じゃじゃ本ならし


現代詩つれづれ草・清水哲夫(新潮社)

 現代詩32編を取り上げて、その詩人の話や詩への感想、引いてはそこから連想される自分自身の思い出をエッセイ風に綴ったもの。著者は後書きの中で「これは入門書でもなければ、鑑賞の手引きでもない」と言っているが、あたしは立派な鑑賞の手引きとして読んだ。同時に、「この本で言いたかったのは、今どきの詩(現代詩)はとても面白いということ」という点にも、深く首肯する。
 一見、バラバラに見えるラインナップである。中学や高校の国語の教科書に取り上げられているような詩(「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」石垣りん、「夕焼け」吉野弘)から、極私的な描写(「肉屋の前に坐る」鈴木志郎康、)、どきりとするような鋭いもの(「朝礼」井坂洋子)、風刺(「二段とばしの黒人」辻元佳史)、ちょっとアバンギャルドなもの(「怒りの構造」北村太郎)などなど、多種多様だ。しかし共通点はある。それが現代詩だということだ。
 詩や詩集をあれこれ分析し、感想を書き連ねるのは野暮だと思う。詩は、分析するより味わう方がいい。人の感想を聞くより、自分で感じる方がいい。何より、人の分析や感想を聞いてしまうと、自分が感じる時にフィルターになってしまう。だから、詩は、まず本編を読んでみて下さい。そうしたら、この本の著者がそれぞれの詩にどれほどの思い入れを持っているかが判るから。
 ちなみにあたしの好きなのは、今更のようだがやはり「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」(石垣りん)、それから「SITUATION NORMAL」(平田俊子)である。
 しかし著者も詩人なら、もうちょっと気の利いたタイトルにできなかったものかなぁ(笑)。  (99.11.1)  
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裏庭・梨木香歩(理論社)

 第1回の児童文学ファンタジー大賞受賞作。照美の家の近くには、戦前にイギリス人家族が住んでいたという洋館「バーンズ屋敷」がある。荒れ果てた広大な庭は、近所の子供達が忍び込んで遊ぶのに格好の場所だった。しかし、その庭には、普通の人は入れない「裏庭」があった──。
 竜だの妖精もどきだの吟遊詩人だの不思議な老婆だのスナフキンだの(?)が出てくる、正真正銘のファンタジー。照美が現実社会で感じている問題点と、バーンズ屋敷に関わる悲しくも優しい人々の歴史が、「裏庭」の中で融合し、照美は冒険へ踏み出す。
 うわぁ、盛り込んだなぁ──というのが第一印象。児童文学とファンタジーという言葉を聞いた時に連想する要素が、全部入ってるといってもいいくらい。骨組みとなる物語は、照美が「傷」とどう向き合うのか、という点に集約されるんだけども、それを彩る様々なエピソードが、豊富過ぎて書き込みきれてない気がするのよね。「テナシ」も「おばば」も「カラダ・メナーンダとソレデ・モイーンダの貸衣装屋」も、どれもとっても大事な役なのに、表面にしか触れてくれない。いや、それでも人物はまだ書き込まれると言えるが、照美が裏庭で体験する様々な事件や現象が、あまりにアッサリしすぎている。かなりな冒険をしているのに、照美の苦労や悲しみがストレートに伝わってこない。従って、裏庭の冒険の中で、照美が何をどうやって克服したのかが、今一つピンと来ないのだ。
 現実社会での照美の家族や、レイチェルの関わりなど、ものすごくよく練られてるし、話の組立も巧い。プロットがしっかりしてる。それなのに肝心のファンタジー部分が、(話の大部分を占めるにも関わらず)浮いてるように見えるのである。現実社会の部分がとてもリアルに切なく描かれているだけに、ファンタジー部分のアッサリした展開がもったいない。もっと書ける人ではないかと思えるのだが。  (99.11.2)  
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こちら駅前探偵局・ねじめ正一(光文社文庫)

 フツーの駅前商店街に居を構える探偵局の探偵と、その婚約者の連れ子だった女の子。複雑な二人家族ではあるが、まぁ巧くやっている。二人が住んでるマンションも、それから探偵事務所も、同じ不動産屋の持ち物で、この不動産屋の留守番を気軽に引き受けたところから事件が始まる。「幽霊の声が聞こえるんです」と、マンションに住む一人暮らしの女性が飛び込んできたのだ──。
 せっかく著者お得意の「商店街の探偵」なんだけど、あまり商店街は出てこない。著者は後書きで「ただでさえさびしすぎる二人なのだから、せめて生活くらいは、顔見知りやおせっかいな街の人に囲まれて、うっとうしいほどとても賑やかに暮らしてほしかったのである」と書いてるが、さほど賑やかでもないんだな、これが。不動産屋のオヤジはいい味出してるけど、それ以外は、マンション住まいの孤独とでもいうべき点が浮き彫りになる、かなり都会的な事件である。もうちょっと「商店街」らしさ(もちろん、高円寺商店街のような)を出してほしかった。そういう意味では、続編の
「こちら駅前探偵局 アーケード殺人事件」の方がねじめ節がよく出ているように思える。
 ただ、うっとうしいほどではないにしろ、不動産屋のオヤジ、昔なじみの記者、なさぬ仲の菜々子、そして鍛冶木刑事と言った面々が、下手をすると「中途半端なハードボイルド」になりかねないこの物語を救っている。人情は表だっては出てこないけど、底辺には確固としてあるのが判る。それを踏まえた上で、続編を読んで欲しいシリーズだ。  (99.11.4)  back

傭兵ピエール・佐藤賢一(集英社)

 うわあああ。これ、すごく面白い。大河小説だ。歴史エンターティメントだ。
 もともと、フランスの歴史なんて「ベルサイユのバラ」でしか知らない大矢である。15世紀なんてオスカルやアンドレが生まれる200年の前の話だ、という認識しか持てずに表紙を開いた。──それなのに、止まらなくなった。
 ピエールは、周囲からも一目置かれる強持ての傭兵軍団の頭。ある夜、追い剥ぎをしようとして少女に出会ったが、強姦しようとしたピエールにその少女は「フランスを救わねばならない。その使命を果たしたらお前に処女を捧げよう」と告げた。そして、オルレアンの戦いでピエールが再会したその少女こそ、救世主、ジャンヌ・ダルクだった。
 聖女ジャンヌ・ダルクは、超のつく堅物で融通の利かない、よく言えば純真、悪く言えばガキに描かれている。だんだん引かれていくピエール。そして、戦いが終わって、ピエール達が安定した生活を持った時、「ジャンヌ・ダルクが捉えられて魔女裁判にかけられた」という知らせが届く。
 すべてがドラマチックだ。まるで、ドラマを見ているかのように、次々と展開していく物語。とても長い話なのに読者を飽きさせない。傭兵という、戦いと悪行が仕事のような連中が主人公なのに、その周囲を固める女達や街の人々が、物語に活力と優しさを与えている。傭兵仲間も皆個性的で──特に会計係のトマ、最高!──なんだか、名うての名優ばかりで作られた映画を見ているような気分にさせられるのだ。スタンディング・オベイションだ。拍手喝采だ。エンターティメントの粋だ。
 二転三転する物語。そして最後は──涙腺が緩んだ。これ以上はないというくらい、見事なハッピーエンド。そのハッピーエンドの中にも、最後の最後でちょっと切なさを加える。抜群の筆力、抜群のストーリーだ。文句無しにお勧めマークをダブルで進呈。歴史には興味ないとか、フランスは馴染みがないなんて言わずに、読まなくちゃ損をするぞ!読め!とにかく、読め!  (99.11.6)  
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いざ言問はむ都鳥・澤木喬(創元推理文庫)

 四編からなる連作推理。大学院の研究室で助手を務める若き植物分類学者「ぼく」の周囲に起こった、不思議な出来事とその顛末──夜明けの道に散らばった花びらは何のため?子供用切符を何枚も何枚も買っていたのはどうして?──東京創元社お得意のパターンである。
 欠点なら、いくらでも挙げられる。推理に穴が多いし、かなり牽強付会だ。でなければ、あまりに常道である。文章も説明的過ぎるし、話が行きつ戻りつして判りにくい。伏線がさりげないのはいいが、大事な部分もさりげなさ過ぎて「え、何の話?」と頁を戻らねばならない。シーンが一繋がりでなく、回想と実写が入り乱れて混乱する。登場人物のキャラ設定はちゃんと決められてるようだが、会話や所作に個性が薄く、誰が誰に話してるのか判らなくなる時がある。たぶん誤植だと思うが、平井さんと言うところを敬さんと書かれてる箇所があって、もう何が何やら(笑)。
 と、ここまで悪し様に言ってる割に、なぜお勧めマークがついてるのかと言えば。
 物語が、描写が、語彙が。言葉が紡ぎ出す世界が、とても「いい」からに他ならない。物語の媒介となる植物の説明はさすがだが、学術的な単語が多用されているにも関わらず、固くない。むしろ、柔らかでしなやかな雰囲気を醸し出している。ちょっとした単語の使い方、文章の組立て方が抜群だ。地の文の中に台詞を織り込む(間接話法ってことになるのかな)やり方が目につくが、そのために改めて「」で示された台詞が浮かび上がる。なんとも小憎らしい手法ではないか。そういった細かいテクニックが全体の、流れるような包むような不思議な雰囲気を織りあげている。物語のプロットはさておき、文章はかなり書ける人だ。新作はこれきり出てないようだが、もっと書いて欲しい。
 願わくば──もうちょっとスッキリした構成にならなかったものか(笑)。  (99.11.6)  
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日本殺人事件・山口雅也(角川文庫)

 日本人の義母に育てられたアメリカ人・サムが、来日して探偵になるという作中作の体裁をとっている。このサムが描く日本ってのがまた、各家の前に鳥居はあるし、街にはサムライが闊歩してるし、まだ忍者もいるらしいしという、「ガイジンの持っている日本への誤解を更に二百倍くらい誇張した」日本なのだ。とにかく、その視点はメチャクチャ面白い。この設定だけでも読む価値あるぞ。なんか清水義範のやりそうなネタなんだけどね(笑)。
 ミステリ部分に関して言えば、後に出版される続編
「續・日本殺人事件」では、すっかりメタづいてしまってチョット苦手だったんだけど、こちらはまだストレートに楽しめる部分が多い。ではミステリ部分の感想を個別に。
【微笑みと死と】ハラキリというサムライの文化を目の当たりしたトーキョー・サムの初推理。これは唸った。さりげない伏線なんだけど、気付かなかったなあ。
【侘の密室】茶室で起こる密室殺人事件。こ、これは──続編に通じるメタの香りが……(笑)。魅力的な謎だけに、スッキリ落として欲しかったなあ。
【不思議の国のアリンス】遊廓が集まっている廓島で起こった殺人事件。かなり集中して読まないと、何が起こってるか判らなくなる可能性あり(笑)。見立てってのは本格推理によく登場するけど、どうも「見立てのための見立て」って感が強いんだよなあ。
 (99.11.10)  back

製造迷夢・若竹七海(徳間書店)

 モノに触ることにより、残留思念を読みとるというリーディング能力を持った女性・美潮。彼女の助けを借りながら、事件を解決していく刑事・一条。ミステリを縦糸に、二人の関係を横糸にして編んだ、連作短編集である。
 ここの短編の感想はあとに回すとして、総体的にどうもスッキリしない。二人が段々恋仲になっていくんだろうとは思ったんだけど、ラスト2作品がどうも唐突すぎない?ラストから二番目の【光明凱歌】で、二人の仲には、深い、でも超えなくてはならない亀裂ができたはず。それをどう克服するかが、最も大事なところの筈なのに──次の話では、そんなことなんか無かったようにハッピーエンドになっちゃうんだもん。これは納得できないなぁ。キャラは文句無しにいいのに、物語の構成は若竹氏らしくない杜撰な作りになってる気がして、残念。では、個別に。
【天国の花の香り】個人的な好みの問題なのだが、あたし、この手のオチはダメなのよ。だって、これやっちゃうと何でもできそうで。ただ、超能力なんか信じないと決めてる一条を美潮がへこましていく過程は面白かった。
【製造迷夢】伏線がなさすぎるぞ(笑)。ただ、テーマとしては一番興味深い。
【逃亡の街】あああああっっ、ややこしいっっ! もう、誰が誰なんだか。
【光明凱歌】あ、これ一番好きかも。ミステリとしてもスッキリしてるし。
【寵愛】あのモノローグの存在理由が判らん。単なるミスディレクションなの?
 (99.11.11)  
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