人形はこたつで推理する・我孫子武丸(講談社文庫)
めぐみ幼稚園に来た腹話術師の朝永嘉夫と、その人形の鞠小路鞠夫。巧みな腹話術を操っているかに見えたが、実は人形が自分で喋っていたのだった。そしてこの人形、なんと幼稚園内の事件から殺人事件に至るまで、快刀乱麻の推理を披露する。
人形は遠足で推理する・我孫子武丸(講談社文庫)
シリーズ第2弾となる長編。めぐみ幼稚園の遠足に嘉夫と鞠夫が同行した。ところが、そのバスがハイジャック!犯人の要求は「真犯人を連れてこい」というワケの分からないもので──。
このシリーズは短編向きだって言ってるのに、また長編かいっ!と思って読んだところ、おおお、いいじゃん、この構成。長編を一つ読むというよりも、短編を複数読むという作りなのだ。かといって手垢の付いた「連作推理」ではない。「鞠夫最初の事件」の回想に始まって、睦月につきまとう男の秘密、密室で発火した火災の謎、連続放火事件の真相──無関係な事件が同時進行する。普通は一件無関係に見えて実はリンクしてたってのが本格推理の手口なんだけど、ホントに無関係なところが笑えるぜ(笑)。だけど、すごく巧い物語の作り方だ。
パンプルムース氏のおすすめ料理・マイケル=ボンド著・木村博江訳(東京創元社)
シリーズ1作目。次作の「パンプルムース氏の秘密任務」よりもミステリ色は強いかな。でもやはり、ミステリというよりは上質のコメディである。
八月の降霊会・若竹七海(角川書店)
八月のある日、とある山荘に何人かの男女が呼び集められた。女流作家とその男性秘書、降霊術師とその娘、占い師の夫婦、デパートの社長、そして山荘の主人と、彼の甥が二人。加えて、彼らの世話をするために、元ホテルマンに料理人、メイドまでが、主人の指名で決められたのである。勿論、それには目的があった──。
狂乱廿四孝・北森鴻(東京創元社)
第6回鮎川哲也賞受賞作。
繭の夏・佐々木俊介(東京創元社)
第6回鮎川哲也賞佳作。
仕事でアマゾンに滞在していた恋人。しかし帰国してからの彼は、まったく別人のようになってしまった。ホスピスで働く早苗は、彼の変化に愕然とする。そして、彼とともにアマゾンへ行ったメンバーが、皆数奇な運命を辿っていた──。
正直言うと、ミステリという観点から言えば、嘉夫が探偵役をすればいいのであって、何も無機物に喋らせることはないのだ。その上、無機物が探偵をするなら、その特質を活かした推理をして欲しいと思うんだけど、そういうのはまるでない(笑)。どうして人形を探偵にしたのかなぁ?何かメリットがあるんだろうか?
そういう不満はあったものの、収録された短編はどれも上質の謎解き推理である。小生意気な人形は時として燃やしてやりたいほどだが(笑)、「なるほど!」と膝を打つ推理が楽しめる短編集。
【人形はこたつで推理する】まずは登場人物の紹介が目的のようで、事件の方はさらっと流している感じ。
【人形はテントで推理する】このトリックは巧い!必然があって、無駄がなくて──驚くほどの意外性があるのに、それでいて「トリックのためのトリック」にはなってない。この作品を読むだけでも、この本を買う価値ありだ。この短編には
を進呈。
【人形は劇場で推理する】ちょ、ちょっとコジツケが過ぎないか?(笑)
【人形をなくした腹話術師】嘉夫の見たものしか鞠夫も見ることはできない──という文を読んだ時に、「人形を探偵役にする必要がどこにあるんだ?」とまた思ってしまった。ただこれもギミックは見事である。
(99.11.28)
前作の「人形はこたつで推理する」を読んだ時に「これは短編向きの設定だなあ」と思ったんだけど、やっぱちょっと長編は辛いような気がする。あ、いや、この物語は充分長編に見合った題材だし、それに問題はないんだけど、鞠夫ならではってんじゃないんだよね。別に鞠夫が出てたからどう、という話じゃないわけよ。鞠夫は謎を解くだけで(そりゃ短編だってそうなんだけどさ)、物語を動かすのは人間なんだよね。そこがちょっと残念。せっかくの設定なのに。
バスに乗っていたもう一人の乗客については、御都合主義ギリギリではあるけれど(笑)、けっこうインパクトがあった。個人的な好みとしてはヤクザの抗争云々よりも、もう少し「なるほどぉ、そいつぁ気付かなかったぜ!」という真相にして欲しかったな。
(99.11.29)
人形は眠らない・我孫子武丸(講談社文庫)
事件同士は無関係でも、それに巻き込まれる睦月と嘉夫は、それぞれの事件を通して互いへの愛を深めていく。ちょっと、30代も半ばのおばちゃんが読むには背中が痒くなるようなシーンも多々あるんだが(笑)、それはまぁ対象とする層じゃないんだろうから仕方ないよな。ともかく、事件と登場人物の絡め方が絶妙である。
と同時に、個々の事件の謎解きも膝を打つものばかりだ。密室での発火は、こないだまるで同じトリックを使う作品(これの事です:ネタバレだぁ)を読んだばっかりだし、ストーカー男の秘密については、実はあたしが最も嫌うタイプの真相なんだけど、ぜんぜんイヤじゃなかったから不思議だ。伏線や作り込みがキチンとしてたからだな。
残念ながら今回も「人形を探偵役にする必要がどこにある?」という疑問に答は出なかったが、少なくとも鞠夫は探偵役であると同時に、嘉夫と睦月のキューピッドでもあるわけだな。シリーズの中では、謎解きとしても構成の妙としても、これがベストかも。
(99.11.29)
元パリ警視庁の刑事で、現在はグルメ誌「ル・ギード」の覆面調査員であるパンプルムース氏と、元警察犬のボムフリットは、とあるホテルレストランへ宿泊する。こっそり味をチェックするためだ。現在このレストランは、ル・ギード誌の「赤鍋印」を2ヶ貰っている。3ヶ目を与えられるかどうかチェックしようとするパンプルムース氏だが、彼に出された皿の上には、どうみても人間の生首にしか見えないものが載せられていた──。
いきあたりばったりのドタバタが、意外なところで次に繋がっていくという、典型的なシチュエーションコメディだ。体が不自由な人に対して気を使うあまり、自分も両足義足なんだというバカな嘘をついたり、欲求不満のホテルのマダムをやり過ごすためにダッチハズバンドを購入したり……ひとつひとつがばかばかしくて仕方ないのだが、それがキチンと繋がるあたりが流石である。
このシリーズ、ちょっとチェックの必要あり、だ。願わくば、謎解き部分がもうちょっと本格しててくれると嬉しいんだけど。
(99.12.2)
キチンと理に落ちるミステリなのか、それともそうじゃないのか……最後までそこが分からなくて、こちらの心構えもできなかったんだけど、考えられる結末の中では最高じゃなかろか。つまり、論理的な説明を除く本格ファンにも、物語の妖しを楽しみたい読者にも、どっちにも満足のいくように作られているのである。話の構成も緻密で、登場人物も出来事も多いのに、それをまったく混乱させずに分かりやすく、しかしドラマチックに描いている。筆力がなければできない仕事だ。実は、司の正体に関してはもう一つ「意外な真相」が欲しいなぁ、などと感じたのであるが、エピローグを読んで「ああ、そういうことだったのか」と腑に落ちた。
贅沢を言うなら、ちょっと途中で飽きが来る可能性、なきにしもあらずである。特に第3章は急転直下の動きを見せて、ハラハラドキドキになるんだけど、そこまでがチト辛い。勿論、適度にミステリアスで、小さな事件もたくさんあって、物語が単調なわけでは決してない、寧ろ山あり谷ありなのだけど、その山と谷の表し方がパターン化しちゃうキライがある。だから、伏線がモロに伏線だって分かっちゃうんだよね。でも決して大きな瑕疵ではなく、吸引力のある物語だと思う。
(99.12.3)
維新直後、東京と言うよりはまだ江戸と言った方が通りがいい時代。歌舞伎の花形役者である沢村田之助は脱疽を患い、両足を切断する。そして彼の病気は、彼から腕までも奪おうとしていた。それでも舞台に立つ田之助。そんな中、画家の川鍋狂斎が描いた幽霊画が波紋を呼ぶ。そして起きる殺人事件──。
盛り込みすぎ(笑)。状況を箇条書きにしてみると(書くなよ)、とてもよく練られた構成だってことは分かるんだけど、どうみても欲張り過ぎだろうこれは。実際、かなり文章の巧い人で、これだけの内容をよくここまで書き込んだなぁと感心するが、それでも、もう少しシンプルにしてもよかったのではないか。峯や新七はいい味出してるんだけど、せっかくの田之助の使い方がこれではもったいない。狂斎の幽霊画も、なるほどと膝を打つが、その後が弱い。つまりは、バラバラに起こっていた事件が最後にリンクするという手法なわけだが、そのリンクのさせ方が弱いのである。そんなところと繋がっていたのか!という驚きが来る前に、「それ、何の話でしたっけ?」となってしまうのだ。これだけ色々あって、それらがアトランダムに出てくるわけだから、忘れるっちゅーねん(笑)。だからインパクトがない。リンクする直前までがすごくキレイだっただけに、実にもったいない。何より、田之助が浮いている。
しかし、北森氏だったからこそ、ここまで書けたとも言える。今の北森氏に、再度同じテーマで書いて貰いたいくらいだ。今ならどう書くだろう。田之助の使い方も変わるかな?
(99.12.4)
祥子と敬の姉弟は、引っ越したばかりのアパートでぼろぼろになった人形を見つける。人形の中には妙なメッセージが残されていた。そこが、8年前に自殺した従姉が住んでいた部屋だったことから、姉弟は従姉の自殺を調べ直そうとする──。
非常に手慣れた文章で、かなり「書ける人」だという印象を持った。物語も正統派本格推理の手順に添って描かれており、特に目新しさはないものの、安心して読める。ちょっと道具建てに凝りすぎかな、という気がしないでもないが、そこはまぁサービス精神の発露といったところか。
途中に出てくる細かな仕掛けはなかなか巧い。とある一つの仕掛けなど、「そうか!」と思わず拍手してしまったほどだ。しかし如何せん、犯行の動機が弱い。そんな動機で、人を殺すか? たとえ血気盛んな年頃で、自分の価値観が全てという思い込みがあったにしても──最も重要な部分が(たとえ伏線もあったとはいえ)弱すぎる。この動機では、ちょっと納得しきれないぞ。
おまけに、救いようのないほど読後感が悪い(笑)。決してハッピーエンドにする必要はないが、悲しい結末ならそれはそれで、何らかの「締め括り」があってもいいのではないか。
(99.12.4)
天使の囀り・貴志祐介(角川書店)
書く度にタイプの違う作品を出している著者。ベースはホラーで変わらないんだけど、「黒い家」はサイコで「13番目の人格(ペルソナ)〜ISOLA〜」はSFちっく。で、今度は瀬名秀明を思い出させるような理系ホラーである。ま、カテゴライズが何かの意味を持つなら、だけどね。
筆力はさすがでグイグイ読ませる。線虫に関する蘊蓄が鼻についたんだけど、よく読めばこれは筆者の蘊蓄ではなく、登場人物の蘊蓄なのだ。そういう蘊蓄を垂れる人物なわけだ。そこをクリアしてしまえば、あとは気持ち悪いだけ(笑)──あ、いや、面白いだけだな。具体的にイメージすると、かなり気持ち悪いぞ。風呂場のシーンなんてもう……(;_;)(;_;)、あたしゃいわゆる「おたく」は大嫌いなんだけど、この小説を読んで初めて「おたく」に感情移入し、心から悲しんでしまいましたことよ(;_;)。
ラストも秀逸。気持ち悪いだけだった話を、ものすごく感動的に〆てくれた。理系っぽい情報をもう少し整理して練り直せば、かなり幅広い層に受け入れられそうな物語のような気がする。
(99.12.14)
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