140万ヒット記念 なま楽セレクション特別編

「新選組」はこれを読め!3


      隊士編(土方・山南・沖田・永倉)

   大:特定の隊士が主人公になったり、その隊士の目線で描かれたりした小説をピックアップする
     わけだけど……数・量ともに圧倒的に多いのは、やはり土方歳三モノかしらね。

   コ:そうですね。なんせ前のページで紹介した「燃えよ剣」っていう、
     司馬やんの歴史的一作がありますし。

   大:「司馬やん」言うな! まあ、もちろん「燃えよ剣」が土方モノの嚆矢となったのは
     間違いないし、当然はずせないとは思うんだけど、あたしとしては土方モノの代表作として
     「黒龍の柩(上)」「同(下)」(北方謙三・毎日新聞社)を推します!
     描かれてるのは池田屋事件あたりから五稜郭までなんだけど、実はこの物語、
     土方モノであると同時に、実は山南敬助モノとして実に感動的なのよ。

   コ:土方と山南って、その仲の悪さがよく描かれてますけど……。
     片方を主人公にした話では、もう一方が必ず悪者になりますよね。
     山南さんが死に際に土方に向かって「山猿」だの「九尾の狐」だのって
     罵倒したって話もあるし、脱走のときの書き置きにも、
     土方にハメられたみたいなことを書いてあったって説もあるし。
     仲の悪い土方vs山南を、山南さんの視点から描いた短編には
     後のページで紹介する早乙女貢「新選組列伝」に収められてる
     「散りてあとなき」なんてのがありますが。

   大:ところが、この「黒龍の柩」はそこが違うのよ! この話の中ではね、
     土方と山南は、とても深いところで信頼し合う親友同士なんです!

   コ:ええっ、じゃあ山南さんの脱走や切腹はないんですか?

   大:無いわけないでしょ。ちゃんと脱走もするし切腹もする。だけど、その目的が違うのね。
     山南の脱走・切腹の影には、土方と一緒になって考えた、命をかけた《作戦》があるの。
     このために、親友である土方と山南は、わざと仲が悪いふりをするのよ! これがスゴイ!
     土方ファンにとっても山南ファンにとっても、あの脱走・切腹は「もちょっと他にやりようが
     あったんじゃないの?」っていう慚愧の念がついてまわるんだけど、この「黒龍の柩」
     解釈は、もう文句なしです。ブラボーです。スタンディングオベイションです。泣けます。
     もちろん北方謙三のフィクションであるのは分かってるんだけど、これが史実であって欲しい。
     いや、たとえ他の誰が否定しようとも、あたしはこれこそが事実だったのだと信じたいっ。

   コ:おお、それほどまでに。

   大:実際には、山南の切腹に至るくだりは上巻の前半で終わって、あとは土方の話なんだけど
     土方はその後もずっと「亡き親友との誓いを胸に」っていう感じで、山南のことを忘れないのよ。
     普通は土方と近藤の友情が描かれるんだけど、もう、近藤の影が薄いこと薄いこと。
     これはもう、土方ファン・山南ファンの両方に自信を持ってお勧めです。
     ただ、山南の切腹前後から、どんどんフィクション色が強くなってくるのでそのつもりでね。
     「なんで土方が、こんな人と繋がるの?」という突拍子もない方向に話が進みます。
     けど、これがまた、隆慶一郎並の壮大なロマネスクって感じでエキサイティングなのよお。
     史実をなぞるだけが歴史小説じゃないっていう典型ね。「もしも……」の魅力を堪能できるわよ。

   コ:土方っていうのは、戦略家だしクールな魅力もあるし男前だし、最後の一人っていう
     ロマンもあるし、書き手にとっても魅力的な題材なんでしょうね。

   大:鬼の副長、でもその鬼の面の影に隠された悲しみと深い愛を
     存分に味わいたいという切なさ路線の人には
     「土方歳三散華」(広瀬仁紀・小学館文庫)もお勧めよ。
     描かれてるのは池田屋翌日から油小路までが中心。
     周囲から恐れられていた鬼副長の、病床の沖田に見せる愛情、
     監察の山崎から「土方さんのためなら死ねる」とまで言わしめる侠気、
     そして油小路で「俺に平助は斬れない」と悩む土方自身の葛藤など。
     そんな京都時代を経て、エピローグ的に描かれる函館での土方にはもう……。
     あ、でも、まったく同じ題名の別の小説があるから、気をつけてね。
     そっちはそっちで、土方と斎藤一の心のつながりが切なくて、良いのですが。
     斎藤に向かって土方が「俺はな、おまえの中で生きることにしたよ」なんて
     言うのよおおお。ほろり。でもちょっと感傷的すぎるかな。

   コ:土方本はホントに豊富で、
     「土方歳三  副長『トシさん』かく描かれき」(ダ・ヴィンチ特別編集)
     っていうムックが出てるくらいなんです。
     これはいろんな小説・コミック・ドラマなどに登場する土方歳三が
     どう描かれてるかっていう、ブックガイドにもなる面白い土方歳三本ですよ。
     こんなサイト企画より、よっぽどたくさんの土方本が紹介されてます。

   大:なんか今、棘がなかった?

   コ:めめめめ滅相もない! このブックガイドは特に新選組系のコミックの紹介が
     充実してるんです。ほら、大矢さんはコミックをあまり読んでないから、
     そういうところをこの本で補充しましょう、と……。おまけにこの本、
     なんと「新選組シール」がついてたり、歳三グッズの紹介まであるんですよ!

   大:嬉しいか。嬉しいのか、シールとかグッズとかが! だったらその顔に貼りまくれっ!
     ……ま、いいか。確かにコミック情報はこの企画では黒鉄ヒロシ以外は出てこないものね。
     さて、副長と総長の話を一度にしちゃったから、次はやっぱり一番組長・沖田総司かしらね。

   コ:はいはいはいっ! 沖田さんなら任せてくださいっ! ミーハーむふふ目線でいきますよぉ。
     まずは「沖田総司」(大内美予子・新人物往来社)を推しますっ!
     死の直前の様子を丁寧にかいてくれてるんですよ。
     これって意外と少ない気がします。ミーハー的・『美形で病弱だけど
     強い剣士の沖田』っていう像をハズしてないので、ぽーっと夢見心地で
     ノンフィクションとして楽しめました(ぽわぁん)。実際問題としては、
     こんな人ありえない……んだけど、でも、乙女の夢だからいいんですよ!

   大:お、乙女の夢……ですか。

   コ:ええ、乙女の夢です。
     大矢さん、乙女だった時代が遠くなりすぎて忘れちゃいましたか?

   大:(抜刀!)

   コ:あわわ……ごほごほ。う、持病の労咳が。えっとぉ、もうひとつ紹介します。
     「沖田総司恋唄」(広瀬仁紀・小学館文庫)も良いですよ。
     こちらは、可愛らしい沖田くんです。男性が書いているぶん、
     乙女チックさは多少減るけれど、「燃えよ剣」からの沖田のイメージを
     ひきついでいる感じで、読みやすいですよ。
     沖田モノってね、読んだら「コイツただのばか…?」ってのだったり、
     「色ボケじゃん!!!」てのだったりでハズレも激しいのですが、
     この2冊は、安心して読めると思います。

   大:なんだかんだ言っても、沖田は女性ファンの間では一番人気だもんね。
     でも美形ってのは後に作られたデマで、証言によると、
     実物は色黒のヒラメ顔だったらしいじゃない?

   コ:(抜刀&三段突き!)

   大:あわわ。……では続いて、二番組長・永倉新八にいきましょう。いろいろあるけど
     「幕末新選組」(池波正太郎・文春文庫)が読みやすいかな。
     永倉本人が7才のいたずら坊主だった時代から大正4年に亡くなるまでが
     冗長にならず、わかりやすく綴られてる一冊ね。メインはもちろん新選組。
     史実から大きくはずれることなく、新選組の結成から滅びまでを
     永倉新八の視点で描いてます。永倉が芹沢に気に入られる箇所が秀逸よ。
     永倉新八は自ら「新選組顛末記」「文久報告記事」を書き残してる
     だけあって、資料は充分だものね。フィクショナルな点としては、
     藤堂平助と女を取り合ったりする可愛らしいエピソードなんかも。

   コ:でも、永倉新八って、近藤勇に対して意見書を出したり、
     最後には喧嘩別れしたりしてますよね。

   大:そうなのよ。だからこの「幕末新選組」でも、最初の試衛館時代の鷹揚で好かれてた近藤が、
     新選組の局長になって変わってしまった、という永倉の怒りや悲しみが見どころなのよね。
     その分、近藤がすっごくイヤなやつに描かれてる。単なるお調子者の勘違い野郎。

   コ:あ、でも、正ちゃんて、その近藤勇を主人公にした「近藤勇白書」ってのも書いてませんでした?

   大:「正ちゃん」言うな!
     確かに「近藤勇白書」も書いてるんですが、これ、内容は「幕末新選組」とほぼ同じなのよ。

   コ:え、同じ?

   大:う〜ん、「幕末新選組」に書かれたことを近藤勇視点からなぞってる、といったところかしら。
     近藤勇のプライベートやかっこいいところも出てくるのよ。でもそれは試衛館時代が中心で、
     いざ局長になってみると「自分が大人物に出世したような勘違いをして、隊士の冷笑を浴びる」と
     いうふうに書かれてるのよね。若干、近藤当人の悩みや葛藤も描かれるから理解はできるんだけど、
     永倉を始めとする隊士の心情や描写は「幕末新選組」とまったく同じだし、エピソードや
     セリフまで同じ箇所もあるから、なんだか「幕末新選組」を再読してるような気分になったわ。
     池波正太郎って、永倉が好きなんだな、って思っちゃった。

   コ:では、三番組長以下は次のページで。


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