏なら自分のことのように分かる女性の狂気が、この本では見えてこない。だから、怖い。なんかこの世の者じゃないみたいな描き方をしてる。
言い換えれば、ちょっと唐突すぎるんじゃないの?ってことにもなるんだけど(笑)。なんかもうちょっと仕込みっつーか、伏線つーか、そういうのが欲しかったなあ。だってイキナリなんですもの。前半は、主人公のあまりのバカさ加減に笑ったりもしてたんだけど、後半のいきなりの展開には思わず手に汗握りました(笑)。オトナの恋愛小説のつもりで読んでたら、いきなりスプラッタになるんだもの。なんか、書き急いだような感じがあるなあ。もう100枚くらい、間が欲しかったなあ。
(98.6.12)
かういふ話を聞ひた、かういふことを知つた、詳細はこの本に載つてて……といふノリなのよね。だもんだから、そのトピツクスが自分の興味の範疇なら非常に面白く読めるし、興味のない話題だと、ぜんぜん読む気にならないのであつた。この人はやつぱ文学論・言語学論が一番面白ひ。そつちを読みたひな。
中で一番面白かつたのは、牛乳の話。牛乳を飲むと下痢をするひとは多ひけど、子供の頃は給食にも出てたくらひで、大丈夫だつた筈。これはオトナになると牛乳の中のラクトーゼといふ成分を分解するラクターゼ(ややこしいぞ)がなくなる人が多ひからなんださうで、日本では実に成人男性の95%が、このラクターゼを持ってゐないんださうな!子供の頃牛乳が大好きだつたのに、最近ぢやあ下剤代はりになつてる理由がやつとわかつたぞ!これを知つだけでも、この本を読んだ甲斐があつたといふものだ(笑)。ちなみにこの仮名遣ひは、丸谷氏の本に敬意を表してゐるのです。勢ひで書いてゐるので、間違ひを見つけてもツツコんぢやいやよ(笑)。
(98.6.13)
顔のない肖像画・連城三紀彦(実業之日本社)
【けがされた目】 けがすって字が辞書にないので失礼。動機の転換が鮮やか。
【美しい針】 これって我孫子武丸氏の小説たけまる増刊号にそっくりな話があったぞ。
【路上の闇】 これは心理サスペンスかな。ドキドキの様と、どんでん返しが面白い。
【僕をみつけて】 子供の心理に今一つリアリティがない気はするけど、設定が秀逸。
【夜のもうひとつの顔】 巧いねえ。ああ、そう言われれば確かにそうだっ!という騙される快感。
【孤独な関係】 これ……なんか、ありそでなさそで(笑)。ダンナの動機は判らんでもない(笑)
【顔のない肖像画】 真骨頂だね。してやられた!というカタルシスと、ドラマ性が見事に融合。
(98.6.14)
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