じゃじゃ本ならし


法月綸太郎の冒険・法月綸太郎(講談社文庫)

 予め断っておくけど、この時点では全然パズルは崩壊してません(笑)。実に理に落ちたミステリばかり。こっちのノリリンの方が好きだな、あたしは。
【死刑囚パズル】非常によく練られてるなぁ、と思う。謎も魅力的だし舞台設定も魅力的だ。動機については流石に判らないけど(判るわけないわな)、ハウダニットに焦点を当てるならば秀作と言えるのではないかな。
【黒衣の家】なんか怪しいなぁ……と思う人は多いだろうけど、ラストシーンでの真相の明かし方が上手。なんか、切なくなるような話だよね。
【カニバリズム小論】延々蘊蓄を聞かされた気がする(笑)。
【切り裂き魔】ここから先は図書館探偵のシリーズ。その中では、この話がイチオシだな。実に秀逸だ。動機も、これ以上ないってくらい思いきり説得力があるし……他の手段ではダメだったっていうのも笑える程理に落ちてる。こういうのを見つけたら、あたしだって同じことをするかもしれない。彼が図書館職員に訴えなかった理由も書いてるけど、そんな理由じゃなくても、もしも訴え出た相手がその本を××だったら……と思うと、申し訳なくて見せられないし(笑)。
【緑の扉は危険】これも好き。実際にあり得る話でリアリティあるし、ちゃんと伏線も張られてる。良くできた作品だと思う。
【土曜日の本】東京創元社の競作企画《50円玉20枚の謎》に対して書かれた話。まぁ、人名書名もじりの楽屋落ちだな(笑)。
【過ぎにし薔薇は……】これはちょっとこじつけっぽいなぁ。確かに装丁家にとって×は××なんだろうけど、だからって×××を××なんて行為に出るだろうか?
 (99.5.27)   

本所深川ふしぎ草紙・宮部みゆき(新潮文庫)

 本所深川に伝わる七不思議をモチーフにした時代もの。時代物とは言え、ミステリ的要素も強い。しかしまぁ、ミステリとして云々よりは、宮部氏のストーリーテリングの巧さを味わって欲しい1冊だな。
【片葉の芦】イチオシ。彦次の思いとお美津の思い。そのすれ違いが哀しい。そして何が善いことで何が悪いことなのか、その価値の基準というものを見せつけられる。人情話と言ってしまえばそこまでだけど、語り口の巧さで読者の胸を締めつけるのだ。読後感もいい。
【送り提灯】おりんが切なすぎる。最後の最後に送り提灯の正体をほのめかすところがいいね。
【置いてけ堀】これもお勧め。最もミステリ的要素が強い作品だけど、そのミステリの部分が時代物人情話としての雰囲気を損なっていない。
【落葉なしの椎】これもミステリ色が強い。総じてこの短編集は「いい人に見えて実は……悪い人に見えて実は……」というのが根底にあって、ひいては「目に見える部分だけで物事を見るな」ということを言ってるんだな。
【馬鹿囃子】思いきりサイコな話。しかし、真骨頂は事件よりも、おとしが自分の醜い部分に気付くくだりだ。自分で気付いてない自分の中の醜い部分、そこに気付いた瞬間てのはメチャクチャ怖いと思うんだけど、どうかな?
【足洗い屋敷】これはまぁちょっと底が割れやすい、かな。
【消えずの行灯】最後のどんでん返しが怖い。状況設定もかなり魅力的だけど、これって現代の話にしても充分怖い話が書けそう。
(99.5.28)     

ロシア紅茶の謎・有栖川有栖(講談社文庫)

 この作者の短編てのは、総じて推理パズル的な要素が強く、そう割り切って読めばかなり楽しめるのである。つまり、クイズを解くつもりで読むわけだ。内容もワンアイディア、それもトリック云々のアイディアではなく、もっと些細なアイディアが元になっている。でも些細なワンアイディアをこうして一つのパズルに昇華させるんだから、これも技のウチだ。
【動物園の暗号】この暗号は判らないよなぁ。うーむ。しかし、暗号が何を意味するか判ってからはスンナリ納得できた。しかし、この暗号、たまたま作ってたんだよな?よかったねー、その《たまたま》が当たって(笑)。最後の一文は秀逸。
【屋根裏の散歩者】これ、かなり笑えるオチだぞ(笑)。特に《太》がなー。わっはっは。《太》だと、切れてんじゃねーかよと思ったのはあたしだけか?しかし《木》にしちゃうとモノスゴイことになるしなぁ(^^;)。
【赤い稲妻】他のに比べて、これは随分普通かも。最後の決め手はちょっと読者には判らないから、これはクイズとして読むのは無理がある。
【ルーンの導き】何もルーンなんて持ち出さなくても(笑)。これも謎解きに結びつく手がかりの部分よりも、最後の一文を言いたいがための作品なんだろうな。けっこう好き>最後の一文。
【ロシア紅茶の謎】こ、これは出来ない!だって、たまたまその時誰かがこっちを見てて、実行のチャンスがなかったとしたら……できねーよおっ!
【八角形の罠】これもかなり偶然に助けられてる気がする。音だって出るだろうし、障害物があったかもしれないもんね?
(99.5.28)     

福音について〜勇気凛々ルリの色・浅田次郎(講談社)

 やっぱエッセイよりは小説の方がいいなぁこの人は。という評価に代わりはないのだけれど。小説が巧いということは文章力・描写力・構成力があるということなので、エッセイだって面白くないワケはないのである。充分面白いのだ。ただ、小説の方が更にいいってだけで。それともう一つ、エッセイだと、どうしてもネタが自分の興味をひくかどうかって部分が大きい。競馬は全然判らないし、ヨーロッパには仕事以外で行った事がないので、そのあたりはイマイチ入り込めなかったのよね。
 しかし、それ以外はやはり面白いのである。直木賞受賞に纏わる一連の描写はかなり泣かせる。これはやはり文章の妙だ。《どうしても小説家になりたかった。どうしても小説家になりたかった。》と繰り返し、《ありがとう、お母さん。百万回言います。ありがとう、お母さん。》と綴る。直木賞受賞作
「鉄道員」と同じ時期に出版が可能だった「活動寫眞の女」を、「鉄道員」で直木賞を狙うために出版を遅らせてくれた双葉社。《その版元は潔く、矜り高い》と浅田次郎は言う。受賞と同時に徹夜で「受賞第一作」の帯をかけ、書店に直接搬入した出版社員を《天使》と呼ぶ。これで泣かずして何に泣けというのか。
 直木賞のくだりだけではない。《立身について》の中の「仰げば尊し」の詞、《ヒロシの死について》の親娘の絆、《アンファン・テリブルについて》の倫理のハードル。胸に迫る話は多い。
 一方、老眼、巨頭、消費税のあたりは爆笑させて貰える。方向音痴は身につまされ、ボクサーブリーフはダンナに買ってあげたい衝動に駆られる。この涙と笑いを、同じ人がプロデュースしてるあたりがスゴイんだよなぁ。 (99.5.30)     

思案せり我が暗号・尾崎諒馬(角川書店)

 読み始めてすぐ「文章や描写がメチャクチャ下手だなぁ。どうしてこんなのが横溝正史賞の佳作なんだ?」と不思議に思った。まぁ、後になって説明されてて、「そういうことなら」と納得はしたんだけども。
 最初に出てくる作中作は、「よくこれだけのを考えたなぁ」とは思うけれど、「だからどうなの?」という感が拭い去れない。例えるならば、凝ったカラクリ時計の技術は素晴らしいけれど時間を見るならシンプルなアナログ時計で充分って感じ。判る?天狗の鼻がへし折られるのは読んでて溜飲が下がるけど、でもそれだけなんだよなあ。
 探偵役の尾崎との会話も、暗号と疑似暗号の違いだのプログラムだの、あそこまで詳細に解説する必要はまったくないと思うし(書きたくて書いたって感じ)、最後の折原一的仕掛けも「やってたことは判ったけど、だからそれがどーした?」なのよね。驚かしに終始してストーリーが昇華されてない気がするんだけどなぁ。それもワザとだと言う選者もいたみたいだけど、うーむ。 (99.6.2)     

夜光虫・馳星周(角川書店)

 お、面白い!1200枚一気読みだぁ\(^o^)/
 舞台は台湾のプロ野球。かつては日本のスター選手だった主人公は、故障でプロ選手失格の烙印をおされ、台湾に渡った。借金を返すために始めたものは、八百長……。
 一言で言えば《主人公がどんどんどんどん堕ちていく話》ってだけなんだけどね(笑)、その堕ち方が半端じゃない。傷が浅いウチに正しい手当をしてればよかったのに、傷の上に傷を重ねて、ずんずんずんずん堕ちていく。その上、主人公が単に荒っぽいだけじゃなくて充分女々しかったりもするから可愛いじゃないか(笑)。
 
「不夜城」「鎮魂歌」でハナについた、無意味なカッコ付けのモノローグや、主人公が於かれた環境に甘んじる必然性のなさなどが、今回は見事にクリアされてるのよね。主人公はずんずん堕ちていくんだけど、堕ちていかざるを得なかった状況、そこから抜け出せない状況ってのがキチンと書かれてて、説得力がある。ハードボイルドにのめり込めるかどうかは、そこだよな。
 ずんずん堕ちていく主人公。堕ちるその裏には、かなり精密に構成された人物相関図と物語がある。勢いだけで読んでしまうけれど、書いてる方は決して勢いじゃないぞ。ああ、この人の正体はこれだったのか!という驚きもあるし、家族というものの切なさもある。ラストはけっこうもの悲しくも、穏やか。 (99.6.3)     

勇気凛々ルリの色2〜四十肩と恋愛・浅田次郎(講談社)

 シリーズ3冊目にあたる「福音について〜勇気凛々ルリの色」を先に読み、これは未読の2冊目も読まなくてはと慌てて書棚から引っぱり出した。感想については前書(後書か?)や第一作の「勇気凛凛ルリの色」と概ねダブるので割愛するが、本書の特筆すべきテーマは、やはり沖縄問題だろう。氏の、沖縄戦を描いた物語の上梓を心から待つ。
 さて、ダブるからと言って感想を割愛してしまっては書くネタも無くなるわけだが(笑)、今回はちょっと視点を変えて、浅田氏の文章について。もちろんシリーズの他の二作にも共通して言えることだが……即ち「この人の語彙ってなぁ、どんだけあるんじゃいっ!」ってことだ。
 自慢ではないが(自慢だったが)、あたしは一介の主婦にしては日本語の語彙は多い方だと思う。それも、日常会話では先ず使わない妙な漢語については滅法強い、と思っていた。が。この3冊のエッセイ集を読むと、そのあたしをして見慣れない言葉読めない漢字が目白押しなのである。ちょっと挙げるだけでも、醢(しおから)をくつがえして嘆く・猖獗を極める・淋漓たる汗・仁に里るを美しとす……まだまだこんなものではない。抜き書きをしてたらチラシの裏白を2枚たっぷり使ってしまった。おまけに大部分が一発変換できないし>ATOK。「あたし、けっこう漢字には強いのぉ」なんぞとは恥ずかしくて言えなくなった。
 おまけに調べてみると、それらの言葉がまさにそこで使われるために考案されたかのようにピッタリとはまるものばかりなのだ。意味を調べ、語源を理解すると、もう他の言葉に換言したのでは味が薄れるのが判るってくらい。的確な場所に的確な言葉をいれて表現する……当たり前の話だが、膨大な語彙がなければできないことだ。つくづく、すごい。 (99.6.4)     

ハーメルンに哭く笛・藤木凛(徳間ノベルズ)

 最近のノベルズってなぁホントに……厚けりゃいいってもんでもなかろう(笑)。
 さて、けっこう話題になった作品である。京極的世界、っていう評価が多かったよね?実際はどうか判らないけれど、これを読む限りでは確かに京極的世界を意識しているような気がする。時代背景は昭和初期。出てくるのは博識でひねくれ者の探偵役、正義感の強い新聞記者、予知能力のあるらしい男、一本気で熱血漢の刑事。いかにもじゃん(笑)。
 実は、最後の謎解きの章は、かなりのめり込んで読んだのよね。膝を打った。なるほど、と唸った。感動すら、した。実効性において首をかしげる部分はあるものの、この章に至っては、かなり評価が高いのである。換言すれば、謎解きが命の本格モノとしてはかなり高レベルの仕掛けであり、同時にテーマ性に於いても、読者をして涙せしめるほどの重みがあるってことだ。これは凄い。
 だがしかし。どうも、そこへ至る道筋が好きになれない。雰囲気作りも判るけれど、なんだか余計な修飾が多くて、伏線がさりげないのはいいんだけど本筋までさりげなくなってるぞ。プロットもテーマもしっかりしてるんだから、妙なキャラ設定に拘ることもないと思う。もっと普通の話運びでいいんじゃないの?京極的世界は、京極が一人いれば充分じゃないか。
 一点、声を大にして褒めたいことがある。主要人物に《田中》という苗字を使ったことだ。いや、あたしの旧姓なんですけどもね(笑)。あまりにありふれたダサイ苗字なので、偽名として使われる以外に、小説の主要人物ではあまり見ない名前なのよね。いやぁ、嬉しかったなぁ(笑)。 (99.6.4)     

クリスマスのフロスト・R.D.ウィングフィールド著 芹澤恵訳(創元推理文庫)

 これだったか、この続編の「フロスト日和」だったかが、何年か前の《このミス》の海外編1位だった記憶がある。で、読んでみたんだけど、おおおお、噂に違わず面白いぞ。外国名前が苦手な大矢なので、巡査の名前なんかは殆どゴッチャだったが(笑)、それでもメチャクチャ楽しめた。少女の失踪に始まるホンの数日間のドラマなんだけど、めまぐるしく展開して、内容はもりだくさん。
 フロスト警部は、汚いヨレヨレのレインコートを着て、遅刻はするし会議は忘れるし、署長の愛車にカマ掘っちゃうし、書類仕事はキライで山のように溜まってるし、絨毯に煙草の灰を落とすし、服務規程は守らないし、話には品がないし、スケベだし、部下のエッチの最中に部屋に入ってくるしでメチャクチャなオヤジなんだけども、実はかなりの切れ者で人望もあって人に好かれてる。権力志向上昇志向の強いエリート幹部と対比させて書いてるもんで、その人物の魅力が尚一層浮き彫りになって、もうタマラナイ小父様なのだ。うふ。
 ミステリとしては、論理的は本格モノではない。むしろ人情警察小説といった感じ。勿論犯人は誰かってのも興味の対象ではあるんだけど、読者が一緒に推理を楽しめるタイプのものではないので念のため。本国では二時間ドラマの人気シリーズになってるんだそうで、さもありなんである。 (99.6.4)     


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