140万ヒット記念 なま楽セレクション特別編

「新選組」はこれを読め!4


      隊士編(斎藤・藤堂・原田・島田・吉村)

   大:続いては、大矢のイチオシ隊士、オダギリジョーです。じゃなくて、三番組長・斎藤一です。
     新選組を素直に好きと言えない会津贔屓としてはね、新選組幹部の中で唯一、会津に残って、
     会津女性と結婚し、会津藩士として明治の苦労を体験した斎藤一はハズせません。

   コ:不思議なことに、沖田総司と斎藤一を悪く書いてる小説って、ありませんよね。
     近藤、土方、山南、藤堂ってあたりは、みんな一冊や二冊は仇役になってるものだけど。

   大:特に斎藤一は、試衛館の出身でもないし、得体が知れないわりには剣の腕は沖田・永倉と
     タイだったっていうし、おまけに鬼の副長・土方に信用されてスパイ活動を任されたり、
     さらにはさっき話したみたいに、会津に残るという義に篤いところがあったりで、
     《正体不明だけど、やることなすことカッコイイ》っていうイメージがあるのよね。
     そんな斎藤一を描いたものと言えば、その名もずばり
     「新選組副長助勤 斎藤一」(赤間倭子・学研M文庫)
     著者の赤間倭子さんは斎藤一研究の第一人者なんだけど、この本は、
     フィクショナルな演出を加えながらも、斎藤が17歳の頃から死ぬまでの物語を
     著したもの。ロマンあり、政治の策謀あり、けれど史実として抑えるところは
     きっちり抑えた、斎藤一ファンとしては見逃せない必携の一冊よ。
     特に、伊東甲子太郎一派に密偵として入り込むように命じられたとき、
     それまで近藤&土方が冷酷なまでに隊士を使い捨てにするのを見てきた斎藤は、
     ある保険をかけるのよ。そのあたりはね、事実かそうでないかに関係なく、
     「おお!」と膝を打つってなもんですよ。

   コ:斎藤一も、永倉新八同様、大正4年まで長生きしたんですよね?

   大:そう、松平容保公の媒酌で会津の武家の娘と結婚したあと東京に出て、明治10年の西南戦争に
     従軍したり、警視庁の警部補から警部になったり、剣の師範になったり、学校の庶務になったり
     という足跡はわかってるんだけど、明治初年から西南戦争までの間がよくわからない。
     そこで、その空白の10年を、壮大にしてめちゃくちゃ面白い小説に仕立ててくれたのが
     「明治無頼伝」(中村彰彦・角川文庫)
     これがなんかもう、宮本武蔵さながらの剣豪サスペンスなのよ!
     でも、史実として明らかにされてる要素はちゃんと辻褄が合うように
     なってるから、「まさか! でも……」とワクワクしちゃうのよねえ。
     そうそう、蛇足ながらこの「明治無頼伝」には、
     納屋に閉じこめられていた人物がいなくなり、雪の上の足跡が途中で
     とぎれているという、人間消失&雪の密室トリックが出てきます!

   コ:ええええ! まさか斎藤一が、××を××したり、××の××だったり
     するんですか!(有名本格ミステリのネタバレにつき伏せ字)

   大:んなわきゃないでしょ! ××や××じゃあるまいし!
     そういうところも、時代劇サスペンスっぽくてステキよ、ってことです。

   コ:さて、続いては八番組長・藤堂平助ですね!
     平助って、大河ドラマではチョー可愛かったけど、小説の世界ではけっこう悪役なんですよね。
     伊藤甲子太郎たちと一緒に新選組から分離したってのが大きいし、中には、隊士募集で
     なんと藤堂が近藤暗殺を提案して、伊東を新選組に引き込んだとしてるものも多いくらいで。
     剣の腕も学もあって見た目も二枚目、出自もいい分、すっごく食えないヤツに描かれてるの。

   大:そうなのよ、あたしも実はそういうイメージを持ってたのよね。でも、大河ドラマで
     中村勘太郎さんが演じる平助を見て、印象が一新されたわね。一新というか、大逆転。
     「この平助いいな、本物もこんなだったんじゃないかな。そうなら嬉しいな」と思ったの。
     そういう人、多いと思う。そんなあなたにお勧めなのが
     「新選組藤堂平助」(秋山香乃・文芸社)
     平助の短い一生が綴られてるんだけど、若者らしい平助のもろさ、弱さが
     ひしひし伝わってくるのよ。もともと尊皇攘夷派だった平助は清河八郎にも
     通じるものがあったわけだしね。その一方で、平助は土方が大好きなの。
     土方も平助をとても大事に思ってる。だけど平助には、伊東甲子太郎という
     師匠もいるわけで──。時代の中で、人間関係に迷うだけじゃなく、
     人を斬るという行為にまで悩んでしまう平助。そんなことで迷ってたら、
     新選組なんかでやってけるわけないよ! 油小路はもう、泣ける泣ける。
     もう、スーパーでミカンを見ただけで泣けます。

   コ:み、みかん?

   大:読めばわかります。実際には橘の実なんだけど、そんなものスーパーにはないから、心理的に
     ミカンで代用。もう、ホントに泣けるわよ。これは平助ファンにはたまらないんじゃないかなあ。

   コ:なんせこれまで藤堂平助モノといえば、15年くらい前に春陽文庫から出た、風巻絃一の
     「ぐでん流剣士 新撰組・藤堂平助」くらいしかありませんでしたものね。
     大河ドラマのおかげで、こういう一隊士を主人公にした本がどんどん出るのは、嬉しいですねえ。

   大:これは平助の描写のみならず、他の隊士の描写もお勧め。実はあたしが一番最初に泣いたのは
     平助がらみじゃなく、山南の脱走&切腹のところなのよ。この物語でも、土方&山南は決して
     仲が悪いわけではなく、互いに信頼しあい、そして気遣い合ってるの。その手の解釈が、どうも
     あたしのツボみたい。藤堂の親友として描かれる永倉もいいし、その永倉が近藤を弾劾して
     近藤が激怒したとき、土方が永倉を庇った言葉にはもう、感動を通り越して胸が震えたわよ。
     皆が互いを思いやって、でもそれが逆に哀しいという新選組の真骨頂! これはお勧めです。

   コ:では、十番組長・原田左之助はどうでしょう。
     実はコイ子、沖田ファンではありますが、大河ドラマではサノが一番好きだったんです〜。
     普段アホで大食らいでぐーたらなのに、なんかあるとコワイ奴ってのがドキドキです〜。

   大:芹沢暗殺のシーンで、ビビる山南に声をかける原田・山本太郎・左之助は良かったねえ!
     左之助はもう、何といっても題材として最大の魅力なのが《生死不明》ってとこよね。
     彰義隊で死んだとされながらも、大陸に渡って馬賊になったって話は、とんでもない
     ロマンがあるし。そんな左之助の「鳥羽伏見以降」を描いてるのが、
     「新選組原田左之助 残映」(早乙女貢・学陽文庫)
     これは新選組とも永倉とも別れたあとの左之助を描いた、100%フィクション。
     冒険活劇なんだけど、沖田の死もちょこっと絡んでたり、当時の風俗なんかも
     生かされてて、エンターテインメントとして面白いわよ。
     ただ、濡れ場が多いのが、女性読者としてはちょっと抵抗があるんだけど。
     第一さあ、京都に残してきた奥さんと子供はどうなったのよ!
     そこに全然触れないのよ。それがちょっとなあ……。奥さん苦労したろうに。

   コ:「死に損ねの左之助」って、短編ではけっこう主人公になってますけど、
     総じてフィクション色が強いですよね。一番「男のロマン」を具現化しやすい
     キャラクターなのかもしれませんね。

   大:それに比べて、伍長・島田魁の家族思いなことといったら! 五稜郭まで土方と一緒に
     戦って、生き残ったあとはあちこちに「お預かり」となりながらも、最終的には京都の
     奥さんのもとにちゃんと戻ってきたってのがステキ。ちょっとは見習え、左之助!
     そんな島田魁を主人公にしたのが、
     「いつの日か還る」(中村彰彦・文春文庫)
     島田魁の人柄が全編から伝わってくるような、いい話なのよ〜。
     腕もたって、人柄もよくて。ただ、永倉が反乱を起こして、
     近藤への不満を会津候に直訴したってエピソードがあったでしょう?
     永倉に誘われて新選組に入った島田は、それに荷担したってことで、
     近藤に睨まれちゃうのよ。だから、ここでは近藤はけっこう嫌な奴です。
     私怨に走る近藤を、間に入った土方が取りなしてるのがちょっと新鮮。
     でも、島田は土方にずっとついていくんだから、土方を悪くは書けないよね。
     生き残って、京都に戻ってきた島田のもとに、新選組時代の知り合いが2人
     訪ねてくる場面があるの。死んだ仲間のことを思えば、自分は子作りなんか
     しちゃって、って照れながら会話するシーンなんか、すごくステキよ。

   コ:島田魁って、最後は新選組の屯所だった西本願寺に帰ってくるんですよね。いつの日か還る……。
     ああ〜〜〜(溜息)。そっか〜〜〜〜(溜息)。でも、お相撲さんみたいな巨漢でしょう?
     そんな体格の人が、よく監察なんかに任命されましたよね。目立ちまくりじゃないですか。

   大:そう! そこがあたしも疑問なの! 私的新選組七不思議のひとつなのよ。
     監察といえば、他にも魅力的なキャラがいるわよね。
     「壬生義士伝(上)」「同(下)」(浅田次郎・文春文庫)
     は、もうあらためて紹介するまでもないでしょう。南部脱藩、監察方であり剣術師範でもある
     吉村貫一郎の話。武士道に生きるのが当然とされた新選組において、士道なんかよりも、
     妻や子を愛した男の物語。彼にとって、妻子を養うことこそが、士道だったのよねえ。

   コ:「隊士絶命記」「新選組始末記」)に描かれた吉村貫一郎の最後に
     感動したのに、あとでそれが子母澤寛の創作だとわかってショックを受け、
     「だったらもっと面白い創作を書いてやる!」ってことで書いたという
     アレですね。でも、創作だろうが何だろうが、これはもう……(泣)

   大:そうよねえ、これはもう……(泣)

   コ:おもさげなござんす!

   大:おもさげなござんす!

   コ:あ、そう言えば、この「壬生義士伝」に描かれてる斎藤一は、ちょっと悪役っぽいかもしれません。
     もちろんそこは浅田次郎なので、単なる敵役ではないですが。

   大:ああ、この斎藤も良かったわ〜〜〜。浅田次郎って、新選組では斎藤一が好きなんですって。
     斎藤ファンとしては、なんかちょっと嬉しい。「壬生義士伝」の斎藤一は、乱暴ではあるけれど
     孤独な人斬りの悲哀がいいのよねえ。お国自慢をする吉村に、故郷を持たない斎藤が抱く
     歯痒さや寂しさや怒り……。でもいいの、斎藤には会津っていう第二の故郷ができるんだから!

   コ:結局斎藤の話になるんですね、大矢さん……。次のページで、他の隊士の話をしましょうよ。


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