じゃじゃ本ならし


おもしろくても理科・清水義範&西原理恵子(講談社文庫)

 理科音痴を自認してるヤツは、とにかく読め
 
「もっとおもしろくても理科」の書評にも書いたけど、あたしは筋金入りの文系で、理系のリの字も理解してない。その証拠にいまだに九九が言えない(笑)。この本で述べられてることも「ほおおおお」と感心しながら読んだクチである。なるほど、こうやって説明してくれれば、全部とはいかないけど少しは判るのになぁ。
 内容は、【慣性の法則】【時間よ止まれ】【理科の実験】【××が東京ドームだったら】【海辺の生き物】【脳プロブレム】【油断大敵・痛ミシュラン】【地球くんの履歴書】【人口の爆発は怖い】【そしてどれもいなくなった】である。どれも、非常に身近な例をあげてくれてて判りやすい。確かにこうしてみると、理科って面白いじゃないか。よく素人に説明するのに、専門用語をたくさん使った方がエラく見えると思いこんでるアホがいるけど、専門用語を一切使わずに説明出来る方が偉いんだぞー。
 残念だったのが、結局【慣性の法則】が良く判らなかったこと。実例はどれもすごくよく判るんだけど、「どうしてそうなるのか」は結局判らず仕舞いだ。「そういう法則があるんだから」じゃぁ理系音痴は納得しない。
 逆に、目から鱗で一番衝撃的だったのは、あたしの30年に渡る大きな勘違いが発覚したこと。それは……あまりにも恥ずかしいので、今日(99年8月16日)の隠し日記を捜して読んでくれ。ああ、恥ずかしい……(;_;)。  (99.8.16)   

天使たちの探偵・原リョウ(ハヤカワ文庫)

 著者の名前のリョウの字が辞書にないのだ。《寮》に似た字ね。違う字をタイトルにアップするってのもどうかな、と思ったのでカタカナでお茶を濁す。辞書になかったのは内田百ケンについで二人目だなー。(ケンてのは門の中に月と書きます。)
 そんなことはどうでもいいのだった。著者の書くシリーズ探偵沢崎(どうでもいいけど、この著者の沢崎シリーズ以外の小説って読んだことないぞ)が活躍する短編集である。ハードボイルドにありがちな《ニヒルさを強調するヒネた言い回し》満載で、それはちょっと(いや、かなり、か)鼻につくんだけど、内容はと言えば結構練られた本格推理である。沢崎の喋り口をもっと普通にすれば、東京創元社からだって出版できるぞ(笑)。
【少年の見た男】少年のキャラが好き。内容よりも事件報道の仕方に笑えた。
【子供を失った男】彼女が去った動機をそこに持って来るってのが、あり得なくはないが突然過ぎ。
【二四〇号室の男】本格度がかなり高い。なるほどねー。シンプルな仕掛けだけど巧い。
【イニシアル"M"の男】これも本格度が高い。事件の結末よりマネージャーとの一件が特に。
【歩道橋の男】内容よりも出だしの章が魅力的。最後の文でやられた(笑)。
【選ばれる男】ずーと××氏を疑ってたあたしって、もしかして嫌なヤツかも(^^;)
 (99.8.17)   

テリー伊藤のお笑い人生劇場・テリー伊藤(世界文化社)

 数年前、著者の「お笑い北朝鮮」を読んで爆笑した記憶があるので手にとってみた。が。ちょっと期待はずれかなー。雑誌連載のエッセイをまとめたもののようで、テリー伊藤らしい毒舌もギャグも満載なんだけど、今一つウケない。ただ、何かをテーマにして考えつくことを書いてみました、って感じなのよね。「お笑い北朝鮮」にあったみたいな、マジなんだかジョークなんだか判らないような切れ味の鋭さ、てのが無いのだ。残念。
 それでもクスリと笑ってしまう描写は何カ所かあった。「固定観念を打ち破る世界中の《イメージでない》人たちに会いたい」という章では、固定観念を打ち破ってくれる人々に会いたいというテーマで(そのまんまやがな)、サーファーのドイツ人、運動神経の鈍い黒人、甘党のインド人、ナンパのできないイタリア人、などなど。ここまでなら、誰でも考えつくのだが、あたしが笑ったのは次の文章だ。曰く
「色白だということで学校でからかわれている黒人というのもいるだろう」
 なるほど、そうだよなぁ。あたしらには見分けがつかなくても、黒人の中にも地グロとか、色白とか居て当たり前なんだよなぁ。病気になれば顔色も蒼白になったり、好きな人の前に出れば頬が赤くなったりもするだろう。なるほど。道理だ。
 あたしは決して人種差別主義者ではないけれど、「色白の黒人」で目から鱗の気分になるってことは、やっぱり固定観念に縛られているのかもしれない。  (99.8.18)   

黒いペナント・有馬頼義(ベースボールマガジン社)

 復刻版である。野球賭博という内容と、「黒い……」というタイトルから、これは西鉄ライオンズのあの事件をヒントに書いた作品なんだなと思ってたんだけど、あにはからんや逆だった。この小説の発表は西鉄ライオンズの事件より10年も前で、逆に「黒い霧事件」というネーミングのヒントになったのがこの小説だとか。こうなってみると、作家に先見の明があったか、「黒い霧事件」の黒幕がこの本を読んだか、どっちかだという気がしてきたぞ(笑)。
 というわけで、内容は日本シリーズでの勝敗を賭けにして、それで設けるために八百長を持ちかけるという話。ミステリというよりはクライムノベルだね。推理の楽しみはないんだけど、実際にあった事件と非常に近いために、なんだかノンフィクションを読んでるようなワクワク感があった。この「坊や」なんて、西鉄のI投手を彷彿とさせるんだけどなぁ……。
 ちなみに、西鉄が太平洋クラブに身売りしたのはあたしが小学校2年の時。実家が九州で、神様仏様稲尾様と同じ大分ってこともあり、周囲には西鉄ファンが多かった。もちろん、あたしも太平洋クラブ、クラウンライターと親会社は変わってもライオンズを応援し続けましたとも。でも、所沢に移って、西鉄時代を知る東尾が引退し、立花がトレードに出された時点で、あたしのライオンズ贔屓時代は終わったのだった。って、何の話だ?
 とまれ、そういう思い出もあり、どうしてもフィクションとして読めなかったのだけど、そうなると賭けに乗った一般市民の人たちが可哀想で可哀想で(;_;)。読後感はかなり悪かったってのが正直な感想かな。  (99.8.20)   

四万人の目撃者・有馬頼義(ベースボールマガジン社)

 プロ野球の試合の最中。三塁打を放った選手が、突然三塁手前で倒れ、死亡した。心臓麻痺と診断されたものの、その試合を観戦していた検事はどうも割り切れないものを感じ、個人的に調査を始める。殺人だとすれば、四万人の観衆の眼前で、どのようにそれはなされたのか?
 40年近く昔に書かれた話なので、人間関係の在り方ってのがかなり古いのは否めないんだけど、それもある種の雰囲気を醸し出してて非常にいい。検事の調査も、あくまでも正式なものじゃないと言いつつ、刑事を使ったり出張に出たりして、当時の検察機構ではこれが可能だったのかしらと思うようなこともしてるんだが(笑)、まぁ、それもご愛敬か。社会派ミステリと銘打たれてはいるが、読者が推理を楽しめる類のものではない。しかし、検事が得た手がかりは順次示されるので、主人公の検事と同じレベルで犯人や動機が判っていく過程は面白いね。
 尚、あの大投手・沢村栄治をモデルにした短編小説【肩の悲劇】も収録。1958年の作品である。ミステリではない。モデルとは言え、これとほぼ同様の状況があったことは想像に難くない。切なくて、胸に来る。あたしは小説としてはこっちの方が好きだな。  (99.8.20)   

灰の迷宮・島田荘司(光文社文庫)

 吉敷竹史ものの社会派推理。御手洗の本格パズラー短編も好きだけど、島田氏描く社会派は胸に迫るものも多く、結構好きなのだ。社会派でありつつ謎解きもしっかりしてて意外な真相に驚かせてくれる。《本格社会派》である。
 新宿西口でバス放火が起こり、現場から逃げようとした乗客が一人、タクシーにはねられ死亡した。しかし、彼の行動には不可解な点が多すぎる。調べる内に、もうひとつ別の事件との結びつきも見えてきて……。舞台は鹿児島へと飛ぶが、そうなればタイトルの「灰」が示すモノは明らかだ。
 まず、不可能興味がいい。猟奇的な死体が登場するわけでもないし、密室に死体が転がるようなわけでもないんだけど、「息子の受験付き添いの筈の父親が、なぜ違う方向のバスに乗ろうとしていたのか」というのは、かなり惹かれる謎である。小さな謎、しかし困難な謎が提示され、その背後にある大きなものが見えかけた時、読者は物語世界に捉えられてしまってるというわけだ。
 それにしても……これだけの登場人物がいて、どの人の気持ちも切ないってのは堪らない。いろんなキャラガいるんだけど、それぞれにドラマがあって、それぞれに思いがあって、どの思いもちゃんと物語の中でそれなりの重きを於いて扱われている。緻密に練られたプロットも素晴らしいし、細かく張り巡らされた伏線もワクワクするが、それ以上に、人々の思いが哀しい。特に、アル中のホステスが、照れながらも見せた純情。ラストシーンは思わず目頭が熱くなった。島田荘司で泣くか(笑)>あたし。  (99.8.20)   

幸福の遺伝子・早野梓(新潮社)

 帯には「脳も凍るミラクルホラー」と書かれているが、確かに凍った。難しくて(笑)。
 富士山の麓、青木ヶ原樹海の側で土産物屋を営む夫婦。彼らは場所柄、自殺志願者に接する機会が多い。その経験から生まれたノウハウで、救える人は救おうとする。ある日、精進湖の畔で思い詰めた表情の女性を見つけた。土産物屋の主人は彼女に話しかけ、店へと連れてくる。しかし、彼女の目的は自殺ではなく、樹海へ行くと言って姿を消した夫を捜すことだった──。
 出だしが非常に魅力的なのだ。おまけに人物の描写に長けてる。この土産物屋の夫婦も、そこに絡む様々な人物も、非常にいいのだ。どんな人なのか、目に浮かぶように描かれている。かなりの筆力だぞ、これは。
 しかし──なんか流行の「理系」に持っていったのが、どうなんだろうなぁ。いや、それがやりたかったんだろうけどさ、かえって冗漫になって分かりにくくなったような気がするのよね。教授の捜索の件も、多聞の件も、とってもワクワクドキドキさせてくれるのに、その周囲をくるんだ生物学・物理学の蘊蓄がうざったくて。ホントに必要だったのかなぁ。もっとエンターティメントに徹してもよかったんじゃないだろうか。帯には「脳も凍るミラクルホラー」とあるけど、ミラクルでもホラーでもないし。そういうのとは離れたところで、非常にいい素材といい人物描写を備えた作品だと思うのに。なんかもったいない。  (99.8.24)   


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