じゃじゃ本ならし


黒後家蜘蛛の会(全5巻)・アイザック・アシモフ(池央耿 訳)(創元推理文庫)

 ああ、古き良きミステリ!ミステリの基本!
 いやぁ、こういう話だとは思わなかった。タイトルからてっきり、妖艶な未亡人の魔の手が複数の男性を破滅させるサスペンスだとばかり思ってたぜ(笑)。月に1度集まる仲間たち。そこで提示される謎。交わされる議論。そしていつも謎を解くのは、控えめで物静かなウェイター……これって、それこそ数え切れないほどの作品の《下敷き》になった、そもそもの作品なんじゃないか。うわあ。今更ながらに感動。どうして読んでなかったのかなー。やっぱタイトルのせいか?
 実際のネタ自体は、さすがにシンプル。決して古いワケではないけど、これをベースにして更にこねくり回した作品を多々読んでるだけに、トリックに驚くというよりも、基本に帰らされるような作品群だ。それにもう一つ、何がいいって、作者の前書きと、一編一編の後につけられた後書きである。なんかひとつひとつ言い訳してないか?(笑)
 てなところで各巻ごとに。

 黒後家蜘蛛の会 1

 12の短編が収録されている。総じて、かなり基本的な「騙しのテクニック」が使われている感じ。非常にシンプルな謎解きで、手慣れた読者なら見当がつきそうな感じのものもあるけれど、そのせいか「古い」というよりも「基本」という印象が強い。中でもお勧めは【日曜の朝早く】【明白な要素】【指し示す指】【死角】といったあたり。 (99.3.10)

 黒後家蜘蛛の会 2

 12編を収録。アシモフおじさん快調である。あいかわらず基本的な謎解きで、安心してサクサクと読める。お勧めは【追われてもいないのに】【鉄の宝玉】【三つの数字】【時候の挨拶】
 後に書いた理由によって、3巻以降はちょっと失速する感のある「黒後家蜘蛛の会」なので、この1〜2巻を押さえておけばいいのではないかな、という気もするのだが。 (99.3.25)

 黒後家蜘蛛の会 3

 12編を収録。ちょっと辛い。というのも、アメリカ文化や風俗、生活、英語の知識などがないと判らないネタが大多数だから。その手のネタが3巻になって俄然増えてきた。根本的に知らない情報がネタに使われると、謎を解かれても「ふーん」で終わって、膝を打つ感覚がないのがキツいよねえ。しかし、そんな中でもお勧めはある。まさに英語が分からないと辛いものの最右翼ではあるんだけど、【その翌日】【家庭人】はけっこうよくできた、かなり好きな作品だ (99.3.25)

 黒後家蜘蛛の会 4

 12編を収録。3巻に引き続いて、アメリカ文化や風俗、生活、英語の知識などがないと判らないネタが多い。作者本人も「翻訳者泣かせ」って言ってるもんな(笑)。なんかちょっとネタに困って好きな雑学分野に逃げ込んでるふうにも見えるぞ(^^;)。翻訳ものが苦手な人ってのは、まさにそういう「背景が判らない」ってのがネックになってるわけで、そういう読者に勧めるのは2巻までにしといた方が無難かも。そんな中でも【証明できますか?】【帰ってみれば】は面白い。それはそうと【赤毛】はちょっと無理がないか?(笑)(99.3.26)

 黒後家蜘蛛の会 5

 12編を収録。ごめんなさい、正直に言います。5巻まで読んでようやく登場人物の区別がつくようになりました(笑)。4巻まではヘンリーしか判ってなくて、あとはレギュラーもゲストもゴチャゴチャだったのよね。ま、それでも全然問題はなかったんだけどさ(笑)。だって、トーマスがトムになるくらいならいいけど、イマニュエルがマニーになったりジェイムスがジムになったりしたら、一体何人いるんだか判らなくなるっつーの。わはは。
 それにしても、1〜5巻までを通して読むと、ネタとしてはちょっと竜頭蛇尾かな。おいおい、とツッコミたくなるネタもあるし。それでも【封筒】【ひったくり】なんかは、なかなか。ちなみに「おいおい」は【待てど暮らせど】【秘伝】(笑)。  (99.3.26)   

世界短編傑作集(全5巻)・江戸川乱歩(編)(創元推理文庫)

 これだけは押さえておかないと、という基本どころが収録されてるとばかり思って、それで読みたかったのだけれど。実際は「ポオ、ドイル、チェスタトン等、本文この中にそれぞれ独立した短編集としてすれにはいっている、あるいは、はいる予定である作家は省き、むしろそうした一冊の短編集として出される可能性の少ない作家の、すぐれた作品を優先的に収めることにした」と来たもんだ。あたしはむしろ、ホームズ、デュパン、ポアロ、ブラウン神父などなど、超有名どころの代表短編を期待してたんだけどな。

 世界短編傑作集 1

 1860年代から今世紀初頭までの作品。米英の作品が多いんだけど、そのあたりの歴史に疎いもので、雰囲気がサッパリつかめない。歴史を知らないということは、その時代にどのようなトリックが可能だったか判らないってことだもんなぁ。
 収録作は、【人を呪わば】コリンズ、【安全マッチ】チェホフ、【レントン館盗難事件】モリスン、【医師とその妻と時計】グリーン、【ダブリン事件】オルツィ、【十三号独房の問題】フットレル、【放心家組合】バー、の7作。
 【レントン館盗難事件】に使われたトリックは、推理クイズなどでもお目にかかる非常に有名なトリックで、底本はこれだったのかと膝を打った。ストーリーが面白かったのは【十三号独房の問題】。現代なら無理だけどね(笑)。 (99.3.28)

 世界短編傑作集 2

 どうも読みづらい。文化風俗が判らないために、今一つ理解度が薄いというのも勿論あるんだけど、この翻訳文体のせいでもあるような気がする。どうもこの時代の翻訳ってのは、直訳にすぎるように思えるんだけどなぁ。人物の個性が全然見えてこないぞ。
 収録作は【赤い絹の肩かけ】ルブラン、【奇妙な跡】グロルラー、【ズームドルフ事件】ポースト、【オスカー・ブロズキー事件】フリーマン、【ギルバート・マルレ卿の絵】ホワイトチャーチ、【好打】ベントリー、【ブルックベンド荘の悲劇】ブラマ、【急行列車内の謎】クロフツ、【窓のふくろう】コールの9作。
 【赤い絹の肩かけ】には、アヌセーヌ・ルパンとガニマール警部が登場、また【ブルックベンド荘の悲劇】には盲人探偵カラドスが登場する。 (99.3.30)

 世界短編傑作集 3

 引き続き読みづらい(笑)。やっぱ翻訳ものはあたしには向いてないんじゃないかと思われて仕方ないぞ。とりあえずノックスやクリスティといった、あたしでも名前を知ってる作家が出てることが救いだな。すでに感想になってないぞ。わはは。
 笑ってごまかしつつ、収録作は【キプロスの峰】ウィン、【堕天使の冒険】ワイルド、【茶の葉】ジェプスン&ユーステス、【偶然の審判】バー苦リー、【密室の行者】ノックス、【イギリス製濾過機】ロバーツ、【ボーダー・ライン事件】アリンガム、【二瓶のソース】ダンセイニ、【夜鴬荘】クリスティ、【完全犯罪】レドマン、の10作。
 あの超有名なトリックは【茶の葉】が底本だったのか!と思わずニヤリ。【イギリス製濾過機】は現代の新本格みたいな作りの作品。【夜鴬荘】はどっちかってーとサイコホラーだな。ストーリーが意外で面白かったのは【完全犯罪】。 (99.4.2)

 世界短編傑作集 4

 だんだん状況が判るようになってきたぞ(笑)。これはあたしが翻訳ものに慣れたからか、あるいは小説の時代が馬車でなく車を日常的に使うようになったからかの、どっちかだな(^^;)。しかし、1巻のチェホフも驚いたけど、この巻にはヘミングウェイが入ってる。これって、乱歩や夢野や小栗なんかのアンソロジーに芥川や菊池の作品が収録されてるようなもんだよなぁ。
 収録作は【殺人者】ヘミングウェイ、【三死人】フィルポッツ、【スペードという男】はメット、【キ印ぞろいのお茶の会の冒険】クィーン、【信・望・愛】コッブ、【オッターモール氏の手】バーク、【いかさま賭博】チャーテリス、【疑惑】セイヤーズ、【銀の仮面】ウォルポールの9作。
 【オッターモール氏の手】は何やらO'ヘンリーぽい味わいがある。【疑惑】【銀の仮面】は、ともにものすごく似た設定の日本のホラーを最近読んだ。それだけベーシックなものということか。 (99.4.6)

 世界短編傑作集 5

 はぁ、やっと終わりだ。って、喜んでどうする(笑)。しかしまぁ、ここへ来てやっと面白くなってきたぞ。舞台が、あたしの理解しうる戦後社会になってくれたせいだ。ああ、やっと社会機構や文化の想像がつくってもんだ。
 収録作は【黄色いなめくじ】ベイリー、【見知らぬ部屋の犯罪】カー、【クリスマスに帰る】コリア、【爪】アイリッシュ、【ある殺人者の肖像】Q・パトリック、【十五人の殺人者たち】ヘクト、【危険な連中】ブラウン、【証拠のかわりに】スタウト、【悪夢】クックの9作に加え、クィーンのエッセイ【黄金の二十】
 【黄色いなめくじ】にはレジイ・フォーチュンが、【証拠のかわりに】にはネロ・ウルフが登場。カーター・ディクスンって誰のことかと思ったらJ・ディクスン・カーのことなのね。 (99.4.8)   

とり残されて・宮部みゆき(文春文庫)

 超常現象(に見えてそうじゃないのもあるけど)を扱った短編集。これの四六判が上梓されたのは、氏の代表作の一つである「火車」が刊行されてわずか二カ月後だった。社会派の粋を集めたような「火車」と同時に、このような短編集が出るという、そこが宮部の魅力だ。玉石混淆ではあるけれど、総じてレベルが高いし、実に印象の深い《いい作品》も含まれている。
【とり残されて】こういう陰惨な終わり方が爽やかに見えるのは何故だ?
【おたすけぶち】ちょっとありがちの物語かも(^^;)。
【私の死んだ後に】好きな作品。展開としてはベタだけど、シンプルな感動がある。
【居合わせた男】論理的解決がついた、と落ちついたところへの一撃。
【囁く】ショートショートのような、オチの効いた話。
【いつも二人で】井上夢人の「ダレカガナカナニイル……」を想い出させるが、乗りは軽快。
【たった一人】これは、いい。お勧め。凝ったプロットは勿論、読後感が切なくも清々しい。 (99.4.12)   

あくむ・井上夢人(集英社文庫)

 岡嶋二人から一人になった途端に、「不思議な話」をメインに作品を出している井上氏である。うーん、あたしとしては岡嶋時代の誘拐ものみたいな、練りに練った推理小説を期待してるんだけどなあ。しかし、もちろんこの手の話も井上氏の得意とするところで、気の利いたストーリーと後に残るラストシーンは一級品だ。そして何より、単なる駒になってしまいがちな短編の登場人物が、短い中にキチンと描写されてる。見た目や性格なんかがちゃんと伝わってきて、頭の中で映像化される。井上氏の表現力のなせるワザだ。
【ホワイトノイズ】 傍観者のつもりでいたのに、こういう展開になるとは……。
【ブラックライト】 見ようによってはアンフェアなんだけど、どんでん返しは一番かな。
【ブルーブラッド】 ものすごく「後をひく」エンディング。細かく説明しないのがいい。
【ゴールデンケイジ】 いやぁぁぁっっ!読後感最悪(;_;)。優介に感情移入してたのにぃ(;_;) 
【インビジブルドリーム】 冗談みたいなこじつけに笑ってたけど、ラストシーンは秀逸。 (99.4.13)   

退職刑事4・都筑道夫(徳間文庫)

 どうして今更「退職刑事」で、それもいきなり4巻なのかってえと(日記にも書いたけど)、4巻の存在を知らなかったからなんだな。3巻の後で「退職刑事健在なり」ってのが出て、その後で5巻を発見したもんだから「健在なり」が4巻に当たるだろうと長年思いこんでしまってたワケで(笑)。こないだ古本屋で4巻を見た時には、「あれ?」と思ってしまった。奥付を見たら1992年の3月発行だから、丸7年、あたしは4巻の存在に気付かなかったってことだ。
 だいたい、5巻を買った時点で気付きそうなもんだと思うんだけど、5巻カバーの折り返しの既刊紹介には、「退職刑事1〜5」としか記載されてないのよね。もちろん「健在なり」も載ってるんだけど、あたしとしては《4巻=健在なり》だと思いこんでるもんだから、「退職刑事1〜5」ってのは、「1・2・3・5巻」の意だと勝手に納得してたってわけだな。うーん、思いこみってのはコワイぞ。
 と、感想とは何の関係もないことを書いてるが(笑)、収録作は【落葉の墓】【凧たこあがれ】【プールの底】【五七五ばやり】【闇汁会】【遅れた犯行】【あくまで白】【Xの喜劇】の8作。アームチェアディテクディヴの代表格みたいに言われてるけど、どうも《膝を打つ》とか《カタルシス》とかが無いんだよなぁ。アンフェアってワケじゃないんだけど、老刑事の想像に負う部分が多すぎて、「論理で一部の隙もなく解きあかす」ってんじゃぁないせいかも。【Xの喜劇】なんか、普通はそういう状況になったら「何も言いたいことはない」という意味にとるのが自然だと思うんだけど、どだ?(笑) (99.4.14)   


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