大:今回の大河ドラマで脚光を浴びたバイプレーヤー的な隊士としては、監察の山崎烝がいるわよね。
コ:あの「顔を覚えられないキャラ」っていうのは秀逸でしたねえ。でも監察だから、普段は
変装ばかり。正体をあかせないので、あのダンダラに誠の隊服が着られない仕事ですよね。
そんな山崎が、鳥羽伏見の合戦のときと、最後に大坂から港に向かう隊列のシーンで、
隊服を着てたのが哀しくも印象的です。顔を傷つけられ、監察として役に立たなくなってから
初めて公の町中で隊服を着させてもらう……それも重傷だから荷車で運ばれて……(泣)
大:何を頼まれても「喜んで!」と答えていた山崎が、最後は「羽織るものをとってくれ」と
という程度の頼み事にも、身体が動かせずに断ってしまう……(泣)
そんな山崎の「喜んで!」というセリフは、
「新選組列伝」(早乙女貢・新人物往来社)に登場します。
これは短編集で、山崎烝以外にもいろんな隊士が主人公になってるの。
司馬やん……じゃなかった、司馬御大の「新選組血風録」は
サイドストーリー的な切り口を見せながら組織を描いてるのに対して、
これは新選組のメインどころを主人公にして描いてます。
ラインナップは芹沢鴨・山南敬助・谷三十郎・河合耆三郎・藤堂平助・
山崎烝・原田佐之助・沖田総司・近藤勇・土方歳三。
山崎烝の話はね、「忍びの烝」というタイトルで、
山崎が新選組に入るまでのいきさつの方が中心になってるの。
入隊してからの、スパイとしての山崎の描写は少ないのでご注意を。
コ:え〜〜〜〜、そっちの方が読みたいのにぃ。
大:そういう人用に、ちゃんと密偵としての山崎が描かれる長編がありますよ。
「山崎烝 新選組密偵」(島津隆子・廣済堂文庫)。
これは、まさに「スパイとしての山崎」を真正面から描いてます。
ただ、重々気をつけて欲しいのは、大河ドラマの山崎のキャラとは、
まったく、全然、これっぽっちも似てない、完全な別物ってこと。
あのイメージで読むと、そりゃもう違和感ありまくりです。別人です。
濡れ場まであります。桂吉弥さんのイメージはカケラもありません。
コ:そんな畳みかけるように言わなくても。
大:だって、桂吉弥さん演じる山崎烝のつもりで読んじゃったんだもん!
なんかもう、あたしの中で吉弥さんがどんどん悪〜〜い顔になってくのよ。
おまけに密偵だから、屯所にも出入りしないの。ほぼ全編単独行動。
だから他の新選組隊士との絡みも、すごく少ないのよ。それが残念だなあ。彼を新選組に入れた
親戚だった隊士と、それから土方はもちろん出てくるんだけど、山崎は土方に対してかなり批判的。
けど、情報を探る様子なんかは、そこは肝入りでけっこうエキサイティングよ。
コ:でも、今年(2004年)には桂吉弥さんの日記が発見されたそうだから、これからもっと
史実に即したいろんな山崎烝物語が書かれるかもしれませんね。
大:桂吉弥さんの日記?
コ:あ、間違えた。山崎烝の日記です。監察の日記だから、すごい情報が出てくるかも!(わくわく)
大:だよね。つか、桂吉弥さんの日記じゃあ、単なるタレント本だし。
ところで、さっき紹介した早乙女貢の短編集「新選組列伝」には、他にもいろんな
人が主人公として出てきます。殆どが有名どころな中で、特筆すべきは河合耆三郎。
コ:大河ドラマでは大倉孝二さんが演じてて、なんか情けない感じがすっごく良かったですよねえ。
で、あの切腹の回の泣かされたことといったら!
大:飛脚はまだ来ませんか……?
コ:(号泣)
大:エピソードはすごくドラマチックなので、短編としては書き甲斐があるんでしょうね。
この「新選組列伝」に収録されてる「耆三郎斬首」では、河合が新選組に入る前からが
描かれてて、これが恋愛話なの。でもって、たまたま新選組と船頭の喧嘩を仲裁に入って、
それがきっかけで新選組に入る、その仲裁の仕方がいかにも勘定方って感じで、もうブラボー!
ただ、肝心の公金私消で斬首のくだりは、あっさりサクっと済ましちゃってるので、
そこのドラマを読みたい人には物足りないかも。そういう人には、むしろ子母澤寛の
「隊士絶命記」(「新選組始末記」)の方がお勧め。
コ:河合耆三郎の長編はないんですか?
大:「異聞・新撰組」(童門冬二・朝日新聞社)
ってのが、あることはあるんだけどね……。う〜〜〜〜ん。
「播磨出身の勘定方・河井伊三郎」という人物を主人公にした長編。
でもこれは、河合耆三郎の名前や出自をモデルにしたというだけで、
話の中身は河合耆三郎とは別物。公金私消の斬首まで話はいかないし、
河合耆三郎が主人公と聞いて読者が想像するものとはまったく違うのよね。
だから、この場で《新選組本としてお勧め》とは言えないんだけど、
ただ、勘定方という職種から新選組を見てる、その切り口は興味深い。
特に、「なぜ滅んだか」を勘定方目線で見るのはちょっと新鮮。
コ:新鮮ですか。しんせん組だけに。
大:……よくもまあ、そんな小学2年生レベルのダジャレを恥ずかしげもなく。
コ:いや、もう5ページ目だし、読者も疲れてきてるだろうから、こういうのの方が笑えるかな、と。
大:わかったわよ、余談はやめてサクサク行けばいいんでしょ! ここまでに名前の出てない
脇役的な存在の隊士を主人公に据えた短編集が
「新選組秘帖」(中村彰彦・新人物往来社)。
こっちのラインナップは一転して、バイプレイヤーが中心。
加納惣三郎・松山幾之介・加藤愛之介(伊藤源助)・富山弥兵衛・
沢忠助・島田魁・市村鉄之助・原田左之助・相馬主計。どう?
コ:しっぶ〜〜い! 大河ドラマでちゃんと描かれたのは、島田と左之助
だけじゃありませんか。でも、マニアは名前を聞いただけで泣けてしまう
市村鉄之助や相馬主計が入ってるってあたりが、たまりませんわ。
それに加納惣三郎って、司馬やんの「前髪の惣三郎」ですよね?
司馬やんのみならず、アッキーまでがボーイズラブ……(うっとり)。
大:……アッキー?
あのね、惣三郎とはいえ、この話に衆道はいっさい出てきません! そんな話じゃありません!
辻斬りを新選組が追うという剣客譚、硬派な話なのよ。麗しの惣三郎を期待しないように。
コ:なぁんだあ……。あ、でも、辻斬りってことはひょっとして、「前髪の惣三郎」の
ネタバレになってしまう話なんじゃありませんか?
大:実はそうなの。だからこれは「新選組血風録」のあとに読んで下さい。
それから忘れちゃいけないのが、伊東甲子太郎よね。ここから新選組の滅びが始まってるのよ。
ただ、伊東甲子太郎を主人公にした小説で「これぞ」というのが、見あたらないの。そこで、
「新選組・高台寺党」(市居浩一・新人物往来社)をご紹介。
これは「基本書・ノンフィクション」のページで紹介してもよかったくらい
高台寺党、つまり伊東一派について詳しく説明してくれる本よ。
とにかく、新選組を扱った小説では悪役・裏切り者として描かれる
一派だけど、実際はどういう人たちだったのか。
なんつーか、あの激動の時代で自分たちの居場所を探し続けたという
点においては、新選組も高台寺党も同じなんだよねえ。
そもそも高台寺党(御陵衛士)についての本自体が少ないので、
興味のある人には嬉しい一冊だと思う。それにしても、大河ドラマの
伊東甲子太郎は目張りビシバシでキレイだったなあ……(うっとり)。
……ってことで、隊士が主人公のお薦め本はあらかた紹介できたのかしら?
コ:ちょちょちょっと待った! 大事なのが抜けてますよ! 局長2人が! 近藤勇と芹沢鴨が!
大:だってないんだもん。
コ:は?
大:ないのよ、その2人に関してのお勧め本が! 芹沢は大抵悪役だしさ、
近藤なんか成り上がり者の大馬鹿に書かれてるものが大半だしさ。
まあ、どうしても何か1冊というのなら、ちょっと違う気もするけど
「輪違屋糸里(上)」「同(下)」(浅田次郎・文藝春秋)。
コ:ああ、輪違屋……。でもあれ、どっちかというと女性の話ですよね。
芹沢鴨も、決してメインではないし。むしろ土方の方が。
大:そうなの。だから芹沢鴨としてお勧め本にするのは躊躇しちゃう。
でもね、ここで描かれてる鴨さんは、これまでと違うでしょう?
なんていうか、単なる酒乱の乱暴者じゃなくて、自分としては軌道修正したくてしょうがない
でもそれができないジレンマっていうのかなあ。凄みもあるけど、同じくらい、悲しみがある。
尽忠報国って言葉は、彼にとって単なるお題目じゃないのがわかるのよ。これって珍しいでしょ。
コ:「輪違屋糸里」では、糸里は土方が好きなんですよね。それを芹沢が裂くという……。
大:(にやりん)
コ:な、なんですか、気持ち悪い。
大:土方と女性の仲を芹沢が裂くという話は、実は他にもあるんです。これを最後に紹介しましょう。
「降りしきる」(北原亞以子・講談社文庫)。
これは短編集なんだけど、表題作の「降りしきる」がお勧め。
主人公は土方でも芹沢でもありません。お梅です!
コ:お、お梅! お梅が主人公なんですか?!
大:そうなのよ。毒婦扱いされることが多いお梅だけど、この話は
ひと味もふた味も違う。借金取り立てに来て芹沢に乱暴される
のは一緒なんだけど、お梅の哀しい半生と、芹沢に汚されながらも
心の底で土方を慕うお梅の切ない思いが綴られるのよ。
雨が降りしきる芹沢暗殺の当日、土方はお梅に「帰れ」って言うの。
コ:ああ、土方も助けたいんですね!
大:そう、でもお梅はわけがわからないから帰らない。そして、夜半の芹沢暗殺。皆様ご存知の
通り、お梅も斬られます。斬られちゃうんです。瀕死のお梅をかき抱いて、土方が呟く。
コ:……何と?
大:「ばかやろう、なぜ帰らなかった」
コ:おろろーーーーーん(号泣)。
大:……とまあ、お梅までも主人公にしてしまうのが、新選組文学の幅広さであり奥深さなのよね。
今日紹介したのは、ほんの一部。ファンの人にとってみれば「あれが入ってないよ!」てのも
たくさんあるでしょうが、入門編ということでご勘弁ください。また、幕末に興味を持って
欲しかったので、現代にタイムスリップするような設定のパロディ作品・オマージュ作品にも
触れなかったしね。新選組ブームというのは定期的に起こるんだけど、このブームをきっかけに
より多くの人が幕末という動乱期の魅力に触れてもらえたらいいな、と思います。
語り出すと止まらなくなるので今回は我慢しましたが、会津戦争ものにも良い作品がたくさん
あって、その中でも特に「松平容保は朝敵にあらず」(中村彰彦・中公文庫)には
松平容保や会津藩やそして何より白虎隊の話なんかがたく
コ:ほらほら、キリがないからコイ子が勝手に〆ますよ!
それでは皆さん、よいお年を〜〜〜〜♪♪♪♪♪
(2004.12.25記)