じゃじゃ本ならし


邪馬台国の秘密・高木彬光(角川文庫)

 納得した。
 ……って、それだけで終わるのもあんまりか(笑)。しかしこの《納得》は、
「邪馬台国はどこですか」の《納得》とはレベルが違うのである。たしかに「邪馬台国はどこですか」でも納得しちゃったんだけど(^^;)、これを読むと、「邪馬台国はどこですか」の学術的評価が低かったのもむべなるかな、って気になるのよね。まぁ娯楽小説なんだから学術的評価なんかに意味はないんだけどさ。
 しかし言い換えれば、邪馬台国についてこれだけリサーチしてここまでの論陣を張ってる以上、《小説》としては如何なものかという印象はぬぐえない。むしろ、《小説じゃない》と断言できそうだ。じゃぁ何かってえと、本来論文で論証すべきものを、小説の体裁を借りて出したものにしか見えないのよね。シリーズ探偵の神津恭介が出てるとは言え、《ストーリー》が存在しないんだもの。
 それじゃどうしてお勧めマークがついてるかというと……いや、ホントに邪馬台国がここだったらいいなぁ、ってことで(笑)。だって、この場所ってあたしの実家の近所で、あたしが子供の頃にしょっちゅう遊んでた場所なんだもん。
 あ、ちなみにあたしが今回読んだ文庫には、タイトルに《改稿新版》と書かれてた。ってことは改稿前の旧版があるってことで、そっちとは何か論証に違いがあるのかな?  (99.4.12)   

完全なる離婚・天藤真(角川文庫)

 総じて、夫婦の間の疑惑とか情とかを中心に据えた物語が多い。既婚の身で読むと、ちょっと身を引いて冷静に考えてしまう部分もあったりして(笑)。謎解きものと、謎解きでないサスペンスとまじってるけど、後者の方が多いかな。
【鷹と鳶】物語は面白いんだけど、仕組みが全然判らんかったぞ(笑)。
【夫婦悪日】うーん、示唆に富んでるなぁ(^^;)。ラストに感心。
【密告者】ストーリー自体よりも、登場人物がいい。シリーズ向き。
【重ねて四つ】と思ったら、上と同じシリーズだった(笑)。この二作だけみたい。
【完全なる離婚】これは【夫婦悪日】にも似た夫婦間の話。けっこう好き。
【崖下の家】色んな所を疑わせておいて、こう来るか!うーん、うまい。
【私が殺した私】SFのような不思議な物語。天藤氏ってこんなのも書くんだあ。
【背面の悪魔】官能サスペンスって感じかな。でもあんまりエッチじゃない(笑)。
【三枚の千円札】数字に弱いあたしは、最後までどうして三千円が大事なのか判らなかった(笑)
【純情な蠍】これ、イチオシ。物語としても面白いし、伏線の妙も光る。 (99.4.19)   

極楽案内・天藤真(角川文庫)

 昭和39年を筆頭に、昭和40年代前半に書けて書かれたものを中心に収録しているそうである。道理で、古い。ただ古いのはネタや小道具だけであって、構成や文章は全然古くないんだよなぁ。特に人物のかき分けが抜群に巧い人だね天藤さんてのは。
【金瓶梅殺人事件】トリックや真犯人よりも人物のかき分けの巧さに脱帽。
【極楽案内】うーん、いくら昔の作品とは言え……眼目となるトリックがこれかい(;_;)。
【三匹の虻】ラストシーンが全てって感じの物語。ある意味二重のドンデン返しかな。
【袋小路】内容よりも証人のおじいちゃんたちがカワイイ(笑)
【夜は三たび死の時を慣らす】読者への挑戦ちっくな話なんだけど、あたしの世代がギリギリかな。
【真説・赤城山】内容よりも、文章の巧さに唸る。他の作品を書いた人と同じ人だっつーのが……。
【われら殺人者】イチオシ。真相は完全には読めないようにできてるけど、《そそる》構成。
【死の色は紅】物語はイマイチだったけど、最後にあかされる通信方法に膝を打った。
(99.4.20)   

遠きに目ありて・天藤真(創元推理文庫)

 主人公の刑事が偶然知り合った脳性麻痺の少年、信ちゃん。彼は言葉も不自由だし、左手しか動かず、車椅子の生活だ。そんな彼を映画に連れていく約束をしたが、事件が起こって約束が果たせなかった刑事は、お詫びにその事件の話を彼にする。すると、彼が見事に真相を見破ってしまう……という連作推理。
 身障者差別ってのはもちろん排されるべきだが、こういうフィクションの世界では、必要以上に身障者が美化されることが往々にしてある。体や言葉が不自由ということイコール心はきれい、というステレオタイプ。逆にリアリティがないばかりか、それも一種の差別なんじゃないかという気すら、するのよね。彼らを特別視してるのは一緒なんだもん。
 この連作もそういう部分はなきにしもあらずだ。でも、「信ちゃんを警察で表彰してあげたい。でも、車椅子では警察の玄関の階段すら昇れない」というセリフがあったり、信ちゃんへ気を使おうとする主人公に対して、身障者の身内を持つ部下の磊落な接し方が描かれたり、作者はどうも、推理そのものよりも、そのあたりを描きたかったんだなという気がしてくる。
【多すぎる証人】アームチェアディテクティヴならぬ車椅子ディテクティヴの真骨頂。
【宙を飛ぶ死】随分大がかりだけど、伏線がちゃんとしてるので判りやすい。
【出口のない街】信ちゃん外に出る。ホントに書きたかったのはバリアフリーなんだろな。
【見えない白い手】そうなる前に見張ってる興信所員が止めろよ、と思ったら……。
【完全な不在】うーん、騙された。なんかあっさり終わったと思ったらドンデン返しが。
(99.4.25)   

吉祥寺探偵局・いしかわじゅん(角川文庫)

 どうもダメだ(笑)。読むものがなくなったら電話帳でも読むってくらいの活字中毒を自認してる大矢だけども、そのあたしが苦手な分野ってのが、この【ユーモア小説】ってヤツなんだよねぇ。いや、ユーモアやお笑いがキライなんじゃない。むしろ大好きなんだけどさ。ヨコジュンの描くコメディ、小林信彦のスラップスティック、辻真先のギャグ……あのあたりが、どうもダメなのよ。面白いと思えない。笑えない。そしてこれも……その類だったんだんな(;_;)。いや、作品や作者が悪いんじゃありません。単に、好みの問題だけなのよ。いしかわじゅん本業のマンガで書いてくれてたら笑えたかもしれない。「うえぽん」とか大好きだったもんあたし(;_;)。
 吉祥寺に探偵局を持つ主人公、薬師丸金悟桜。幼なじみで警官になった野田。この周囲で殺人事件や誘拐事件が起こり、謎自体は非常に理に落ちた(?)普通のミステリのように解決される。つまり、本筋はぜんぜんスラップスティックじゃないわけだ。けっこう好きなトリックもあったりするんだけど。人物造形や行動をとにかく「ユーモアミステリ」で描くもんだから、どうもついていけない。うーん、残念。 (99.4.26)   

しゃべくり探偵・黒崎緑(創元推理文庫)

 ユーモアミステリは嫌いだと言っておきながら、お勧めマークである。こういうユーモアはいいのよ。だって、ストーリーはものすごくしっかり本格してるし、リアリティのあるユーモアなんだもん。何しろ会話でのおふざけだもんね。今時の(それも関西の)若者だったら、これくらいのおふざけが会話に入るのは当然。あたしが苦手なユーモアミステリってのは、その手のおふざけを地の文でやってるヤツのことなのさ。
 さて、「ボケ・ホームズとツッコミ・ワトソン」の副題の通り、登場人物はホームズのパロディだ。探偵役は保住、ツッコミは和戸、その他、守屋教授とか、その弟がやってるレストラン守屋亭だとか、愛人・亜土良とか、破土村とか(笑)。
 4つの連作短編なんだけど、東京創元社の連作だからもちろんタダでは終わらない。各々の短編も非常に理に落ちてるし、最後に出てくる真相も、思わず膝を打つくらいキレイに収束している。それでいて、文体が軽いからサクサク読めちゃうんだよね。会話体、書簡、電話、会話、と、まったく地の文がない構成ってのも、関西弁お笑い口調に一役買ってるし。気軽に読める。でも気軽に読んでると、背負い投げを喰らう。これも本格ものの醍醐味の一つじゃないかな。
 【番犬騒動】【洋書騒動】【煙草騒動】【分身騒動】の4編を収録。お勧めは【分身騒動】だけど、単体で読んでも意味がないので、順番に読んでね。 (99.4.27)   


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