死国・坂東眞砂子(角川文庫)
東京での生活に疲れて、故郷の高知に戻ってきた主人公・比奈子。そこで、幼なじみだった女の子が18年前に死んでいたことを知る。そして比奈子は初恋の人と再会するが……。
何年ぶりかに再読したが、やっぱ面白い。小錦クラスの巨躯を誇る女性・アザミと、男にもてる事だけが生き甲斐のエリカ。このコンビが探偵役となってレストランで起こった殺人事件&人間消失に挑む。
キオミ・内田春菊(角川文庫)
芥川賞候補作となった表題作を含む短編集。この人の巧さというのは(マンガもそうだけど)、要はリアリティなのだ。勿論、世間の女性の大部分がこの登場人物と同じ立場というわけではない。しかし「もしも同じ立場になったら」と考えた時に、登場人物たちの行動は圧倒的なリアリティを持って立ち上がる。もう、ここに出てくる女達、力一杯支持しちゃうもんねあたし、てなもんだ。ただ、女性の目から見たリアリティであって、「困った男たち」という描き方をしてる分、男性読者はどういう感想を持つか聞いてみたいね。
水中眼鏡の女・逢坂剛(文春文庫)
ゴーグルの女、と読ませる。なんか安っぽい二時間ドラマのタイトルみたいだけども、内容はさすがに逢坂だ。いずれも精神病及び精神科医を扱ったミステリ・サスペンス。いや、というよりも寧ろ心理サスペンスと言った方がいいかも。
滑稽糞尿諢〜ウィタ・フンニョアリス・安岡章太郎(編)(文春文庫)
ビロウな話のオンパレードである。が、しかし、ゲテモノのアンソロジーというには執筆者がすごすぎる。例えばこれが筒井康隆だったりしたら驚かないのである。ところが、こんな人がこんな話を!?……という、それだけで感動できるのだ。最大の魅力は、その作家の偉大さと各編のタイトルのギャップに尽きる!まぁ内容はタイトルほどビロウでもないし、けっこう気の利いたエッセイなんかも多く、つまらなくはないって程度だけど、目次だけは一見の価値ありである。めずらしいな、そういうのも(笑)。ともあれ、ちょっと多いけど目次だけここに書いておきましょう。
皇帝のかぎ煙草入れ・ディクスン=カー(創元推理文庫)
カー初体験。登場人物が限られてるとは言え、人によってファーストネームで呼んだり苗字で呼んだりして、ワケ判らなくなりながら読了。このあたりがイッパイイッパイだな、あたしは(笑)。
密室・姉小路祐 他(角川文庫)
密室をテーマに編まれたアンソロジー。いわゆる新本格とかニュー・ウェーブとかって言われてる人たちの作品が揃ってて、お好きな方にはたまらない一冊ですな。
もとちゃんの痛い話・新井素子(角川文庫)
普通ならこの手の本は雑誌とかマンガとかと同じ感覚なので、この書評欄に入れないんだけども、今回は特別である。
下町探偵局PART2・半村良(潮文庫)
半村良初体験である。バリバリSFの人だという印象を持ってたんだけども、こういうのも書くんだなぁ。タイトルは探偵モノっぽいけど(実際に探偵事務所が舞台なんだけども)内容は推理小説とはチト違う。一応、謎めいたことはあるんだけどね。謎への論理的解決ってのが主眼じゃないから、推理小説というには当たらない分野なのよね。
高円寺純情商店街・哀惜篇・ねじめ正一(新潮社)
「高円寺純情商店街」「高円寺純情商店街 本日開店」に続く第3弾である。だからパート1を読まずにいきなり続編から読むのはやめなさいってば>あたし。今回はまぁパート2を先に読んでたから、まだマシだったけどさ。
うーん、一言で言ってしまえば、幽霊諢なんだけどもね。ホラーとしての部分には正直言ってあまり魅力を感じなかったんだよなあ。怖くないし。映画になったそうだけど、確かに映像にするとけっこう怖く作れるかもしれないという気はするが、文章で読む限りは「幽霊」の部分は怖くなかった。
じゃあ、全く怖くなかったのかというと……怖い部分もあったのだ。早くに死んでしまった幼なじみの莎代里の心理状態が怖かったんだよなあ。幽霊自体よりも、生きてた頃の莎代里の方が怖かった。具体的に言うなら、比奈子は莎代里を親友だと思っていたけど、莎代里はどうだったかという点。話の核となってる幽霊諢よりも、このあたりの方がずっとホラーだぞ。
尚、角川文庫の初版で読んだんだけども、誤植の多さに辟易した。サインペンがサインペインになってたりサイペンになってたり、古事記が古記事になってたり。気分が盛り上がる部分にそういうのがあったりすると、一気に萎えるのよね。第2版以降はなおってることを祈る。
(99.2.1)
グルメを料理する十の方法・栗本薫(光文社文庫)
ミステリーとして読むと、動機が最後の最後まで出てこないからフーダニッドとしては弱い部分もあるんだけど、なによりキャラがいいっ!この探偵コンビは最高だぜ。伊集院や薫クンよりも、あたしは好きなんだよなぁこの二人が。シリーズものにならないかなぁ。今の不景気の世の中じゃ成り立たないか、こんな設定(笑)。でも、特にエリカがいいのだ。思いきり男好きで、思いきりバカ。でもこいつ、絶対に憎めない。だいたいこの手の女を一人称に持ってくるってのが凄いじゃないか。よく、才色兼備でひたむきな女性が探偵役になってる小説があるけど、男の願望がビシバシ入った作りものの女性キャラよりも、このエリカの方がずっとリアルで好感を持てる。
舞台はバブル華やかなりし頃の東京。ああ、そうだったよなぁこの頃は、と懐かしくさえある。一夜の食事にすら贅を尽くして踊り狂うようなあの頃を、いかにも栗本的な表現で描写してくれてる。栗本氏の読者にとっては、お馴染みの手法。一期は夢よ、ただ狂へ……伊集院も薫も口にしたよな、この台詞(笑)。キャラの台詞じゃなくて作者の台詞になっちゃってるのが判りすぎるほど判るんだけど、それでも栗本読者にとっては、安心できる語り口なのだ。
そして何より……お腹が空くんだよこれ読むとっっ!それだけ描写力があるってこった。小食で偏食の権化みたいな人が、どうしてこんな美味しそうな話が書けるかねえ。まったくすごいや。
(99.2.3)
因みにあたしが気に入ったのは、【あたしの欲しいもの】、【勃たなかった男】、【シタダシレッテル】、【キオミ】の4編。特に【シタダシレッテル】は「いるよな、こーゆーオコチャマの男」って感じで笑いながらも悲しく読めてマル。
(99.2.4)
【水中眼鏡の女】 ある日、急に目が開かなくなりゴーグル無しでは生活できなくなった未亡人。精神科医が治療にあたるが……。百舌の叫ぶ夜を彷彿とさせる作品。どの部分が百舌を思わせるかというと……まぁ、読んでみれば判る(笑)。
【ペンテジレアの叫び】 寝たきりの奥さんの話し相手にと、大学教授に雇われた女性。奥さんの様子を見るうちに、だんだん……という話だけども、どんでん返しが小気味いい。
【悪魔の耳】 うわあ、これも騙された(笑)。しかし、これは騙されるよなあ。うーん。何かちょっとでも書くとネタバレになりそうで書けない(笑)。とにかく凝ってるので読んでみておくれ。
(99.2.4)
【追いかけるUNKO】吉行淳之介、【神聖な糞虫】北杜夫、【小便がつまる】入江相政(元侍従長)、【厠のいろいろ】谷崎潤一郎、【糞尿薬の話】渡辺一夫、【好色】芥川龍之介、【寝小便に泣く男】遠藤周作、【わが糞尿諢】安岡章太郎、【黒い煎餅】阿川弘之、【おべんじょ】田辺聖子、【酒・飯・雪隠】平野雅章、【モースの便所】畑正憲、【トイレット天国】李家正文、【バリューム騒ぎ】白井浩司、【食事と排泄】星新一、【ゾウの大グソ】中村浩、【糞尿の話】金子光晴、【中国水火諢】駒田信二、【「放屁抄」蛇足】安岡章太郎、【スウィフト考】山田稔、【粉屋の話】チョーサー、【尻を拭く妙法を考え出したガルガンチュワの優れた頭の働きをグラングゥジェが認めたこと】ラブレー、【オイレンシュピーゲルがマイン河のほとりのフランクフルトで、ユダヤ人をたぶらかして千グルテンだまし取った物語。つまり、自分のうんこを「予言者の実」といつわって、彼らに売りつけた次第】ヘルマン・ボーテ、【路易十一世飄逸記】バルザック、【放屁論】風来山人
……ふう。
(99.2.4)
殺人現場を目撃した女性が主人公。だが、その時には別れた亭主が一緒にいたために、不貞の疑いをかけられるのが怖くてアリバイの証言ができない。その結果、彼女は容疑者として逮捕されそうになり……という話。カーと言えば密室という情報がインプットされていたため、ちょっと意外だったけども、細かい部分に伏線があったりして、本格の醍醐味が味わえた。
ただ……。あたし、ずーっと「皇帝のかぎ煙草入れ」というのは、「洞窟を探検して皇帝の遺品であるかぎ煙草入れを見つける、暗号ものの歴史ミステリ」だと思いこんでいたのだ。全然違うやんか。いったいどうして、こんな誤った思いこみをしてたんだろう。そっちの方がミステリだ。
(99.2.7)
【消えた背番号11】姉小路祐 うわー、推理クイズみたいな展開(笑)。ここまで説明的な文体にせずに、もうちょっと「物語を綴って」欲しいところ。
【開かずの間の怪】有栖川有栖 筆力によるものなんだけども、けっこうありきたりのオチなのにしっかり怖かったりする(^^;)。夜中に読んだのは大失敗。ドアの方、見られなくなっちゃった。
【うば捨て伝説】岩崎正吾 トリックはさておき(総じて結構無理なトリック多くないか?>このアンソロジー)伝説とリンクさせるあたりは巧い。個人的には本編より伝説の方が面白いくらい。
【傾いた密室】折原一 あう、この人のこの手のヤツはどうも……。折原氏の描くセクシュアルな描写ってのは、どうしてこう「ヒヒおやじ」的になるんだろう。わざとなのかな。
【密室のユリ】二階堂黎人 推理小説としては、最も楽しめた一編。論理に破綻がなく、細かい伏線も流石。ただ、二階堂蘭子だけは、どうもダメなのよねぇ。なんせあたしの実母が「蘭子」なもんで(笑)。
【ロス・マクドナルドは黄色い部屋の夢を見るか?】法月綸太郎 内容はどうでもいいの。ノリリンがミステリを書いてるってだけで、あたしはもう……(笑)
【靴の中の死体】山口雅也 キッド・ピストルズもの。とりあえずはまず、ピンクを逮捕した方がいいのでは(笑)。
【声たち】若竹七海 密接という点では、一番凝ってたんじゃないかな。でも、警察でテープを分析すれば簡単にばれちゃうと思うんだけど。
(99.2.8)
この本は、新井氏がアテロームという皮膚病を患い、通院、入院、手術などを体験した様子を面白オカシク(いや、ご本人はタイヘンだったろうけど)描いたもの。左の乳房に違和感を覚え、痛みを覚え、気付くと腫れていて、ある日突然破裂して膿みが出てくる。通院、治療、再発、通院、治療、再発、そして入院、手術、予後。たいへんだあ。アテロームってけっこう面倒で、放っとくとたいへんな病気なんだなぁ。たいへんだけど、けけけ、でも面白え。わっはっは。などと不謹慎な態度で読んでいたのだが……。途中で、ページをめくる手が、止まった。
なんとなれば。アテロームというその皮膚病が、日本語では粉瘤(ふんりゅう)という、という記述があったからである。粉瘤……あたしが何度も患って、切開までしたオデキだよそりゃっ!同じ病気持ちなのに、気付かずに笑って読んでたよあたしゃ。ひい〜〜〜。
というわけで、この本、粉瘤(アテローム)持ちにとっては非常に参考になる本である(笑)。
なまもの読者の中に何人居るか判らないけど、粉瘤持ちの人限定で
マークを進呈だ。(ヘンな限定だなそれも。)
(99.2.8)
では何かというと、これはもう「古き良き下町」を描きたかったんだろうなぁということに尽きる。今となっては死語になりつつある「ご近所さん」とか「おせっかい」とか「人情」なんかがどーんと幅を利かせる物語なわけだ。探偵局の一人一人に物語があったりして、何ということはないんだけども、「こういう人間関係も悪くないよなあ」と思わせるような。ただ、パート1を読んでないので、人間関係が最初掴めなかった。これから読む人はパート1から読んだ方がいいかもね。なかなか入手しづらい本のような気もするけど>潮文庫。新潮文庫のタイプミスじゃないのよこれ。
ただミステリ読みとしては、「梔子の君」には絶対裏があるんだと思ってたんだけど(笑)。うーむ、ひねた読み方がクセになったしまったか。いかんいかん。
(99.2.9)
舞台は昭和30年代なんだけども、あたしは自分の故郷がウルトラのつく田舎だったために都会よりも10年遅れた生活をしていた。したがって、東京の昭和30年代ってのは、あたしの昭和40年代ってのとかなりのセンでダブるのである。ああ、でもなぁ、この物語ではすでに水道が通ってるもんなあ。やっぱウチは田舎だあ……てなことはどうでもいいのだ。
今回は、父親の俳句仲間である棚橋さんという人を中心に物語が進む。父親の大事な友達だけど、でも、家に連れて来られると迷惑。そんな人。うーん、当時は町内にそういう人って一人は居たような気がするなぁ。でもって町内みんなで面倒みてたような。そういうのも今はなくなっちゃったもんね。ちょっと切ないようなノスタルジーだな。
個人的には女店員の瑞穂ちゃんに感情移入してしまう。中学かそこらで、実家の商売を手伝ってた当時のあたしは、ドキリとするくらい瑞穂ちゃんそのものだった。客観的に見せられて、心臓が凍り付く思いがした。あたしのことじゃないのは分かり切ってるのに、それでも何だか、実家に電話して両親に「ごめんなさいっ!」と言いたくなったぜ(笑)。言われた方も困るだろうけど。
(99.2.9)
書評リストに戻る