大:続いてはフィクションですが──あのね、紹介する前に、言っておきたいことがあるのよね。
コ:何でしょう?
大:中途半端に情報が入ってるとね、新選組について書かれた小説を読んだときに
「あれ、これって史実と違うんじゃないの?」とか、「そのストーリーはあり得ないだろ」
とかって感じることがあると思うのよ。
コ:ああ、ええ、確かにありますねえ。
大:でもね、それを言うのは野暮ってもんです! これだけは分かってて欲しいな。
だってさ、小説なのよ? 史実だけを追いたいのなら、年表を眺めていればいいのよ。
伝えられてるわずかな話から、ホントはこうなんじゃないかな、こうだったら面白いな、
と想像を広げるのが楽しいんだもの。歴史小説とは、根も葉もある嘘なんです!
コ:そうですね、それに書かれた時期が古いものは、当時はまだ分かってなかったことだって
あったわけですから。昭和30年代に書かれた小説に対して、「平成10年に発見された資料と
矛盾する」ってツッコんだって、仕方ないですものね。
大:その平成10年に見つかった資料って、永倉新八が書いた「文久報告記事」でしょう?
あれだって、本人の書いたものとは言え、疑ってかかれば、記憶違いや書き間違いがあるかも
しれないし、永倉には真相を知らせず秘密裏に行われていたことがあるかもしれないし、
もっと言えば、他に生き証人はいないんだから、永倉が自分に都合のいいように脚色してる
可能性だって、ないとは言えないのよ。
コ:大矢さん……それはあまりに、汚れたミステリ読みのような発想……。
でも、わかります。だからこそ、小説は小説として楽しもうということですね。
逆に、小説に描かれていることを、イコール史実だと思わないように、てのも大事です。
大:ということで小説なんだけど、大河ドラマから新選組に入ったという人には
「新選組 幕末の青嵐」(木内昇・アスコム)を薦めたいわ。
コ:あれ、定番から入るかと思いましたが、意外なところから来ましたね。
大:2004年の春に出た本だから、まだあまり知られてないかもね。
描かれてるのは江戸の試衛館時代から鳥羽伏見まで。
そのあとは時代が飛んで、土方の義兄・佐藤彦次郎の回想という形で、
甲府以降が語られるの。
1章が短くて話がどんどん進むんだけど、それぞれの章で語り手が変わるのよ。
芹沢暗殺の章は山南敬助、池田屋事件は藤堂平助、
油小路は永倉新八といった感じで。
コ:なんだか、その事件のメインではない人が語り手になってませんか?
大:そう、そこが巧いのよ! ちょっとはずれた場所にいるからこそ、色々見えてくるのよね。
おまけに新選組の小説って、誰かが悪者に描かれることが多いんだけど、これは皆が
主人公だから、それぞれの思いが汲み上げられていて、皆にそれぞれ感情移入できるのよ。
コ:ああ、なるほど! だから大河ドラマを見た人に読んで欲しいわけですね。
大河ドラマも悪者無しで、皆に感情移入できるように描かれてましたものねえ。
大:そう、つまりそれが青春群像モノの最大の特徴なのね。
この本には、小難しい政治の話が直接にはあんまり出てこなくて、新選組面々を主人公に
した青春小説としてキレイに完結させてるの。装丁もオシャレでねー。お勧めよ。
コ:定番だと、短編集なら「新選組血風録」(司馬遼太郎・角川文庫)、
長編なら「燃えよ剣(上)」・「同(下)」(司馬遼太郎・新潮文庫)
でしょう。やっぱり司馬やんははずせませんよ。
大:「司馬やん」言うな!
コ:まあ、あまりに基本的過ぎて、薦めるまでもないって感じですかねえ。
ただ、さすがに昭和30年代だけあって、史実つっこみは相当に
ありますが、そこはそれ。
大:「燃えよ剣」は、土方歳三を主人公として描いた長編ね。
試衛館時代から五稜郭まで。鬼の副長と言われた土方が、文句なしに
実にかっこいい。歳三の組織作りの工夫なんて、圧倒されまくりよ。
「おれは隊長じゃねえ。副長だ。副長が、すべての憎しみをかぶる。
いつも隊長をいい子にしておく」ってあたりが、憎まれ役を買って出る
悲哀なのよねえ。その分、近藤がかなりバカに描かれてるけどね。
江戸から京都にかけての宿敵の存在が、いかにも剣豪小説って感じでグッドです!
コ:「新選組血風録」は一話完結の短編集で、
いろんな人が入れ替わり主人公になりますね。「前髪の惣三郎」なんて、
まさか司馬やんの小説でボーイズラブが読めるとは思わなかった♪
大:だから「司馬やん」言うな! 語尾の♪もやめなさいっ!
ボーイズラブって……ちょっと違うでしょうが。ま、衆道の話ね。
大島渚監督で「御法度」っていう映画になった話。
あたしは「虎鉄」が好きなの。近藤がバカで可愛くって笑える。
池田屋事件や、芹沢暗殺や、油小路みたいな大きな事件ももちろん
書かれてるけど、事件本体の描写より、切り口っていうか、とにかく
見せ方が巧いのよね。さすが司馬御大。
メジャーな事件の話より、ちょっとした無名隊士のエピソードがまたすごく良かったり。
コ:短編集ということで言えば、ちょっと毛色は違うんですが
「新選組の哲学」(福田定良・中公文庫)がお勧めです。
エッセイのような小説のような、奇妙な短編連作なんですぅ。
新選組ものにしては、奇抜な設定と、新鮮な視点で、他の新選組小説にはない面白さなの。
剣術=スポーツ論だったり、土方の癖について考えてみたり、彼らの日常を身近に感じられる
気がして、嬉しくなっちゃうんですよ〜〜〜。人物が、司馬やんの新選組ものと
似たイメージなので、初心者でも抵抗なく読めるんじゃないかなと思います。
大:ああ、確かに「新選組の哲学」は面白い。なんか舞台設定がホントに独特なのよね。
隊士同士の雑談みたいな感じで見せたりとか。直接語りかけてくれるような描写だから、
歴史モノを読み慣れてない人でも、すーっと引き込まれるんだよね。ひとつひとつの分析も
すごく新鮮だし、確かにこれはお勧め。絶版なのが残念だなあ。
さて、アンソロジーもたくさん出てるよね。中でも粒ぞろいだと思うのは
「誠の旗がゆく」(細谷正充・集英社文庫)かな。
執筆陣が幅広くてねー、子母澤寛・司馬遼太郎・池波正太郎っていう
大御所から、北原亞以子・中村彰彦・火坂雅志・津本陽といった
当代の人気作家まで、全14編。こういうのを読んで、好みに合う作家さんを
見つけて、そこからその人の書いた新選組モノに入っていくといった
読み方もできるわね。
コ:わ、宇能鴻一郎もいる……。こんなの書いてるんですねえ。
大:そういう発見も楽しいよね。アンソロジーと言えば、今年になってそのまんまのタイトルの
「新選組アンソロジー(上)」・「同(下)」(清原康正編・星雲社)
っていうのが出たけど、これは更に幅広いわよ。
サブタイトルに「その虚と実に迫る」って書いてあるんだけど、
迫るっつーか、セレクションがもう虚実入り乱れまくり。
小説、エッセイはもちろんのこと、浅田次郎と佐藤雅美の対談や、
新選組モノのテレビドラマの脚本まで入ってるんだから。
これも、この中から気に入った作家さんを探すという読み方ができますね。
コ:あ、あたしお勧めの「新選組の哲学」に収録されてる
「山南と沖田の死にかた」や「原田左之介のエロ話」「斎藤一の訓話」も
入ってる。シブいとこ抑えてますねえ。わぁ、土方の書いた俳句集まで!
バラエティという点では、これ、文句なしですね。
大:バラエティは豊かなんだけど、そのせいで、統一感が損なわれちゃうのは否めないね。残念。
そうそう、下巻で、子母澤寛の「隊士絶命記」に続いて、浅田次郎と佐藤雅美の対談が
入ってるのが笑えるよぉ。「隊士絶命記」っていうのは、吉村貫一郎や河合耆三郎など
何人かの隊士の最期の様子を集めた傑作短編なんだけど、そのすぐ次の章で、浅田次郎が
「子母澤寛の書いた吉村貫一郎の最期は、あれは創作だ」ってツッコんでるんだもの!
コ:あはははは。それこそ「その虚と実に迫る」ってわけですね。
大:漫画もひとつ紹介しておきましょうか。
「新選組」(黒鉄ヒロシ・PHP文庫)はスゴイわよぉ。
実際に遺されてる写真や肖像を元に綴ったもので「黒鉄歴画」と
名付けられてるシリーズなんだけどね、その解釈といい表現といい
ギャグといい、もう何というか……とにかくスゴいのよ。
ただ、ちょっと独特なところがあるから、万人に勧められるかというと
ちょっと迷う部分はあるかな……。でも、あたしは大好きなの。
初心者よりも、新選組をある程度知っている人の方が楽しめると思う。
いや、楽しめるというより、その深さを味わえるといった方がいいかな。
ホントに深い。河合耆三郎斬首の回や、隊内粛正を描いた一編なんて、
ギャグ満載なのにマジで鳥肌立っちゃったもの。
龍馬暗殺の解釈なんて、「これがあったか!」と膝を打つわよ。
ちなみにこのシリーズは他に「坂本龍馬」「幕末暗殺」という2冊が出てます。
コ:アンソロジー、漫画と来ましたけど、まだ小説の名作がたくさんありますよ?
大:それは次のページで。隊士別に紹介しましょう。
お気に入り隊士のものを集中して読むってのも、また楽しいものねえ。